女性ジャズ・ドラマーの第一人者が興味深い面子とともにやる嬉しい実演。南青山・ブルーノート東京。

 ベース(電気ベースも置いていたが、縦に専念)は話題のエスペランサ・スポルディング(2008年9月5日)。おお、女性リズム・セクションだあ。テナー・サックスは、なんとゲイリー・トーマス。スティーヴ・コールマンの後を追うようにシーンに出てきて、グレッグ・オズビーと仲良くしながらぶいぶい言わせていた人。たぶん地元のボルチモアで活動しているせいもあるだろう、ここ10年ぐらいはあまり動向が伝わらなかったが、元気そうでなにより。ときにキーボードも弾いたピアニストのアルアン・オルティスは無名だが、エスペランサのメジャー・デビュー前にスペインのインディから出たアルバムで弾いていた人だ。

 真摯に、聞き手によっては難解さを覚えるかもしれないコンテンポラリー・ジャズを展開。そのノリをあまり崩さず1曲はジョニ・ミッチェルのカヴァーもやったけっか。その際はキャリントンが歌った。エスペランサは得意の歌/スキャットはかまさず、丁々発止するベース演奏に専念。


 昨年見て改めてブっとび平伏した、広角型ジャズ歌手(2003年8月1、2日。2007年8月24日)。バンドはずっと関与している縦ベースのアイラ・コールマンをはじめ、ピアノ、ドラム、打楽器という布陣。前回の顔ぶれからギタリストがオミットされた陣容による。魅力的な個体が確かな音楽観と綱引きし、アフリカン・アメリカンが残してきた財産の豊穣さ、アフリカン・アメリカンの凄さを直裁に示唆するようなパフォーマンス。純ジャズからファンクまでを堂々横切る……今回はラテン度数の高い曲が少し多めだったかも。天下無敵、なんかそんな形容も用いたくなるかな。今、もっとも大多数を魅了でき、お金を取れるジャズ歌手ではないだろうか。南青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。

 続いて、六本木・ビルボードライブ東京。根強い人気を持つ女性シンガー・ソングライター。前回の来日公演はギタリストを一人従えたものだったが、今回はバンド編成によるもの。で、リズム隊はずっとレコーディングでも使っている人たちだが、他の2人がびっくり。アンドリュー・ボーガー(ギター)とダルー・オダ(コーラス、キーボード、フルート)、ノラ・ジョーンズお馴染みのワーキング・バンドの面々ではないか。聞けば、去年知り合い一緒にやるようになったそうで、コンビネーションはばっちり。なるほど、現在ジョーンズは活動休止中らしいから、回りの人は暇だよな。実はローブとジョーンズは同じテキサス州ダラス育ち。それを指摘すると、ローブは「そうなのよ。もちろん、彼女がダラスにいたときは面識がないけど、世界は狭いわよね」
 
 和気あいあい、細やかな気持ちや温もりや笑顔が溶け合う、手作り感覚に満ちたギグ。けっこう、日本語がステージから発せられるショウでもあったか。ベーシストが曲の内容を説明したり(一生懸命勉強したことがあるのか、日本に住んだことがあるのか)、ローブがオダに説明させたり。オダのステージ上の日本語は初めて聞く。ジョーンズはそういうの、オダに求めなかったし。彼女は日本生まれながら子供のころダラスに渡ったようで、そういう経緯はオゾマトリのジロー・ヤマグチと同じですね。
 
 ローブの左手薬指にはダイヤがきらり。遠慮気味に問えば、2週間前にTVプロダクション勤務のフィアンセからもらったとか。嬉しそう。それから、彼女はメガネがトレードマークだが、来年春にはリサ・ローブ・ブランドの眼鏡フレームを発売する。それ、念願だったそう。


 緑色のチームの下部リーグ降格を祝うかのように、もう晴天であったな。ながら、4時過ぎに家を出るときにはかなり気温が下がっている。オレはNYの街角を歩いているんだと思うことにする(冬はそう思うようにする事あり。気がまぎれます)。

