南部ソウル/土着ロックのレコーディングを多数になった、アラバマ州シェフィールドの名ユニットの質実剛健ドラマーであるロジャー・ホウキンスが亡くなった。
 
 ホーキンスはインディアナ州ミシャウォカで生まれ、子供の頃から打楽器に親しみ、ミドルティーンにしてドラマー稼業に入ったという。そして、回り回ってアラバマ州に辿りついた際も、まだ10代だった。1960年代中期にはリック・ホールが設立した同州マッスル・ショールズにあるフェイム・スタジオのハウス・ドラマーとなり、様々なソウル歌手のレコーディングをサポートするようになる。フェイムでの初レコーディング曲はパーシー・スレッジの有名曲「男が女を愛するとき」だったそうで、アリサ・フランクリンからエタ・ジャイムス、ウィルソン・ピケット、ザ・ステイプル・シンガーズ/メイヴィス・ステイプルズまで、いろいろな人たちに自然な重力とアクセントを与えた。

 その後、リック・ホールと喧嘩してフェイム・スタジオ潰しを画策したアトランティック・レコードのジェリー・ウェクスラーの資金提供により、ホウキンス、ベースのデイヴィッド・フッド、鍵盤のバリー・ベケット、ギターのジミー・ジョンソンらはフェイムから独立し、1969年に同州シェフィールドにマッスル・シュールズ・サウンド・スタジオを設立する。シェールの『3614ジャクソン・ハイウェイ』(アトコ)は同スタジオで録られ、同スタジオの住所を表題に持ってきた。1970年代入ると、ザ・スワンパーズと呼ばれたマッスル・ショールズの腕利きミュージシャンたちは土着的好サウンドを創出するユニットとしてロック側のミュージシャンたちからもいろいろと起用されるようにもなる。ポール・サイモン、ボブ・シーガー、リオン・ラッセル、ロッド・スチュワート、トニー・ジョー・ホワイト、キャット・スティーヴンス、ジュリアン・レノン、他。

 ああ、一度ホウキンスの生のドラミングに接したかった。彼は、レギュラー・グリップで叩く人だった。ブラス・バンドのスネアを担当したこともあったのかな。スネアを身体の左側にかけて歩きながら叩くため左手はリストを横に回転させるようにスナップする。それが、レギューラー・グリップにつながる。ぼくも小学生のとき鼓笛隊でスネアをやったことがあるので、それについてはすごく分かる。デイヴィッド・フッドが突然に英国のザ・ウォーターボーイズ(マイク・スコット)のサポートで来日した(2015年4月6日)ことがあったが、こういう訃報に接すると奇跡のような。そういえば、ホウキンスとフッドとバリー・ベケットが参加した、トラフィックの欧州ツアーのライヴ盤『オン・ザ・ロード』(アイランド、1973年。オリジナルは、アナログ2枚組。10分を超える曲がばんばん入り、20分や17分の曲もあった)というアルバムがある。それはザ・スワンパーズが初めて国外に出たときのもので、素の彼らの非ソウル系の演奏を知るには適と、ぼくは思っている。っていうか、高校のころ、その荒くもある長尺演奏を聞き、なんかヤラれたあと思った好印象がずっとぼくのなかで生きている。そんな彼らの様を効果的に伝える、実際に出てきて演奏もするドキュメンタリー映画が「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」(2014年6月26日)だ。

 ホウキンスはここ数年、慢性閉塞性肺疾患をはじめ複数の病をかかえており、シェフィールドで息を引き取った。

▶︎過去の、映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」
▶︎ https://43142.diarynote.jp/201406270933515875/

<今日の、追記>
 先に触れたシェールの1969年作は、ウェクスラー、トム・ダウド、アリフ・マーディンというアトランティックきっての3プロデューサーがついてのもの。1969年4月に録られたそれは同スタジオの1号レコーディング作らしいが、セールスは芳しくなく、それは当面の同スタジオの経営難につながったとも指摘される。ときに、エリック・クラプトンはマイアミのクライテリア・スタジオ録音のアルバムに『461オーシャン・ブールヴァード』(RSO、1974年)と名付けた。それは、レコーディング期に住んだ家の住所で、同作のプロデューサーはフリーランスになったトム・ダウド。ダウドは当時クライテリア・スタジオに出資していたんだっけ?
 ところで、新旧の好音楽映画を集め上映する<ピーター・バラカンズ・ミュージック・フィルム・フェスティヴァル>がこの7月2日(金)から15日(木)かけて、角川シネマ有楽町で催される。ビリー・ホリデイを扱うドキュメンタリー「Billy」や写真家ユージン・スミスがセロニアス・モンク他1950年代後期のNYのジャズ・シーンの音声込みの記録をまとめた「The Jazz Loft According to W. Eugene Smith 」のような日本未公開作品から、評判を取った「AMY エイミー」(2016年6月15日)や「ノーザン・ソウル」(2019年1月11日)や「ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち
」(2020年3月26日 )まで、14作品が上映される。わあ、ザ・ファニア・オールスターズのぼくの誕生日と同日に持たれたザ・チータにおけるライヴを撮った「アワ・ラテン・シング」もあるゾ。うーん、映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」もそこに急遽入れてくれないかな。←とうぜん、当初から候補作にはなったようだが、使用料の部分で断念せざるを得なかったよう。

▶︎過去の、映画「エイミー」
https://43142.diarynote.jp/201606161722265703/
▶︎過去の、映画「ノーザン・ソウル」
https://43142.diarynote.jp/201901121341307532/
▶︎過去の、映画「ランブル」
https://43142.diarynote.jp/202003271634082075/