ウォレス・ルーニー

2004年11月3日
 フォロワー。その数の多さということにおいたら、ジャズ界ではマイルス・
デイヴィスが一番だろう。ぼくはマイルスを絶対視していない人だが(80年代
初期の復帰以降はそれ以前と比するなら基本的にイモだと思う)、でもその影
響力の大きさを知るにつけ凄い人だったんだろーなーと思わざるをえない。ま
あ、逆にあまりマイルス臭を感じさせない人(意識的にそれを回避する人と言
ったほうがいいか)だと余計に応援したくなる者でもあるのだが。やっぱ、な
〜んとなくドン・チェリーやレスター・ボウイの生き方のほうが好きな私では
あります。
 
 数多いマイルス傘下にいるトランペッターのなか、一番しつこくマイルスぶ
りっこを続けているのが、ウォレス・ルーニーだと思う。昔、ハービー・ハン
コックたちがやったマイルス追悼プロジェクトにマイルス役で呼ばれたときに
は何より本人が天に昇る気持ちであったと推測しちゃう。今回の実演も(と書
いているが、ぼくは初めて彼を見るような気がする)基本的には電気マイルス
をなんとか自分なりに展開しようとするもの。煮え切らないとこころはあった
ものの。

 豪華面子を引き連れてのパフォーマンス。まさか菊地雅章=プーさん(1999
年11月3日、2002年9月22日、2003年6月10日)をシンセサイザー奏者で連れ
てくるとは。それだけで、見にきた人も少しはいたはずだ。新作では元マイル
ス・バンドのアダム・ホルツマンがセカンド・キーボード奏者を務めていたの
で、彼は一応その代役となる? 10年強前に大接近したビル・ラズウェルもそ
うだったが(cf. 『ドリーマシン』) 、やっぱプーさんはギル・エヴァンス経
由で電気マイルスの妙味=ツボを会得している人物という定評をその道の人達
から受けているんだよな。菊地成孔はデートコースで一度プーさんを呼んでも
いいのではないのか。デートコースじゃなくてもいいが、とにかく、直接なに
か絡んでほしい。

 主となるキーボード奏者はジェリ・アレン。彼女、ルーニーの女房なのか。
ハワード大学つながりなのかな(話は飛ぶが、ハワード大の流れでアレンは大
昔、元ゲット・セットV.O.P.の今は制作者として活動するマーク・バトゥソン
を舎弟にしていた) 。さらに、ヴァーノン・リードの舎弟にして、一時はメデ
スキ・マーティン&ウッド第4のメンバーなんても言われたDJロジック(20
00年8月12、13日、他)も同行。彼、少し痩せたかな?
 
 プー(ルーニーからもMCでそう紹介されていた)さんのシンセはブギー・
バンド(彼のエレクトリック編成のバンド)の演奏そのもの。ああ、ブギー・
バンドを聞きてえと、やっぱり思ってしまった。2004年9月7日の項でち
ょっと触れているが、まだバブリーだった90年代初頭にオンエア・イーストで
その公演があったなんて今から考えると本当にウソみたい。ともあれ、彼とロ
ジックは外様で消えていたときもそれなりにあった。黙々と縦ベースを弾いて
いたアイラ・コールマン(2000年3月14日)はご苦労さま。南青山・ブルーノ
ート東京、セカンド。けっこう長い、演奏時間。それにしても、ルーニーの成
り金田舎ヤクザのようなファッション・センスにはちとびびる。マイルスはも
っとお洒落だったゾ。
 代官山・UNIT(ここのお酒の値段はクラブの値付け。音楽の実演ヴェニ
ューとして考えると高め)。前方3分の2だとステージを見やすいはずだが、
後ろのほうにいるとあまりステージが見えない。かといって、前には非常に行
きにくく。あまり見えないなか、ブラジルの変テコさんの実演を受け止める。

 まず、NY自由音楽シーンを根城にいろんな活動をしているパーカッショニ
ストのバティスタが登場。この9月5日(MMW)と9月16日(トレイ・ア
ナスタシオ・バンド)、約2か月の間に彼のことを3度も見ようとは。彼、さ
かのぼるならハービー・ハンコックの非エレクトック公演(2000年3月14日)
にも同行している。