 マーカス・ミラー・バンドでおなじみのギタリストのディーン・ブラウン、ヴェテランやんちゃ電気ベーシストのウィル・リー、P-ファンク出身の重量級ドラマーのデニス・チェンバース(バスドラみたいな大きさのものをタムとしてセッティングしていた)。人気奏者3人による実演、丸の内コットン・クラブ。ファースト・ショウ。ディーン・ブラウンの何年か前に出たリーダー作はけっこうヴォーカル・ナンバーが少なくなく、しかも巧みなP-ファンク崩しを見せる曲も印象に残ったりし、ウィル・リーも歌うのは嫌いじゃないし(15年前ぐらいにベン・シドランのゴー・ジャズ・レーベルから出た彼のヴォーカル・アルバムは好盤だった)。てなわけで、けっこうヴォーカル部も持つファンク傾向のパフォーマンスになると思ったら……インスト主体〜フュージョン傾向にあるものだった。いろんな奏法を見せるブラウンといろんな音色をお茶目に出すリーをがっちりチェンバースが受けとめる、そしておおまかなアウトラインにそっていろいろと流れていく、とも説明できそうな演奏はしっかり芯と視点と機転を持つもので、ニコっと接っすることが出来るものだった。ジミ・ヘンドリックス曲とザ・ビートルズ曲の工夫あるカヴァー曲ではリーが歌う。なんでもライヴ・レコーディングされたそう。ディーンのなかで、特別仕立てのライヴ、という認識があったということか。

 続いて、新宿・ピットインでアトミック(2005年4月12日)。もうリアルにインプロヴァイズする現代ジャズ最高峰にある集団だが、無駄にソロは垂れ流しぜす、曲の長さは過剰に長くない。発展の種を敷き詰めたイケてるテーマ部の作り方にまず感心しちゃうし、二管の絡みを主体とする贅肉を沿いだ全体インプロイヴィゼイションのありかたがおいしくも、今を感じさせるジャズ・クインテットであるのだと再確認。個別の拍手は、ドラマーのポール・ニルセン・ラヴ(2008年9月25日)へのものが一番高かったような。やっぱり、シビれる存在。関係ないけど、エリック・ドルフィーの“5スポット”がここ数年、ときに無性に聞きたくなるワタシ。モンクとかミンガスとかオーネットとかの名前がまず出てくるぼくだが、理想のジャズはと問われれば今ならドルフィーの同ライヴ盤を挙げる可能性大。家にあるアナログは、別売されているのを一緒にまとめた3枚組ボックス。だいぶ昔に買ったものだが、当初は難しいなあ、とらえどころがないなあと思ったはずだ。


  まず、渋谷・クラブクアトロで、フランスの生ヒップ・ホップ・バンドのホーカス・ポーカス。この夏に見た(2008年7月26日)ばかりだが、とっても印象が良かったのでまた触れる。前座があったため途中退座を強いられたが、前回の項の印象と同様。楽しいっ。好ましい心意気も横溢していて嬉しい。

 そして、丸の内・コットンクラブ。美女美男の夫婦R&Bデュオのパフォーマンスをみる。前回来日時(2006年9月10日)と同様に、それぞれのソロ歌唱とデュオ(マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル曲他)を噛み合わせる。ラティモアはジェフ・バックリーのロック曲も歌うがかなり合う。彼はザ・ビートルズの初期哀愁曲「アンド・アイ・ラヴ・ハー」も歌うがそれも巧みにアダプト。格好にも顕れているが、2人ともソウルネスはありつついい意味で洗練されているんだよな。なんか、オバマ時代のアクトに相応しい、と少し思った? サポート陣は鍵盤、ギター(あちら在住の日本人)、ベース、ドラム。そして、そこに女性シンガー2人がコーラスでくわわるが、彼女たちもけっこう見栄えがする。主役が綺麗だと喰われる事がないので、バックにもルックスいい人を雇えられるということか。素敵な、大人の輝きあるソウル・ショーなり。


