高津川という名前は認知していたものの、島根県を流れる川というのは、この2019年日本映画を見て初めて知った。へえ、益田市を流れ、同市にはANAが乗り入れる空港があるのか。ぼくが日本で唯一行ったことない山陰の、ある地区のことを、このご当地映画は教えてくれる。まあ、何年か前には、四国には行かずに死んじゃうと思うとぼくは言っていたのに行けたので、そのうち赴く機会もあるような気もするが。原作・脚本も手がける1962年生まれ監督の錦織良成は、島根県出身とのこと。

 過疎、介護、伝統芸能の継承、自然への愛着、開発への危惧など、かなりな清流のような高津川流域にある廃校が決まった小学校区に住む人/出身者たちが抱えるもろもろを拾い上げる映画。現地に根ざす形而上を自負とともに丁寧に映像作品に昇華させた内容で、これがドキュメンタリーだったらなんぼか見るのが楽だと、ぼくには思えた。というのも、失礼な書き方になるが、すべからく優等生ちっくなストーリー仕立てで、ぼくは戸惑った。登場人物それぞれに問題や悩みも抱えるが、その描き方が予定調和と言うか、なんか綺麗ごとすぎる。汚れた(?)ぼくの感じ方においては。

 まあ地元の人々の協力率100パーセントという感じの仕上がり、それだと負の話は盛り込みにくいよなー。まあ、監督はそういう意思は端からなかったろうけど。もしぼくの子供がちらり映っていたとして、その映画が不謹慎な話をはらんでいたら子供にも見せられないし、そういう場合はぼくもなぜか真人間になり、おりゃあ地元さんざん巻き込んで何ふざけた映画つくってるんじゃいと憤りを覚えると思うもの。そんなこと考えたら、外野は無責任であることも自覚した。

 変な例え方をするなら、ロックやファンクや冒険ジャズを聞きに行ったら、ビリー・ヴォーンの楽団だったという感じ? いや、ケニー・Gでもいいけど。ビリー・ヴォーンやケニー・Gを評価する人がいていいのは当然。ただ、ぼくの好みとは離れるだけ。そういえば、音楽も現代的要素ゼロのぬるい、いや落ち着いた生音の音楽がつけられていて、それも監督の求めるところなのだろう。あと思ったのは、普段のぼくの生活が“お花畑”すぎるのかということだった。だからこそ、ぼくはハウリン・ウルフもキャプテン・ビーフハートも笑顔で聞ける。どこかに傷を抱えていたら、負の要素を抱えた、トゲのある音楽は心から楽しめないんじゃないか。

 地元愛のもと、生真面目にその流域の人々の実直な営みや気概を描こうとしているのはよく分かる。中国地方ではすでに公開されているようで、4月からこちらでも公開される。渋谷・ショーゲート試写室。

<今日の、昼下がり>
 本を上程した知人がお世話になった人をもてなす昼食会にお呼ばれし、銀座の個室だけの和食店でパクパク。昼間からワインも開栓で、お地蔵さま。そんな大げさなお礼をされるようなことはしてないんだけどなー。その後、伊東屋とか、夕方まで銀座をぶらぶら。天気もとてもよく、うれしい午後でした。で、帰りしなに、渋谷下車。

 六本木・ビルボードライブ東京で、すでに5枚のアルバムを出している1989年生まれの英国人シンガー・ソングライターのルーシー・ローズを見る。ショウの開始とともに、背景の幕が開けられ、夜景を背景にパフォーマンス。通常ライヴ中はカーテンが閉められるので、それは開放的な環境を求めたアーティスト側のリクエストだろう。

 ギター(エレククトリックとアコースティックの両方)やキーボードを弾きながら歌う当人にくわえ、ヴァイオリンとキーボードのアンドリュー・スチュアート-バトル 、ギターのジェイムズ・ディー(何気に効果音的な音を入れ、スライド・バーも用いる)、ベースのベンジャミン・ダニエル(フットレスを主に弾く)というドラムレスの編成でことにあたる。スチュアート-バトルとダニエルはコーラスを入れる場合もあった。3人とも彼女の2019年作『No Words Left』(Communion)に関与しており、雰囲気はやはりインティメイト。同作には弦奏者たちが入っていたものの、やはりドラムレスで録られていた。

