ギタリストの平井庸一の新作『THE HORNET』(フル・ハウス)リリースをフォロウするライヴを、新宿・ピットインで見る。
平井に加え、ヴォーカルの花咲政之輔、アルト・サックスの山田 光(2014年7月22日)、コントラバスの土村和史(チェロに近い音を出すという、5度チューニングを施す)とカイドーユタカ(2014年7月22日、2020年2月1日)、ドラムの井谷享志(2017年1月9日、2018年1月8日、2019年1月13日、2020年1月13日)というレコーディング参加の面々に加え、曲によってはキーボードやピアノの木村秀子が加わる。
『THE HORNET』のタイトル・トラックはオーネット・コールマンへの思慕を著した曲のようだが、そのオープナーの「ブリッジ・オン・ザ・ワールプール」はよりコールマン性が高いというか、少しハーモロディックが入っているかもと思わせる曲。そのコールマンは2ギター/2ドラムという編成でやっていたが、平井はだいぶ前から2コントラバスという形でやっているのは興味深い。どういう発想でそれに至ったかは知らないが、2人のコントラバス奏者はなるほどな感じで絡み、ときにはどちらかがアルコ弾きをする。
変拍子やポリリズムの感覚ありの、レイヤーの感覚にも留意したところもある、辛口でクールな現代ジャズを送り出す。素材は、すべて平井のオリジナル。その演奏や楽曲に触れると、彼は本当に古今東西のジャズに触れ、きっちりと自分の中で系統立てて消化し、自らの構築物として出しているのだなという所感を得る。面白いのはMCで、テリエ・リプダル、ティム・バーン(2000年8月6日)が作りそうな曲、ネルス・クライン(2010年1月9日、2010年4月23日、2013年4月13日、2014年8月14日、2015年6月2日、2017年5月13日)とヴィジェイ・アイヤー(2014年6月17日、2014年6月19日、2014年6月20日、2019年5月27日)が一緒にやったら思えるような曲とか、その曲の背景にあるものを隠すことなく説明していたこと。へえ〜、ここまで正直な人は珍しいかもしれない。やっぱり、ギター奏者としてはリプダルが一番好きなのかな? ECMからトップ級に厚遇されたギタリストであるリプダルはいろいろな形態のアルバムを作っているが、彼もまだまだ作品としては出していない表情もあるのだろう。
新曲と言ってやった曲は、キング・クリムゾンの「太陽と戦慄」をどこか想起させる。そういえば、サックス奏者やヴァイオリン奏者もいるUK新進7人組のブラック・カントリー・ニュー・ロードのデビュー作『フォー・ザ・ファースト・タイム』(ニンジャ・チューン)にも「太陽と戦慄」を思い出させる曲が入っていたな。ジャズやエスノ要素も持ち演奏部にも多大な力を注ぐ(パンク・ジャズ風のぶっこわれギターも入っている)彼らの同作はこのまま行けば、今年のロック・アルバムのベスト15ぐらいには入るかもしれない。
真摯なようで不埒というか、サバけていると思わせるのは、多くの曲のテーマ部に歌詞なしのヴォーカルを入れて、異化作用を得んとしているところ。花咲政之輔は野太い声を介し複雑なテーマを確かな音程で楽器的にかますとともに、エンディング部では自在に声をとばせていて感心。その存在は生真面目なジャズという印象を払拭し、ある種の諧謔や風穴を与えている。平井は当然として、花咲や山田光は自分の声や音にエフェクトをかける場合もあり、井谷も横に鍵盤を置いていて効果音的な音を入れる場面もあった。2ベース編成となるとドラマーはそれに対峙せんと力強く叩きそうなところ、井谷はけっこうパーカッション的な叩き方も繰り出す。そういう一筋縄でいかないところもマル。
まっすぐに自分のジャズを作り出そうとしている人間がいる。当たり前のことだが、その思いをおおいに得た。
▶︎過去の、山田光
https://43142.diarynote.jp/201407231341189225/
▶︎過去の、カイドーユタカ
https://43142.diarynote.jp/201407231341189225/
https://43142.diarynote.jp/202002020954394276/
▶︎過去の、井谷享志
http://43142.diarynote.jp/201701101136544400/
https://43142.diarynote.jp/201801100512178732/
https://43142.diarynote.jp/201901141236416025/
https://43142.diarynote.jp/202001141031439634/
▶︎過去の、ティム・バーン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm
▶過去の、ネルス・クライン
http://43142.diarynote.jp/?day=20100109 田村/藤井郷子ファースト・ミーティング
http://43142.diarynote.jp/201004250658039897/ ウィルコ
