セウ・ジョルジ

2005年9月1日
 映画『ライフ・アクアティック』(2005年2月15日)にも出演してい
たイケてる俳優、そしてもちろんそれ以前にミュージシャンである元ファロ
ファ・カリオカのジョルジさんの公演。渋谷・クアブクアトロ。ガット・ギ
ターを持つ彼に加え、電気ベースと打楽器3人(うち、一人はカバキーニョ
を弾くときも)がバッキング。みんな、黒い人たち。

 始まってすぐに、感服。声が野太い。それが、すうっと聞く者の体内に入
ってくる。その事実が生理的にコイツは本物だァと思わせる。気分いいっ〜
。で、上記編成で生っぽく、臨機応変に我々の表現を開いていく。ブラジル
の滋養の上で<この日、この場所、この顔ぶれ>といった感じでしなやかに
表現を繰り広げる様はなかなかに興味深く、美味。ほんと、気分でどうにで
も行けるのだという内実をそれは持っていました(事実、翌日はまた違った
感じでもあったという)。1曲、非常にボブ・マーリーを想起させる曲もあ
った。彼は自分でベースを弾きながら歌うロック・トリオを画策していると
いうが、それも鬼のように実のあるものになるはずとも、この晩のパフォー
マンスを見ながら痛感。2時間強をすうっと。MCは英語でするときも。

 俳優をやっているだけあって、やはり格好は良い。顔は生で見ると、キャ
ミオのラリー・ブラックモンに似ているとも思った(それを、他の人に伝え
るとみんな同意してました)。20年前に一時天下を取ったことがあるブラッ
クモンには一度取材したことがあったが、ものすごく知的な人。彼とのやり
とりは“刺激的なやりとりができたインタヴュー、ぼくのキャリア中の10指
”に入るものとして強く印象に残っているが、ステージではあんな派手な格
好をするくせにオフではこぎれいにまとめてヤッピーみたいな印象を与える
人であったっけなあ。で、ぼくはジョルジュにも同様とは言わないが、かな
り似たクールネスを覚えたりもしたのだった。
 渋谷・アックス。音楽的なことの前に、まずティナリウェンの見てくれに
大いにニッコリとなったりして。アフリカのマリに属する砂漠に住む人達だ
が、皆さんいかにも砂漠を思い出させるようなほんわかした布を体にまとう
(また、頭と顔の下も布でおおう人も)。また、左利きのベースは右利きの
それを逆さにして弾いている。俺、学生だったら、皆でああいう格好し、全
員左利き用のギターやベースを逆さに持ち替えてステージやろうと間違いな
くバンドのメンバーに提案したろうな。

 異文化にある音楽に触れるのは非常にドキドキできることだが、上記の部
分でもフフフとなれた連中。まず、アフロな頭の一人(なんか、彼は70年代
のスピリチュアルなソウル・グループの人のように見えたりも)が出てきて
、ジョン・リー・フッカーをもろに思い出させるうよなギターの弾き語り。
その後、他の人達がぞろぞろ出てくる。全員で7人。うち、男性陣はベース
奏者とパーカッション奏者が専任。あとの4人はギターを持ったり、持たな
かったり。ただ、余白の効用(?)をちゃんと認知してか全員でギターを持
つようなことはせず、大半の曲では二人がギターを弾く。で、ヴォーカルは
全員がとる。女性はサポート・ヴォール専任。で、リフの繰り返し曲を中心
に、すべてマイナー・キーの楽曲。そこから、じわじわと砂漠で育まれたひ
っかかりのあるブルージィな表現を送りだす。その音は無条件にいろんな繋
がりを想起させるもの。最後のほうには、確実にラップを意識したようなシ
ング・トークを採用した曲をやった。また、河内音頭みたいだなと思わせる
曲もあった。

 1時間30分ぴったりの演奏時間。そして、アンコール2曲。通常は50分
のステージをやっているそうだが、もう少し短くてもいいかもしれない。さ
すが客はそれなりに年齢層は高めだが、サラリーマン風スーツ姿の人や、こ
ぎれいにまとめたOLっぽい人はほとんどいず。皆さん、ふだん何をしてい
るのか。しかし、まるっきり別の環境にありいろんな面でワケが分からない
人達ながら、なんとなく部分的には分かった気分にもなれるところも持つな
かなかに不可解さが魅力的な連中でした。

