キャラクターに富む英国、巧みのリード奏者(2000年5月30日、2001年3月12日、2003年10月31日、2004年9月26日、2012年12月17日)の公演は、前々作をフォロウする昨年公演(ちょい“怪”な行き方ながら、ぼくは大推奨)と一転して、とても聞き手に両手を広げた2012年新作『House of Legends』(Destin-E)を基に置くもの。ジャマイカン/カリビアン圏が生んだ財産を愛でる同作にはエディ“タンタン”ソーントン(2005年7月29日、2013年10月18日)やリコ・ロドリゲス(2010年3月24日)らもゲストで入っていた。丸の内・コットンクラブ、セカンド・ショウ。

 スティール・パン、ギター2、エレクトリック・スタンダップ・ベース、ドラムというバンドとともにパインはパフォーマンス。うちキャメロン・ピエール(ギター)、ヴィダル・モンゴメリー(ベース)、ロバート・フォージョー(ドラム)は前回公演も同行している。赤い帽子やジャケットをまとう立派な体躯を持つスティール・パン奏者は2つパンを並べて演奏。

 乱暴に言ってしまえば、汎カリブな音楽性のもと、ソプラノ・サックスをおおらかに吹き倒す。バリトン・サックスからクラリネットまで様々なリード楽器を吹きこなすパインではあるが、そのなかでもテナー・サックスがメインの楽器であるとぼくは考えている。が、『House of Legends』ではソプラノ・サックス演奏に専念。うーぬ、個人的にソプラノの音色は好きじゃないんだが、軽やかなカリビアン調には軽いソプラノ・サックスの音色が似合うとパインは考えているのか。ま、じっさい楽しく、快楽性を抱えつつ、トロピカルななかにときどき冬の感覚を差し込んだような演奏は無理なく楽しめた。なるほど、コレはUKジャマイカンの出し物とも、無理なく思わせられたか。マーリーの「リデンプション・ソング」も延々とソロでインサート。例によって、客扱いも手慣れていて、客も笑顔。最後は、総立ち。約100分のショウ。

<今日の、不毛>
 ソプラノ・サックスとともに、2、3曲で、彼はアカイのウィンド・シンセサイザー(平たく言えば、サックスのシンセ)のEWIも吹く。もう、ぼくはEWIの音が大嫌い。あんなに不毛な楽器も珍しい、と思えるほどに。もう、サックス奏者の個性を徹底的に削ぎ、まぬけな音をピーヒャラ出させる、イラっとせずにはいられない穀潰しの楽器……。故マイケル・ブレッカー(2000年3月2日、2004年2月13日)も一部使っていたが、彼の演奏も駄目。もっと、軽い方の奏者だと、もう世も末という感じ。アカイという会社はサンプラーではポピュラー音楽界に多大な貢献をしているが、ことEWIに限っては、音楽を破壊している企業と言いたくなる。パインはMCでアカイからもらったとか言っていたが、只でもらったんだから申し訳ないのでEWIを少し使いますという人もいなくはないはずで……アカイのバカ。とはいえ、パインのEWI演奏はコドモというかかなり極端な使い方をしていて、奇麗キレイな音は出さず爆音傾向で攻めていて、少しマルではあったのだが。