 なんと巻上公一を伴ってのもの。けっこう、こなれて重なっていて、それな
りにリハをやった? クスっと笑える打楽器系音と肉声の重なりを鷹揚に求め
る。ユーモアと開かれた私の、天真爛漫さとネヒくれがファジーに重なりあっ
た末の提示。客に対するアピールの仕方とか、いろいろ引き出しを持っている
んだナとも思う。

 パティスタの実演が終わって、パスコアールは登場。かつてライヴ・アン
ダー・ザ・スカイのフィーチャード・アーティストになったこともある、いろ
んな楽器を手にするかっとびさんの実演はピアノ・ソロから。音だけ聞くと、
ピアノ自体は力がないし、クラシックっぽさはしょーもないし、ぼくにはいま
いち。でも、奇声を上げたり、ヤカンとかのブツを用いてのパフォーマンスは
興味深いものと思う。それにちらりとしか見えなかったが、あの外見はそれだ
けで見る者に何かを与えるよな。といった感じで、たとえば、リー“スクラッ
チ”ペリー(2004年8月7日)と同様の美味しい体験感覚があるような気もす
るが、いかんせん殆ど見えないなかではいまいち判断がつきません。途中で、
ブラジル人らしき女性ヴォーカル/ギターがちょっと入ったようだ。

 それぞれ、40分ぐらいやったか。同じ国籍を持つ無頼派どおし、少しでも一
緒にやるのかと思えばそれはなし。見たかったけど……、残念。両者はいろん
なものを楽器にしてしまうところや、肉声こそが根本の表現手段と思っている
ようなところは共通。とともに、その奥に子供のような天真爛漫さや、枠や常
識なんぼのもんじゃいという気持ちを持っていることも相似している。そして
、ひいてはブラジルの素敵の飄々とした表出にもそれらは繋がっていたはずだ

 新宿・ピットイン。それぞれファンを持つだろう3人のプレイヤーによるジ
ャズ・ロックのりのセッション。ONJQ(2004年2月6日、他)やエマージ
ェンシー!(2004年1月21日)などでいろいろと重なる機会の多い大友良英(
ギター)&芳垣安洋(ドラム)の二人はビル・ラズウェル(ベース)と一緒に
ライヴをやったりレコーディングしたりしているが、そののりでラズウェルの
代わりにTOKIE が加わったという言い方も多少は可能なのかな? とうぜん、
初顔合わせとなるTOKIE の負担は大きいはずだが、そこは百戦錬磨の優しいお
じさんたちの気配りもあって、問題なく絡む。普段からメンバーでスタジオ・
セッションをやっているというロザリオス(2003年12月18日)での経験もそこ
には存分に活かされていたとも言えるかな。演奏はけっこう切れ目なく、丁々
発止のもと続けられるが、ほとんどリハはなされていないという。2セットで
3時間近くの演奏時間。アンコールでは、芳垣はドラムを叩きながら即興で歌
も披露。なかなかいい感じで、芸達者ぶりを再確認。
 渋谷・クラブクアトロ。メイン・アクトはルフィオ(東京で3公演。さすが
に、混んでいなかった)となる公演、最初に出てきたのはラスト・イアーズ・
ヒーローという5人組で絵に書いたような青春歌謡パンクを聞かせる。若そう
な連中でスケールが小さく、ちゃらいという印象も多分に与えるか。なんか、
外国人ながら、ノリが日本人的とも思う。客の反応もかなり良くない。続いて
、出てきたのはドント・ルック・ダウンという4人組。こっちは堂々、それな
りにまっとう。だが、パンク臭はあまりないオールド・ウェイヴ。ではあるけ
れど、広がりや技や激しさを随所に埋め、そこそこ見れる。と、この時点で飲
みの時間がせまっていたので退場。もう一つバンドが出てきたあと、米国イン
ディ・パンク界でのしているルフィオは登場したはずで、あんた何しにクアト
ロ行ってんの、という感じですが。彼らがやるときは、お客さんもがんがん騒
いだのかなあ。