 このあと、同じく渋谷のJZブラットに流れる。ヴェロア・レコードが送
りだした(アルバムは日本先行発売。アメリカではEPのみ出ている)、倍
ぐらいの年齢じゃないととても出来なようなことをやる16歳の女性シンガー
ソングライター。10時から。彼女は生ギターを手にしながら歌う(曲はピア
ノでも書くそう)。普段のライヴはピアノ、縦ベース、ドラムのバンドを率
いるそうだが、この日はピアノとのデュオ。20歳だという伴奏ピアニスト(
楽譜を見てないので、いつもやっているのだと思う)は、少し離れた所から
はキッチェルよりも若く見える。ともあれ、いつもより簡素な設定でやった
ぶんだけジャズっぽくなった(スタンダード曲も歌った)ところがあるかも
、とは本人の弁。なんにせよ、ジャズ的な襞もいろいろ通った物凄く早熟で
、相当に質の高い自作自演派表現を聞かせるタレントであるのは間違いない。

 昨日もコンサート帰りの飲みの席で話題となったが、キッチェル公演後の
後の飲みでも、やはりニューオリンズのハリケーン被害の話になる。被災後
のもろもろが酷すぎる。当然、同地ミュージシャンのことにも話は飛ぶわけ
だが、同地にある音楽マスター・テープの多くは駄目になってしまったんで
はないか。なんかいてもたってもたまらなくなり山岸潤史(1999年8月5日、
2000年12月7日、2001年7月16日、2004年3月30日、2005年7月30、31日)の安否を知人に確認、ニューオリンズに戻っていたらしいが
ぜんぜん無事みたい。深夜、セウ・ジェルジュの打ち上げに乱入。若い白人
の可愛い嫁さんと一緒の彼、真っ赤なスーツにわざわざ着替えていた(そう
だ)。
 渋谷・クラブクアトロ。まず、オープニング・アクトとしてイタリアの変
則パンク・ジャズ・ロック・トリオのZu(2004年6月2日)が登場。
彼らは韓国公演をしてから、日本にやってきた。40分弱の演奏。今回、客層
を見たのか、短い演奏時間を考慮したのか、随所にフリー・ジャズ語彙を散
りばめつつ(新譜の『THE WAY OF THE ANIMAL PO
WERS』:XENGはアヴァンギャルド語彙の交換が柱となった仕上がり
)かなり仕掛け重視のたたき込み感濃厚な演奏で突き進んでいた。どっちか
というと、ぼくは去年見たときのほうが好みかも。でも、やっぱしびれる。
ここのリーダー格/スポークスマンの電気ベースのマッシモは今月下旬にソ
ニック・ユース(2001年2月20日)のサーストン・ムーアとジム・オ
ルーク(2000年3月25日)らとともに、オリジナル・サイレンスという
名前の6人編成バンド(ブラインド・ビーストのイタリア版?)でイタリア
4か所でライヴを行う。

 その後、ミスター・バングル〜フェス・ノー・モアにいたマイク・パット
ンのファントマス。メルヴィンズのバズ・オズボーン(ギター)、ミスター
・バングル時代からの20年の付き合いで今はNY地下自由音楽シーンで活躍
するトレヴァー・ダン(ベース)、スレイヤーのデイヴ・ロンバード(ドラ
ム)が構成員という、ある意味かなり豪華な顔ぶれのバンド。

 客席側から向かって左にすごい大がかりなドラムセット。中央後ろにギタ
ーとベース。そして、右側にいろんな装置を前にするパットンというステー
ジ配置。彼はいろいろと肉声を加工し、様々な表情やテイストを持つ声を多
大なパッションとともに届ける。……ばしっばしっと決まる“破れた日常的
サウンド”と百花繚乱ヴォイスの、各者の対話を経ての拮抗。1時間ちょい
のパフォーマンス時間だったかな。自由な発想のもと枠組から飛び立ち、確
固たる様式や持ち味を持つにいたったワンダーランド・ミュージック、なん
て言い方もしたくなるか。各人それぞれに興味深いサイド活動をやっている
(全員、ジョン・ゾーンとも付き合いを持っているな)が、確固とした意思
を持って表現に向かう大人って本当に美しいナ。
 ブルーノート東京。なんだかんだでよく見ているような気になっているが
、パーカーの姿を見るのはプリンス公演(2002年11月19日)いらいであ
り、彼の自己グループ演奏だとなんと4年ぶりとなるのか(過去は、1999年
8月6〜8日、1999年10月28日、2001年4月17日)。まあ、昨年
だか一昨年だかの米国興行売上1位となったそうなプリンスのツアーのバン
ド・メンバーをこなしていただけにそっちに時間を取られたのは間違いない
だろうが。確か、去年は夏のファスで来日しかけたのだが、そのフェスが中
止になって(ベスト盤の選曲をやったけど、それでぽしゃった)、来日がと
んだこともあった。

