イケ面の1957年生まれの名ポーランド人監督のパヴェウ・パヴリコフスキの2018年ポーランド/イギリス/フランス映画を、六本木・キノフィルムズ試写室で見る。よく出来た映画で、感服。切なくも、ロマンティックな作品だなあ。母親に連れられ14才で共産圏を出て英国中心に西欧で暮らしてきた彼の、くっついたり離れたりしていた両親へのオマージュがそこにはあるという。

 ポーランドの民族音楽舞踏団の設立時にそこの音楽監督を勤めていたピアニストのヴィクトル(当時は禁止されていたものの、ジャズの造詣も持つ)と、スカウトされて入団したシンガーのズーラのすれ違いつつ、熱烈な情愛の模様を、東西冷戦が始まっていた1949年から約15年にわたり追う。舞台は本国、東ベルリン、パリ,ユーゴスラヴィアなどで、ポーランド語、仏語、独語、ロシア語が会話に使われる。落ち着いた色調の、モノクロの映画。時間は90分に満たないが、駆け足な感じもまったくなく、十全に物語を描く。その手腕にも、舌を巻いた。

 そして、重要なのは、その二人の複雑な愛の物語が、史実にしっかり添って描かれていること。それが、ストーリーや展開に妙なリアリティや深みをもたらす。主役の二人が出会うマズレク民族合唱舞踏団は、同時期に設立され今も健在しているマゾフシェ民族合唱舞踏団の存在を借りたもの。おお、アンナ・マリア・ヨペック(2015年9月5日、2016年12月25日 、2018年3月19日)の両親はマゾフシェの花形団員だった。

 それにしても、主役が音楽家だけに、音楽は本当にいろいろと使われる。民族音楽舞踏団の構成員をスカウトするために地方を回る冒頭のシーンはなんか音楽フィールド・ワークのドキュメンタリーの如し。その後も音楽はバカみたいに重要な役割を与えられ、これは音楽映画と紹介されても不思議はない。音楽面を司っているのは、ジャズを中心にいろんな音楽にコミットしている1982年生まれのポーランド人ピアニストのマルチン・マセツキだ。

 秀でた映像美や構成を持つ。たとえば、二人が久しぶりにパリで会う夜道のシーン。ズーラが泊まるホテルの途中まで一緒に歩き、送るのはここでいいわと軽くキスし、すたすたと歩いていく彼女の後ろ姿をカメラは捉える。かと思ったら、ズーラは再びヴィクトルの元に駆け寄り二人は熱烈にキスしあう。そして、彼女は再びホテルに戻るのだが、カメラはヴィクトルの姿を捉え、駆け足で場を離れるズーラの足音だけが響く。すごいなあ、詩情や含みがあるなあ。先に触れたように音楽をするシーンは多く、その場合飽きちゃいもう少し短めでもいいのにと思わせられる場合も少なくないが、この映画は音楽シーンを絶妙のカメラ・ワークで描くので、それらに必然性を感じてしまい、退屈することがない。撮影はパヴリコフスキ監督の前作『イーダ』のそれも担当した、1982年生まれのポーランド人のウカシュ・ジャルが担当している。

 最後の終わり方だけどう解釈したらいいの分からなく(というか、ぼくが感じたのではイヤなので……)、帰り際に宣伝担当者に思わず訊ねてしまう。……いろいろな取り方があっていいんじゃないですか。だよね。無粋な反応をしてしまった。

▶︎過去の、アンナ・マリア・ヨペック
http://43142.diarynote.jp/?day=20150905
http://43142.diarynote.jp/201612270940364817/
https://43142.diarynote.jp/201803201235152920/

<今日の、知識>
 試写室は、六本木のポール・スミス店舗が入ったビルの上にあった。夜、流れた先で、博学くんからキノフィルムズって木下工務店傘下にあり、その名前はそこから来ているんだよと聞く。ぼくの中ではだいぶ前に潰れた建設会社というイメージがあったのだが、経営が変わりエンターテインメント各種をはじめ、とても多角的に商行為をしているらしい。やっぱ、株をやっている人は物知りだよね。そういえば、先週行った店(開花中の桜の盆栽がおいてあって驚く)では店主から、今大学生の就職人気企業の上位に音楽関連企業が入っていると聞いてびっくり。1位は商社だそうだが、ベスト10にソニー・ミュージックとエイベックスが入っていると教えられる。ホント? わりと新聞は読んでいるつもりだが、それは初耳だった。