WOMEX07

2007年10月25日
 見たなか、印象に凝ったものをいくつかピックアップしておく。

 まず、シューン・クティ&エジプト80。その名前から察せられるように、
フェラ・クティの息子であり、フェミ・クティ(2000年5月3日、2003年7
月30日)の異母弟となる。一夫多妻制を貫いたフェラだけに子供は沢山いる
のだろうが、このシューンは父が用いていたバンド名であるエジプト80を引
き継ぐことを許された、免許皆伝者なのだそう(誰がそれを判断したのかは
知らないが、そういう触れ込み)。が、それは実際のバンド音を聞くと、そ
れもあってしかるべきと思わせられる。もう強く、粘って、切れがある。い
いサウンドを出していて、見たとたんびっき〜んと来ちゃう。父親のバンド
よりも立体的にも聞こえて、いい奏者たち(女性ダンサー&バッキング・シ
ンガーを含め、20人はいたかな)を揃えている。もう、完璧な音だとうなる
。場が温まって、シューンが登場するわけだが、丸めの健やかな顔した彼は
20代半ばだろうか。締まった立派な体躯で、白と黒のシャツとパンツで着飾
っていることもあり、見栄えがする。彼の担当は父親と同じくヴォーカルと
アルト・サックス(オルガンはひかない)。アルトはけっこう下手くそであ
りゃ。だが、歌は声が太く、歯切れも良く、父親のそれよりはるか上の聞き
味をしめす。それだけで、存在理由は十二分じゃあ、と感激できる。音楽性
は父親が提出したものと変わらない。だが、変わらなくてもいいものを、よ
り輝きながらシューンは出している! それが、ぼくの所感だ。3曲入りの
ライヴCDを配っていたが、フル・アルバムの録音はこれから。が、フェラの
マネイジメントをやっていたという英国人が彼について、外に出ることを今
いろいろと画策中。ちょっと会うことが出来たそのリチャードさんはフジ・
ロックにもアプローチしていると言っていた。どうなるか判らないが、来年
はシューン・クティ&エジプト80の名前が世界中を席巻するのではないだろ
うか。

 そして、アフリカ勢というと、コンゴのカサイ・オールスターズも多大な
印象を残した。コノノNo.1(2006 年8 月26、27日) を超える存在としてクラ
ムド・ディスクが送りだそうとしているキンシャサの大所帯グループだ。実
は昨年のWOMEXで大々的にお披露目されるはずがメンバーのヴィザの問
題でキャンセルとなり、改めて今年のWOMEXの場に立ったそうで、参加
者側の注目度も抜群。そんな彼らのパフォーマンスはけっこう練りこまれた
もので、びっくり。電気リケンベを用いてもいるが、シロフォンや各種打楽
器奏者もいるし、ギターもときにツイン・ギターだったりもし、本能一発の
ようなコノノNo.1と異なり、もっとヴァリエーション豊かな音を強弱を伴い
つつ出す。さらに、彼らは見せ方にもいろいろと留意していて、衣装には凝
っているし(1部の人は顔や身体に派手なペインティングも施す。それ、け
っこう時間がかかえりそう)、ダンス(印象度の高い女性ダンサー陣はみん
なぷっくりとお腹の出た人たち)や動きも歌詞の内容に則しているのだろう
寸劇的な要素もいろいろと含む。アレステッド・ディウェロップメント(20
00年4月27日、2000年8月5日、2001年2月3日、2002年4月17日)の
パパ・オジェのような、何もしない人もステージ横に鎮座。アレステッドは
よくアフリカのもろもろを研究していたのだのだナと思った。人の出入りの
激しいステージだが、登場する人の数は計15人ぐらいはいたかのな。ちゃん
と見せることに留意したショウを見せた彼らはちゃんと考えたライヴを行う
集団だった。リーダーのメソ・メソ(ヴォーカル、ギター、ダンス)は大学
出で、普段は図書館書士をしているのだとか。

 一方、非アフリカ勢で一番ガツンと来たというか興奮させられちゃったの
が、現在欧州ツアー中であるイスラエル・ルーツを持つ人たちで結成されて
いるバルカン・ビート・ボックス。NY在住組3人とイスラエル在住組3人
からなり、レコーディングやツアーのときだけ彼らは合流するするという。
実はその中心人物の一人であるアルト・サックス奏者のオリ・カプランはか
つてフリー・ジャズをやっていた人で、ぼくはその実演をザ・ニッティング
・ファクトリーで見たことがあった(2000年8月15日を、参照のこと。上部
の[HOME]から行けます)といったように、いろんな音楽経験を持つミュー
ジシャンたちがヒップホップの何かを介した俺たちのビート・ミュージック
をやろうとしているのが“3B”であるのだが、その生パフォーマンスはな
んか生生しく、接する者を高揚させる力を持つ。特に、モヒカン頭をしたヴ
ォーカル&打楽器担当のトマー・ユセフは途中から上半身裸になり、引き締
まった体躯を見せて動きまわる。おお、見せる力アリ。まさに、生きたグロ
ーバル・ビート・ポップを送りだしているゾ、と実感できる。イケてる同時
代ライヴ・ミュージックとして、コレはありと思わせられる。フィッシュボ
ーン(2006年4月8日)とかオゾマトリ(2006年10月8日、他)とかと、ど
こか並べたくなる連中だとも思った。

 それから、カポベルデ人両親を持ち、キューバ〜セネガルを経て、03年以
降パリに暮らすまだ22歳のシンガーのマリア・アンドラーデは可憐。バンド
を従え、ときにギターを持って歌ったりもする、伸びやかな歌声/佇まいは
相当に素敵だったな。さすがスペイン勢もいろいろ見たが、そんななか一番
印象に残ったのは、ラ・シカというスキンヘッドの若い女性。ちょいシアト
リカルな動きをしつつ、ニューウェイヴ・ポップ的な行き方に手拍子などフ
ラメンコ要素をまぶした事をやる。伝統とつながったやり方として、それは
アリだろう。で、返す刀で、日本の伝統音楽的要素を持つ聞きどころあるポ
ップ・ミュージックはありえるのかと自問。ないんじゃないかー、寂しいけ
ど。日本公演を別な公演に行って見れなかったテルマリーとか、見れてうれ
しかったのはいろいろ。