コーコーヤ

2007年11月2日
 笹子重治(ギター、2002年3月24日)、江藤有希(ヴァイオリン)、黒川
紗恵子(クラリネット)、ショーロ・ビヨンド表現を聞かせる3人組。青山
・プラッサオンゼ。おじさん、妙齢の女性に挟まれる。グループ名は好々爺
からきているのかな。ときに優美に、闊達に、お茶目に、澄んだ気持ちが重
ねられる。楽器構成はシンプルだが、その額面を超えたいろんな手触りを届
けてくれる。近くアルバムが出るとかで、ブラジル曲だけでなく、そちらに
入るというオリジナル曲も披露。ファースト・セットだけで失礼しようと思
っていたら、なんかいい気持ちになれて最後までいてしまった。
 品川・ステラボウル。九州のNPO組織がいろんな助成を得て開くスペイ
ン語アーティストが出る公演。昼間はスペインのマジョルカ島とアルゼンチ
ンの人たちが出て、夜のほうはコロンビアとメキシコの担い手が登場。直前
にWOMEXに行ってなかったら両方見たろうけど、渡西疲れもあり、夜の
ほうだけを見る。

最初に出て来たのはカバスという、本国ではアイドル人気も得ていそうな
シンガー。同じコロンビアであるせいか、フアネス(2006年11月9日)の行
き方に少し重なる部分はあるかな。77年生まれの彼はキーボードを前に歌う
が、ほとんど弾かずにマイクを持って歌う。一応鍵盤を弾きながら歌った曲
の最後はスティーヴィ・ワンダーの有名曲(曲名失念。70年代初頭の三部作
内の曲)のさわりを挿入。ギタリストはもろにロッカーふう。

 その後、メキシコの超ビッグ・グループにして、妙にロック心に触れると
ころを持つ、理屈ではなく感性に訴える変テコ・バンドのカフェ・タクーバ
。まさか、日本で知名度のない彼らが見れるとは。感無量。40歳すぎだろう
メンバーはちょうい変な髪形をしてたりして、これはメキシコのスプリット
・エンズ(70年代に活躍した、ニュージーランド出身のひねくれ玉手箱ポッ
プ・ロック・バンド。メンバーだったティム・フィンは後にクラウデッド・
ハウスを組む。それも悪いバンドでは当然ないが、スプリット・エンズのも
っていた魔法の10分の1もひきつげなかったとぼくは感じる)と、思ったり
も。関係ないけど、10cc/ゴドリー& クリーム好きのぼくはスプリット・エ
ンズが大好きでした。

甘ったれた声が特徴のヴォーカル君だけかなり小柄で、他のメンバーはメ
キやんとしては身長が高いという話を聞いたが、ステージに出てきた5人を
見てなるほど。ドラマーは一応、サポート・メンバーとなるのかな。ドラマ
ー以外が横一線に並び、お茶目にフリをつけたりしたときもあった。なんで
も、彼らは総勢18人でやってきたという。

 音だけを取ると、ぶっちゃけちゃらいところも。キーボードは優秀(とい
いつつ、プリセット音も併用するので、少し判断が難しい)でメキシコのガ
ース・ハドソン(ザ・バンド)かと思わせるところも。ただし、ヴォーカリ
ストのルーベン・アルバーランのシンセ・インスト主体のリーダー作(Sizu
Yantra 名義)を聞くと、サウンドの味つけも彼の意向が一番入っているの
かとも思わせられるが。ぼくは彼らのアルバム諸作を聞いて大ファンになっ
ちゃっているので感慨深く見れたが、なんの予備知識もなくこのパフォーマ
ンスに触れたなら駄目印を出すかもと、ふと冷静に思うぼくもいた。でも、
ライヴが見る機会があるなら、ぼくは彼らをまた絶対見る。きっと何度だっ
て。

