ケイク

2006年3月16日
 渋谷・クラブクアトロ。ああ、やっときっちり彼らのことを見ることがで
きた。04年秋のオースティン・シティ・リミッツでも、05年夏のフジロック
でも、見てェと思いつつ、諸事情でちゃんと見ることができなかったのだ。
で、結論から言えば、あまりに素晴らしかった。間違いなく、今年のロック
のベスト公演になるのではないか。そう思わずにはいられないほど、ぼくは
感じ入った。

 曲を書き、歌うジョン・マックレア(ギターも)を中心に、ギター、ベー
ス、ドラム、トランペット/キーボードの5人にて。ステージの背景には、
富士山のような山が描かれたでかい布がなぜか張ってある。彼らの公演は7
時開演ではなく、珍しく7時半のスタート。そこから15分ほど遅れて彼らが
出てくると、もう物凄い声援が満員の客席側から飛ぶ。へえ。いわゆる通受
け系米国バンドでこんなに反応が最初から熱いコンサートも珍しい。

 で、1曲目の「フランク・シナトラ」から、質量感というか、手応えとい
うか、訴求力というか、聞き手に与えるものが上質。すぐに、タマが違うと
にんまり。トゥインギーに壊れていたりするギターや、妙に音がブイブイ言
うベースや、哀愁異国味を醸しだすトランペット音などを介するバンド・サ
ウンドのもと、マックレアは飄々と歌を投げ出す。で、そのマックレアがま
た、いい感じ横溢なのダ。妙な品格があるというか、味があるんだよなあ。
そして、それら総体は、これこそは米国ロック表現の精華があると思わせる
に足るもの。過去の積み重ねを持ちつつ(やはり、ぼくはザ・バンドを想起
したりもした)、自分であろうとするストラグルも抱えた、俺たちの胸を張
ったロック表現のおおいなる成果。次はどんな曲をやるのか、ドキドキもで
きたな(94年のファーストからは1曲だけだったようだが、けっこう5枚の
アルバムからまんべんなく演奏)。
 
 わりと本格派の送り手というと、どこか斜に構えたところがある場合が少
なくないものの、彼らの場合はユーモラスなところはあっても、生理的にま
っすぐな感じを出していたのも素晴らしい。だから、真正面からオーディエ
ンスのことも見ていて、度々のコール&レスポンスもぜんぜんイヤじゃなか
った。マックレアらのパフォーマンスはしっかりと客をリスペクトしている
ところがあった。気分いいー。

 本編は1時間ぐらい。15分ぐらいのアンコールが終わり場内が明るくなっ
た後も鳴りやまない歓声につられて、彼らは再びアンコールをしに出てきた
。手頃に大きくないクアトロって稀にとんでもない磁場を生むことがあるけ
ど(大昔のジャドソン・スペンスやスティーヴィ・サラスなど)、今回のは
最新の渋谷クアトロ伝説なるものとしてもいいのではないのか。