まず、南青山・ブルーノート東京でジョー・ロバーノ。ワン・ホーンによる
、カルテットでの出演。あちらでは相当な人気を持つ人だが、日本ではいま二
ぐらいの人気で、その落差はかなり大きい。セカンド・セット。

 声援が大きく、観客の反応がすごい。少し、驚く。アンコールはないが、た
っぷり1時間半を超えるパフォーマンス。いいテナー・サックス奏者であるの
は確認できた。だが、そのグループ/音楽性の方向性という部分においては、
ぼくの好みからするとちと刺激や意外性に欠けるなあという部分も。というか
、いまだぼくの頭のなかにはチャールス・ロイド(5月11日)の演奏の凄い余
韻が残っているのだ。なぜ、もう1度見にいかなかったか。ぼくは、それをし
なったことを後悔している。少なくても、ぼくにとってはヴェローゾ公演(5
月23日)以上の不思議や神通力を感じさせるものであった(まあ、初めて見た
というのが大きいのかもしれぬが)と、今思っている。

 そして、代官山のAIRへ。トーマス・キャベル監督のサーフィン映画『S
PROUT』日本公開に際しての催しで、そのサウンドラック(オリヴァー・
ネルソン、HIMやトータス、モハーヴィ3やキャレキシコなどが入ったなか
なか趣味の良いものになっている)にスプラウト・ハウス・バンドという名前
で楽曲を提供していた、ジャック・ジョンソン、マーニー・マーク、トミー・
ゲレロ、アダム・トポルからなる4人組スペシャル・バンドのギグがあるとい
うので。会場入りすると、ふわーんとした音楽が。トミー・ゲレロがやってい
るという。そして、暫くするとマーニー・マークが前にたったものとなり、そ
してジャック・ジョンソンが主役に。それぞれ、持ち歌をやったのではないか
な。ベースを弾いていたゲレロは初めて接するが、印象的なルックスを持って
いるのだな。

 最初は非ステージ・フロアで知り合いと喋っていたが、途中からステージ・
フロアで見ていた。で、横に身長の高い男がいるナと思ったらG・ラヴで、本
編最後のほうには彼もハーモニカで加わった。アンコールには、ザ・ミーター
ズの「シシィ・ストラト」をなぜかやる。そのリフを応用するだけで、ぜんぜ
んセカンド・ライン・ファンクにはなっていなかったが、その曲をやりたがる
嗜好を経由しての和みなのだなあ……なんてことを感じると嬉しくなった。肩
のこらない、アフター・アワーズ的セッション。でも、彼らが興に乗って浜辺
で仲間たちのやんやの喝采を受けながら笑顔でライヴをやるとこんな感じにな
るのかな、なんても思えた。
 夕方、雷雨を伴うかなりの降雨。少し腰がひけつつも、日比谷野外音楽堂に
向かう。バディ・ガイを今度こそ、ちゃんと見なきゃ。前に来たときインタヴ
ィーもしたのに(なかなか楽しい喋り手でありました)、欧州出張があって見
れなくて、ごめんねという気持ちが大いにあったのだ。ただ、コンサートを見
た後に知人のホーム・パーティに行くことになっていて、ずぶ濡れでそっちに
行くのは憚られたので、ガイの前に出ることになっているノース・ミシシッピ
ー・オルスターズはパスすることにする。昨年オースティンで見たとき(2004
年9月19日)にあまり良い印象を得なかったので、それについてはぜんぜん惜
しいと思わなかった。昔はそうとうに好きなバンドだったはずなのだが(初期
2枚と、ジョン・スペンサー絡みの『スペンサー・ディッキンソン』は大好き
! なんで、あんなにおとなしくなってしまったんだろう?)。