ロニー・ジョーダン

2007年11月6日
 丸の内・コットンクラブ。ロニー・ジョーダンといっても、トーキング・
ラウドやブルーノートから作品を出している英国人ギタリストではない(ぼ
くとはけっこう歳の離れたココロの同志は見事に勘違いしていた)、70年代
(とくに前半)にEW&F(2006年1月16日)やクール&ザ・ギャングを
凌駕するようなセールスを米国では獲得していた、真正混沌ファンク・グル
ープのウォー(74年12月の初来日の東京公演は日本武道館と中野サンプラザ
だった。また、70年代後半には後楽園球場で開かれたNFLアメリカン・フ
ットボールのハーフタイム・ショウ出演のために来たこともあったはず)の
音楽的イニチアシヴを握っていたキーボード奏者だ。彼は今やトップに米国
でイケイケのレコード会社であるコンコード傘下のファンタジー(CCR他
を出した、かつてのメジャ・レーベル。ジャズにも強い会社だが、実はスタ
ックスの権利はここが所有)から唐突にものすごーく久しぶりのリーダー作
『ウォー・ストーリーズ』をリリース(もちろん、唯一無二のウォーの財産
を受けついた内容。ぼく、大好き。たぶん、BMR誌の年間ベスト10に入れ
ると思う)したことと繋がっているのだろう。

 テナー/フルート、ベース、ドラムの3人を従えてのパフォーマンス。ウ
ォーはラテン濃度の高いバンドとしても知られるが、黒人であるジョーダン
以外は皆ラテン系の人たちだったのではないか。ジョーダンがグリース(gr
ease) とういう形容をしきりに用いて紹介していたドラマーのサルヴァドー
ル・ロドリゲスの(ラテン素養もしっかりと通過した)叩き味はけっこうベ
イエリア・ファンクのそれと重なる。サンタナをはじめベイエリアはマジカ
ルなラテン応用サウンドを出しているが、ロドリゲスの演奏に触れてベイエ
リア・ファンクのドラミング・スタイルにはラテンの何かがきっちりと流し
こまれた結果のものと思わずにはいられなかった。とともに、彼のソロを聞
きつつ、スティーヴ・ガッド(2004年1月27日)のバスドラも巧みに用い
たドカスカドカスカていう(非常に曖昧な言い方ですまん)ドラム・ソロの
終盤の決めもラテンの影響ありなのかもと思った。そのドラマーさんは仕種
や表情などが役者なひょうきんさんで、冷めた会場の空気を温めた。

 実は日本に帰ってからスペインでほぼ治ったはずの風邪がぶり返し、トホ
ホな体調。であろうとも、ジョーダンの妙味に触れてぼくは昇天できるはず
だったが、結果はそれなり……。それは演奏の質ではなく、披露する音楽性
がぼくが求めていたものとは離れていたためだ。なんと、彼は「フリーダム
・ジャズ・ダンス」や「枯葉」といったジャズ・スタンダードやジョン・
コルトレーンやウェイン・ショーターやセロニアス・モンク(もじって、セ
ロニアス・ファンクなんて親父ギャグもジョーダンはとばしていたな)のジ
ャズ曲を、ファンクやラテンやレゲエなどちゃんちきしたリズムを経由しつ
つも、ジャジーにインストで披露。んなこと、彼は新作ではやっていない。
年輪を積んでジョーダンはよりジャズに惹かれるようになっているのか、そ
れとも簡素な編成だとこうするのがいいと思ったのか。でも、ぼくはもっと
ウォー+アルファなる表現(ウォー時代の曲は「ギャラクシー」と「ゲット
・ダウン」をやった)や、彼の天を見上げるような歌声に触れたかった(新
作では弾き語りでもの凄い美曲を披露していたりもしたのに)。

 アンコール曲はぼくが昔ウォーの曲のなかで一番好きだった、もろにラテ
ンな「バエロ」。これ、サンタナの「俺のリズムを聞いとくれ」ヴァージョ
ンと言いたくなる感じで彼らはやった。コットンクラブに出る往年の有名人
のライヴには毎度熱心なファンが集まり、極上の空間が生まれる。ウォー/
ロニー・ジョーダンはコットンクラブに出た人のなかでもっとも輝かしい成
績/セールスを治めている人なはずなのに、ぼくが接したセットではファン
らしい人はあんまし見受けられなかった。なぜ? そんなに、ウォーは鬼っ
子なの? ロニーさん、もう少しファンク傾向よりにして、もう少し人数を
増やした編成でリターン・マッチを! とにかく、ぼくはあなたが好きだ!