 雨が降る夜、渋谷・アックス。UK人気ロック・バンドのスウェードのフロント・マンのソロ・ライヴ。彼の2作目のソロ『ウィルダネス』は基本ピアノとチェロだけが伴奏する、“裸の”というような形容をしたくなるアルバムだったわけだが……。おー、本気だったんだな。新作が出たさいに電話インタヴューしたら、原稿になりそうな事山ほど言ってくれ(http://mainichi.jp/enta/music/archive/news/2008/12/04/20081204dde012070063000c.html)て、かなりやる気と達成感もってるんだなと思わせられたが、真面まんまのシチュエーションでライヴをやるとは! ステージに登場したのはアンダーソンと女性チェロ奏者だけ。そして、彼はピアノを訥々と弾き(曲によっては、生ギターを持つ)歌い上げ、チェロ音がその弾き語りに色を添える。全編、それだけ……。

 一部はソロ作の曲をパフォーム。休憩を挟んだ二部はウスェード時代のゆったり目の曲を“裸ヴァージョン”で披露(生ギターの弾き語り比率が高くなる)。すると、観衆の声援は大きくなる。スウェード時代からの熱心なファンは今回の“大人の変身”をどう捉えているかは知らないけど、彼が胸を張って、新しい大地を歩まんとしていることだけは痛感させられたはず。いやあ、その根性、なかなかに凄いものがあったのではなかったか。


  UK白人ファンキー・バンド(2004年4月27日)を六本木・ビルボードライブ東京で見る(セカンド・ショウ)。アルバムでも色を添えている黒人女性歌手ヴェネッサ・フリーマンを伴ってのもので、冒頭1曲目と後半に彼女は出てきて、場を盛り上げる。初/中盤は演奏陣4人でかっちりとパフォームし、その際はドラマーが歌ったりも。それに触れながら、なんかアヴェレイジ・ホワイト・バンド(2007年11月26日)も大昔はこんな感じだったのかな、な〜んて思ったりも。会場で某社のお偉方とばったり会う。なんでも、前に触れたアレックス・キューバ(2008年11月12日)はブルーノートが獲得したようだ。


 ミュージシャンとしても活動するKONISHIKIが仕切る、ハワイの若い今様アーティストを紹介する公演で、後楽園・アンバランス。なんでも、彼のお店だという。

 ハワイ産レゲエはジャワイアン(ジャマイカン+ハワイアン)という言い方がされるが、まさにそういうべきものが勢いたっぷりに披露された。さらにはヒップホップやR&Bの要素もときに加味された音楽性を持ち、とっても剛性観を持つバンド・サウンドが採用されている。ラガ・サヴェア、ホット・レイン、キヴィニ、シアオシ、ジェイ・ブッグというシンガーたちがフィーチャーされたよう。彼らはずっと出っぱなしの共通バンドのもと、入れ替わり立ち代わりフロントに出てきて歌い、それらはけっこう切れ目なしに送り出される。バンドでドラムを叩いていて、部分的に前に出てきて歌った頭が爆発したラガ・サヴィアはKONISHIKIの甥だそう。そいういやあ、20年近いキャリアを持つ西海岸のヒップホップ・ユニットのブーヤ・トライブもKONISHIKIの従兄弟たちと言われているよな。ともあれ、そのしっかりとした実演はちゃんとハワイでこういう音楽がライヴ・ミュージックとして需用があることを示しているな。とともに、どんなことをやろうと、どこかトロトピカルというか、ハッピーでフレンドリーな情緒が充満しているのは大きな美点であり、セールス・ポイントになるだろう。KONISHIKIはこういうハワイ産ビート・ポップをH-POPと括って日本に紹介したいという意思を持っているようだ。

 パーティ感覚横溢の会場には、ダイエットして80キロ減らしたというKONISHIKI(思っていたより、身長はないんだァ)はもちろん、後輩の曙太郎と武蔵丸光洋(2人はデカいなあ)も。ハワイアン・コネクションは強固なんですね。昔から相撲にはまるっきり興味が持てないぼくではあるが、彼らを見てなんとなくうれしくなる。なんか縁起ものというか、そういう心持ちも少し得て、俺ってそうした日本人的情緒を持つ部分もあるのか。あひゃあ。現役ぽい髷着物姿の青年もいた。