 ともあれ、基本の同行メンバーにはそれほど代わりがない。ヴォーカルが
スウィート・チャールズからやはりJBズにいたマーサ・ハイ(彼女はコー
リー・パーカーとともにバッキング・ヴォーカルをとる。コーリーがフィー
チャーされることはあっても、彼女が前に出ることはなかった)に代わり、
またキーボード奏者が新作『スクールズ・イン』で弾いていたモリス・ヘイ
ズになった以外は過去と同じ。そのヘイズはプリンス・バンド出身者だから
、今のメイシオ・バンドはJB〜P−ファンク(トロンボーンのグレッグ・
ボイヤーとバラムのロドニー・カーティス)〜プリンスという黄金トライア
ングル・ファミリー出身者がいることになる。というか、その“黄金”にす
べてに関与しているのがメイシオ・パーカーという希有のアルト吹きなわけ
だ。

 ぼくはファースト・ショウを見たが、ファーストとセカンドはかなり曲目
違いでやっているらしい。前もそうだったっけか? それはバンドがいい感
じで組まれていることを示すものか。ファンクのエッセンスを娯楽的かつ総
花的に聞かせましょうという行き方に変化がなし。前よりもメイシオが歌わ
なくなったかな(前に少し戻ったとも言える)? あと、アルトの音程がち
ょっと甘くなったような気もしたが、どんなもんか。なんにせよ、触れて目
茶うれしいパフォーマンスであるのは間違いない。それから、シンガー陣以
外はけっこうちゃんとした格好していた。それも、いいもんですね。

 その後、タクシーに飛び乗り新宿ピットインに移動。やはり渋谷クアトロ
(ファントマスの前座)からタクシー移動してきたはずのズーとアルタート
・ステイツ(ギターの内橋和久:2004年7月6日、電気ベースのナスノ
ミツル:2002年1月5日)、ドラムの芳垣安洋:2005年2月19日、
他)による演奏を見る。アルタードステイツ16周年記念プログラム(新宿ピ
ットイン、3日間)のなかの一環。ぜんぜんリハなしによる、丁々発止演奏
。一部の途中で会場入りすると、彼らはすでに一緒にやっていた。2部は最
初ズーだけで演奏し、2曲目からまた6人での演奏になる。ダブル・リズム
・セクションにギターとサックスというメロディ楽器が絡む編成、と言うこ
とも出来るのか。冒険や即興や実験という芽を愛でる、とっても澄んでいる
ロック通過者でもある不埒な大人たちのどーにでもなる会話でした。ズーは
来年3月にまたやってくることになっているとういう。
           

ジェシー・ハリス

2005年9月7日
 渋谷・デュオミュージックエクスチェンジ。1時間弱のセットを淡々と二
つ。

 アコースティック・ギターを弾きながら歌う本人(2002年12月21日)
に加えて、電気ベース、オルガン、ドラムという編成による。オルガン奏者
とデュオでやった曲もあったが、ハモンドを入れているというのは実は彼の
今のモード。すでにハリスはラリー・ゴールディングス(1999年4月13
日、2000年3月2日)と長年の付き合いのケニー・ウォルセン(ドラム
、セックスモブ他:2000年7月21日)というトリオ編成で新作を録っ
ていて、新曲もいろいろとやった今回のライヴはそのノリに従ったものでも
あったのだ。なんでも、その編成はLAで諸都合でたまたまその3人で実演
をやったら凄く良かったからだという。『ミネラル』と名付けられたその新
作はヴァーヴを離れて新たに設立する自己ーベルから1月にリリースされる
が、同作はとっても出来がいい。ときにポール・サイモンぽいゾと思わせる
局面が出ているのはあららだが、二人とも生粋のNYっ子であるんだよなあ
……。今回、ベース奏者が同行しているのは、オルガン奏者がベースも兼任
できないためらしい。