与世山澄子

2007年11月7日
 いろんな感慨を抱かせる、沖縄の熟練ジャズ・シンガー。代官山・晴れた
ら空に豆まいて、にて。バッキングもノリも、前に見たモーション・ブルー
・ヨコハマでの実演(2005年9月11日)を引き継ぐもの。南博(2007年10
月17日、他)や菊地成孔(2005 年6 月9 日、他) ら同様の面子を従えてのド
ラムレス編成で、今回のベースは佐藤慎一。お座敷を一つこなしたあと行っ
たため後半しか見てないので、詳細には触れないが、ハコが持つ人肌キブン
の心地よさもあり(そして、コアなファンが集まっていたためもあり)、い
い感じの空間がポッカリ浮き上がっていたのではないか。菊地はやっぱりこ
ういうなんでもない(と書くと、語弊があるが)ソロを取ると本当にいい奏
者だと思わされる。そして、ジャズは水面下で舌をペロリと出した、デカダ
ンでええカッコしいの胸がキュっとしめつけられる悪魔の音楽なのダと痛感
させられるのだ。
 午後一に品川で取材(パシフィック・ホテルに行ったのだが、80年代中期
のスティングのインタヴュー以来、そこに行ったのではないか。あれはソロ
転向後、初めて来日したときだった)したあと、京橋・映画美学校第二試写
室で『線路と娼婦とサッカーボール』というスペイン制作の映画(チェマ・
ロドリゲス監督)を見る。メキシコの下に位置する中米グアテンマラの首都
のグアテマラシティの線路わきに住む娼婦たちが結成したサッカー・チーム
を扱ったドキュメンタリー。まあ、描き方に不備を感じなくはない(題材は
興味深い。その事実をもとにフィクション化したら、おもしろい映画が出来
るかも)が、なかなか知りえない事をいろいろと伝える映像であるのは間違
いない。サッカーの試合はフットサルの大きさのコートからけっこう普通サ
イズのサッカー・コートまでが使われたり、なかにはコンクリートの上で行
われたりととっても乱暴。でも、それが中南米諸国の現実でもあるだろう。
応援団の元娼婦の片方の目を無くしたマリナというおばあさんが歌うシーン
が複数あり、ファドと重なるような味を持つそれは非常に味わい深いゾと感
心したら、なんとこの映画が引き金となり、おあばさんの歌がスペインでは
ヒットしたそうな。その話は実に頷けます。映画は12月22日から、シアター
N渋谷で公開。

 そのあとは、恵比寿・リキッドルームでのスーパー・ファリー・アニマル
ズ(2001年10月19日、2005年10月18日)と丸の内・コットンクラブでの
ザ・ダズ・バンド(2006年7月24日)をハシゴする予定だったのだが、なんか
ここから一度恵比寿に行くのがおっくうになり予定を変更、セカンド・ショ
ウからファースト・ショウに変更するなどやりくりがついたのでそのまま東
京駅近く(京橋と東京駅はそんなに離れてない)のコットンクラブに向かっ
ちゃう。その前に時間調整もあり、再開発された東京駅八重図口周辺を探索
する。

 で、ザ・ダズ・バンドは前回以上に良かったな。本人たちも前回受けた好印
象があったため、より磨き上げたパーフォーマンスを心掛け、より焦点をしぼ
った内容を練ってきたのだと思う(日本語もMCに入れるようになった)。
ルックスが老けていないスキップ・マーティンが全面に立つ曲が多く、その
マーティンの歌が実にいい感じ(全盛期を凌駕する?)であるのに、感激。
観客を左右に分けての掛け合いなんて事も去年はなかったはず。といった具
合で、見事にリファインされていた、中堅セルフ・コンテインド・グループ
の充実した実演にぼくは大満足。


レデシー

2007年11月12日
 凛々。イエーイ。だけで、文章をおわらせたい?