 ボーイッシュな格好をしているローズは年齢よりも若く見える。基本、ちょい暗めというか物憂げ、冷めたとも形容できる曲調を淡々と歌うが、一度声を張り上げた際はけっこう声が出ていた。ある種の美意識を持つ漂うフォーキー表現の数々。ちゃんと歌詞をチェックしていないが、ときに耳に入ってくる言葉尻は風情があった。あと、誠実に音楽と向き合っているというのを、さらりと出す人ですね。

 その後は、南青山・ブルーノート東京でニューオーリンズの現代R&Bバンドであるタング&ザ・バンガスを見る。スタジオ作2枚(最新作の『グリーン・バルーン』はメジャーのヴァーヴ発)と、最低でもライヴ・アルバムを3作リリース。シンガーのタンクがノラ・ジョーンズ(2002年5月30日、2002年9月14日、2007年3月21日、2010年1月20日、2012年11月8日)と絡んでいることが関係しているのかどうかは知らないが、会場はフル・ハウス。もう、のっけから反応が熱い。

 アーティスト写真は4人で写っているが、7人にてパフォーマンス。歌のタリオナ “タンク” ボール、ドラムのジョシュア・ジョンソン、キーボードのノーマン・スペンス、アルト・サックスとフルートのアルバート・アレンバック、ギターのダニエル・アベル、ベースのジョナサン・ジョンソン、バックグラウンド・ヴォーカルのティア・ヘンダーソンがステージに立つ。生理的に、その佇まいはカラフル。2曲めと3曲めには日本人とおぼしき女性トランペッターも入り、ソロ・パートを与えられていた。

 楽しい。曲はけっこう切れ目なく続けられる。タンクはアルバムで聞けるように、アニメ声というか、けっこう癖のある可愛らしい声で歌う。それ、R&B向きの声質ではないと思うが、しっかりと差別化が計れますね。けっこうロックぽかったりラップをかますところもあるなど音楽性はいろんな要素が入っており、ビートにニューオーリンズぽいところはないが、これは今のガンボ・ミュージックだと思わすところがあり。もうすぐ、マルディグラ・シーズン。ああ、ニューオーリンズに行きてえ気分も煽られた。締めは、ニルヴァーナのロック・スタンダード「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」。ファレル・ウィリアムズ(2006年4月2日)が送り出し、オル・ダラの息子(2001年8月1日)であるナス(2004年8月8日)と結婚したこともあったケリス(2000年7月29日)がフジ・ロック出演時に高らかにカヴァーした様をふと思い出す。

▶過去の、ノラ・ジョーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-5.htm 5.30
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm 2.09
http://43142.diarynote.jp/200703241326090000/
http://43142.diarynote.jp/201001211346277187/
http://43142.diarynote.jp/201211151032395193/
▶︎過去の、ファレル・ウィリアムズ
https://43142.diarynote.jp/200604050124430000/
▶︎過去の、オル・ダラ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-8.htm
▶︎過去の、ナス
https://43142.diarynote.jp/200408082300500000/
▶︎過去の、ケリス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm

<今日の、うえん>
 来週予定されていたギタリストのチャーリー・ハンター(1999年6月22日、2002年1月24日、2006年4月17日、2009年1月16日、2015年2月18日)とシンガーのルーシー・ウッドワード(そして、ドラマーのダグラス・ベロート)の来日公演が中止になった。昨年出た2人のアルバムがよかっただけに、これは残念。久しぶりに取材することにもなっていたしなあ。聞けば、ハンターたちはその後に中国の北京や上海でも公演をする予定であったのだが、コロナ・ウィルスのため中国行きがキャンセル。連動して、日本公演もなしになってしまった。今、中国ツアーの前後に来日する海外ミュージシャンは少なくないわけで、今後ハンターさんたちのようなケースは出てきそうだ。
▶︎過去の、チャーリー・ハンター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livejune.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm
http://43142.diarynote.jp/200604181149370000/
http://43142.diarynote.jp/200901171017206901/
http://43142.diarynote.jp/201502230940316504/