 セカンド・セット終盤ではノラ・ジョーンズ(2002年5月20日、20
02年9月12日、2004年1月19日)でヒットした「ドント・ノウ・ホ
ワイ」もやはり披露する。本当にいい曲。もしこの曲がなかったら、彼の人
生は……なんてことも考えさせる曲ではありますね。とともに、彼の甘い鼻
声を聞きながら、ジョーズのそれとの相似性も感じる。テキサス州からジャ
ズ・ピアニスト志向でNYに出てきた彼女にキミはもっと歌うべきだと強く
諭したのはハリスだが、ジョーンズはかなり彼の歌い方を参考にしたんじゃ
ないかなとも思わされた。

エイモス・リー

2005年9月8日
 ノラ・ジョーンズのスタッフが全面関与というお膳立てでブルーノートか
らデビューした男性シンガー・ソングライター。渋谷・デュオ。生ギターを
弾いて歌う本人に加え、ギター、ドラム、ベースという編成で。バックのギ
タリストがときにマンドリンを弾くこともあり、より田舎っぽいほんわかさ
を感じさせる部分も。70年代ふうの素朴な行き方を中心に、わりと今っぽい
ほんのりソウル臭を感じさせるものまで、その間を淡々と行ったりきたり。
同じ場所で続けて聞いてしまうとどうしても比較してしまい、昨日のハリス
のほうがソング・ライターとしては深みがあると思うが、悪い印象はないで
す。終わったあと、彼とほんのちょっとお話したらフォーチューン・クッキ
ーのなかに入っているリボンに印刷されている諺の長めのようなもの(内容
は、あなたに幸せが訪れるますように、みたいな感じ)を言われてヘっ?と
なる。そういうお礼の言い方をした人、かなり年月を重ねている書き手稼業
のなか初めてだ。
 スワンプ・ロック臭が売りだったヴェテラン・シンガー・ソングライター。
バッキングは、日本のラリーパパ&カーネギーママ。最初は彼らだけのパフ
ォーマンスだったのだが、ザ・バンド、リトル・フィート(2000年12月
8日)、「ブラザーズ&シスターズ」時代のジ・オールマン・ブラザーズな
どの妙味を活かした曲(メロディはほんわかした感じのものが種)を次々に
披露、なるほどの趣味のバンド。ザ・バンドふうの曲のときのギター・ソロ
はピッキング・ミュートでやってほしかった。物販のところ見たら、けっこ
う商品を出しているのだな。

 休憩を挟んで、マーク・ベノが登場。かつての面影はまるでないが(でも
、1947年生まれだから、そんなにじじいではない)、それなりにくつろいだ
生活をしていることを伝えるかのようにこざっぱりとした感じで、やさぐれ
たノリが皆無なのはいいナと思う。で、頭から全面的にラリーパパ&カーネ
ギーママがバッキング。やはり、70年代初頭〜中期のA&M時代の曲は良い
。歓声も沸く。が、一方ではなんの変哲もないブルーズ曲の洒脱なカヴァー
には、もっと歌う曲があるだろと思ってしまわなくはないが……。アンコー
ルは生ギターを持っての(あと一人、日本人の生ギター奏者をおいての)、
弾き語り。なかなか。彼の公演、弾き語りでも良かったかもしれない。渋谷
・クラブクアトロ。

与世山澄子

2005年9月11日
 沖縄の1940年生まれのジャズ・シンガー。20年ぶりの新作を一緒に録った
、ピアノの南博(2001年10月29日)、ベースの安カ川大樹(2004年11月2
2日、他)、テナーの菊地成孔(2004年8月12日、2005年6月9
日、2004月7月6日、他)をサポートにおいてのもの。

 外見は小柄な普通の、民謡を歌ったら似合いそうな感じの人。白いドレス
も似合っているとはいいがたい。が、昔は米国人を相手にしたのだろう、歌
やフィーリングなどは確か。だって、発展や暗黒がぽっかりと口を開けた、普
通の歌い手だったらなかなか乗りこなせない演奏(ドラムレスの編成ってい
いものだな。とっても、再確認)に、見事悠々に自分を開いていたもの。へ
え〜。ふんわかしているけど、しっかりその人が伝わる。なるほど、印象的
な味あり。で、歌への気持ちの込め方、そこからすうっと自分の素顔を出す
回路なんかはなんとなくビョーク(2001年12月5日)と近い部分がある
かもとも思った。

