赤レンガのモーション・ブルー・ヨコハマ(セカンド)。米国の女性R&
Bシンガー。ただ歌うだけの人だと思ったら、キーボードを弾きながらぐい
ぐいとバンドとコーラス二人を引っ張っていく。うわあ。思っていた以上に
自前度数が高く、自立していて、プログレッシヴな人という印象を得ました
。もちろん、才ある人ということも。アルバム収録曲の作曲クレジットを見
たことなかったけど、このパフォーマンスを見れば、自分の曲をやっている
ことが判る。ゴスペルや往年のサザン・ソウル風な要素を巧みに差し込んだ
曲もあり。けっこう難しい曲をやるが(1度や2度聞いただけでは覚えられ
ない感じ)、それは目標を高く持ち、才気あればこそ。歌自体に関しては、
声は出ているもののそれほど個性的とは思わないが、これだけ統括的な行き
方をできる人、本当に素晴らしいとぼくは思った。もう少し、バンドが良か
ったなら……。また、来たら見たい。               
 UAの公演は昔に一度見たことがある。デビューしてそんなにたっていない
ころ、場所は渋谷のオンエア・ウェストだったっけ。この日は、クラシック用
会場の錦糸町・墨田トリフォニーホール。本人もここでできたのを喜んでたみ
たいね。

 解放感のあるステージ上にメンバーたちとともにあっさりと出てきて、アカ
ペラから始まりすうっと伴奏陣が音を入れる。ギター、キーボード/バスクラ
、リード、トランペット、生ベース、ドラムスという布陣。三管楽器が付くの
が肝か。ジャズ的な流動性/発展性、各種エスノ音楽応用の脱西欧規格ノリを
介したサウンドのもと、声をそれに対峙させるというよりは巧みに踊らせる。
いろんな歌い方、声を聞かせたりも。歌唱じたいはとっても上手い人とは思わ
ないが、様々な面白い音楽語彙や担い手を引きつけ、自分が核になって統合さ
せちゃう。それはOK、すごいとぼくは思う。

 それにしてもサックスをいろいろと吹き分ける菊地成孔はやっぱり素晴らし
い吹き手。なんか、サウンドに広がる感じや風穴をいろいろと開けていた。そ
のバンド音は塊感があまりなく、とりとめなく拡散していく感じがあったが、
それは意図的なものなのか。それとも、会場の音響特性も影響しているのか。
なんにせよ、アコースティック・ベースはもう少しいい音で鳴らしてほしかっ
た。

 いろいろと“目”と“臍”のあるパフォーマンス。前半はAJICO(2001
年3月19日)曲を含む過去作からのピックアップ曲をやり、後半は新作『SU
N』からの曲をやる。多少の落差はあるが、この編成ヴァージョンのものにな
ってい、違和感はほぼない。しかし、やっぱり新作の曲は難しいというか、と
りとめもない曲調ね。パっと聞いただけじゃ、覚えられない。彼女は胸を張っ
て、思うまま闊歩しようとしているナと改めて思った。しかし、MCをしない
のは本当にいいなあ。

 錦糸町に来る前に、渋谷の東芝エンターテイメント試写室で、ヴィム・ヴェ
ンダーズの『ソウル・オブ・マン』を見る。昨年、米国のお上が“イアー・オ
ブ・ザ・ブルース”と決めたことで、マーティン・スコッセッシが号令かけて
、いろんな監督に撮らせたなかの一本。おれ、スコセッシもヴェンダースもと
もに思い入れのない人なんで、別になんの期待もしなかったけど、これはなか
なかでした。相当に、良かったな。詳しくは書かないが(雑誌用に原稿を書か
なければならないのだが、気分だけを煽るような感じで、ちゃんとデーターを
紹介しない配付資料にはムカっ)、映像の作り手として胸を張ったブルーズに
対する思い入れのまっとうな発露がそこにはあった。とくに偉い、と思わせら
れたのは、単音垂れ流しギター・ソロのためのブルーズ・フォーマットではな
く、ちゃんと情感としてのブルーズに着目していたこと。それから、この映画
の柱に据えられたブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムズ
、J.B.ルノアーという三故人のカヴァーをやるロック有名人(ジョンスペ、ベ
ック、ルー・リード他。他に、カサンドラ・ウィルソン等も)たちの演奏の聞
き応えのあること。情感としてのブルーズ・バンドを組みたくなった。ああ。

                   
 プライヴェイト・ミュージック/RCAからデビューした、日本人の血を引
く新進の米国人女性シンガー・ソングライター。この前にリリースされたスタ
ー満載のトゥーツ&ザ・メイタルズの『トゥルー・ラヴ』にもなぜかフィーチ
ャーされていた人でもある。