 なんとか、会場についたころに雨が止む。自分の幸運に感謝。多くの人が透
明のカッパを身につけ、かなりずぶ濡れの人も少なくない。透明カッパは売店
で500 円で売っていたようだが、相当の利益があるだろうと推測する。野音っ
て、缶ビールを400 円で売ってくれるのはいいんだけど、いつもあまり冷えて
いない。だから、ここに来たときはやはり売店でうっているカップ入り日本酒
(常温)を、温いビールよりはマシと飲むことになるのだなあ。

白のツナギに白の帽子を被ったバディ・ガイは、サイド・ギター、サックス
、キーボード、ベース、ドラムという編成でやる。出だしは、ドン・ニックス
の「ゴーイン・ダウン」。重みや思慮はあっちへホイなパフォーマンス。ブルー
・ノート使用凶悪風ギター・ソロを掻き鳴らす。コクはない。歌声は朗々、び
っくりするぐらいよく出ている。彼はステージ真ん中だけでなく、左右の横で
歌ったりも。それにあわせて、ローディがうまくスタンドを立てる。途中に、
スタンダードの「フィーヴァー」をやる。おお器用、こんな曲もソロを取れる
んだと思ったら、これはサイド・ギタリストをフィーチャーしてのもの。その
彼、うまかった。俺様なガイではあるが、ちゃんとメンバーにはソロのパート
を渡す。それ、ぼくには少しうざかった。とくに、キーボードのソロはイヤだ
ったな。

 終盤には、横を通って会場後ろのほうに出てきて弾いたりも。本編最後は、
ジミ・ヘンドリックスの「ヴードゥ・チャイル」、クリームの「ストレンジ・
ブルー」(2001年1月25日参照)、B.B.キングなどで知られるブルーズ・スタ
ンダードの「ロック・ミー・ベイビー」のメドレー。
 まず、大田区の池上本門寺に。ものすごくデカい規模のお寺、日蓮宗の大本
山らしい。よく分からないが、いろんな建物/施設があるようだ。歴史がある
ようなのでヘラヘラと興味深く接することができるが(実は、この公演に来た
いと思ったのは、奄美諸島の島唄に触れたいと思うとともに、この施設に対す
る純粋な好奇心もあった)、新興宗教系のそれだと足を踏み入れただけでいた
たまれない気持ちになるんだろうなあ。ぼく、宗教には相当なアレルギーを持
つ。いろんないざこざの元凶はまさに宗教にあり、って感じている人だから。
その宗教がなければ人類は滅びているという人もいるけど、強気のぼくは宗教
を必要としたことないしな。ピンチのとき、神さまァって思うことはあった
けど、それは特定の神ではなく、俺サマの神だもの。

 そこの本殿という建物(靴を脱いで上がる)のなかのホールというか、広間
というか。ステージの後ろには大仏みたいのや観音みたいのが数体、鎮座する
。会場内は椅子が並べられていて、満員。かなり、暑い。ちと苦行ぎみ。入口
横のほうにオリオン・ビールとか売っていて、なんか拍子抜け〜サバけてるじ
ゃんと思ったら、それは沖縄方面関連物産販売のものだった。

 ここ数年、広く島意外の聞き手に向かって歌おうとしている60才後半の女性
シンガー。奄美の島唄の歌手を生で聞くのは、元ちとせ(2001年12月3日)い
らい。ポップ音楽の枠組みのなかで独自の歌唱方を起立させるという元と違い
、ずっと親しんできたトラディッショナルな流儀にポップ文脈にある伴奏をや
んわり重ねるというのが彼女の行き方と言えるか。こっちのほうが、かつての
ワールド・ミュージックの方法論に近い。三味線だけを伴奏とするものから、
ピアノやパーカッションなども加わるものまで。弟子が歌うパートもある。そ
の声や節回しを聞いただけで首根っこを押さえつけられるような、パワーや未
知の流儀はぼくは感じなかった。一方で、非島唄回路なときの伴奏には違和感
を感じるところもある。だけど、本当に開かれた気持ちのもと、自分たちの文
化が育んできたものを沢山の人達に知ってもらいたいという澄んだ気持ちはと
っても伝わってくるパフォーマンス。

