ちょうどいい塩梅だなーと思える、爽やか秋の日。二つの映画試写会と、一つのコンサートをまわる。

 まずは、渋谷・映画美学校の試写室で、スパイク・ジョーンズの関与した2本の映画を見る。「アイム・ヒア」(32分、10年作品)と「みんなの知らないセンダック」(44分、09年作品)。彼絡みの短編が2本たまったのでカップリングし、“INVITATION from SPIKE JONZE”というタイトルで公開する(12月中旬よりユーロスペースほかで)ことになったよう。

 ビョーク(2008年2月22日、他)他のミュージック・ヴィデオ作りで名を成した米国人映画監督だが、前者は人間と共存するロボットを主人公におく、ほのぼの、ちょっとビターなラヴ・ストーリーもの。設定他もろもろとてもロマンチストで、技あり。プロだな。後者はジョーンズが実写版を撮った「かいじゅうたちのいるところ」の絵本原作者であるモーリス・センダック(1928年生まれ。ゲイだそう)との会話をまとめたドキュメンタリー。こちらは、ランス・バングスという人物との共同監督作だ。最初、センダックの話に沿った寓話風映像(ジョーンズ自身も役者で登場。それは、何気に多大な敬愛が伝わるか)が出てきたりして、映像作家としての創意工夫が出ているナとおもわせられたが、残念ながら、それだけ。こちらは何回にもわたって彼の自宅で録られたインタヴュー映像を素直に編集している。センダック好きなら興味深くてしょうがないかもしれないが、そうじゃない人にはどうか? けっこうありがちな偏屈話が並んでいる気もぼくはしたかも。偉人は凡人が想像可能範囲にある曲がったヒーローなのです、と、このフィルムは語っていると思った。

 次は新橋のTCC試写室で、09年カナダ映画「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」を見る。残された写真や映像、様々な関係者(若き日の恋人や、中年時に3年間親しい付き合いを持った人妻やその2人の子供たちのインタヴュー映像がウリでもあるよう)の取材映像を巧みに構成したドキュメンタリー。そりゃ有名クラシック・ピアニストゆえ、その名前は知っているが、クラシック音楽/アートを気取るものをずっと忌み嫌ってきたぼくは彼の音楽をほぼ聞いたことがない。彼がカナダ人である(そして、カナダに住み続けた)のもこの映画で初めて知った。ながら、おおまかなグールド(1932〜1982年)のことは把握することができて、ありがたや。

 かなり変人で、神経症だった人。めんどくせーおやじ、とも、間違いなく言える。それゆえ、64年にライヴ活動をすることを辞めてしまい、その裏返しでレコーディングのもろもろには燃え、いろんな録音芸術の可能性を探っていたという事実にはとても興味ひかれる。また、神経質かつええカッコしいなようでいて、奔放に歌いながら無邪気にピアノを弾くのが大好きな人であったことにも。キース・ジャレット(2007年5月8日、他)のピアノを弾く際の下品なうなり声はそれに影響されている? な〜んて。動物園で滅茶苦茶な歌で動物とコミュニケートを計ろうとする映像は素敵。そんな彼ゆえ歌モノは好きだったようで、彼が人気ポピュラー女性歌手(名前失念)も大好きだったという話にはびっくり。へーえ。

 肝心のピアノ演奏に関しては、映画中でもいろいろ流れるが、オレにはよく判んねえというのが正直なところ。レコード(彼は、終生CBSコロムビアと契約した)を買いにいこうところには至らなかった。グールドというとバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の革新的演奏が何より知られるそうだが、そんなに他の「ゴルトベルク変奏曲」とは違うのだろうか。映画中で、ある人がグールドの演奏を例えて「時計を分解して、その部品をまんま用いて違うもの作り上げた」みたいな言い方をしていたが、本当にそんなに自分流に作り替えているのか? したとして、それがクラシック界では許されることなのか。いろんな疑問が広がった。この映画、10月下旬より順次公開される。

 そして、恵比寿に行って、リキッドルームで英国人新進現代ポッパー、ジェイムズ・ブレイクを見る。さすが、話題の新人、場内はもう満員。キーボードを弾きながら歌う本人に、効果音担当者とドラマーがつく。アルバムで聞ける以上に歌濃度が高く、その歌(だいぶエフェクターを介されるが)がイケる。あまりに美しく溶け合う現代流儀と普遍的な歌心。もう、最良の同時代ブルー・アイド・ソウル〜ゴスペル。もう、才ありすぎにして、それをさりげなく生の場で開く能力にもたているとも、すぐに了解させられた。その眩しい才気の広がりに触れ、これでレディオヘッド(2008年10月4日、他)はもういらないと確信した人もいたろう。たしか、最初の曲と最後の曲は電気キーボードの弾き語り。クローザーのちょっとした指使いに触れて、ブレイクはグレン・グールドのことが好きなのかともふと感じる。まあ、クラシック素養もある人なんだろうな。もー大絶賛、降参デス。←いっさい、クラブ・ミュージック文脈の言葉を用いず書いてみました。

<今日の居酒屋>
 コンサートの後は会場で会った知り合いと飲み屋に流れて、他愛ない話に花を咲かせるというのが常。そして、ぼくはそのどうってことない時間が好きなのだが、この晩は中年オトコ4人で居酒屋に。ライター3人と編集者1人、久しぶりの取り合わせだったが、かつてはこの4人で流れるというパターンが一番おおかった。ブレイクをみんな絶賛した後は、進歩のないどーでもいい話に終始する。