 毎年ケルト系アクトが集う、師走恒例のイヴェント。錦糸町・すみだトリフォニーホール。
 
 まず、デンマークのハウゴー&ホイロップ(2005年12月10日)が演奏。トラッドその他をべースに置く、とっても阿吽の呼吸を持つアコースティックな協調作業を聞かせる。高尚な部分とカジュアルな部分の、彼らならではの行き来の妙。このツアーを期に、二人は別の道を歩むという。続いては、アイルランドの進行形トラッド・バンドのダーヴィシュ(2004年6月20日)。インスト曲とキャシー・ジョーダン(とっても、サバけた人です)が歌うヴォーカル曲の二本立て、清楚なガラッパチがそのパフォーマンスにはある、なんちって。なお、ハウゴー&ホイロップ、ダーヴィッシュともに、ダンス・ナンバーのときはアクロバティックかつ芸術的な足さばきを見せるカナダ人のザ・ステップ・ダンサーズ(2007年6月1日、2007年12月15日)がときに加わる。すごいすごい、お金が取れる。うち、二人はフィドルを手にもする。

 そして、最後には三者が自在に絡むセッション。アイルランド〜デンマーク〜カナダ……見えないが、確固としたケルト文化の流れや、そこに内在する強さやしなやかさを実感。


 日本人と外国人バンドが重なる公演をハシゴ。ともに、一緒にやれるのが嬉しいという、笑顔と気持ち溢れる。

 まず、渋谷・オーチャードホールで、渡辺貞夫(200712月16日、他)を見る。ブラジル人奏者でバンドを固めたもので、ギタリストはバーデン・パウエルの息子さん。バンドのバランスからはみ出しすぎという声もあったようだが、癖ある弾き方をする人なんだな。突飛な事が好きなぼくは、きらいじゃないです。2部にはなんとアフロ色の強い新進サンバ歌手のファビアーナ・コッツァが登場し、バーデン・パウエル曲や渡辺貞夫曲を歌う。懐深い歌唱を披露。彼女目当てに見にきた人も少しはいたかもしれない。
 
 急ぎ渋谷・NHKホールに移動して、秋に飛躍作『Akiko』を出した矢野顕子。その新作録音を受けて、この夏にマーク・リーボウとのデュオ公演(2008年8月3日)をやったばかりだが、今度はリーボウを含むバンドにて。ドラマーはアルバムで叩いていた、ジェイ・ペルロウズ。彼のドラミング、面白すぎ。ドスンバタンという我流ぽい跳んだ味をステディな叩き味とうまく混ぜていて、素敵すぎる。総じては、ドラマー界のマーク・リーボウという味を持つと書きたくなるかな。『Akiko』は基本、矢野、リーボウ、ペルロウズのベースレス・トリオで録られていたわけだが、今回の実演にはベース奏者のジェニファー・コンドスが加わる。彼女、なかなかイケてるフレイズを出していたのではないか。本編最後の「ふなまち小唄」では米国人たちが嬉々として間の手かけ声を入れる。

 披露される曲は『akiko』からの曲が中心(収録曲は全部やったハズ)、途中に矢野のソロ・パフォーマンスを挟んで、ばっちり噛み合い、会話するバンド演奏を披露。いやあ、触れてて面白いったらありゃしない。とにかく、嬉しい大人の質あるミュージシャンのやりとりがたっぷり。この後、大阪、名古屋でライヴをやるようだが、きっともっと有機的な発展を遂げるはず。大阪や名古屋の聞き手がうらやましい。