 六本木・ビルボードライブ(ファースト・ショウ)。大昔、“西海岸のジ
ル・スコット”なんても言われた、ジャジーな喉裁きも冴える実力派(2002
年6月12日。ナイジェリア出身の両親のもとニューオーリンズで生まれ育ち
、思春期からはベイエイア育ち。って経歴、なんかカッコいいな)は、ギタ
ー、ベース、キーボード2、ドラム、バッキング・ヴォーカルという6人の
黒人男性を従えて登場。彼女とバンドの噛み具合は、いかにもワーキング・
バンドと言いたくなるもの。黒いドレスを身にまとっていた彼女はなんと右
手にギブスをつけ肩に釣っている。でも、喉に覚えがあり、熱いハートの持
ち主である彼女にはそんなこと無関係、魂とテンションのこもった歌を速射
砲のように(アクションもでっかいっス)、ときにじっくりと聞き手に届け
ながら、突っ走る。あれれ、と思わせられたのはギターだけの伴奏(最後に、
バンド音も加わったが)でザ・ビートルズの「イエスタデイ」を歌ったこと。

 アンコールは裸足で登場。その5年ぶりの新作『ロスト&ファウンド』は
今年屈指のR&Bアルバムだが、やはり屈指のR&Bパーフォーマンスだっ
たのではないか。

ザ・シンズ

2007年11月13日
 サブ・ポップと契約して作品を出しているニューメキシコ州アルバカーキ
出身のバンド。渋谷・クラブクアトロ。これで、3度目の来日になるのかな
? 入場時に風船を渡している。

 こぼれる歌心、漂う歌心、……ものすごく、澄んだ歌心を持つバンドだな
。適切な手作りサウンドを介して送りだされる、そのさり気なくも確かな“
歌”の存在にぼくはとってもいい気持ちになる。不味いお酒も美味しくなる
。売れている(新作『ウイッシング・ザ・ナイト・アウェイ』はなんと、全
米2位まで登った)奢りなどおくびにも出さない自然体の5人の様に触れな
がら、ここには“好ましいアメリカ人”がいるナと思わせられたり。あ、こ
の書き方、とても曖昧か。彼らのある曲のPVは風船をつかったものののよ
うで、それに倣いいろんな色の膨らませた風船が会場内に漂ったりも。そう
いえばどこか甘美な何か/充足感を歌のパワーで与えるということで、ぼく
はなんとなくザ・フレイミング・リップス(2000年8月5日、2006年8月12
日)を思い出したりも。ザ・シンズの場合、リップスが持つ無防備な無垢さ
とは無縁ではあるが。
 浦和の住人ではないので、比較的平常心で、いつものようにライヴに出掛
ける。祝、ACL優勝!

 渋谷・デュオで、83年アイルランド生まれという、マルチ派シンガー・ソ
ングライターのパトリック・ウルフを見る。ときにヴァイオリンやピアノや
ウクレレを弾きながら歌う本人を、ラップトップ/効果音、ウッド・ベース
、ドラム、ヴァイオリンがサポート。赤い色の髪に変テコな恰好と仕種。遅
れてきたグラム・ロック青年というか、初期デイヴィッド・ボウイが好きな
のかといった感じの音楽性/佇まいを持つ人。歌い方は、そんなに低音では
ないがデイヴィッド・シルヴァイアン(2004年4月27日)を彷彿とさせ、ま
たどこか若いときのハワード・ジョーンズを思い出させたりもする。

 挙げたサンプル名に示されるように、ピアノの弾き語りなんかに触れると
、それなりの音楽的才を持つ人であるのは間違いない。シルヴィアンが率い
たジャパンをかつてそのタレントに見合うぐらいちゃんと評価した唯一の国
である日本ゆえ、彼が日本でけっこうな人気を集めてもぜんぜん不思議はな
いと思った。アンコールのときは銀色のウィッグをつけて登場、それを見て
アンディ・ウォーホルを意識しているのかと、ぼくは思ったかな。