 1時間は平気でやったろう一部を見て、次に移動。演奏途中にはなかなか会
場外に出にくい感じがあったから……。こんなに、長くやる公演だとは思わな
かった。2部のほうには、お母さんが同じ島の出身だというUAもゲストとし
て出たはず。

そして、南青山・ブルーノート東京。セカンド。ここんとこマジなジャズ路
線がかなり好調な有名トランペッターの新3管編成バンド。新作『ドラゴン』
と同じメンツで、日本人4人、韓国人1人。颯爽としててヴァイタルでもある
、今の新主流派(うわ、死後を使ってしまった)的ジャズ。彼は本当にアップ
テンポな曲のリフ作りがうまいなあ。当初、他の管楽器奏者のほうが長くソロ
を取ったり、自虐的かつボロボロなMC(接してて、本当に辛い)を聞いて歳
取ったなあと思わせるところもあるのだが、ソロの取り方はより真摯だし、M
Cも飾り気のない自分をそのまま吐露するとそうなると考えられなくもないわ
けで……。とにかく、彼のなかで音楽の意味、トランペットを吹く意味がより
無垢なものに変わってきているのかもしれないという感想を微妙に引き出す実
演であったと思う。アンコールなし、2時間近くやったはず。日野晧正、見事
な音楽バカであるのは間違いない。

リトル・バーリー

2005年6月6日
 英国の新進ロック・トリオ。そのデビュー作はかつてのフリーやハンブル・
パイ(実際、彼らを参考にしたという。彼らの名前を出せないのもちょっとと
思うが、加えてオールドスクールのUS東海岸ヒップホップ云々という、まっ
たく見当違いな例を引き合いに出している日本盤解説はあんまり)に代表され
るようなR&B濃度の高いロックをけれん味なく出していて、ここのところの
英国勢のなかではトップ・クラスに実演に触れたかった連中だった。

 原宿・アストロホール。なるほど、メンバーが出てきてグループ名を了解。
ギター/ヴォーカルのバーリー・キャドガンが痩せてて小柄なんだもの。一方
、ドラマーくんは太っちょで“内山く〜ん”と声が客から飛んで、場内爆笑。
パフォーマンスは、ちょっと音質が素人臭かったアルバムとほぼ同じ。まあ、
逆に言うと普段の姿をそのまま商品にしたといも言えるか。曲の盛り上げ方と
か客との接し方とか、垢抜けないというか普通すぎるところもあったが、とに
かくちゃんと曲が作れる“旧型”であることが嬉しいロック・バンドであるの
は間違いない。やっぱり、応援したいな。

 翌日、取材したのだが、テーブルの上には二日酔い用飲み薬や液体ビタミン
剤が。うち、二人は二日酔い。一番ルックスのいいベースくんはもうダウン寸
前で、本当にほんとうに取材するのが可哀相だった。だって、酷い二日酔いは
とても辛いし、マジ何もしたくないもの。それは、俺が一番よく理解できる。
本当はプロ意識に欠けると思うべきなのかもしれないが、それなりに受けた初
日本公演の晩に飲みたくなる気持ちは良く分かる。それに、ぼくだって二日酔
いでインタヴュワーを務めることもあるし。さすがに重度のときは過去2度し
かないが(終わったとたん、トイレにかけこんだりして……)。でも、そうい
うときの取材のほうが研ぎ澄まされた、いい取材になったりもする。ぼく、ピ
ンチに強いかもしれない。なお、バンド名は、バーリーさんの子供のころの愛
称を用いたもので、今の見てくれから来たものではないよ、とのこと。彼ら、
今年のサマソニでまたやってきます。

ジェム

2005年6月7日
 ウェールズ出身、03年にマドンナに楽曲が採用されたこともある女性シンガ
ー・ソングライター。現在は米国で活動していて、米国のカレッジ・チャート
で好評、けっこうなセールスを出していると伝えられる人物。