 日曜ぐらい直帰すればいいのに、高揚しつつ、お店に流れる。その晩もまた、飲みたかった(行った先で、ジョアン・ジルベルト公演が中止になった代わりに、渡辺貞夫公演に行ったという人がいたナ)。で、深夜タクシー(個人)に乗ったら、なんか雰囲気がちがう。思わず、「この車は何ですか?」と、運転手さんに尋ねてしまう。答えは「ヒュンダイ(韓国メイカー)、です」。おお、ヒュンダイ車には初めて乗る。価格を武器に世界規模で言うとニッサンよりも売れるようになったと聞くが、ポニーキャニオンの側にあった虎ノ門の営業所(けっこう、張り切って開設したはず)は今年クローズされてしまい、日本のマーケットは苦戦しているんだろうなと勝手に思っていた。が、聞けば、今ヒュンダイはタクシー車のセールスに大攻勢をかけていて、同車を採用するところは個人/法人ともに増えているという。タクシー用途車はもちろんLPガス車で、2700ccだそうだ。

牧山純子

2008年12月15日 音楽
 渋谷・JZブラット、セカンド・ショウ。ドレス姿が美しいジャズ・ヴァイオリニスト、新作をフォロウするツアーのなかの1日。前見たとき(2007年11月27日)はフュージョン的なお膳立てだったが、今回は完全にアコースティックな編成(ピアノ・トリオ)にて。が、曲はスタンダード、ポップ曲、クラシック曲からオリジナルまでいろいろで、奇を衒わなくても自然に広がりのようなものは出る。ベース奏者はかつてPhat(2003年3月6日、2003年6月2日、他)で弾いていて人だ。

 アグレッシヴな曲をやったあと、使っているヴァイオリンは1700年代のものでまさかこんな曲を弾かされるとは思っていないはず、というようなことをMCで言っていたが、なるほどナ。いろんな感じで流麗に歌うヴァイオリンの音色に触れながら、クラシックの世界においては花形である、このハンディな楽器の不思議さに頭がふわんとしちゃう。あー、いろんな楽器や様式があり、山ほどの積み重ねがあり、それを踏まえての創意工夫がある……。



  唯一無二の米国人ドラマー(1945年〜1997年)の、60年代後期から数年間組んでいたジャズ・ロック・プロジェクト“ライフタイム”への思いを吐露しようとする、なかなか興味深い顔ぶれによるギグ。南青山・ブルーノート東京(ファースト・ショウ)。参加者は元クリームのジャック・ブルース(ベース)、ジャズ/ポップ両刀のシンディ・ブラックマン(ドラム)、 MMWのジョン・メデスキ(キーボード、1999年8月15日、2000年8月13日、2001年2月5日、2002年9月7日、2004年1月24日、2007年5月10日)、リヴィング・カラーのヴァーノン・リード(2000年8月13日)。ライフタイムはアルバムごとに面子や音楽志向を変えていたが、ブルースは中期ライフタイムのメンバーだった。

 目茶、おもしろかった。発汗した。多忙すぎて無理だったが、もう一度見たい!と思わずにはいられなかった。逆に言えば、和みの上品なジャズを聞ければと来店した人がいたとしたら頭を抱えたくなる実演だったろうけけど。やった曲は全部ライフタイムの曲だったかどうかは定かではないが、ロック的なひっかかりや刺を持つ、クールに丁々発止しまくる演奏が延々と展開されたのは間違いない。4人はしっかりと自分の持ち味を出しつつ、共通のゴールに向かう演奏を開いていました。

 ショート・スケールの小振りな電気ベースを弾くジャック・ブルースはかつてはピック弾きの人だったはずだが(記憶違いかもしれない)、この晩は指弾きでバンドをジャズ的に引っぱる演奏を披露する。おおいまだ進歩してるじゃないか! 彼は一部歌いもしたが、それは例の天を見上げるような美声歌唱ではなく、だらだらしたシング・トーク調のもの。メデスキにしてもリードにしても聞き手の期待を満たす演奏だったろうが、一番すごかったのは文句無しにブラックマンのパフォーマンス。ウィリアムズの爆裂ドラムをちゃんと消化し、ウイリアムズと化して叩きまくる様にゃもーほれぼれ。♥♥♥。けっこうな歳になっているはずだが、スリムな身体や風情もマル。同じようなヘア・スタイルしているし、エスペランサ・スポルディング(2008年9月5日。2008年12月1日)とリズム・セクションを組んでほしいと、切に思ったワタシ。それ、知人に伝えると、意外にベタな発想するんですねと言われてしまった。ハハ。