安藤裕子

2004年11月12日
 渋谷・クラブクアトロ。すごい混みよう。酒買いに行けねえ。ゆらゆらした
佇まいに個性ありの、ポップ自作自演派。矢野顕子の影響かどうかは知らない
けど、歌における微妙な抑揚の付け方をぼくは少しトゥ・マッチと感じる人だ
が、ライヴだとCDよりは気にならず。その代わり声量不足は少し気になり、
もっと喉を鍛えてえとも思ったが、鍛えないからこその風情や味もあるかな…
…。だからこその、ポップ・ミュージックでもありますね。やっぱ、ひっかか
りのある曲を書くと思う。日曜に続いて、ベースはTOKIE 嬢。そのときとは音
楽性が180 度異なるものを飄々とこなす。ドラムはカーネション(2003年10月
3日) の人で、アレンジも担当しているキーボード奏者はぼくが大好きだった
元ディキシー・タンタスの山本隆二。昔、独学で一切を覚えたと言っていたよ
うな気がするけど、それすごいよなあ。
 よく出来ている。すげえ珠玉の音楽映画! 当人が亡くなる前からじっくり
と企画/準備されたレイ・チャールズの伝記映画なんだけど、これは力ありす
ぎの作品。彼の音楽的な凄さを、差別、オンナ、クスリ、音楽業界のもろもろ
、などをからめて、本当にきっちりと明晰に描く。2時間半を少し超える映画
だが、まったく飽きさせず、見通させる。3度ほど出てくる、盲目と繋がる幼
少体験のメタファーに水を用いる所はぼくには臭すぎるが、他は本当に感心す
るばかり。とくに、山ほど出てくる音楽パフォーマンスのシーンは凄すぎ。レ
イ役のジェイミー・フォクスもそっくり。本当に手間をかけて撮りあげたんだ
ろうなあ。それ、あらゆる映画の音楽再現シーンのなかでも一番と言えるもの
じゃないか。

 アメリカでは大ヒットしているそうで、日本では予定を繰り上げ、来年早々
からの公開。監督は『愛と青春の旅立ち』他いんろなメジャー作品を取り、チ
ャック・ベリーのドキュメント『ヘイル・ヘイル・ロックンロール』なども撮
っているテイラー・ハックフォード。彼、本当にチャールズのことが好きで、
最大級の理解とともにこれを作り上げたんだろうな。ユニヴァーサル映画、も
うメジャー作の底力をイヤになるぐらい思い知らされた。東銀座・UIP試写
室。

 『レイ』を見て、素敵な音楽(それは、いろんな襞を持つものなのダ)を享
受できる幸せもなぜか実感。で、かなり満たされた気持ちで、その後メトロ日
比谷線とJR京葉線を乗り継ぎ千葉県舞浜市に。30分も掛からずに着いてしま
って、ちと拍子抜け。けっして遠くはない。快速だと舞浜の次が幕張、幕張メ
ッセでやるコンサートはいつも車で行っていたが、電車で行くのもアリかもし
れぬと思う。目指すはイクスピアリというショッピング/シネコン・モール内
にある、この11月初旬に開いたばかりのクラブイクスピアリ。店に入る前にち
とモールを探索、よく判らん。ただ、ディズニーランド関連客も吸収し、平日
ながらそこそこ人はいるナと思う。

 モールの最上階の一番奥にクラブはあるのだが、足を踏み入れ、少しびっく
り。まず、受け付けスペースが無駄と思うしかないぐらいに広い。で、中もな
かなかに広い。ブルーノート東京よりは狭いけど、かつてのお台場・TLGよ
りずっと広い。一切柱のない長方形型のハコで、短い辺に股がる感じでステ
ージはありどこからでも見やすそうで、天井も高い。予約の入り具合で置き方
を変えるのだろうが、相当に余裕のあるテーブル/椅子配置。

 で、そこで、ジャズ・コルネット奏者の土濃塚隆一郎。ワン・ホーンによる
自己バンドを率いての、実にまっとうなパフォーマンス。セカンドは一部キー
ボードや電気ベースも用いるが、そうしてもジャズから逸脱するものでないの
は褒めていいものだと思う。今後も、まっとうな歌心あるジャズをやるんだと
いう気概と20代らしさをうまく重ねていってほしいな。タイトなビートの曲に
なるとドラマーがとっても嬉しそうに叩くのが可笑しかった。