http://43142.diarynote.jp/201304150854159566/ ウィルコ
http://43142.diarynote.jp/201408161131356136/ チボ・マット
http://43142.diarynote.jp/201506070750376864/ ネルス・クライン・シンガーズ
https://43142.diarynote.jp/201705140938439184/ スコット・アメンドラ
▶過去の、ヴィジェイ・アイヤー
http://43142.diarynote.jp/201406180853065508/
http://43142.diarynote.jp/201406201008164250/
http://43142.diarynote.jp/201406210910441716/
https://43142.diarynote.jp/201905290941114147/
<今日の、うれしい付録>
現在、ここの夜の部は18時の開演。そして、19時50分には終わるという触れ込みであったが、一部終了がすでに19時を回る。どうなるかと思ったら、1曲を端折り、ちゃんと50分ちょい前に終わった(笑い)。ハコの外に出ると、花咲政之輔たちが振る舞い酒をしている。こういう時期だからこその所作だろうが、喜んでいただく。こういうことをする連中が悪いわけはない。平井は花咲が率いる太陽肛門スパパーンのメンバーでもある。ぼくのなかで太陽肛門スパパーンはジャズも含む広義の洋楽要素を踏まえた上で赤裸々な人間性表出につながるお下劣な歌謡曲性を押し出す集団というイメージを持っていた〜どこかで、面影ラッキーホール(2009年1月25日)と重なる印象もあったか〜がちゃんと聞かなきゃと思う。彼らは近く4作目となる「円谷幸吉と人間」(太陽肛門工房/レフトサイド)が出るようだ。
▶︎過去の、面影ラッキーホール
https://43142.diarynote.jp/200901270025408952/
追記;木村秀子は、ギターのファビオ・ボッタッツォ 、ベース(縦主体)の土村和史、ドラムの嘉本信一郎と#11というカルテットを組み、『Sharp Eleven』(SE)というアルバムを出していて、そちらではピアノを弾いている。楽曲をメンバーがそれぞれ出し合っていて、ポスト・バップ調、ジャズ・ロック調、ドラムンベースやクラーヴェのリズムを用いたものまでいろんな曲が認められる。そこには、ジャズという普遍的な回路をいかに時代や環境に合わせて伸長させるかという試みが横たわっている。
平井に加え、ヴォーカルの花咲政之輔、アルト・サックスの山田 光(2014年7月22日)、コントラバスの土村和史(チェロに近い音を出すという、5度チューニングを施す)とカイドーユタカ(2014年7月22日、2020年2月1日)、ドラムの井谷享志(2017年1月9日、2018年1月8日、2019年1月13日、2020年1月13日)というレコーディング参加の面々に加え、曲によってはキーボードやピアノの木村秀子が加わる。
『THE HORNET』のタイトル・トラックはオーネット・コールマンへの思慕を著した曲のようだが、そのオープナーの「ブリッジ・オン・ザ・ワールプール」はよりコールマン性が高いというか、少しハーモロディックが入っているかもと思わせる曲。そのコールマンは2ギター/2ドラムという編成でやっていたが、平井はだいぶ前から2コントラバスという形でやっているのは興味深い。どういう発想でそれに至ったかは知らないが、2人のコントラバス奏者はなるほどな感じで絡み、ときにはどちらかがアルコ弾きをする。
変拍子やポリリズムの感覚ありの、レイヤーの感覚にも留意したところもある、辛口でクールな現代ジャズを送り出す。素材は、すべて平井のオリジナル。その演奏や楽曲に触れると、彼は本当に古今東西のジャズに触れ、きっちりと自分の中で系統立てて消化し、自らの構築物として出しているのだなという所感を得る。面白いのはMCで、テリエ・リプダル、ティム・バーン(2000年8月6日)が作りそうな曲、ネルス・クライン(2010年1月9日、2010年4月23日、2013年4月13日、2014年8月14日、2015年6月2日、2017年5月13日)とヴィジェイ・アイヤー(2014年6月17日、2014年6月19日、2014年6月20日、2019年5月27日)が一緒にやったら思えるような曲とか、その曲の背景にあるものを隠すことなく説明していたこと。へえ〜、ここまで正直な人は珍しいかもしれない。やっぱり、ギター奏者としてはリプダルが一番好きなのかな? ECMからトップ級に厚遇されたギタリストであるリプダルはいろいろな形態のアルバムを作っているが、彼もまだまだ作品としては出していない表情もあるのだろう。
