99年のアルバム・デビュー以降、ずっと米国ブルーノートが自社アーティ
ストとして抱えつづける俊英ジャズ・ピアニスト(1975年生まれ)。その
デビュー作以外、日本盤はリリースされていないが、それなのにコットンク
ラブはよく招聘したな(彼の来日しての演奏は、97年のカサンドラ・ウィル
ソン公演に同行して以来)。演奏の味は異なるものの、グレッグ・オズビー
に親身に可愛がってもらったり他、ちょいマイケル・ケイン(2003年11月
18日、同22日)と立ち位置が重なる部分があるかも。丸の内・コットンクラ
ブ。ファースト・セット。

 お洒落な、一癖ありそうな3人(ピアノ、ベース、ドラム。3人はもう7
年ほど一緒にやっている)がステージに登場。冒頭、ヒップホップ的な効果
音が流されてビックリ。確かに新作『Artist In Residence 』で一部つかっ
ていたりはするものの。翌日インタヴューした際、凄く悩んだ末に自分と対
比して並べるべき人の名前としてチャック・D(パブリック・エネミー:20
05年8月14日)を挙げたのにはビックリ。奥さんはオペラ歌手だし、本人
もクリオール系なのか肌の色はかなり薄いんだけど、アフリカン・アメリカ
ンとしての自負は山ほど。そんな彼、ウータン・クランのゴーストフェイス
・キラーとデュオ・アルバムを作る予定もあるそうだ。そのアルバムをブル
ーノートは歓迎する?と問うと、もちろん。が、しばらくして、そう願う
よとポツリ。でも、クロスオーヴァー/大衆趣味迎合路線をおおいに取るブ
ルーノートは喜んでそれを受け入れるとぼくは思うが。あ、そういえば、も
うすぐリトル・フィートのロウエル・ジョージの娘の清新ポップ・ユニット
、ザ・バード・アンド・ザ・ビーのフル・アルバムがブルーノートから出ま
す。

 演奏の内容は、和みや寛ぎを与えるためのピアノ・トリオ表現ではなく、自
らの強い自我や美意識を流し込もうとする研ぎ澄まされたピアノ・トリオ表
現。モランはジャズ初期のストライド調からフリーっぽいものまでいろん弾
き方をしながら、俯瞰する感覚を持つ、美味しい相互作用を孕んだ演奏を凛
として送りだしていた。手応えと感慨アリ、今年のジャズ公演上位入り、間
違いなし。

 2〜3曲で、グランド・ピアノ演奏に続いてパっと身体の向きを変えてエ
レクトリック・ピアノを弾いたりも。それは、よく判らない。そんなに効果
的な使用法をしているとは思えず。自分の顔を客に正面から見てもらうため
に、時にエレピに向かうのだと思うことにした。
 
 テレンス・ブランチャード(2002年7月3日、2005年8月21日)やスタン
リー・カウエルらのバックもやってきたベース奏者のターラス・マティーン
(アトランタの大学を出ていて、アウトキャストやグッディ・モブ表現にも
関与)は4弦の電気フレットレス・ベースを使用しているだが、その音には
うわー。それ、ブラインドで聞くぶんには、音がちょい硬めでエフェクター
を通しぎみの縦ベースの音にしか聞こえない。それ、不毛とは感じず、凄い
と素直にぼくはなぜか思った。弾いている楽器はスペイン製であるとか。で
も、本人の弾き方がモノを言っているようにも思えたが。ベースやっている
人は必見と思う。