 それなりに食事をサーヴ。ただ、ファースト・セットとセカンド・セットの
間で、お食事はラスト・オーダーですと言うのはいかがなものか。演奏が終わ
って和んでいると、早々に退出を求められる。が、それは帰りの電車をミスし
ないことにも繋がるので、良しとしましょう。『レイ』を見ての高揚もあった
のか、シラーズ種のワインを2本空けちゃう。12月中旬過ぎには、R&B大御
所デニス・ラ・サールがここに出る。年末進行の一番忙しい時期、見たいけど
どうなるかなあ。
 ノルウェーのリアル・ジャズ・トリオ、前回見たのが2003年11月17日だか
ら、ちょうど1年ぶりに彼らを見ることになるのだな。
 
 今回は広尾・ノルウェー王国大使館。ベースのみアンプを通し、アルトとド
ラムはノーPAにて。ぼくは普通のオフィス・ビルの会議室ですべて生音でや
ったマサダの公演(1999年9月23日)をふと思い出すとともに、大昔のジャズ
・クラブはどういうPAのもと実演はなされていたのかとふと思いを巡らした
りも。ほんと、どーだったんだろ? 前回の実演を見て、ぼくは『ゴールデン
・サークル』期(つまり、リズム・せクションは北欧の人達ですね)のオーネ
ット・コールマン表現を思い浮かべたりしたが、今回はほとんどそういう印象
は得ず。こういう条件のなかだし、純ジャズ・ファンじゃない人もいるという
ことで、比較的おとなし目な曲を短めにやったというところはあったろうから。

 なんにせよ、ぼくは彼らのことが好きだ。
 渋谷・Oイースト。フェス関連では良く日本に来ているが、単独公演は3年
強ぶりとなるそう。ぼくは2000年1月25日いらいとなるのかな。というわけで
、久しぶりにじっくり見たが、やっぱり良いな。絶妙の回路、コンビネーショ
ンあり。で、観客の反応も熱烈。本編は1時間ぐらい。でも、そのあとのアン
コールはまずGの弾き語りで5曲くらい。そして、またリズム隊が加わった。
そうかあ、カジュアルなストリート感覚とヒップホップ感覚とブルージィ感覚
の個性的かつ見事な合体表現を飄々と提出したあのセルフ・タイトルの大傑作
アルバムをリリースして10年が経ったんだな……感無量。でも、いまだGは魅
力的だった。             
 スクリーモという呼称で語られる、今様激情ラウド系カナダ5人組。巧みな
強弱の付け方や視野の広さを持つ方向にある人達で、そんなにそっち方面に入
れ込んでいないぼくにもひっかかりのあるかも、なんて思いながら原宿・アス
トロホール。ここのビールは300 円。でかいカップでダブル売りとかしてくれ
るといいんだが。混んでて、買いに行きづらいのが常だから。

 ヴォーカル、ギター2、ベース、ドラムという布陣。面白いのは肉声担当者
は絶叫(と盛り上げ役)専門で、ちゃんとした歌はギタリストが歌うこと。で
、きっちりとかみ合った生のパスフォーマンスに接すると、レコード以上にい
ろんな襞を持っているバンドという感じも。ジェシー・ハリス(2002年12月21
日)のようなおとなしい好青年の顔をしたドラマーもなんかいい感じで好感度
アップ。延々と続くツアーの最中らしいが、フレッシュに楽しそうにやってい
て、忙しいぃ〜とちと暗くなっているぼくもやんわり和む。

 45分間見て、ROVO(2000年7月29日、2000年9月14日、2001年2月3日
、2004年5月28日、6月2日、6月3日、他)がやっている渋谷・アックスに
。アストロとアックス、車だと(拾いやすいんだな、またこれが)5分で移動
できるのでありがたい。入ったときがまだ2曲目だったようでなにより。キー
ボードの二分の一担当者の中西宏司が脱退で、7人でやるのはこの晩が最後な
のだという。多少、そういう感慨のもと演奏は進められたのか。今後はとりあ
えず6人編成でやっていくようだが、電気ヴァイオリンとキーボードは音色が
重なりろすいので、メロディ楽器音を整理し直すのは新たなステップに繋がる
と思う。