新曲と言ってやった曲は、キング・クリムゾンの「太陽と戦慄」をどこか想起させる。そういえば、サックス奏者やヴァイオリン奏者もいるUK新進7人組のブラック・カントリー・ニュー・ロードのデビュー作『フォー・ザ・ファースト・タイム』(ニンジャ・チューン)にも「太陽と戦慄」を思い出させる曲が入っていたな。ジャズやエスノ要素も持ち演奏部にも多大な力を注ぐ(パンク・ジャズ風のぶっこわれギターも入っている)彼らの同作はこのまま行けば、今年のロック・アルバムのベスト15ぐらいには入るかもしれない。
真摯なようで不埒というか、サバけていると思わせるのは、多くの曲のテーマ部に歌詞なしのヴォーカルを入れて、異化作用を得んとしているところ。花咲政之輔は野太い声を介し複雑なテーマを確かな音程で楽器的にかますとともに、エンディング部では自在に声をとばせていて感心。その存在は生真面目なジャズという印象を払拭し、ある種の諧謔や風穴を与えている。平井は当然として、花咲や山田光は自分の声や音にエフェクトをかける場合もあり、井谷も横に鍵盤を置いていて効果音的な音を入れる場面もあった。2ベース編成となるとドラマーはそれに対峙せんと力強く叩きそうなところ、井谷はけっこうパーカッション的な叩き方も繰り出す。そういう一筋縄でいかないところもマル。
まっすぐに自分のジャズを作り出そうとしている人間がいる。当たり前のことだが、その思いをおおいに得た。
▶︎過去の、山田光
https://43142.diarynote.jp/201407231341189225/
▶︎過去の、カイドーユタカ
https://43142.diarynote.jp/201407231341189225/
https://43142.diarynote.jp/202002020954394276/
▶︎過去の、井谷享志
http://43142.diarynote.jp/201701101136544400/
https://43142.diarynote.jp/201801100512178732/
https://43142.diarynote.jp/201901141236416025/
https://43142.diarynote.jp/202001141031439634/
▶︎過去の、ティム・バーン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm
▶過去の、ネルス・クライン
http://43142.diarynote.jp/?day=20100109 田村/藤井郷子ファースト・ミーティング
http://43142.diarynote.jp/201004250658039897/ ウィルコ
http://43142.diarynote.jp/201304150854159566/ ウィルコ
http://43142.diarynote.jp/201408161131356136/ チボ・マット
http://43142.diarynote.jp/201506070750376864/ ネルス・クライン・シンガーズ
https://43142.diarynote.jp/201705140938439184/ スコット・アメンドラ
▶過去の、ヴィジェイ・アイヤー
http://43142.diarynote.jp/201406180853065508/
http://43142.diarynote.jp/201406201008164250/
http://43142.diarynote.jp/201406210910441716/
https://43142.diarynote.jp/201905290941114147/
<今日の、うれしい付録>
現在、ここの夜の部は18時の開演。そして、19時50分には終わるという触れ込みであったが、一部終了がすでに19時を回る。どうなるかと思ったら、1曲を端折り、ちゃんと50分ちょい前に終わった(笑い)。ハコの外に出ると、花咲政之輔たちが振る舞い酒をしている。こういう時期だからこその所作だろうが、喜んでいただく。こういうことをする連中が悪いわけはない。平井は花咲が率いる太陽肛門スパパーンのメンバーでもある。ぼくのなかで太陽肛門スパパーンはジャズも含む広義の洋楽要素を踏まえた上で赤裸々な人間性表出につながるお下劣な歌謡曲性を押し出す集団というイメージを持っていた〜どこかで、面影ラッキーホール(2009年1月25日)と重なる印象もあったか〜がちゃんと聞かなきゃと思う。彼らは近く4作目となる「円谷幸吉と人間」(太陽肛門工房/レフトサイド)が出るようだ。
▶︎過去の、面影ラッキーホール
https://43142.diarynote.jp/200901270025408952/
追記;木村秀子は、ギターのファビオ・ボッタッツォ 、ベース(縦主体)の土村和史、ドラムの嘉本信一郎と#11というカルテットを組み、『Sharp Eleven』(SE)というアルバムを出していて、そちらではピアノを弾いている。楽曲をメンバーがそれぞれ出し合っていて、ポスト・バップ調、ジャズ・ロック調、ドラムンベースやクラーヴェのリズムを用いたものまでいろんな曲が認められる。そこには、ジャズという普遍的な回路をいかに時代や環境に合わせて伸長させるかという試みが横たわっている。