代官山・晴れたら空に豆まいての、昼下がりの公演を覗く。ECMその他からアルバムをリリースしているスイス人ピアニスト(2006年10月26日、2008年4月27日)のライヴ。ぼくが過去見た時はソロによるもの(ダンサーがついたときはあったものの)だったが、今回は彼が組む4人組バンドであるローニンの一員であるシャーを伴ってのもの。アルバムだといろんな楽器をやっている彼だが、この日はバスクラのみを吹く。

 いやはや、アーティスティック、そして瑞々しい。ベルチュ、すげえと思わせられたパフォーマンス。本編では2曲を演奏、30分ぐらいの曲と40分強の曲。ともに、ミニマム・ミュージック的な反復を随所に散りばめ、自在に広がり、起伏とストーリーのある流れを刺激的に紡ぐというもの。で、その様がなんとも悠然さと細微さ、光と影の感覚をべらぼうに持つもので、ぼくは息を飲んだ。二日酔い気味で頭がウニ気味だったのに、2人の演奏はぼくに雄弁に語りかけて来て、ぼくの心は凛々。お酒もおいしく、ぐびぐび飲んじゃう。

 2人は譜面を置いてなかったが、その噛み合い、協調の様は尋常ではない。不思議と思えたのは、ベルチュのピアノの音色。弦を手で押さえていないのに、左手で押さえる音にミュートがかかっている場合がある。エフェクターは使っていないようであるし、卓は専属ではないだろう日本人がやっていた。それ、低音の一部の弦を最初からミュートするセッティングがなされていたのか。他にも、ベルチュは弦を挽いたり、ピアノのボディを叩いたり、いろんな効果を出す演奏を志向。ぼくがここで聞いた中では、一番多彩で、いい音でピアノ(ショート・スケールのグランド・ピアノ)は鳴っていたと思う。一方の、シャーのベース・クラリネットもベルチュと同様に、多彩な弾き方を見せる、かなりの使い手で、これもすごいとぼくは唸った。タンギングによる反復音、スタイリッシュだったな。

 そして、アンコールには勝井祐二(2008年2月18日、他)がそこに加わる。こちらは10分強の演奏。勝井は5弦ヴァイオリンを弾く。現在は電気ヴァイオリンとアコースティックな5弦を半々ぐらいの比率で使っているそう。かなり癖のある曲/コンビネーションを持つゆえ、彼は最低限重なったという感じだが、ぼくは勝井の演奏者としてのまっすぐな姿勢を滅法感じて、なんかグっと来てしまったりもした。

 あと、ベルチュさん、MCをあんなに快活する人という印象はなかった。なんでも、来年はローニンで来るとのこと。これはあまりに楽しみ、ジャズの重要な何かとつながった現代表現を求めるリスナーは必聴と思う。

<今日の、成り行き>
 昨晩、知人宅でのパーティでおいしく飲食〜会話をし、泊まっちゃう。そのまま代官山のライヴ会場に向かったら、前座として出た、勝井祐二と成井幹子によるヴァイオリンのデュオ・ユニットであるPHASEの演奏はすでに最後の方だった。が、ベルチュたちは2人の演奏後、5分も間を置かないような感じでステージに登場。こんなにオープニング・アクトとメイン・アクトの出演の間が短い公演も初めてだ。会場でまずビール、ジョッキ1杯で顔が赤くなるのを自覚。おお、お酒残っているな。終演後、満足まんぞくと外に出ると、周辺は人がいっぱい。赤い顔をしているのがなんか恥ずかしかった。そして、いそいで着替えに戻る。