ジム・ジャームッシュの3年ぶりの新作、2019年米国映画を市ヶ谷・日本シネアーツ社試写室で見る。市井の映画館は今がらがらであると聞いていたせいもあり、普段は15分前には試写会場に入るようにしているが、この日はどうせ空いているだろうとタカをくくりギリで入ったらなんと満場。補助椅子に座って見た。電車の窓を少し開けてもいいんじゃないかと思っており、その話を出すと賛同も受けるが、まだ開けられている車両に乗ったことはないな。行き帰りとも、通常とそんなに混み具合は変わらない感じ。

 地球の自転軸がズレて、様々な怪奇現象が起き始め……それは死人がゾンビになって人間を襲うことも引き起こす。なんと、大御所の新作はゾンビ映画だ。コメディ映画という打ち出しもしているが、ちょっとしたやりとりが笑いを誘う部分はある。とぼけた、楽屋落ちな台詞もあり。ちょいクエンティン・タランティーノ的な、不条理な諧謔を覚えるところもあった。日本刀を振りまわす葬儀屋のスコットランド出身らしい女性店主なんて、タランティーノ映画に出てきそうなキャラクターだとぼくは思う。いや、確かジャームッシュ作品にも過去に刀を振り回す登場人物がいたような気もするし、タランティーノがジャームッシュに影響を受けているのは間違いない。

 ビル・マーレイ(映画「ライフ・アクアティック」のころと比べるとじいさんになったなー)、ジャームッシュの2016年リリースの2本の映画の主役であるアダム・ドライヴァー(2017年7月7日)とイギー・ポップ、そしてトム・ウェイツら、ジャームッシュと近い人たちがいろいろ出演。ポップとウェイツはともにはまり役? ミュージシャンだと、ウータン・クランのRZAやセレーナ・ゴメスも出てくる。なんとも荒唐無稽なストーリーを生真面目に、どこか弛緩したテンポにて綴っている。

 表題の「The Dead Don’t Die」は、劇中にいろいろ使われるカントリー・ソングの曲名でもあり、それはその畑では今トップ級にのっているスタージル・シンプソンの曲。→2017年にファンタスティック・ネグリート(2017年4月7日、2019年5月24日)にインタヴューした際に、シンプソンはいいなと言っておりました。のんびりした曲調のもと死者の復活+アルファが歌われるこの曲は映画のストーリーともばっちり合っており、これは書き下ろしなんだろうな。もとい、映画の場所はカントリーを愛でる空気も流れる、時間が止まっているような田舎町(ただし、なぜか少年院もある)。そこはポイントで、ほのぼのした安穏さとありえない惨事との対比を高める。また、ある種の普遍性も出てくるか。

 最後のええっという展開には、唖然。これでいいのか? なんにせよ、ジャームッシュが今の社会に、米国の現況にかなり違和感を持っていることだけはよく伝わる。4月3日より公開されます。

▶︎過去の、映画「パターソン」
https://43142.diarynote.jp/201707080859335054/
▶︎過去の、映画「ライフ・アクアティック」
https://43142.diarynote.jp/200502161844550000/
▶︎過去の、ファンタスティック・ネグリート
https://43142.diarynote.jp/201704130837359192/
https://43142.diarynote.jp/201905250820424812/

<少し前の、訃報>
 ジャズ・ピアノ大家のマッコイ・タイナー(2003年7月9日、2008年9月10日、2011年1月12日)がお亡くなりになった。1938年12月11日〜2020年3月6日。彼には、1990年代に一度インタヴューしたことがある。月刊プレイボーイの記事用だったか。コルトレーン諸作や彼の『サハラ』や『フライ・ウィズ・ザ・ウィンド』、『ザ・リアル・マッコイ』とかは持っていたが、彼が関わったプロダクツの10分の3.3ほどしかぼくは聞いていないという思いはあった。だが、一般誌なら過剰に入り込んでいなくても、読み手に分かりやすく訴求する原稿は書けると思い、おそるおそる引き受けた。そしたら、そのころすでに彼は痩せていたが、これがなんとも下世話な、くだけた人物でびっくり。で、スケベ。行く先々にオンナがおってのお、みたいな話もこっちが聞きもしないのに彼はずらずら喋った。記事には入れませんでしたけど。英雄、色を好む……。安らかに。
▶過去の、マッコイ・タイナー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-7.htm
http://43142.diarynote.jp/200809111754413101/
http://43142.diarynote.jp/201101131336421886/