このツっぱった異才(2002年6月18日、2003年11月18日、2003年11月22日、2008年5月7日、2009年5月15日、2013年11月18日)がマドンナ(2005年12月7日)のレーベル“マーヴェリック”から1993年にデビューした当初は、様々な黒人音楽に明るい統合型屈強ファンカーという印象が強かった。それが、こういう“退き”も持つんだと思わされたのは、クレイグ・ストリート(cf.カサンドラ・ウィルソン)のプロデュースのもと、ジョー・ヘンリー(2010年4月2日、2012年10月15日、2010年4月4日、2012年10月16日)やデイヴィッド・トーン(2000年8月16日)なんかも関与していた3作目『ビター』(マーヴェリック、1999年)を出したとき。グルーヴなどアフリカ系を特徴づける音楽語彙を意識的に排しているのに、米国黒人音楽が持つ陰影をうっすらと出すアーバン静謐ポップ表現を、そこで彼女は見事にモノにすることに成功。ンデゲオチェロがここのところ見せている、もやもやも淡々ポップ路線もその先にあるものとぼくは判断している。

 六本木・ビルボードライブ東京、セカンド・ショウ。昨年公演と同じ顔ぶれによる。歌とベースのンデゲオチェロをサポートする3人、クリス・ブルース(ギター)とジョビン・ブルーニ(キーボード)とアール・ハーヴィン(ドラム)は、彼女の2014年新作『コメット・カム・トゥ・ミー』(ナイーヴ)の関与者でもある。ドラマーはセッティングも叩き方も格好もジャズ側にいると思わせる御仁だが、素晴らしく引っ掛かりと奥行きを持つドラミングを聞かせるなあ。うしし。

 今回もすべて、ヴォーカル曲。ただし、接していて、しっかりと認知したことアリ。それは、彼女の肉声が3つのパターンを持つ事。一つは太い地声で歌うもの。→この場合、堂々“裸のンデゲオチェロ表現”という思いを誘発させる。それから、裏声での歌唱。→この場合、頼りなさが出るためもあり、根無し草的なノリが出てくる。そして、もう一つは、ラップというか喋り口調のもの。→この場合、肉声遣いを少しジャストなタイミングとズラしているためもあるのか、ベースを弾きづらいらしく、彼女はベース演奏をしない(この晩は、ギタリストに少し弾かせる部分もあった)。へ〜え。ぼくが一番好きなのは、地声の表現デス。それが、ぼくにとっての、今回のンデゲオチェロ公演の一番の収穫だな。

 終盤、「オリジナルの歌い方が好き」みたいなことを言って、プリンス(2002年11月19日)の「パープル・レイン」をやる。が、これがあの著名リフレイン箇所にならないとまったくそれとは分らないもので(ぼくはプリンス曲のなかでトップ級に嫌いなそれなので、ちゃんと歌詞も追ったことがないし……)驚愕し、シビれる。うーぬ、彼女はカヴァーだけのアルバムを作るべきではないのか。あの“自分化”の手腕というか、彼女自身の色の強さはあまりに感動的でR。

 ンデゲオチェロのやっていることは、決して新しさに溢れてはいない。だが、誰にも負けない、個の力や音楽哲学を持っている。ほんと、素敵な現代ポッパーだよなあ。とともに、黒人でも白人でもいいのだが、彼女以外の人がこれと同じことをやったとしたら、ぼくは仰天しまくりなのではないか。

▶過去の、ンデゲオチェロ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-6.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200805090836380000/
http://43142.diarynote.jp/200905161026033788/
http://43142.diarynote.jp/201311191050581790/
▶過去の、マドンナ
http://43142.diarynote.jp/200512091117210000/
▶過去の、ヘンリー
http://43142.diarynote.jp/201004080752097392/
http://43142.diarynote.jp/201004080754018553/
http://43142.diarynote.jp/201210201217291727/
http://43142.diarynote.jp/201210201218283712/
▶過去の、トーン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm
▶過去のプリンス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm 


<今日の、期待>
 ンデゲエオチェロはこの9月に、要点ありまくりのジャズ・ピアニストのジェイソン・モラン(2007年1月16日、2007年1月17日、2013年1月6日)との連名でブルーノートからファッツ・ウォーラーへのトリビュート作をリリースすることになっている。実は、リアル・ジャズとヒップホップ双方の理解者として、モランは大穴の存在。そこには、そういう視点も入るか否か。基本、モランはずっとブルーノートからリーダー作をリリースしているが、日本盤発売は見送られている。次は久しぶりに出ないかな。
 それから、今日早朝の試合でブラジルW杯が終了した。ちゃんとした勤め人でもきっちりTV放映を見ていた人をぼくは何人も知っているが、彼らはいつ寝ていたのだろう? 終わって、少しホっとする人もいるかな。ライヴの帰り道、<ドイツ優勝を祝って、ビール1杯無料。どうぞ、お立ち寄りください>みたいな張り紙告知宣伝板を歩道に出しているお店がありました。

▶過去の、モラン
http://43142.diarynote.jp/200701201417260000/
http://43142.diarynote.jp/200701201418210000/
http://43142.diarynote.jp/201301151731112021/