 そして、代官山・代官山・晴れたら空に豆まいてに移動して、ウルグアイ
人ピアニスト/シンガーのウーゴ・ファトルーソを見る。ちょうど着いたら
、1部と2部の間、1部はソロのパフォーマンスだったようだが、2部はヤ
ヒロトモヒロ(打楽器)とのデュオにて。ミルトン・ナシメント(2003年9
月23日)やアイアート・モレイラ(2000年7月10日)らブラジル才人をサポ
ートした人として知られる人だが、その洒脱なパフォーマンスはやはりまず
ブラジル的な軽妙さを感じさせるものか。一筆書き的な、7分目ぐらいの力
の入れ具合で自由自在に流れていくのが気持ちいいし、なんか円満な感じを
与えてくれるのもいい。そんな彼、ときに箱みたいのを叩いたて、歌ったり
も。
 渋谷・オーチャードホールでジェーン・バーキン(シャルロット・ゲンズ
ブールは娘ですね)。会場の一角で、彼女プロデュースの香水を販売してい
た、バーキン・バックは売ってないけど。けっこう着飾った女性が多いのか
なと思って行ったら、それほどでなくてがっかり? ステージに登場した彼
女はもう60歳をすぎているはずだが、格好はミドルティーンの女の子のよう
なカジュアルな格好。でもって、そのサバけた風情もあって、遠目には若々
しい。そうしたナチュラルといった感じもある彼女に触れ、ファッション傾
向を変えてしまうワナビーな女性がいても不思議はないなとも思う。

 ピアノ/ヴァイオリン、弦楽器/小型ハープ/鍵盤、打楽器/ベース/P
C担当の3人の男性を従えてのパフォーマンス。大昔はヘタウマな雰囲気派
という感じもあった彼女だが、けっこう歌っていたな。振る舞いもとてもフ
レンドリーで、伸び伸びと生きてきている満たされてて好ましい人がここに
はいると思わせられた。4曲目のとき会場を歌謡曲のショウのよう(体験し
たことがないので、あくまでイメージですが)に場内を握手してまわったり
とか、けっこう下世話なサーヴィスをしたときには生理的に退いたけど、そ
れもいい人ゆえなんだろうなと通して公演に接すると思わせられることしき
り。ぼくの守備範囲の外にいる人だけど、けっこう満足感はあった。

 その後、渋谷・クラブクアトロに行って、途中からにはなったがザ・ハイ
アーを見る。エピタフに所属する、まだ20代前半のラスヴェガスのロ
ック・バンド。リード・シンガーは非米国人的な洒落者っぽい感じを持つ。
ときにエッジを立てつつ、ポップに行く彼ら、とてもうれしそうにやってた
な。“エモ・ディスコ”なんてキャッチが付けられて(でも、ディスコでも
ファンキーでも非ず)いる彼らだが、リズム隊がなかなかアトラクティヴ。
ベースは派手なフレイジングを繰り出すし、ドラムはドカスカ暴れている。
その二人、もろにザ・フーの影響を受けているぞと感じました。
 とっても壮絶なパフォーマンス。今年のジャズNo.1の公演かもしれぬ。南
青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。彼(05年3月16日)は来年2
月に二管を擁する新カルテット(スティーヴ・コールマンやグレッグ・オズ
ビーなんかと絡みを持つ若手たちが中心)による『アヴァター』(大傑作。
もう、これぞ冒険心と美意識に富んだジャズだと太鼓判を押す)をリリース
するが、まったく同じ編成のもと今回やってきた。で、偉そうな書き方にな
るがジャズ・ビギナーだったら難解の一言で終わってしまうような、高級ワ
インならぬ高級ジャズを真摯に展開。ジャズという表現は創造性や技巧を追
求しようとすると、どうしても明解さ/親しみやすさの先にある大地を進ま
ざるを得ないという確信を持たせる演奏だったとも書きたくなるな。
 
