ニューオリンズに来た。初めて。ああ、やっと来た。

 05年秋のハリケーン・カトリーナの一連のもろもろで胸を痛め、bmr誌
の06年度のベスト・アルバム10選の中で、ニューオリンズ名人が集ったザ
・ニューオリンズ・ソーシャル・クラブの『シング・ミー・バック・ホー
ム』、ジョー・ヘンリー仕切りの顔役満載の『アワ・ニューオリンズ』、
そしてカトリーナ後の心象をかつてのマーヴィン・ゲイのメッセージ名盤に
重ねたザ・ダーティ・ダズン・ブラス・バンドの『ホワッツ・ゴーイン・オ
ン』とニューオリンズ関連盤を3枚も挙げてしまい、ニューオリンズ音楽に
対する思いの深さを噛みしめていただけに、空港から出たとたん涙がでてく
るんじゃないかと思っていたが、そんなことはなかった。まずはその寒さに
プルルと震えた。同地にとってかなり寒ほうの陽気が続いているようだが、
東京より寒い。あれだけ暑さと湿度の高さが喧伝される街であるがゆえに先
入観もあり、寒さは余計に身にこたえる。だが、そんななかTシャツ同然の
格好で歩いている人もほんのたまにいる....それはニューオリンズにかぎら
ず、米国の各地で見られるものだが。

  生牡蠣にガンボに、煮エビかけご飯。ああ、ニューオリンズじゃ。地元ビ
ールのアビータの“ターボ・ドッグ”はそのダーク・ビアー版。滞ニューオ
リンズ中にビールは基本的にこればっかり飲んでいた。で、フレンチ・クォ
ーターのほんの外にあるdbaに行って、ボノラマというバンドを見る。10
ドル。昨日はここで、前出『シング・ミー・バック・ホーム』にゲスト入り
して美声を聞かせてもいたジョン・ブッテがやっていたよう。ボノラマはト
ロンボーン奏者4人(20代ぽい人から50代とおぼしき人まで年齢層は散って
いる)を中央に置いたグループで、他にスーザフォン奏者、ギター、ドラマー
を擁する。ドラマー以外は肌の黒くない人たちで、これまでに2枚のライヴ
盤をリリース。通常のベース奏者を置かずにスーザフォン奏者でベース音を出
すというのはとてもニューオリンズ的、そのベース音とかみ合うタイトなビ
ート(1枚目はラッセル・バティーステが叩いていた。2枚目では、ギャラ
クティックのスタントン・ムーアがゲスト入りしていた)の上にジャズやニ
ューオリンズ・ブラス表現の要素を持つアンサンブルや各ソロが思うままに
泳ぐというインスト主体のグループだ。ときに、簡単な肉声が入るところも
あったし、モンク曲をやったりも。ザ・ダーティ・ダズン・ブラス・バンド
と同様にギター音の扱いはぼくの好みと合わないところもあるけど、なかな
か高揚し、フフフとなれる。

 途中まで見て12時すぎに、だいぶ離れた有名クラブのティピティナズへ。
“ティピティナ”とはニューオリンズ・ピアノ偉人のプロフェッサー・ロン
グヘアーの十八番曲だが、入口を入ってすぐのところに彼の像が鎮座し、ス
テージ後方上部にも彼の顔がでかく描かれている。じいーん。20ドルでジェ
イムズ・ブラウン・トリビュートという出し物をこの日はやっていて、元J
Bズのフレッド・ウェズリー(1999年10月25日。彼は車で2時間半の位置
にあるアラバマ州のモービルに住んでいる)、元ザ・ミーターズのジョージ
・ポーターJr.(ベース)、ギャラクティック(2000年12月7日、2001年10
月13日、2004年2月5日)のスタンントン・ムーアの師匠というよりニュ
ーオリンズ・ドラムの大御所ジョニー・ヴィダコヴィッチ(プロフェッサー
・ロングヘアーからハリー・コニックJr. まで。ニューオリンズ・ファンク
をやりたがったジョン・スコフィールドのグループに請われ、入ったことも
。蛇足だが、スコの兄のマーク・ビンガムはニューオリンズ在住) の3人が
表に立ったもの。その3人での演奏をはじめ、そこに打楽器/ギター奏者が
入ったり、4人のトロンボーン奏者やサックス奏者が加わるものまで。演目
はJBズ曲からニューオリンズ縁のファンク/R&B曲など。いろいろ。ど
れも、わくわく。

 うち、ふとっちょのトロンボーン奏者が一人やたら音がでかく、ソロが雄
々しい。メンバー紹介のMCは聞き取れなかったが、すぐに彼は元ザ・ダー
ティ・ダズン・ブラス・バンド(2002年7月30日、2005年2月28日)のビ
ッグ・サム(2002年7月30日のときのトロンボーン奏者は彼)であると了解
。彼が率いるファンク・バンドのビッグ・サムズ・ファンキー・ネーション
の日本デビューの通算2作目のライナーノーツも書いてそんなにたってない
し、2階から彼がステージ横にいるのは見えたので、なんかちょっと挨拶し
たくなって1階に降りる。で、ステージ手前にいるパス・チェックの係員に、
東京から来たんだけどビッグ・サムと話がしたいのサと告げると、あんまし
長居すんなよと言って入れてくれた。いいハコだあ。彼はファンキー・ネー
ションで明日ライヴをメイプル・リーフでやるのだが、名刺を渡したらゲス
ト・リストに入れてくれるという。いい奴だあ。

 ファンキー・ネイションに関与している弁護士を通じて、ぼくとビッグ・
サムが会ったことが日本の発売元のP-ヴァインに伝えられているのを、帰国
後に知る。驚くなあ。