2年前に見た2人の共演ライヴ(2009年9月4日)はすごかった。それは当人たちも鬼のように自覚していたようで、なんと四つに組んだ共演ライヴ盤が企画されている。三軒茶屋・昭和女子大学人見記念講堂。今晩の実演は、そのライヴ盤の公開録音の場ナリ。

 ステージには互い違いに、グランドピアノが置かれる。開演前に矢野と上原の対話形式によるユーモラスな観客心得を指南するMCが流される。笑いを誘うのは、ショウの最中のMCも同様。もともと、矢野は人を喰った天衣無縫なユーモア感覚を持つ人だが、今回、上原のそれも、矢野の発言流儀に感化されたようにフフフとなれるものを連発。いろんな部分で、瞬発力/適応力が高いと思わされる。

 で、本編/アンコールで9曲披露される。どれも矢野の歌が入る曲で、両者のソロや噛み合いの妙をどれも持つ。うち、3曲はできに不満を感じ、アンコール時にやり直す。曲は矢野曲、上原曲に加え、ビル・ウィザーズの「リーン・オン・ミー」とかも。とにかく、まったく飽きずにせっしまくられる、ミュージシャンシップと“顔”を持つ、生きている音楽が瑞々しく舞う。素晴らしい。

 『Get Together』と名付けられるライヴ盤は、11月23日に上原が契約するテラーク/ユニヴァーサルを通してリリースされる。矢野顕子は毎年年末に<さとがえるツアー>というのをやっていて、ここ3年間(2008年12月14日、2009年12月13日、2010年12月12日)はマーク・リーボウ(2011年8月4日、他)ら同じ顔触れの4人の米国人精鋭奏者を呼んでいたが、今年はこの2人による出し物になるとのこと。お、プラチナ・チケットになっちゃう? ライヴ盤化前提のパフォーマンスなためか、この晩は演奏時間を抑える方向(とはいえ、それぞれ10分近くはあったと思うが)にはあったようで、たっぷりソロを聞きたかったら<さとがえるツアー>に来てね、なーんていうことも、矢野は言っていたな。

<今日の思い出>
 ライヴを接しながら、初めてNYに行ったときに見ることができた、1986年1月下旬のNYラウンドアバウト劇場の様をリアルに思い出した。ジョー・ジャクソンの全曲新曲一発録り公開ライヴ・レコーディングの場。ピリリと張りつめた空気感が、古いクラシック用音楽ホールを支配していた。曲が終わってもすぐには拍手するなとか書かれた注意書を入場時にわたされもした。待ち構える観客を前に、噛んでいたガムをペっと吐き出して、ジャクソンは演奏をスタートさせた。なんか、とても格好いい所作に思え、ぼくは震えたな。彼はレコーディング機器の発達で才のない奴ででもそれなりの質を持つアルバムを作れちゃう状況に大反発、ツっぱりまくって、そういう嘘いつわりのない公開レコーディング機会をもうけたのだった。そして、それは『Big World』(A&M、86年)というアルバムになっている。