 実は昨日(というか今日になるか)、朝までしこたま飲んでお酒が抜けき
らないまま会場入りしたのだが、その情報量のヘヴィさや演奏の純度の高さ
のため、途中ムカムカ気持ち悪くなってきてしまった。おお、凄いゾ、ルバ
ルカバ。かつて、ぼくは彼のことを嫌いだった(だって、音楽ではなく曲芸
をやっていたところがあったもの)が、完全に悪い印象が払拭。今の彼のワ
ーキング・グループはとんでもなく質と覇気を持つリアル・ジャズをやって
いる! 蛇足だが、キューバ出身の彼はイサック・デルガード(1999年10
月25日。同11月2日に追記)の新作にゲスト入りしているが、聞けば同じ時
期に米国にやって来たこともあり仲良しなのだとか。なんでも、デルガード
の米国盤初期2枚はルバルカバが音楽プロデュースをやっているそう。
 完全一人によるもので、渋谷・アックス。あらら、良かったな。そんなに
時間が長くないショーケース・ライヴ(2005年10月24日、2007年9月1日
)は2度ほど見ていたが、ショーケースは手抜きしていたのかと思えるほど
(ショーケース・ライヴだと、ぼくがどこか醒めた接し方をしているかもし
れない……)、感興の差があった。そう感じた要因の一つは彼の一挙一動が
ちゃんと見れた事と音の良さ(やっぱ、アックスは音がいい)があったから
か。ボディなんかも叩きパーカッシヴな弾き方をするそのギター演奏の真価
がくっきりと受け取れたし、歌心も存分に伝わってきたし。やっぱり、いい
タレントですね。実は、最初のうちはちょいシラけて見ていた。だって、通
常のコンサートはちゃんとバンドを用いてやるのだるものだと思っていたら
、ショーケース・ライヴと同様にギター弾き語りのソロ・パフォーマンスだ
ったから。でも、気儘に進めていくそのパフォーマンスは彼の中で完結して
いるものであり、第三者を交えないほうがその美味しさは溢れ出るのかもし
れないと途中から思えた。そういえば、彼はマイルス・デイヴィスの「セヴ
ン・ステップス・トゥ・ヘヴン」を得意のマウス・トランペット(肉声によ
るトランペット擬音)を活かす形でやったりも。肉声とギターのフレイジン
グの絡みが気持ちい〜い。それ、セット・リストには入っていなかった。

 そして、南青山・ブルーノート東京に移動して、アヴェレイジ・ホワイト
・バンドのセカンド・ショウを見る。全盛期は30年以上も前になるスコット
ランド出身のホワイト・ファンク/ソウル・バンドで、オリジナル・メンバ
ーのアラン・ゴーリーとオニー・マッキンタイアの二人が今も残る。もう一
人の雄、ヘイミッシュ・スチュアートは昨年に単独名義で来日公演を行って
(2006年3月8日)いますね。また、やはりオリジナル・メンバーのロジャ
ー・ボールもソロでやっているようだ。

 彼らは曲によってせわしなく楽器を持ちかえるバンドだったが、それは現
在も踏襲。ゴーリーと彼のソウル・メイトらしい黒人クライド・ジョーンズ
(ダリル・ホール作とかに関与している)はギター/ベース/キーボードを
いろいろ持ちかえる。そのジョーンズは2曲ぐらいリード・ヴォーカルも取
った(チャカ・カーンがヒットさせた、ネット・ドヒニーの「ワッチャ・ゴ
ナ・ドゥ・フォー・ミー」を歌ったりも)。ドラムのロッキー・ブライアン
トはダイアン・リーヴス(2001年4月24日)やビル・エヴァンス(2003年
9月16日)なんかとも来日している人で、サックス/キーボードのおじさ
んはぼくが全然知らない白人。でも、「ゴー・メイシオ」という掛け声が入
る彼のメイシオ・パーカー(2007年9月13日、他)・マナー気味アルトを大
々的にフィーチャーした曲(なんか、キャンディ・ダルファーがやりそうな
感じのファンキー曲)もやった。なにより嬉しかったのは、毎度やる「ピッ
ク・アップ・ザ・ピーセス」だけでなく、「カット・ザ・ケイク」をやって
くれたこと。その二つが彼らの二大曲と思う。ギミギミギミギミギミギミギ
ミギミ・ギミザットケイク、と一緒に歌えてとっても嬉しかった。
 南青山・MANDARA。“沖縄のサウダージ・ヴォイス”の持ち主、デ
ビュー10周年を記念するアルバムをフォロウするツアーのなかの一環。前半
は笹子重治(2002年3月24日、2007年11月2日)の生ギター1本をバック
に歌う。後半はそこに高田漣(2007年1月27日)がスライド・ギターで加わ
り、さらにはSaigenji(2006年6月27日)とのデュオでも2曲やる。さら
り自然体、もう一つの空気の流れや弾み、あり。

