まず、渋谷・映画美学校で、2019年日本映画「ファンシー」の試写を見る。山本直樹の短編漫画を原作に起きつつ主人公のバックグラウンドなどを膨らませた作品で、監督は廣田正興。これが初監督作品となるようだが、資料の監督コメントには映画の現場生活はおよそ20年と書いてある。その資料において舞台はとある地方の温泉街となっているが、映画には長野県千曲市戸倉上山田温泉を舞台にしているのがもろに映し出される。

 サングラスをかけっぱなしで夜は彫り師をする郵便配達員(永瀬正敏)、妙な名前のペンネームを持ち毎日100通を超えるファンレターが届くもののとても変テコなライフ・スタイルを維持する詩人(窪田正孝)など、登場人物の設定は荒唐無稽。一見普通な人も普通じゃない人も負の癖や行為を奥に抱え、彼らにはいろいろ事件も起こるが、それでも世は安穏と回る……。ありえね〜人々の絡みを淡々と綴った映画を見た後には、そういうことを語っていると思えるか。

 経験豊富な監督は手堅く、そして張り切って作っている。DQNな郵便局員を筆頭に出演者たちは演技も上手だし、受け手はいろいろな思いをふくらませるだろう。ただ、エッフェル塔の模型が置いてあったりする詩人の部屋のディスプレイ小道具には違和感を覚える。また、詩人がメインで書いている詩の雑誌のパーティの場が非常に安っぽい。あれじゃ、同人誌のオフ会だろうて。音楽は必要なところだけに付けられている。ジェイムズ下地によるベッドルーム録音的なそれ、もう少し音色が柔らかいほうが映像のタッチには合うのではないか。来年2月上旬に公開。

 そして、時間調整もかねて、南青山・ブルーノート東京に徒歩で移動。そしたら、小雨が降ってきてびっくり。天気予報にはそういう予報はなかったはずだが。なんにせよ、超寒かった土曜日のあと、この日曜と月曜はかなり暖かい。ゆえに、いっぱい歩いたぼくは汗ばんだ。

 出演者は、サザン・ロック/ジャム・バンドに括られるワイルドスプレッド・パニックのギタリストであり、自己作も何枚も出しているジミー・へリング(1962年生まれだが、それよりもじじいに見える)が地元アトランタで若手奏者も交えて組んだリーダー・バンド。ギターと歌のリック・ローラー、キーボードのマット・スローカム、ベースと歌のケヴィン・スコット、ドラムのダレン・スタンリーがその構成員で、全員白人。うちへリングら3人は長髪だったり、すんごいヒゲを蓄えていて、それふう。もう一人のギターとドラムは今のジャズ・コンボに入っていても不思議はない風体を持つ。

 なんとオープナーはマイルズ・デイヴィス曲、「ブラック・サテン」。歌が入る場合もあるがそれもインスト部はきっちり聞かせますというもので、その総体は米国ロックとジャズ・フュージョンはかなり近い関係を持つこともあるという事実を照らし出す。いや実際、面々は腕が立つ。へリングはハリウッドのGITを出ているが、他にも音楽学校出ている人もいるのではないか。でもって、力づくでずんずん突き進む様には、こいつらにヴェジタリアンはいないはず。どんな劣悪な条件でも、面々はこの晩と同じような音を出しちゃうんじゃないか、とも思わせる。

 へリングはグレイトフル・デッド関連者やザ・オールマン・ブラザース・バンドに過去出入りしていたり、ビリー・コブハムやアルフォンソ・ジョンソンといったフュージョン名士たちとジャズ・イズ・デッドというバンドを90年代後期に組んだり、近年はジョン・マクラフリン(2005年1月31日、2014年3月25日)と一緒に米国ツアーに出てライヴ盤を出してもいるといったように、アメリカではいろんな意味でかなりの顔役。そして、そんな彼が率いるバンドの音は歌心もある(そこらへんはロックが入っていますね)ハード・フュージョン+と言えるもの。もう一人のギタリストもうまいし、ともに音色がきれい。チェックしていないが、結構エフェクターを並べていたのだろうな。

 インスト主体でちんたら行くジャム・バンドは演奏時間が長い。実はこのあとにもう一つライヴ会場を回る予定で、延々とやられたら次のライヴを見る時間が短くなるなと思っていたらアンコールを含め70分を切る尺で、彼らは演奏を切り上げる。でも、それなりに曲数をやってもいたはずで、へリングたちはちゃんとソロを聞かせつつ、それが手癖になる前に趣味良く切り上げていたわけで、そのまっとうさには拍手。MCも若いギター奏者にまかせ、一歩引いた感じでバンド音に関わっていた(それゆえ、じじいぽさは醸し出された)へリングだが、ステージ退出時にはメンバーの誰よりもお客さんと握手していて、いい人そうであったな。彼は一部、フィンガー・ピッキングで弾いていた?