 へえっと新鮮だったのは、ときにマイルス・デイヴィスの電気表現的なもの
を感じた瞬間があったこと。まあ、彼らのインスピレーションの一つにあるも
のでもあるだろうが、過去はあまりそれを感じたことなかったんだが。そうい
えば、勝井祐二(2002年9月7日、2003年3月6日、2004年1月16日、2004年
5月31日、他)のヴァイオンリがアイリッシュ・フィドルを、益子樹(2003年
1月19日)のキーボードがフェラ・クティのオルガンを想起させる断片も。と
もあれ、大人の豊かで冒険心に富んだ感性や力量で、今の若造どもをも納得さ
せるテンションやひっかかりを持つインストゥメンタル表現を作り上げるとい
うその行き方はますます説得力を持ちえているのと思う。

ジョス・ストーン

2004年11月20日
 黒人主体のバンド(女性コーラス二人付き)を率いてのショーケース・ライ
ヴ。ホーンがいないので、ちと間が抜けて聞こえるときも。破格に声量はないが
、R&Bに対する愛はそれなりにあふれる。あと、ときにレゲエ風味があるの
は英国的とも思わされたかな。ま、多少ぼくは距離を置いておきます、という
気持ちは変わらず。少なくてもはっきり言えるのは、彼女の肌が黒かったら絶
対にデビューできなかったであろうこと。でも、彼女は世に出るチャンスをき
っちり得たのだから、この際、若いこと、白人であることを武器にのしあがっ
てほしいと思う。40分ぐらいのパフォーマンス。渋谷・クラブクアトロ。
 ブラジルのモダン派と組んでのライチャス・ベイブ発新作『ソルト』(小山
田圭吾との新曲やマシュー・ハーバートのリミックス曲をプラスした日本盤が
来年2月下旬に出る)のリリースを挟んでの来日。今回も前回と同様に、ドラ
ムレスの編成にて。ただし、今回はサイド・ギター奏者もおらず、新作に入っ
ていたお馴染みメルヴィン・ギブス(ベース、ラップトップ)、そして変な音
をちろちろと出すマイカ・ゴウ(キーボード、サックス)の二人がバッキング
する。

 カシンらブラジル精鋭陣とするりと重なった傑作『ソルト』は基本的に上乗
せ音はやんわり生音だが、リズム音はプログラム音が基調。今回はその『ソル
ト』からの曲を主にやったし、そういう意味ではドラムレスは理に叶っている
のだが、やっぱり音色的な部分でちょっとなあ、ドラム奏者なりパーカッショ
ン奏者を連れてきてくれよおという部分は大いにあったな。でも、結構、生理
的にイっている部分がすうっと解き放たれてはいて、ここのところの過去2回
の公演(1999年12月9日、2002年9月9日)よりはいい感想を持った。なお、
ギター奏者のヴァーノン・リード(2000年8月13日)を呼んでいた新作でアー
トはあまりギターを弾いていなかったのだが(別にそれでもいいっかなという
仕上がりではあったが)、プレイヤーの人数上さすが音数が少ないためか、生
ではギターを結構弾いていたなあ。ワンパターンではあるが、やっぱりドキド
キさせるものありますね。

 代官山・ユニット。会場はモエ&シャンドンがタイアップでついていて、入
口で500 円で売るバッジとミニ・ボトルを交換してくれる。こりゃ、嬉しい。
ただし、2本目以降は、現金1500円也になる。

 そして、オースリアのウィーンの音響系アクト二組が出る公演をやっている
渋谷・クラブクアトロに。すでに、3人組のラディアンは終わっていて、クリ
スチャン・フェネスのほうを見る。身体の大きそうな人。ラップトップ・コン
ピューターを用い、ときにエレクトリック・ギターも弾く。呼応しあう響き。
途中から映し出されなくなったが、光度の高い映像が綺麗だった。

百々徹

2004年11月22日
 NY在住のジャズ・ピアニスト。30才ちょいである自分をきっちりと投影す
るオリジナル曲演奏に冴えを見せる、実にまっとうなピアノ弾き。この日初め
てやるそうなリズム・セクション(安力川大樹と吉岡大輔)もちゃんと合わせ
ていて、それにも感心。まさしく俊英という言い方がぴったりの、勧めるに足
る人でした。MCは端正ながらもどこかとぼけていて味あり。それは、彼の人
間としての魅力を伝えてくれるものだった。南青山・ボディ&ソウル。


