90年代と00年代の米国ロック界の重要バンドにいた二人、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(2008年2月9日、他)のラッパーであるザック・デ・ラ・ロッチャとザ・マーズ・ヴォルタ(2002年4月7日、2004年1月7日、2006年11月21日、2008年6月18日)にいたジョン・テオドアが組んだユニットがワン・デイ・アズ・ア・ライオン。初来日となる今回は、そこに変調叩き込み激ロック・バンドのザ・ロウカストのキーボード奏者のジョーイ・カラムを加えたトリオにてのもので、フジ・ロックの中日に出演して以降ずっと滞日、この日が東京お披露目なる。会場で会った知人が、(明日から始まる)サマーソニックにも出ちゃえばいいのにと言っていたが、確かにそれはそれで面白い。代官山・ユニット。

 なるほどの、バンド。一声を聞いただけで彼と判るデ・ラ・ロッチャの声には甘酸っぱさとともに発汗できるし、セオドアのタイトで立体的なドラミングもうれしい。ま、それは予想どおりのものだったんだが、カラムの鍵盤音には生で触れていささか驚く。素っ気なく書くと、キーボードでギターで出すようなリフを弾き倒すとなるのだが、その通常のキーボードの演奏から逸脱した聞き味はおおいに個性と妙味あり。それは、明らかにロック・ラップという行き方に視点あるひねりと個性を与えていたのはまちがいない。

 10曲ぐらいやって、半数は新曲。演奏時間は50分弱だったか。3人だけのパフォーマンスで曲趣はけっこう似ていたりもするので、フレッシュに彼らを楽しむのには適切な長さであったかも。

 そして、移動。新宿・ピットイン。先のライヴが早く終わったので、予想していた以上に一杯見れて笑顔。フリー・ジャズも知る、信念を持ち開かれている米日の女性ピアニスト二人が共演する出し物。ピットインのステージには互い違いでグランド・ピアノが置かれる(この前後には、ピアノのデュオによる公演がここで4日間企画されたよう)。昨年には共演作『Under the Water』を出していたりもする両者が知り合うきっかけになったのは、80年代後期の藤井(2010年6月7日、他)の留学期とか。同じ年代で同じような背丈のピアニストの公演があるからと、師事していたポール・ブレイ(1999年6月1日)に誘われてメルフォードの公演を藤井は見に行ったのだそう。

 実はメルフォードにはインタヴューもしたのだが、少女ぽさも確実に残す、とってもほんわかした感じを持つ人でへええ。なんか、新しいこと、興味深いことを、日々コドモのように追っている、という感じもあったかな。ピアノは小さい頃からやっていたものの大学は理系学部を出て、その後やっぱしピアノよねと、我が道を進んできている人物だ。ミレニアム前後はインドに1年近く住んだそうで、なんとなくヒッピー的な資質をもつところもあるかも(だが、アメリカ人的な傍若無人なノリは皆無)。日本にも何度か来ているが、音楽抜きで遊びでということもあったらしい。格好は、白と黒でまとめた“森ガール”調、と言えなくもない? ずっとNYに住んでいるのかと思ったら、04年以降はカリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとっており、同地在住とか。

 ほぼ即興で、ピアノという楽器を手段に、気持ちを交錯しあう。ときに、ガンガンガンと鍵盤を鳴らすときもあるが、概してはメロディアスでしなやかな丁々発止の連鎖と説明できるか。二人とも鍵盤を押えるだけでなく、上部から直接弦をいじって音を出す局面も。その際、どうしてこんな音が出るのと思わせときもあった。2部ではまずメルフォードがソロでパフォーマンス。とっても弾き口が細やかなであるのも、過剰なアヴァンギャルド臭から離れさせているのだナと、了解。そして、藤井が加わり、さらには田村夏樹(トランペット)と大熊ワタル(クラリネット、ベース・クラリネット)が加わる。シカラムータ(2001年3月24日)を率いる大熊の生の姿に触れるのは本当に久しぶり。飄々と、フリー流儀演奏を繰り出す。4人でやったうちの1曲は周期的に各奏者が順繰りでサインを送り、みんなでそれを実践するという趣向。指4本の場合は“肉声をみんなで出し合う”というもの、だった。