 聞き手への引っ掛かりを持つということについてはジョン・スコフィールド(1999年5月11日、2001年1月11日、2002年1月24日、2004年3月11日、2006年3月1日、2007年5月10日、2008年10月8日、2009年9月5日、2012年10月10日、2013年10月21日、2015年5月26日、2018年9月2日、2019年5月30日)のほうが上だが、オズ・ノイ(2007年7月3日、2016年3月29日、2018年11月22日)よりはいろんな面で勝つ……なんても思いながら、ぼくは面々のジャズ・ロック的とも指摘できるパフォーマンスに触れていた。いわゆるジャム・バンド(それ自体は音楽ジャンルではなく、アシッド・ジャズのように情緒的な括りの名称ですね)のムーヴメントにはロック側からもジャズ側からも流れたが、どっちにしろ、ジャム・バンドとして括られるのを嫌がる担い手は面白いという定説があったよなあとか、ジャム・バンドの括りとして一番適切なのはグレイトフル・デッド流れのイヴェンターが組むコンサートに出るミュージシャンはすべからくジャム・バンドと言われるという説明なんだよなあ……。そういえば、一時ブルーノート・レコードはチャーリー・ハンター(1999年6月22日、2002年1月24日、2006年4月17日、2009年1月16日、2015年2月18日)、MM&W(1999年8月5日、2000年8月13日、2001年2月5日、2002年9月7日、2012年3月2日)、ソウライヴ(2000年8月12日、2001年3月1、同2日、2002年3月26日、2003年3月31日、2004年4月1日、2007年10月9日、2009年7月8日、2010年5月28日、2012年5月25日)、カール・デンソン(2001年4月4日、2001年8月3〜5日、2002年7月28日、2012年5月25日、2017年10月21日)らジャム・バンド系担い手の送り出しに力を入れたなあ(それは、ノラ・ジョーンズ〜2002年5月30日、2002年9月14日、2007年3月21日、2010年1月20日、2012年11月8日、2016年9月8日〜を端緒に置くアダルト・ヴォーカル路線にとって変わられた)、かつては海外のジャム・バンド・フェスに行ったりもした(2000年8月11〜13日)なあなぞと、ライヴを見ながら20年も前のことを思い出したりも。へリングの今の表現は、そうした積み重ねの上にあるものでもあるのですね。

▶過去の、ジョン・マクラフリン
http://43142.diarynote.jp/200502041825460000/
http://43142.diarynote.jp/201403270907123498/
▶過去の、ジョン・スコフィールド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live2.htm 5.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-1.htm 1.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm 1.24
http://43142.diarynote.jp/200403111821250000/
http://43142.diarynote.jp/200603011148430000/
http://43142.diarynote.jp/200705181809270000/
http://43142.diarynote.jp/200810111558046727/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090905
http://43142.diarynote.jp/201210111837516874/
http://43142.diarynote.jp/201310210730403296/
http://43142.diarynote.jp/201505271549266046/
https://43142.diarynote.jp/201809071509481583/
https://43142.diarynote.jp/201905310800294940/
▶︎過去の、オズ・ノイ
http://43142.diarynote.jp/200707041026510000/
http://43142.diarynote.jp/201603300704079868/
https://43142.diarynote.jp/201811251043143983/
▶︎過去の、チャーリー・ハンター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livejune.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm
http://43142.diarynote.jp/200604181149370000/
http://43142.diarynote.jp/200901171017206901/
http://43142.diarynote.jp/201502230940316504/
▶︎過去の、メデスキ・マーティン&ウッド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm 8月13日
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm 9月7日
http://43142.diarynote.jp/201203062004221304/
▶︎過去の、ソウライヴ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm
http://43142.diarynote.jp/200404010730030000/
http://43142.diarynote.jp/200710131957390000/
http://43142.diarynote.jp/200907131200224908/
http://43142.diarynote.jp/201006031539099988/
http://43142.diarynote.jp/201205301358544511/
https://43142.diarynote.jp/201710240957109863/
▶︎過去の、カール・デンソン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-4.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-8.htm 斑尾フェス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-7.htm フジ・ロック
https://43142.diarynote.jp/201205301358544511/
▶過去の、ノラ・ジョーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-5.htm 5.30
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm 2.09
http://43142.diarynote.jp/200703241326090000/
http://43142.diarynote.jp/201001211346277187/
http://43142.diarynote.jp/201211151032395193/
https://43142.diarynote.jp/201609201655127640/
▶︎過去の、バーク・フェスinマサチューセッツ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm

 最後は、渋谷・クラブクアトロで、シンガー・ソングライターのエミ・マイヤー(2009年1月29日、2009年6月22日、2009年7月26日、2010年2月25日、2010年5月31日、2011年5月21日、2011年6月5日、2012年6月4日、2012年10月16日、2013年7月4日、2015年12月17日、2016年7月16日、2018年6月2日)を見る。おお、声が一段と出るようになったなあ。いまだとっちからるところもあるけど、MCが上達したなあ。

 ギターの石井マサユキ、エレクトリック・ベースの阿部光一郎、ドラムの佐藤直子がサポート。当人はピアノを弾いたり、キーボードを弾きながら歌うとともに、中央に立って歌う場合もあり。アルバム・デビューしてちょうど10年、彼女は『ウィングス』というナッシュヴィル録音の新作を今年リリース。当然、そこからの曲もやるが、トゥイッターでリクエスト曲を募ったりしたようで、けっこうオールタイムのエミちゃんを伝えますという構成になっていた。

 日本語アルバムを出したことがあり同作からの曲(いい曲揃い)をやったり、終盤にはレゲエ・コーナーと言い、後打ち曲をやったりもする。その際は、テナー/ソプラノ・サックス奏者も加わった。先に触れた『ウィングス』にはゲブ・モー(2007年9月19日)がプロデュースした「When I Lose Control」も入っているのだが、実ははその曲の雰囲気がもろにドナルド・フェイゲン( 2000年5月15日)。現代ブルース・マンとして評価の高い彼がそんなプロデューシングしたことがとっても興味深く、ライヴでもぜひ聞きたいと思ったのだが、残念ながらやらなかった。再現が難しかった?

▶過去の、エミ・マイヤー
http://43142.diarynote.jp/200901310844354188/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090622
http://43142.diarynote.jp/200907131157415716/
http://43142.diarynote.jp/201002280942269300/
http://43142.diarynote.jp/201006071814527618/
http://43142.diarynote.jp/201105230925539578/
http://43142.diarynote.jp/201106131248013805/
http://43142.diarynote.jp/201206110916017268/
http://43142.diarynote.jp/201210201218283712/
http://43142.diarynote.jp/201307071319405650/
http://43142.diarynote.jp/201512271306411506/
http://43142.diarynote.jp/201607191312426603/
https://43142.diarynote.jp/201806051311346158/
https://43142.diarynote.jp/200709201052530000/
▶︎過去の、ケブ・モー
https://43142.diarynote.jp/200709201052530000/
▶過去の、スティーリー・ダン/ドナルド・フェイゲン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-5.htm

<今日の、拍手>
 エミ・マイヤーの会場に入り、すぐにベースの音がデケえと感じる。これでいいのかと、思わず卓のほうを見てしまったyoh。ところが、楽器音にリヴァーヴがかけられる場面もわずかあった後打ち曲披露の際はベースの音のデカさがしっくり。おお、レゲエはベース音楽であるのだなー。その際、彼女は(レゲエが好きで)「実は、心はラスタ」という発言をする。ええっ、そうなの? デビュー時から知っていて何度かインタヴューし、彼女がフジ・ロックに出た際は行き帰り一緒だったりもし無駄話もしているはずだが、それは知らなかった。新作『ウィングス』は子供をお腹に宿しているなかレコーディングに臨んだが、なんと今二人目の子供を身籠っているそう。偉い。みんな、もっと子供産んでね〜。