人気アルト・サックス奏者のデイヴィッド・サンボーン(2000年3月21日、2003年7月18日、2010年12月1日、2012年3月3日、2013年9月3日、2014年11月6日、2015年10月19日、2017年12月5日、2017年12月7日)が2016年にNYで初お披露目し、その後いろいろとライヴをしているトロンボーンとのフロントを持つカルテット、その2度目となる来日公演を見る。南青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。ただし、ベン・ウィリアムスとビリー・キルソンはそのままながら、トロンボーンとピアノ/キーボードはアフリカ系奏者から白人のマイケル・ディーズとジェフリー・キーザーに変わった。新たなメンバーについては、http://www.bluenote.co.jp/jp/news/interview/9301/ を参照のこと。

 前回同様に、ウィリアムズはダブル・ベースに特化。特に、頭の2曲は朋友マイケル・ブレッカーのそれなりに凝ったジャズ曲を演奏して、やはりこのクインテットは<サンボーンの考える、モダン・ジャズ>のプロジェクトなのだという思いを強くさせる。ピアニストがキーザーに代わりランク一つ上の演奏をすることになったのは、その思いに拍車をかけたろう。キーザー、何気にハービー・ハンコック流れの弾き方をする人なんだな、また、新トロンボーン奏者のディーズ(1980年代生まれながら、10歳ぐらい年上に見える)は確かにうまい。グルーヴィさは前任者のほうがあったかもしれないが、音程確かに豊かなフレイジングをばしばし繰り出す。

 以下はときにキーザーは一部キーボードも弾き、もう少し広がった表情も見せるようになるが、リズム隊の演奏もあり、やはりジャズ度は低くない。前と同様にマーカス・ミラー曲(「マプート」)やディアンジェロ曲(「スパニッシュ・ジョイント」)も披露したが一皮むけたものになっていた。サンボーンのソロはぼくが見た前回時よりソウルフルな側面も出していたか。彼の日本人が言うところの“泣き”のフレイズを、あちらでは“レイザー・シャープ”と形容したりもするんだよね。

▶過去の、デイヴィッド・サンボーン
http://www.myagent.ne.jp/%7Enewswave/live-2000-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-7.htm
http://43142.diarynote.jp/201012051903113851/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130903
http://43142.diarynote.jp/201411101737513509/
https://43142.diarynote.jp/201510231145525391/
http://43142.diarynote.jp/201712061006171627/
https://43142.diarynote.jp/201712081715389473

 その後、三軒茶屋・HEAVENS DOORに行く。南口のほうの賑やかな商店街にあるハコで、入るのは初めて。帰りに階上に上がると、帰宅中の知り合いとばったり会う。ここ3年弱、おい互いの都合が合わずメールのやりとりだけだったのだが、あららな偶然にお互い驚く。老けてなくて、よかったあ(余計なお世話……)。

 こちらのメイン・アクトは、ナッシュヴィルから来たザ・スモーキング・フラワーズ。地下一階の会場に入ると3番目の出演バンドである日本人バンドのMuscohがやっている。事前にyoutubeで見た曲はエモなシューゲイザーとも言えそうなやつだったが、ぼくがその終盤に接した限りは、竹を割ったようなハードコア/パンク。けっこう、鮮やか。中心人物が天井からぶら下がってわめいたりと、なかなかに活発であった。その次は、日本人3人組のDevil Dalipop。歌とキーボードの女性と、バリトン・サックスとドラムという編成で、多大な臭み、もとい個性あり。キャリアのある人たちが組んでいるよう。ちょいジャズっぽい部分もあるが、メロディはどこか昭和歌謡的でもあり、総じてはデカダンな架空のキャバレー・ミュージックをやっているという所感をえた。いやはや、聞き味はヘヴィ。

 そして22時を回って、男女二人組のザ・スモーキン・フラワーズが登場する。キム(歌、ドラム、1曲アコーディオン)とスコット・コリンズ(歌、ギター)は夫婦で、姉さん女房。NYに住んでいたスコットが30年来ナッシュヴィルに住むキムと出会い、9年前に引っ越したという。