 ところで、歌う声と喋る声がかなり違うのに、少し驚く。ぼくは公演中の
MCをかなり嫌う者だが、彼女のMCはとても面白い。いいキャラしている
。本当はもう少し短いほうがいいけど、これなら許せる。歌声もより自然な
感じがしてCD以上にいいような。彼女が歌詞を書き金延幸子がメロディを
作ったという曲はとくに素敵だったな。そういえば、シスコ在住の彼女の久
しぶりのコンサート(1999年5月31日)のときには高田のお父さんも来てい
たっけ(酔いつぶれて、ライヴの途中から床に寝ていた)なあ、なんてこと
も思い出した。
            
 その後、渋谷・JZブラット。ヴァイオリニスト、牧山純子のレコ発ライ
ヴのセカンド・ショウ。幾見雅博(ギター)、Penny-k(キーボード)、坂
本竜太(ベース)、大槻英宣(ドラム)と、けっこう豪華奏者を起用しての
もの。フュージョン調からR&B色の強いものまで、多彩なサウンドに奔放
な(身体を揺らしながら、エモーショナルに弾く人なんだなー)ヴァイオリ
ン演奏を乗せる。ノーブルな佇まいながら、情熱的というか、迸る感覚を持っ
ていますね。また途中、島健(ピアノ、アンダーレイテッドな人かもしれぬ)
がはいったりもし、ジャズ濃度を強める場面も。いろんなお膳立てで泳ぐ時
期を経て、もう少しサウンドの方向性を絞ったとき、また強い訴求力を持つ
んじゃないだろうか。アンコールの最後に、マイルス・デイヴィスの「セヴ
ン・ステップス・トゥ・ヘヴン」を演奏。昨日のラウル・ミドンに続いて、
二日続けての「セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」。それぞれの、私の「
セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」。みんな、各々に自分のミュージカル
・ヘヴンを求めている……。
 飯田橋・東京日仏学院 ラ・ブラスリー。ハイチ出身の両親を持つカナダ人
女性シンガー・ソングライターのメリッサ・ラヴォーがまず出てきて、生ギター
(一部、ウクレレも)の弾き語りをする。ラウル・ミドン(11月26日)の実
演に触れて間もないとおとなしく感じるが、ちょっとひっかかりのあるピッ
キングをしながら、まっすぐに歌う人(英語中心)。ハイチ臭はそれほど強
くなく、トレイシー・チャップマンとかの系列に入れるべき人ですね。カナ
ダ生まれだし、普通に欧米の表現に触れてきたのは間違いない。メイシー・
グレイ(2003年7月28日)やニーナ・シモンが好きとか、言っていたな。
が、どこか揺れや温もりを持っているところはハイチの何かを引き継いでい
ると言えるかも。彼女はオタワに住んでいるが、契約するレーベルもフラン
スの会社だし、音楽活動の発展を求めて近くフランスに引っ越すという。そ
のあと、ソロ作を出したばかりだという、オトゥール・ドゥ・リュシーの女
性シンガーのヴァレリー・ルリオ(2005年2月16日)が登場。ギタリストと
打楽器奏者をしたがえての、アコースティック傾向のパォーンマンス。