 デビュー作ではベタなヒップホップ調トラックに英国令嬢風のクールな歌を
重ねていたが、ライヴだとちゃんとバンド・サウンド(ベース奏者はアップラ
イト・ベースを用いるときも)を用いる。プリセット音を用いる曲もなくはな
かったが実演だとそれなりに手作り感覚と非コドモ感覚を持つポップ・ロック
といった印象。歌も、それほどうまくないのは同じ印象ながらもっと愛想が良
く暖色系の感触を持つもので、アルバムと印象がかなり異なる。スティーヴィ
・ワンダーの「マスター・ブラスター」のカヴァーをやったりも。いじょう、
渋谷・クラブクアトロ。
 年齢よりも若く見えます。と言ったら、「緑茶を飲んでいるからね」と答え
るお洒落なギタリストはステージ上でも、緑茶のペットボトルを飲んでいた。
その発言、昨年にインタヴューしたときのこと。で、「年齢をきいてもいいで
うすか?」と問うたら、「いいけど、その質問には答えないよ」。あのときは
カサンドラ・ウィルソンのバッキングは見たものの(2004年9月7日)、
その後に行われた彼の自己グループでの実演はアメリカ行きがあったため見て
いない。嬉しい。やっと、彼のグループのパフォーマンスが見れた。新宿・ピ
ットイン。

 昨年と同様、ツトム・タケイシ(ベース)とJ.T.ルイス(ドラム)を従
えてのもの。この3人はたぶん、ビル・ラズウェル制作のヘンリー・スレッギ
ル96年盤で顔を合わせたのが最初だと思う。彼らは譜面の束を手にしてステー
ジにあがる。確かに、初ソロ作『コスチューム』はすべて譜面になっていると
言っていたけど。3人がしっかりと対峙し合って、音を紡ぎだしていくといっ
た感じの演奏。ルイスはハービー・ハンコック(2003年8月23日、2001年12月
27日、2000年3月14日)のロックイット・バンドで一躍知られた人でR&B系
レコーディング・セッションもいろいろとやっているが、けっこうゴツゴツと
ジャズ流儀で叩く人なのだなあ。

エレクトリック濃度が高い曲だと、まんまハリエット・タブマン(ロスとル
イスとメルヴィン・ギブスによるトリオ)だなと思わせる。また、そのときだ
と、ちょっとおとなしいビル・フリゼールという印象を聞くものに与えたりも
(純粋な弾き手としては、もっちっと爆発してもいいかも。あれ、大人なのか
、それとも……)。ふーむ。フリゼールがそれなりに認知され、受けているの
だから、ロスだってもうちょっと注目を集めてもいいのではないのか。彼もま
たストーリーを作れるギタリストであるし、フリゼールと違い素敵な声で歌う
こともできるし、そして何より、本当にお洒落で雰囲気を持っている。

 そういやあ、ロスが可哀相と言えば、カサンドラ・ウィルソンが彼に取る扱
いも少しそう。前作『グラマード』でまたレコーディングに呼ばれたと思った
らウィルソンとの共同プロデューサーにはファブリジオ・ソッティ(英語読み
)という無名のフランス人ギタリストが抜擢されていたし(結局、彼はどうし
たのだろう。あのアルバム以降、ぜんぜん名前を見ない)。また、ウィンソン
の新作はなんとT・ボーン・バーネットがプロデュースを請け負っているのだ
が、ロスから受けた情報によると、近くある彼女のツアーには呼ばれているも
のの、新作レコーディングに呼ばれていないという。なんだかなあ。実は、ミ
ックス前のものながら1曲だけ(クレジットはいっさい、不明)その新曲を聞
いた。生楽器は多用していながらけっこうプログラム的質感を持つサイバー・
サウンドが採用されたもので(バーネットも異常に張り切って事にあたってい
るのは一聴瞭然)、それは“ディープ・サウスのビョーク”なんて感想も少し
引き出すものになっている。ともあれ、次作でまた一つ別の所に彼女が行くの
は間違いないし、超期待できるものであるのは疑いがない。