上原ひろみ

2004年11月25日
 人気がお茶の間に入り込んでいる、ボストン在住のピアニスト。若い白人男
性の電気ベースとドラマーを従えてのもの。実はぼくは依怙地なところがあっ
て、基本的にジャズをやるならアコースティック・ベースを使わなければダメ
と感じている。そんな意味では、電気ベーシストを使っている彼女はジャズ失
格なのだが、実演を見てなるほどナと感じるところも。だって彼女、ジャズで
培った技量を用いつつも、明らかにジャズから離れようとしている。全てオリ
ジナル曲を演奏したようだが、自分のメロディ流儀に則り思うまま指を鍵盤に
はわせ、そこから自分なりの風景が出せればOKという感じのパフォーマンス
だったもの。曲によっては、キーボード(ノード・リード)で単音ソロを無邪
気に取ったりもする。それはある意味、インタープレイを擁する(楽曲はどれ
も10分ぐらいの長さ)私のポップスという感じ。もともとはTV番組で紹介さ
れたことが広い支持者獲得に繋がったようだが、そうした音楽性もまた非ジャ
ズのリスナー獲得に繋がっているのではないか。ただし、彼女はそんなに尖っ
たポップ・ミュージックには親しんでいないようで、そのはみ出し方は決して
コンテンポラリーとは言いかねるが。と言いつつ、ちゃんとお転婆な自分を主
張しているところは見ていて感情移入を誘うところがある。渋谷・Oイースト
。全椅子席。椅子が出ていると非常に狭く感じる会場なんだな。

 今日から加湿器を使う。
 アモン・コンタクト名義でも活動する、ジャズ好きでもある27才LAヒップ
ホップ系DJのカルロス・ニーニョがディレクションする実演プロジェクトが
その小型版とはいえ、東京で見れるとは。オールナイト・イヴェントの一出演
者として、深夜1時に彼らは登場した。男女のシンガー、トロンボーン、ピア
ノ、縦ベース、パーカッション、それに盛り上げ役のニーニョという布陣。で
、十分な編成ではないながら、男性ヴォーカルはアルバム以上にディープだし
、適切な技量を持った奏者が程よくかみ合った演奏はましさく往年のスピリチ
ャアル・ジャズを下敷きにする美味しいパフォーマンスだったと思う。なんか
、生のほうがもっと線が太く、生命感があるような感じもしたし。トロンボー
ン奏者はそのアルバム『ピース・ウィズ・エヴリー・ステップ』にも参加して
いた、デトロイトのトライヴ・レーベルの設立者の一人でもあるフィル・ラネ
リン。彼が最近ヒップホップ系レーベルからリリースした新録作『インスレー
ション』は実は大傑作ジャズ・アルバムだが、ほんといい感じで音を出してい
た(歌も披露した)。1時間ちょいの実演だったが、いいもの聞かせてもらっ
たなあという感慨が終演後ありあり。渋谷・JZブラット。ものすごーく混雑
。いろんな意味で、東急ホテル・グループの最高カテゴリーにあるホテルの一
施設とは思えませ〜ん。

小沼ようすけ

2004年11月30日
 中村とうようさん制作の『海上の道/ウィリー・ナガサキ』にも参加してい
た若手ギタリストの公演、渋谷・デュオ。夏にNY録音のトリオ作品を出して
、これがかなり清新なジャズ・アルバムになっていて驚かされたが、日本人ト
リオ編成でのこの実演はそのアルバムのノリを引き継ぐものとなるのかな。い
っさいピックを使用せず、いろいろに指を使いながらセミアコを弾く。ピック
を使わなくなったのはここのところなのだそうだが、こだわりですね。昔のブ
ルーズ・マンやジャズ・マンを彷彿とさせるそれはアトラクティヴ。かといっ
て、やはり古臭いジャズ・ギターにならないわけで(なれない部門もあるだろ
うけど。あと実演だとよりロックっぽくなると感じた)、それは<いい伝統は
できるだけ知りたい、それを消化したうえで自分を出したい>という、正しい
気持ちの表出として受け取れる。この日のバックはリトル・クリーチャーズの
鈴木正人(名前は出していないが、2003年12月4日のコンボ・ピアノと、2004
年7月6日のUAも彼が弾いていたはず)と大槻英宣(ドラム)。これ、彼も
参加していたジャズ・オルガン奏者の金子雄太のグループ、旧アクアピットの
流れを組むものなんだとか。