まず、マイナビ BLITZ赤坂で、1967年結成というイタリアの大御所プログ・ロック・バンドであるレ・オルメを見る。二日間公演のうちの二日目、この日は1973年作『フェローナトソローナの伝説』を再現という名目があり。とはいえ、プログ・ロックにうといぼくは聞いたこともなく、そうだったのか全然わからない。おそらく、ぼくは会場内で一番主役のことを知らない人間だったのではないだろうか。

 キーボード、歌とベース(一部はアコースティック・ギター)、ドラムというトリオ編成を持つ。イタリア語のMCもし、声援を集めていたドラムのおじいちゃんはオリジナル・メンバーだろうと思ったら、厳密には違うらしい。あたまの2曲目だか3曲目だかにドラム・ソロが5分ほど(?)披露されたが、それはオリジナル通りなのだろうか。打法はオールド・スクールだが切れはあり、バスドラは一つしか置いていなかったと思うが、キックは早く、ときに2バスでやっているのかと思えた。

 キーボード奏者がショルダー・キーボードを手にしてギター音色の達者なソロを取る場面は2度あったが、基本3人のソロはなし。すべて、構成されたアンサンブル演奏で通す。とはいえ、トリオというシンプルな編成であるので複雑な印象はあまり受けず、明快というか、聞きやすい。インスト・パートにも力をそそぐものの、朗々とした歌パート/メロディあってこその表現であると思わせるな。歌担当のベーシストは基本ピック弾きだが、一部ではフツーに指弾きもする。なるほど、音色効果を考えてのピック弾きなのね。

 キーボード奏者はハモンド・オルガンを一番弾いた。その様に触れながら、1970年前後の前線にあったロックはハモンドが担っていたところも大だとなあととも思う。ディープ・パープル(2005年8月13日、2006年5月21日)、E.L.&P.、ザ・ドアーズ……。そして、そららの音色は、王道ファンキー・ジャズのオルガン音とはまったく異なる。表現が音色を作るのか、音色の違いが様式に左右するのか?

 1月に見たPFM(2018年1月9日)に続く、イタリアのプログ・ロック体験。ズッケロ(2017年5月29日)やジャヴァノティ(2002年6月1日)のようにインターナショナルな知名度を持つ担い手もいるが、車やアパレルやフットボールと比べたら、イタリアのポップ・ミュージックの国際性は高くはない。その例外がプログ・ロックであったと思われるが、今もイタリアにはその手の担い手は出てきているのだろうか。

▶過去の、ディープ・パープル
http://43142.diarynote.jp/200508152007550000/
http://43142.diarynote.jp/200605231801250000/
▶︎過去の、PFM
http://43142.diarynote.jp/201801100513078942/
▶︎過去の、ズッケロ
http://43142.diarynote.jp/201705301638029304/
▶︎過去の、ジョヴァノッティ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-6.htm

 1時間45分ほどレ・オルメを見た後、代官山・晴れたら空に豆まいてに向かう。こりらはドキュメンタリー映画『Caravan to the Future』(2017年4月12日)絡みの出し物が持たれている。場内入りすると、映画上映が終わり、ちょうど監督のデコード豊崎アリサとピーター・バラカン(2014年10月25日、2015年10月25日、2016年10月22日、2017年10月21日、2017年10月22日)のトークが始まる。

 そして、その後に、トゥアレグとフランス人の混合“砂漠のブルース”バンドであるタミクレストのリーダーであるウスマン・アグ・モサのソロ・パフォーマンスが始まる。頭の1曲だけが生ギターを手にし、あとはカポをつけたレスポールを弾きながら歌う。マリ北部をべースとするトゥアレグ族の彼(パスポートもマリだそう)だが、皮ジャンとジーンズを身につけた彼は、髪型がもろにそうなんだが、見た目はジミ・ヘンドリックス。とっても寡黙な人のようだが、誰もが彼を見たなら音楽をやっている人と思うのではないか。

 アルペジオぽく弾かれるギターは、親指で開放弦によるベース音を弾き、他の指で装飾音を入れる。そして、そこに意外に静的な歌をモサはのせていく。非レギュラー・チューニングの妙に支えられたその演奏は分析すると単調ではあるのだが、やはり独自にして長い積み上げがあってこそのもの、自分が立つ位置と鬼のような距離を感じさせるもので、思いはいろいろと飛ぶ。そのパフォーマンスに接して、ぼくはジェイムズ・ブラッド・ウルマーの『オデッセイ』(コロムビア、1983年)の行き方をふと思い出した。弛緩し一般的には評価の高くない(ぼくも、そうかな)プロダクツだが、あれはウルマーなりのアフリカ回帰表現であったのかと思うと感じかたも変わってきはしまいか。

 そして、そろそろ変化が欲しいなとなった頃、終盤にはトンコリ奏者のOKI(2004年8月27日。2006年8月11日、2006年9月24日、2007年1月26日、2012年10月10日、2014年12月10日、2016年11月18日)が加わる。お。楽器の演奏流儀が同じなので、無理なく合うな。そしてモサのギター音と絡むと、トンコリの音の魅惑の響きも対比的に出る。OKI は1曲歌ったりもしたが、それは自曲か。MCによれば、タミクレストの新作にOKIは2、3曲加わるという。ああ、うれしい広がりなり。

▶︎過去の、映画『Caravan to the Future』
http://43142.diarynote.jp/201704161137379218/
▶︎過去の、ピーター・バラカン
http://43142.diarynote.jp/201410301511243448/
http://43142.diarynote.jp/201510290731105395/
http://43142.diarynote.jp/201610241405267224/
http://43142.diarynote.jp/201710240957109863/
http://43142.diarynote.jp/201710240958114009/
▶過去の、OKI
http://43142.diarynote.jp/?day=20040827
http://43142.diarynote.jp/200608141732470000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20060924
http://43142.diarynote.jp/200702010111560000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20121010
http://43142.diarynote.jp/201412241025308207/
http://43142.diarynote.jp/201611211530147646/

<今日の、もろもろ>
 フランス人と日本人の両親を持つアリサは、パリと東京に半々づつ拠点を置き、またアフリカに向かう日々であるそう。精気と聡明さを併せ持つ彼女は現在、映画でも描かれたキャラヴァンの存続に繋げるクラウド・ファウンディング=https://sahara-eliki.org/2018/04/25/caravan-to-the-future-project-2/ も行なっている。ピーターに今年のライヴ・マジックはと問うと、ぼちぼちやっています。タミクレストの新作にOKIが関与する話だが、すでに旭川でムサととも録音を終えているんだそう。