 会場には、タケイシ(2004年5月28、29日)を米国版ビッグ・バンドで起用
する田村夏樹/藤井郷子夫妻も。ああ、お二人とこの前に会ったときもW杯予
選の北朝鮮戦の日だった(あの晩のライヴ原稿は2月10日の項に載っているけ
ど、本当は9日。間違って入れてしまって、直すのが面倒でそのままにしてあ
る)。

 日本にはギターを3本持ってきたといった言ってたが、ステージでは4本を
使用。エレクトリック。バンジョー、アコースティック、枠だけで中が空洞な
ギター。3分の1ぐらいは歌が入る曲だったか。そして、歌はアルバムで感じ
るよりか訴求力があっていい感じ。純粋なヴォーカル・アルバムも所望したい
ところであるか。そういえば、ロスはチョコレート・ジニアスとも仲がよく、
一緒にレコーディングしたいナという気持ちも持っている。なお、彼の最初の
ギター・アイドルはスティーヴン・スティルス(CSNY、マナサス他)です。
 恵比寿・リキッドルーム。下のフロアに椅子が出ている。この日のロスのパ
フォーマンスは昨日の面子に、コルネット奏者のロン・マイルス(当日、東京
着)を加えてのもの。昨年はこのカルテットでのパフォーマンスだったはずだ
し、この日のライヴを聞くと、なるほど今のロスのソロ名義パフォーマンスは
マイルスの演奏をちゃんと組み込んでこそのものというのがよく分かる。より
豊かで、スリリング。純度が高いというか、カルテットのほうがよりジャジー
という感じもあったかな。ヴォーカル曲も少なかったし。効果音的な絡み方を
するときもあるが、マイルスのソロがかなりフリー・ジャズの文脈に沿うもの
であったこともそういう印象を強めているかもしれない。まあ、基本的にはジ
ャズをきっちりと根っこに置く、いまのもう一つのボーダーレス・ミュージッ
クであり、エッジを持つ都会生活者のもう一つのフォーク・ミュージックと言
えるものになっているわけだが。

 ロスはしっかりと服装をかえている。マイルスも結構お洒落な印象を与える
黒人。この日はハリエット・タブマンみたいだと思わせる局面は少なく、また
フリゼールっぽいなと思わせるときも少なかった。1時間ちょいのセットを一
つ。アンコールにも答える。

そして、菊地(2004年8月12日、他)の、新譜つながりの新グループによる
パフォーマンス。あらら、バンドネオン奏者やハープ奏者、さらにストリング
ス・セクションも入れての豪華仕様。リズム隊は南博(ピアノ、2001年10月29
日)、鈴木正人(縦ベース、2004年11月30日他)、大儀見元(パーカッション
)。

 菊地はのっけから気分出して歌う。なるほど、これはスパンク・ハッピー(
2002年11月30日)みたいなものと理解したほうがすっきりするなと了解。ディ
スコや歌謡ポップのちゃらさや下世話さを題材にする代わりに、こちらはラテ
ンやジャズの官能性や洒脱や含みを彼なりに再構築/編集して提示する。カヒ
ミカリィもシンガーとして参加。

付録:ロスが考える、私が満足いったレコーディング参加作品(除く、『コス
チューム』)。
ハリエット・タブマン:『I am a Man』(98年、Knitting Factory) 、『Trea
sure Hunt for the Prototype 』(00年、Avant)
ヘンリー・スレッギル: 『Spirit of Nuff…Nuff』(91 年、Black Saint)、『
Where’s Your Cup』(96年、Columbia)
カサンドラ・ウィルソン: 『ブルーライト』(93年、ブルーノート)
ロン・マイルス・カルテット:『Laughing Barrel 』(03 年,Sterling Circle
)
 前座として、キャリア豊かな日本人4人(石川二三夫、小出斉、江川ほー
じん、岡地曙裕)からなるジャングル・ホップ。ブルーズ表現/ブルーズ曲
を広い視点から俯瞰しなおして、エイヤっとファンキーに提出する。これ、
黒いアメリカ人がやっていたら、うわあブルーズは今生きているなんて実感
とともに、大感激しまくっちゃうだろうなあ。