 それから、かつて沖縄がアメリカであったこともぼくは思い出し、ちょっと
言葉にならない感慨を得た。横浜赤レンガ倉庫のモーション・ブルー・ヨコ
ハマ。

K’DO

2005年9月14日
 大貫妙子(歌)にプラスして、フェビアン・レザ・パネ(ピアノ)、森俊
之(キーボード)、沖山優司(ベース)、沼澤尚(ドラム)からな
るユニット。後のほうの3人はアズ・ウィ・スピーク(2004年2月21日
)のメンバーでもあり、森と沼澤はサンパウロ(2002年11月15日、2
004年1月30日)他、いろいろと一緒にやってますね。MCによれば、も
う5年ぐらいこの面子でやっているそうだ。二人のピアノ/キーボード音の
魅惑的な絡み(見てて、本当にいい感じでした)と確かなリズム隊のうえに
、大貫の特殊個性が無理なく開かれるという感じか。彼女のオリジナル曲と
ともに、映画曲やサセミストリート派生曲なんかもやった。パフォーマンス
を見てて、10年以上前に彼女に取材したことがあったことを思い出した。発
売レコード会社もタイトルも忘れたが、なんか墨絵のなかにクリスタルが眩
く輝いているようなアルバムが出たときだった。そういえば彼女、先日のメ
イシオ・パーカーも見にきていましたね。横浜赤レンガ倉庫のモーション・
ブルー・ヨコハマ。セカンド。 

コモン

2005年9月15日
 渋谷・Oイースト、満員。昨年(6月11日)は同じ建物内にある、キャ
パはだいぶ下がる渋谷・デュオ。今回はここと恵比寿・リキッドルーム。本
人も気分良かったろうなー。

 前回はDJとさしで実演した彼だったが、今回はさらにキーボード奏者と
パーカッション奏者がついてのもの。前回の項でもかなり褒めているが、そ
りゃ悪いわけがない。根本の力、大いにあり。ながら、変テコなダンスや終
盤のエレピ弾きは苦笑しちゃうが。まあ、サーヴィス精神おうせいな奴とい
うことにしときましょう。途中、アイズリー曲に乗せて女のコをステージに
あげて絡んだが、オンナ好きそうではあるなあ。

 なお、今回同行した打楽器奏者はコモンの97年作以降ずっと彼のアルバム
にプロデュース関与しているカリーム・リギンズ。実は彼、秀でた真面ジャ
ズ・ドラマーでもある。02年に亡くなったジャズ・ベースの大御所レイ・ブ
ラウンが晩年トリオ表現の相手役としてリギンズを使っていたことでもそれ
は明白だろう。他にもオスカー・ピーターソンやマルグリュー・ミラーなど
、彼を雇った有名じじいジャズ・マンはいろいろ。そんな彼はまだ20代、そ
の振り幅の大きい、ながら飄々とした様を見ると、ジャズもヒップホップも
どこかでつながったアフリカン・アメリカン・ミュージックであるのダとす
うっと納得させられるなあ。    

 芳垣安洋(2000年7月29日、2000年9月14日、2001年2月3
日、2002年3月17日、2003年6月28日、2004年1月21日、20
04年5月31日、2004年5月28日、2004年5月31日、2004年6月
2〜3日、2004年10月10日、2004年11月17日、2005年2月19
日、他) 率いる、10人編成のパーカッション・アンサンブル。ストロボ他、
対バンになったりとかいう日々のライヴの場の出会いから、構成員は集まっ
たのだという。セルフ・タイトルのデビュー作のレコ発記念のライヴだ。

 新宿・ピットイン。まず、会場に入っておおっ。客席側のほうにまで楽器
があふれている。いろんな打楽器がところ狭しと並べられている。もう、搬
入とかセッティングとか、本当に大変だったろうなあ。楽器を置くためにス
テージに向かって左側の帯の席の3の1がつぶされ、また右側も楽器ケース
がずらりと積まれて、少し削られている。ふう。と、いつもより席数は少な
いものの、立ち見の人たくさん。