 小一時間のコンヴェンション・ライヴ。渋谷・デュオ。良く見えなかったん
だけど、なるほどまっとうなパフォーマー。ちゃんとした曲をちゃんと披露で
きる人。声もドスが効いているというか、存在感のある枯れ声を持つ。興味深
いのは、ピアノ(本人)、ヴァイオリン、チェロ、ギター、ドラムという編成
。で、ヴァイオリンとチェロの存在がよく効いていて、静謐に曲趣を盛り上げ
、へえと思わせられた。見識あり。ただ、最後の曲の弦音はプリセット音で、
もしかすると他の曲も?と思わせるものがあり、その幕切れは非常にシラけさ
せるものではあったな。
 
 マイクの前に立ち手ぶらで歌った曲もあるが(ギターを手にした曲も1曲)
、それだと中庸度が物凄くアップ。絶対に、ピアノを弾きながら歌うべき人で
すね。写真と比べると、ルックスは良くない。二の腕太い。ファッションのセ
ンスも??? でも、いいタレント。見てくれやイメージに頼らないポップ・
パフォーマーがいてもいいじゃん、なんてこともしっかり思いました。                   
7月14日(水)
ブルース・エクスプロージョン

 バンド名の冒頭に付けられていたジョン・スペンサーが取れて、ただのブル
ース・エクスプロージョンになるのだとか。でも、今回のより三者が緊密に関
与しあっているぞというパフォーマンスに触れるとそれも納得ですね。

 ぼくにとっては重要バンドの一つだが、この<ライヴ三昧>を書くようにな
ってから彼らをちゃんと見るのは、今回がたぶん初めてとなるのか。へーえ(
自分でもとっても意外)。新作プロモ来日に合わせてのひょっこりライヴで、
場所は原宿・アストロホール。当然、すぐに売り切れとかで相当混み合うこと
を覚悟していったら、過剰にはチケットを売らなかったようで意外に隙間があ
り、ニッコリ聞ける。ビンボー臭いっていうのとも違うんだが、彼らは狭い閉
塞した場というか、緊密な距離関係を持てる場というのがやっぱりハマるな。
もともと広い会場でも、ステージ上ですごい近寄ってパフォームする連中でも
あるし。

 『ダメイジ』という9月に出る新作は多様に迫る、かなりの傑作。同作を聞
いて思ったのは、向こう見ずな感じに一部いい意味での成熟が重なり、ひいて
はそれが堂々〜本道感を導き、曲によってはジミ・ヘンドリックス・エクスペ
リエンスやストーンズ、T・レックスとかのちゃんとエッジの効いた現代版だ
ァといった感想を持たせるに至っていること。チンピラはどんどん豊かに、逞
しくなっている。それと、ブルーズと硬派ソウルのエッセンスをきっちりと引
き継ごうとする意思も、より出るようになったんじゃないか。


7月15日(木)
ジョイス

 ボディの中が空洞になったモダンな感じのギター(すまん、説明でけん)を
爪弾きながら、悠々、凛と風情で、清々しくパフォーマンスを進めていく。キ
ーボードレスのバンド(ベースはアップライト中心)も秀逸。それが適切なこ
ともあって、エレクトリックな音などは採用していないのに、彼女の表現が非
常にコンテンポラリーなものに聞こえるのにはかなり感心。クラリネット/ア
ルト、フルート/アルト/縦笛の二人の管楽器奏者は流麗に絡み、それはショ
ーロを思い出させる。ちゃんと今を泳いでいながら、一方では伝統との繋がり
も感じさせる……素敵だなあ。
 
 途中で、「二人の若いシンガーを紹介します。偶然、私の娘です」とMC。
彼女の来日公演はいつもそれなりの大御所や才人を伴ってのものなのだが、今
回は娘であるクララ・モレーノとアナ・マルティンスが同行。まず、マルティ
ンスが出てきて2、3曲をお母さんたちと一緒にやって、そこにモレーノが加
わり1曲やったあとに(3人が和気あいあいと歌う風情はマル)、ジョイスと
マルティンスが下がり、モレーノのパフォーマンス。両腕に刺青をしている彼
女は、テルミンみたいな音を出す手をかざして音を変えるシンセ関連機器を扱
いつつクールに歌う。まあ、ジョイスから見れば二人ともマンガみたいなもの
だが、接してイヤになるものではない。しかし、二人の娘は外見が似ていない
。情報にうといのだが、こりゃ父親が違うのだナと判断しましたが。

 そして、またジョイス単独のパフォーマンスに戻る。先に紹介したMCは日
本語によるもの。実は、日本語を勉強しているとかで、MCの多くを彼女は日
本語でやった。去年の来日時にインタヴューしたときはそんな素振りを見せな
かったから、それはこの1年以内のことなのだろうか。
 