 そして、昨年のフジ・ロックにも出演したリトル・ジョー・ワシントン(
2002年12月15日)。オースティンでホームレスをやっている、相当に危ない
老人(3度も日本にやってきて、アルバムとDVDも出して、ホームレスか
ら抜け出すお金は得ているのではないかとも思われるが)。昨年は犬にかま
れた傷が化膿して車椅子にての出演だったが、今回はピンピン。ベース、ピ
アノ、ドラムをバックに実に奔放で、味のあるパフォーマンスを展開する。
ブルーズとして大切な、いやブルーズだけが持ちえる何かをしっかりと送り
だす。こればかりは、見てみなきゃ分からないだろう。ネタは過去出してい
るのと同じだが、いままでで一番力があり、充実していたパフォーマンスだ
ったのではないか。このあと用事ありで、途中退座を余儀なくされたが。渋
谷・クラブクアトロ。

 ああ、それにしてもピックを用いず指でギターを弾くというのはなんて素
敵で、格好よいことなんだろう。ワシントンの演奏に触れると、そう思わず
にはいられません。

中川五郎

2005年6月17日
 本郷・セヴンオークスパブ。本当に小さな場。客は30人弱でぎちぎち。い
つもやっているHONZI(ヴァイオンリン、アコーディオン)とのデュオ
。2時間弱、正真正銘ノー・PAにて。まず、ひどく感銘したのは内容より
も、完全に生声〜生楽器音での実演であったということ。後で聞いたら、声
の音量とのバランスを考えてギターは普段より軽く弾いた(この日は主に12
弦を使用)そうだが、合いの手を入れるヴァイオリンらの音バランスも含め
て、全然問題なかった。おお、物事ってなんだかんだ上手く回るじゃんとい
うか、電気/装置を一切介さない快適さ、生理的な気持ちよさを非常に実感
した。そして、その事実は、中川五郎(1999年8月9日、2004年2
月1日)のパフォーマンス能力の意外な高さを伝えるものでもあるだろう。
さすがずっとちょこちょこライヴをやっているだけあって、声はよく出てい
るし(喋るときよりずっと明瞭で溌剌)、ギターも全然つたなくないし(っ
て、かつてプロとしてバリバリやっていた人に対して、失礼な言い方だが)
。フォークどまんなかの音楽性は心から馴染めるものではない(やっぱり、
外国曲の日本語カヴァーには抵抗がある)が、親しい先輩であるというのを
差し引いても、質はあるんじゃないかと思った。

 「お時間があって,女の子探していたら、ぜひきてください」とは事前の
五郎さんのメール。女の子、そんなにいませんでしたよね。あと、五郎さん
が死んだら、やっぱりとっても悲しいだろうなあとライヴに接しながら思い
ました。

ジェントル・ソウツ

2005年6月20日
 スタッフと並ぶ、フュージョン萌芽期の代表バンドといっていいのか。ぼく
がフュージョンを多少なりとも聞くようになったのは業界入りしてからで、ち
ゃんとしたジャズは聞いてもフュージョンはいまいちなじめない人だった。そ
うしたなか、ジェントル・ソウツはわりとリアル・タイムで聞いた数少ないグ
ループ。というのも、当時彼らはダイレクト・カッティングによるアルバムを
出していて、ほんの少しオーディオ小僧でもあったぼくはそっちのほうの興味
からその西海岸の手練グループのことに興味を持ち、聞いたりしたのだ。いっ
さい修正がきかない一発録りの潔いレコードというのが、ぼくの好みをくすぐ
った。まあ、そのうちにジェントル・ソウツには飽きたが、そのメンバーだっ
たハーヴィ・メイソンの76年初リーダー作『マーチング・イン・ザ・ストリー
ツ』は未だになぜか大好きだな。