 打楽器集団といっても主に高良久美子が担当するのだが、マリンバやヴァ
イブラフォン(それらは音大では打楽器科の範疇に入るのか)などメロディ
楽器が入る場合が少なくなく(スティール・パンが使われるときもあり)、
そんなに打楽器音だけがストイックに重なるという印象はない。だから、け
っこうカラフルな感じもあるし(それは、自在のリズムの多彩さもあるだろ
う)、飽きもこない。ラテン・アメリカ的要素、西欧(ミニマル・ミュージ
ック)的要素もあるし、もちろんアジア的な要素もある。無国籍風というか
、遊びある自在の感覚の重なりのなかからストーリー性がもわもわと出てく
るという感じか。肉声を用いるときもあった。
 南青山・ブルーノート東京、セカンド。すごいグループ名がついているが
、これまでどおりギター、電気ベース、ドラムがバッキングするというのは
変わりなし。とくに、黒人のベースとドラム(デイヴィッド・バラードとハ
ーマン・アーネット3世)はもうすでに30年もずっとレベナック卿と一緒に
やっているそうだ。別に、テロやカトリーナ災害に対するコメントはなし(
と、思う)。ドクター・ジョンはNYに家を持っているが、そのリズム隊は
ニューオリンズ在住らしい(でも、ロードに出ていたらしい)。なんにせよ
、二人とも陽気……。そんなところにも、“セカンド・ライン”の伝統(葬
式でも帰りの列は陽気に騒ぐ)を感じたかも。……ああ、魔法と滋養の街ニ
ューオリンズに幸あれ。

 エンジ色のハマった派手なスーツを来た御大(2000年5月24日、200
2年3月23日)はグランド・ピアトとハモンド・オルガンに挟まれて座る。
多くはピアノを弾いていたが。そして、ときに大小のタンバリンを叩いたり
も。ヴードゥを想起させる小さな髑髏がピアノの上においてあるのはこれま
でどおり。歌声はぜんぜん衰えてなし、受けたうれしさは山ほど。日替わり
、セット替わりで相当に曲目を入れ換えているしらいが、30年も一緒にやっ
ているのならどーにでもできるでしょう。この日のセカンド・ショウは、往
年の曲だと「ライト・プレイス、ロング・タイム」をやった(そのとき、オ
リジナルだと女性コーラス隊が出している嬌声を伴奏隊はうまく出してまし
た)。

Pe’z

2005年9月21日
 NHKホール。これまで大ホール会場での公演を拒否してきた彼ら(20
05年5月2日、他)の、初めてのホール公演。まあ、過去の演奏とそれほ
ど変わりはないが(でも、これまでの歩みを括ろうとする意思はたっぷり)
、ツっぱったバンドとして落とし前を付けていたところはいろいろ
。まだ若いのに、生理的に確かなものを持ちつづけいるとは思わずにいられ
ないよなあ。

アンナ・ナリック

2005年9月22日
 カリフォルニアの、21才の発展途上の新進シンガー・ソングライター。ギ
ター、ベース、ドラムを率いての、ちょうど1時間の公演。キーボード抜き
で、けっこうベタっとしたギター・サウンドのもと歌う。途中で、アコース
ティックっぽい曲も少しやったがそっちのほうがいい感じ。声はかなり太い
。ときに見せるアクションは鈍臭い。でも、性格はとても良さそう。アンコ
ールはジミ・ヘンドリックスの「エンジェル」のカヴァー。彼女たちは、フ
ェイセズ・ヴァージョンを参考した感じであったが、なるほどあのころのロ
ックに対する共感もまたバネになっているのか。渋谷・クラブクアトロ。

オマール・ソーサ

2005年9月24日
 もう、見るたびに設定が違う。けっこう毎年来ている(2001年8月24日、
2002年7月22日、2004年8月2日)が、それが必然性があり、ちゃ
んと毎回みるべき人と痛感する。今回は電気ベースとドラムス、そしてスペ
シャル・ゲストとして元JBズ〜JBホーンズのテナー・サックス奏者のピ
ー・ウィ・エリスが加わるという編成による。南青山・ブルーノート東京、
セカンド。