 かなり楽しめ、かなり満ち足りた気持ちになれたショウ。南青山・ブルーノ
ート東京、セカンド。ここ10年、彼女は毎年初夏にブルーノートにやってきて
いるが、それも大いに納得でした(実はこのブラジルの名シンガー・ソングラ
イターを見るのは、本当に久しぶり。日程が会わなくて、取材をした去年も見
れなかったし……)。

ケヴィン・リトル

2004年7月16日
 米国アトンティックと契約したことで、カリブ海にある非常に小さな国、セ
ントヴィンセントから世界に飛び出したシンガー。その音楽性はかなりラガに
寄っているが、本人はレゲエ・シンガーと呼ばれるのをいやがり、ソカ(ソウ
ル・カリプソ)のシンガーだと自認しているのだという。

 サウンド担当者とDJ(ヒップホップ表記なら、DJとMC)、そして数人
の女性ダンサーを従えてのもの。明快さが人気を得た要因か。客側が歌う曲も
あった。やっぱ、ソカ調の曲のほうがいい感じに聞こえるかな。伸びやかな歌
声は意外にもサウンドに埋もれがち、だがそれはPAの責任でもあるか。次の
約束ありで、最後まで見れませんでしたが。渋谷・デュオ・ミュージック・エ
クスチェンジ。かなり混んでて、会場気温が高かったア。
7月20日(火)
矢野顕子

 アンソニー・ジャクソンとクリフ・アーモンドという米国人リズム・セクシ
ョンを率いてのもの。MCによれば、この顔ぶれでやるようになって9年目に
なるという。南青山・ブルーノート東京、セカンド。

 彼女のパフォーマンスに接するのは10年以上ぶり。で、久しぶりに触れ、そ
の歌い方やピアノとの相乗のあり方など、最初のころと変わりないじゃんと思
う。ようは、彼女たる個性はすでにデビュー時には見事なぐらい完成されてい
たのだなと痛感。やっぱ、天賦の才を持っていたのだと思う。ぼくが血気盛ん
な洋楽少年だったころ、気になっていた本当に数少ない日本人アーティスト。
で、ぼくが大好きな彼女のアルバムはやっぱり1枚目の『ジャパニーズ・ガー
ル』。その鮮やかさ、天真爛漫さは残念ながら今はない。だが、腕のたつリズ
ムを介して、成熟した私なりの歌の紐解き方を求めているのは間違いではない
と思う。


7月22日(木)
J+B

 乗せてくよん、という話があり、急遽ヨコハマ行き。そのため、横においや
ったあることが後に大きな負担になるとはそのときは思いもよらなかった。な
んて、思わせぶりなこと、書いたりして。暑さのせいです。新しいBMWのミ
ニ・クーパーに同乗。旧ミニと比べると、普通の常用車。比較的安いし、マニ
ュアル・シフト好きのぼくとしては、考慮に値するクルマだが。赤レンガのモ
ーション・ブルー・ヨコハマ。セカンド。海風は気持ち良かった。海辺はいい
なあ。

 この晩は、マティーニ(注文するたびに、ドライなのねときっちり念を押す
)をぐびぐび。見てたら、ギターの絡み方などから、デレク&ザ・ドミノズの
ことを思い出す。その、もう少しファンキーでメロウでもある、インスト表現
。あとで、ちょっとその感想を伝えたら、ギタリスト陣はそれを意識している
ところありそう。キーボードの森俊之がメンバーに入って5人組になっていた
。               
7月25日(月)
BLUSE & JAZZ EXPLOSION in Hibiya

 高円寺にある次郎吉の開店30周年を祝うイヴェント。山下洋輔や近藤等則か
ら金子マリまで、縁のある人達が本当にいろいろ出演(ディジュリデゥを吹く
店主も)。まあ、それだけ歴史と内実を持っているということなんだろうな。

 会場となった日比谷野外音楽堂は満員。この日のと同じイヴェンターが毎年
5月に組んでいる「ジャパン・ブルーズ・カーニヴァル」(2000年5月28日、
2003年5月25日)より入りがいい。わ。へえ。ただ、内容のほうは全面的には
ニッコリできず。ミュージャンの組み合わせ、楽曲/音楽傾向選択など、?印
を感じたりも。出演者たち、とくに楽屋が一番めでたく、楽しいというイヴェ
ントですね、これ。途中まで見て、敬愛する大先輩の誕生会に駆けつける。お
めでとうございます。