 南青山・ブルーノート東京、セカンド。なんか、お誘いを受けてひょこり行
ったら、超満員。すごい人気、なのだな。オリジナルからメイソンとデイヴ・
グルーシンが抜けたかたちで、あとはみんなオリジナル・メンバーによるパフォ
ーマンス。けっこう、説明っぽい楽曲をやっていたんだなとも思った。2時間
ぐらい演奏したような。日本人歌手と結婚したというリー・リトナーは客席に
いた女房をわざわざ紹介していた。マメですね。

A−Show

2005年6月27日
 40才近くになってプロになったという、R&Bやブルースなどを栄養とする
滋味系シンガー・ソングライター。1部は生ギター弾き語り。2部はレコーデ
ィング・メンバーでもあったというバンドが付いたが、なかなか良質なバッキ
ングをしていた。

 下北沢・440 。下のライヴ・ハウスからか、かなりの(騒)音が零れてきた
のには少し閉口。でも、そんなの気にしないと言う感じで、飄々とパフォーマ
ンスを続けていたのは実に正解。マイナスに過剰に反応していたら、実のある
音楽はできないというか、そんなことに負けない歌を歌っているんだよという
風情が感じられるような気がしたから。マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴー
イン・オン」他のカヴァーも披露したが、ぼくは英語で歌われるよりは大意に
沿った日本語でやったほうがずっと曲の妙味〜ひいては本人の持ち味が伝わる
んじゃないかと思った。なんか、先の中川五郎の項で書いていることと矛盾し
ていますが。MCはぼくとはまるで波長が合わず、きつかった。
 そんなに年はいっていない(まだ20代だろう)デンマークの黒人歌手。今回
が2度目の来日で、前回はデンマークのお偉方の来日に同行し、皇族も出席し
たパーティで歌っているという。とはいえ、ラフな恰好していたし、パっと見
た目は硬いイメージは一切ないさばけた感じを与える人。そんな彼女はピアノ
(1曲はバンドネオン)だけをバックに歌を披露したが、相当にうまい。朗々
、危なげなさ100パーセント。それだけで、ひねくれ者のぼくも感心。ジャズ
・スタンダードも歌うが、ジャズ・シンガーというよりはもう少し広い層を狙
える大人向きのMOR系シンガーといった感じか。ウテ・レンパーとか、そう
いうタイプのシンガーになるのも可能といった印象も得た。

 新しく出来た芝公園・東京プリンスホテルパークタワー(いったい、前は何
があったところなのか。会場で会った人とひとしきりその話題になる)の1階
にあるメロディラインというジャズ・クラブ(ホテル側はジャズバーと表記し
ているが、それなりに広いし、そこそこ立派。ただ、テーブルや壁に用いられ
る焦げ茶色の合板プリント柄は安っぽく感じられて仕方なかった。蛇足だが、
一応この施設は食堂課の一部門となっているようだ)でのコンヴェンション。
ここ、東急のセルリアン・タワーのJzブラットと異なり、乱暴な出し物はな
しに上品に和み系のジャズを提供する場として運営していくようだ。

 実はヘンダーソン以上に、このホテルには興味があった。まあ、親分の逮捕
なども絡み、好奇心はとても引きますよね。天気が良かったのでクルマで行か
ず汚いスクーターで乗り付けたのだが、ホテルマンたちが困惑したりせず丁寧
に対処したのは立派。入口すぐに横に、ドアで仕切られた自転車/バイク置場
が設置されていた。また、いろんな問い掛けに対しての反応もソツなく、かな
り気合いれてオープンしているのが分る。ぼくが触れた範疇においてはまあ合
格、俺はいいホテルに来ているのだという心持ちになれました。