 事前に新作『Let’s Die Together』を聞いたところ何曲かはどこかジョンとヨーコを想起させるところがあると頷く。プラスしてガレージ味も曲によってはあり、というもの。スコットはザ・クラッシュが好きという。そして、生の彼らはそれに当たらずも遠からずなのだが、想像していた以上に線が太かった。けっこうユニゾンで歌われるのだが、まずヴォーカルがともに魅力的。両者ともにルックスは悪くなく、うれしいロック感覚を醸し出すところももちろんマル。加えて、ディランを原点に置くような曲(そのとき、トレモロ付きのセミアコの電気ギターを弾いていたスコットはハーモニカも付いた)や本編最後の曲はキムが「ナッシュヴィルのカウボーイ・ソング」と言って歌ったのでカントリーの曲だったのではないかと思う。そのさいのキムの少し絞り出すような歌は魅力的だったし、あちらではカントリーだけ取り上げても彼女たちは商売になると思えた。

 とかなんとか、さすがずっとやっている米国人ロッカーは力があると痛感させられるとともに、どうして二人(今回が初来日となる)がもっとビッグな存在になっていないかと思うことしきり。だって、この編成だと多くの人はザ・ホワイト・ストライプス(2003年10月21日、2006年3月5日)を思い浮かべるところであり、その流れで二人に声がかかってもおかしくないとも思えるのだが。一つ違うのは、ザ・ホワイト・ストライプスが病んだ情処をもっているところ、ザ・スモーキング・フラワーズは生理的に健全なロックロール観を抱えていると思えるところだ。でも、訴求力は間違いなく高いわけで、世のなか厳し〜。成功するには、運が本当に必要だよなー。というのはともかく、ワタクシ絶賛し、お勧めします!

 マインドもしかと持つと思わされるお二人はただいま全17箇所を回るジャパン・ツアー中。キムは乳がんをわずらったこともあったようだが、とっても溌剌。ツアーは11月13日から始めていて、あとは27日、28日、30日の東京での3回のギグを残す。https://www.thesmokingflowers.com

▶過去の、ザ・ホワイト・ストライプス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-10.htm
http://43142.diarynote.jp/200603080248000000/ 

<先週の、ベンちゃんのお返事>
 サンボーン公演における、ベン・ウィリアムズのダブル・ベース音はやたらと大きかった。彼の妙味は、存分に得ることができた訳であるが。そんな彼には昨週、メール・インタヴューをした。以下に、上に出した記事に使っていない発言を出しておきます。

「渡辺貞夫やデイヴ(ィッド・サンボーン)との共演に加えて、最近はホセ・ジェイムスとの長期の“ビル・ウィザース追悼”のツアーに参加しています。また、ソミ、キーヨン・ハロルド、ジャズメイア・ホーン、等々のアーティストとのツアーの他に、自分のグループでもツアーしています」
「アコースティックとエレクトリックの持ち替えは、ベースを弾き始めた当初からやっていたことです。そもそも、ジャズ、R&B、ゴスペル、ヒップホップ、と様々な音楽を聴いて演奏することが好きで、となると当然、音楽に求められるままにアップライトもエレクトリックも弾ける必要があります。どちらの楽器も楽しんで弾いていますが、違いは大きい。なので、心地よく弾けるレベルに達するには、それぞれに時間と練習を費やしてやらなければなりません。パット・メセニー、ソミ、エティエンヌ・チャールズ、ダイアン・リーヴスなど、今までに共演したアーティストからは両方弾いてほしいという依頼も多く、それがだんだん普通になってきているように思います。クリスチャン・マクブライド、スタンリー・クラーク、デリク・ホッジ、エスペランザ・スポルディング、バーニス・トラヴィス、ジョン・パティトゥッチ等々、両方を見事にこなすベーシスト仲間も増えていますし」
「今、3作目になるリーダー・アルバム『I Am a Man』の制作中です。社会正義や人権の問題を、むしろ精神的なレンズを通して見つめた作品です。ヴォーカルは僕と数名のゲスト・ヴォーカリストがし、インスト曲よりも歌ものが中心です。まもなく録音にかかる予定で、2019年の秋には発表できればと思っています。そして、その僕のツアーの行程に日本を入れることができたら素晴らしいでしょう」