 ソーサはグランド・ピアノ中心ながら、フェンダー・ローズ(その必然性
のない音で弾いていたな)やコントローラー他を用い効果音もいろいろ出す
。リズム隊もちょい変則的で、みんな肉声も出す。総じては、なんとも説明
に困る、とりとめのない電波系表現……。確か2曲目以降にピー・ウィーは
加わり、以後ずっと協調したわけだが、悠然とそのちょい変てこジャズ/フ
ュージョン表現に寄り添う。もう、メンバーのように。彼も不思議な実力者
だな。そして、随時その“不思議”は“音楽の素敵”に転化していたわけで
、ふふっと聞いちゃうのだ。組曲のように連なる感じを持つ構成で、全体と
しては1時間半を軽く超える演奏時間。でも、当然のことながら、ぜんぜん
その時間を感じさせず。もっともっと、と言いたくなる。
 まず、渋谷Oイースト。本当は前座のマションダを見たかったのだが、会
場についたときは終わっていた。残念。この3月4日にちらりとショーケー
スで見たシアラはちょい今様なジャネット・ジャクソンという感じもあった
か。DJが音を出すだけでなく、いろいろと煽りの声を発してて大活躍。
ダンサーといろいろと絡みながら歌うが、口パクだったかも。

 途中で出て、ザ・ストリング・チーズ・インシデント(2003年4月12日、
2004年4月22日)がやっている渋谷・アックスへ。セカンド・セットが
始まったところ。03年のときは鷹揚な仕切りだったが、今回は係員が2階席
チケットをきっちりチェックしていた。インストものを中心でやっていて、
ファーストは歌もの中心であったという。回りの喧騒をほうとながめつつ、
こういう公演は途中から聞き出すと疎外感を感じるところがあるなあ、なぞ
とも思う。ちょっと、乗りきれなかった。
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが夫婦役で主演のダグ・リ
ーマン監督の映画を、半蔵門・東宝東和試写室で。なかなか粋で、良く作ら
れた娯楽アクション映画。最後はあまりにマンガっぽく、やりすぎとは思う
が、楽しめた。ジョー・ストラマー、オゾマトリからソフト・セルまで、い
ろんな洋楽ポップがうまく使われている。この年末に公開。

そして、南青山・ブルーノート東京でエリック・ベネイ(ファースト)。
キーボード2、ギター、ベース、ドラムス、そして女性バッキング・ヴォー
カリストという布陣。彼女ははそれなりに美形。スーツを着こなす、痩身の
ベネイはさすがに格好いい。なんか、映画『ミスター・ソウルマン』の主演
(白人なのに、黒人に扮していた)C・トーマス・ハウエルにそっくりじゃ
んと思った。そのことは、もっと間近に接した翌日の取材時にも感じた。古
着をお洒落に着こなしてたナ。さすが、別れた女房は人気女優のハル・ベリ
ーってのも無条件に納得。

 なんとオープナーは、スライ・ストーンの「イフ・ユー・ウォント・ミー
・トゥ・ステイ」。デビュー作で取り上げていたとはいえ、のっけからカヴ
ァーで来るとは。で、最初から上手に客をあしらいながらコール&レサスポ
ンスをやったりする。また、途中で「あなたがいてくれてうれしい」みたい
な、日本語をポロリと言ったりも。時に出す日本語の単語のイントネーショ
ンがかなりまっとう。耳がいい人なんだろうな。

 6年ぶりに出した『ハリケーン』はデイヴィッド・フォスターが主任プロ
デューサー。よりAORっぽくなったり、ライトにラテンぽかったり、フラ
ンク・シナトラみたいになったりとか、悪い言い方をすればより白い方向性
を取った内容を持つ。だが、この日のやはり純R&B回路から離れた曲調を
いろいろと採用する行き方に触れて、彼は彼なりに自分の信じるR&B道を
突き進んでいるとぼくは実感できたのだなあ。王道的な黒い行き方だけをし
ないからこそ、フレッシュなブラックネスが得られると彼は確信している…
…。1曲目のようなまっとうな黒い行き方と、外し気味の行き方の効果的な
かみ合いも何かを生んでいるような。そうすると、なんとなくバック・バンド
も全て黒人でまとめているのも生理的に納得できちゃう。なんか、前回の来
日(1999年7月11日)のときに書いていることと相反する感じもありますが。

 とにかく、いいR&Bショウだったのは間違いない。なんせ、翌日会うの
分かっていながら、アンコールで彼が横を通ったとき思わず握手しちゃった
ぐらいだから。なんか、そういう“青さ”を煽る力も彼の実演は持っていた
と思う。