7月27日(火)
コジカナツル。藤井郷子3+1

 まず、目黒のブルーズ・アレイ・ジャパンでコジカナツルという、アコース
ティックなジャズ・トリオを見る。ただ、通常のジャズで終わりたくないとい
う意識(それはベースの金澤英明が一番強いよう)や経験(ピアノの小島良喜
:2000年11月16日とドラムの鶴谷智生は普段ポップ・アーティストのバッキン
グもいろいろとこなしていて、それがプラスに働いているところもあるか)か
ら、妙な具体性や立ちを獲得しているところが彼らのポイントと言っていいか。

いい意味での、ちゃらさもある。ライヴの前に取材をしたら、変わらないでい
るジャズ観に対する反発のしぐあいがMMW(2004年1月24日他)のそれと重
なるのでほんの少し驚く。音楽性はあまり重なりませんが。

 ファースト・セットを見て、新宿ピットインに移動。着くとちょうど休憩中。

で、これが、あれれというぐらいの満員。藤井自身も「2年分のお客さんが来
ちゃってどうしよう」みたいなお茶目なMCをしていたが。NYの腕利きを迎
えたバンドの顔ぶれは2002年8月5日のときと同じ。こちらはつっぱった、あ
る意味理想主義を貫く(だからこそ、王道から離れる部分も多々出てくる)ジ
ャズ。やっぱり、創意ある本物がきっちりとミュージシャンシップを懸けたジ
ャズは凄いとも感じる。ずっと坊主頭で求道者的な面持ちもあった田村夏樹(
tp) の髪が伸びていて、とっつぁん坊主的風貌になっていた。


7月28日(水)
ザ・ダーティ・ダズン・ブラス・バンド。

 前回(2002年7月30日)のときも書いているが、やっぱ白人ギターは余分だ
よなあ。と思いつつ、やっぱダーティ・ダズンはダーティ・ダズンじゃあと思
ってしまうところもあるのだが。相変わらず、客席側は相当な盛り上がり具合
。アンコールで、スティーヴィ・ワンダーの「迷信」のヒップなカヴァーも。
それ、リード・ヴォールを気分出して取ったのはギター氏でした。南青山・ブ
ルーノート東京。セカンド。

             
 3日間券しか発売せず非難轟々(3日間券しか売り出さないのなら、2日ぶ
んの値段でそれを販売するのが、人の道だとは思うが。採算が合わないのなら
、そうも言ってはいられないが)、入りが悪いと伝えられていたが、けっこう
なもんじゃん。これ以上、混むとぼくはヤだな。

 初日、昼下がりグリーンにいたら、トンボが沢山飛んでいて和む。毎年そう
のかな? ぼく、例年あまり昼間のグリーンの出し物を見ないのでよく分から
ない。今年は、ラティーナ(5000字も書いてしまった)、ブルース&ソウル・
レコーズ、スイングジャーナルと、非ロック系の音楽雑誌に、それぞれの分野
の出演アーティストのことを中心に書くことになっている。その事実を見ても
、本当にそれだけ同フェスの出演者の幅が広がっているということなんだろー
な。

 それなりの日差しがあった(でも、晴天とはいえなかったよな)3日目の天
候がいいと皆さん仰っていたが、ぼくは曇天でたまーに細かい雨が散るときも
あった1日目が一番好み。砂埃が飛ばないのは本当に良い。フジ・ロックのそ
れ、相当酷いから。とにかく、直射日光がイヤ。汗かくし、体力は奪われるし
。ぼく、日光を浴びるんだったら、別の場所、シチュエーションで受けたい。
なんて、考えるのはワガママに年を取った証拠か。

 年々PA音も良くなるし、多くのアクトはそれぞれ、美味しく楽しめた。い
ろんな部分で、来て良かったあと思える。それから、フード・コート(オアシ
ス)のところにある、飛び入り的にアーティストが出る苗場食堂はなかなか。
日本人のファンク・バンドがとっても楽しかったりとか、さっと通りすぎ様に
触れるといいなってバンドが複数やっていたと思う。実は、ぼくの今年のベス
トはそこに出た、コロムビア出身者がアメリカで組んでいるバジェナード(ク
ンビア)5人組のヴェリー・ビー・ケアフル。いやあ、偶然そのパフォーマン
スに触れ浮かれた。オトは違うが、嬉しさは去年のエル・グラン・シエンシオ
なみ。彼らは場外のザ・パレス・オブ・ワンダーのテントにも出たようだが。
ちょっと別口といった感じでノンビリやっている感じもあるアバロン・フィー
ルドのステージも、サンパウロとか“選抜渋さ”(最終日、グリーン最後の“大
型渋さ”はすごい盛り上がり。昨年の見事な汚名返上?)とか出てたときは凄
い人だかり。本当に、いろんな選択肢があって、嬉しい。そして、今後も変な
人いっぱい出してほしい。