H ZETT Mとは、PE’Zのキーボード奏者であるヒイズミマサユ機の個人活動名。渋谷・アックス。基本、彼はピアノを弾き、ときに歌う。歌はCDを聞いてもすぐに分かるがヘタだ。でも、彼は正々堂々、けっこうでかい声で噛ます。サポートはギター二人、ベース、ドラム(メタルチックス;2006 年6月22日の女性)、DJという布陣。かなり、出音はデカく、しっかりしたサポート也。H ZETT Mはピエロのようなメイクで黒基調の格好をしている(架空の、不思議の国の音楽家を模しているという感じもあるか)が、それはサポート陣も同じ。で、音楽的には甘いポップ・メロディを綴るピアノ・マン的表現からすらすらジャジーなソロをとったり、オルタナ調ロックになってみたり、クラブ・ミュージック的な表情を求めたりと変幻自在。その様は玉手箱というか、玩具箱をひっくり返した感じと言うのが適切かな。面白い。何をやっても鍵盤を弾くのが大好きなボクに集約するという感覚があって、それによりビリー・プレストンやバーニー・ウォレルのことを少し思い浮かべたりも。うわあ、それ、ぼくにとっちゃ凄い褒め言葉だ。最後にヒロと紹介されていたジャジーな歌い方をする若いシンガー(下町兄弟が関与した、元アイドルだった人だろうか)とヴァイオリン奏者も加わる。ときにするMCは取材時の無口ぶりが嘘のよう、やはり別なスイッチが入るんだろうな。また、PE’Zのときは鍵盤のミスタッチが気になるときもあったが、この日はそんなことなかったので、あれは意図的にやっているのか?? MCによれば、このH ZETT Mというコンセプトはこれにて終了とのこと。次は別のキャラクターを持ってくるのか、自分の名前を出したものになるかは知らないが、機会が許せばまた見てみたいな。

 つづいて、南青山・ブルーノート東京に(セカンド・ショウ)。05年に見た最良のサックス奏者(2005年5月11日)と昨年見た最良のピアニスト(2007年1月16日、1月17日)が一緒にやる出し物なんだから、そりゃ悪いはずがない。ドラムはチャールズ・ロイドのバンドのレギュラーをつとめ、ロバート・グラスパーの昨年公演でも叩いていたエリック・ハーランド(2005年5月11日、2007年10月3日)。ロイドの今年出た70歳の誕生日を祝うことを兼ねているらしい新作『ラボ・デ・ヌーベ』(ECM)はその3人にベース奏者を加えたカルテットで録られている。今回、なぜベースレスになったかは知らぬが、まあ選曲にもよるのだろうが、思索的な感じがかなり減じ、もっと線が太いものになっていてぼくはベースレスのほうがいい、新作よりこの晩のパフォーマンスのほうが好みと感じた。

 演奏の内容は、これぞジャズ。なんの実のある説明になっていないが、大人の冒険がしかとなされていて、やはりいい感じだったな。1曲ではテナーではなく、アルト・フルートを吹いていた。ところで、そんなロイドは、相当な変わり者。60年代後期、ジャズ界の輝けるスターだった(そのころの、ワーキング・カルテットはキース・ジャレット,セシル・マクビー、ジャック・ディジョネットという面々!)にも関わらず突如ジャズ界から飛び出し、ニューエイジな隠居おやじとしての生活を悠々実践、そのころはネッド・ドヒニーやビーチ・ボーイズの面々らロック・ミュージシャンとちんたら交流を持ったというキャリアを彼は持っている。そして、82年に彼はジャズ界に戻り、また堂々のジャズマン像を見せているわけだ。と、そんな経歴を書いたのは、なんとアンコール曲がその時代を少し彷彿させるものだったから。彼はモランとともにピアノの前に座り、ときにピアノをつま弾きながら、延々と詩の朗読のようなものを空でやりはじめたのだ。出だしは、ハレ・クリシュナから始まっていたような。で、ピースとかラヴとかいう、単語がそれには入る。そのとき、ハーランドはお経のような低音ヴォイスを効果音のようにつけていてた。うひゃあああ。わはははは。