 感激したので、トニー・ウィリアムズのことを書いた原稿を再録しておく。2007年初夏のスイング・ジャーナルの増刊号に書いたものだ。


  ハード・パップが成熟し、新たな動きが顕
在化しようとしたとき、このミラクル青年は
あまりに新しい芽として登場した。ブルーノ
ートからのデビュー作は18才のときの録音。
リズムに対する発想が新しく、強力で、瞬発
力にも異常に長けていた。そのパルシィなド
ラミングは、新しい時代/ジャズがすぐそこ
で待っていることを伝えるものだった。しか
も、そのアルバムの収録曲は全て彼のオリジ
ナルであり、ゲイリー・ピーコックとのリズ
ム隊のうえにサム・リヴァースを泳がせると
いう方策を取っていた。いったい、小僧の分
際で何を考えているのか! まさに、野心を
持ったストロングなジャズ。ぼく、このアル
バムが出た時点で廃業を考えた真摯なジャズ
・マンがいると信じてやまない。
 そして、ポップと対峙する大胆な同時代ジ
ャズ・ロックを標榜したライフタイム時代(
69年~72年)にもぼくは頭を垂れる。全部で
4 枚のアルバムを出ているが、創意の裏返し
でそれぞれに編成/音楽性違いで録られたそ
れらもまた大いな意義と聞きどころを持つ仕
上がりを見せる。
 それにしても、非ジャズ側にいたプレイヤ
ーも雇った70年前後のタイフタイムの時。あ
の頃、ウィリアムズはロック側に行くべきだ
と思っていたのではないか。だが、彼はすで
にジャズ側で名声を獲得しすぎ、ジャズ側の
人間としてプロモートされたり語られたりす
るしかなかった。不完全燃焼。それ、大きな
不幸だと思う。もし、彼が無名な怪物ドラム
野郎だったなら、もう少し彼は楽に音楽をで
きたろう。基本アコースティックに戻った80
年代以降のブルーノート発のアルバムもそれ
なりに精気と工夫とがあって、絶対に悪い作
品ではない。だが、どこかでボタンのかけ違
えがあった天才の悲劇/もどかしさのような
ものを感じ、ぼくは聞いてて辛くなる。天国
ではなんの障壁もなく、自分の音楽を展開で
きていることを願ってやまない。


藤井郷子

2008年12月17日 音楽
 新宿・ピットイン。この晩は藤井郷子4(彼女に加え、マーク・ドレッサーとジム・ブラックの異能リズム・セクションに、トランペッターの田村夏樹。2002年8月5日、2004年7月27日)によるものだったのだが、ドレッサーの義理のお母さんが亡くなり、彼は帰国。かわりに、日本語ペラペラだそうな在日クロアチア系カナダ人ギタリストのケリー・チュルコが加わってのものとなる。ここ一年ほど藤井オーケストラ東京(2006年7月3日)に参加したりもするそうだが、けっこう飛んだ弾き方をする彼は無理なく、長年音を重ねている他の3人の演奏に入り、とき舵とりをしたりもする。興味深くも、楽しいジャズの実演……その他、所感は来年売りのミュージック・マガジン誌のライヴ評にて。


 11月20日台から、かなりドタバタバタ。もー依頼を受けた原稿を書くのと夜の予定をこなすのでぱんぱん、<ライヴ三昧>の原稿を書く余裕がなく、溜めまくり(さすがに、書くときにはけっこう忘れているよー)。こんなに、てんぱった年末ってここ15年ぐらいなかったんじゃないか。ま、世の中いろいろあらーなと思いつつ、ひいん。

 年末年始は思うまま自堕落しちゃおう。09年もピース!