エスペランサ

2017年3月27日 音楽
 いやはや。エスペランサ・スポルディング(2008年9月5日、2008年12月1日、2010年9月4日、2011年2月17日、2012年3月7日、2012年9月9日、2015年9月5日、2016年5月31日)、凄すぎ。もう、驚愕するしかありません。南青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。しかし、今回の来日公演は急に決まった。豪州とかの行き来に寄ったのかと思えば、そうではなさそうだし……。

 近2回の公演は別人格になりきった“エミリー・D+エヴォルーション”プロジェクトによるものだったが、ステージに出て来た彼女は眼鏡をかけない、旧来のアフロなエスペランサ。そのことで、“エミリー・D”の縛りから離れた実演を見せようとしていたと言えますね。ともあれ、過去2回はホール公演、久しぶりにわりと近目で見た彼女はちゃんと化粧をしていて、それまでの健康美溢れるアフロな彼女とは違っていたか。いや、“エミリー・D”のときも赤い口紅とかは目立っていたような気がするし、かつて2度やったインタヴューはともに午前中だったので、化粧をしていなかったのかもしれない。きっちり化粧しているエスペランサ、そりゃ綺麗でした。

 エレクトリック・ギターのマシュー・スティーヴンス((2009年1月31日、2013年6月4日、2014年8月7日、2015年1月22日)、ドラムのジャスティン・タイソン(2015年9月5日、2016年5月31日)の、二人を率いる。冒頭は、エルメット・パスコワール(2004年11月6日、2017年1月8日)の曲、ボブ・ドロウ(2013年6月28日)曲、アレサ・フランクリンとチック・コリア(2006年9月3日、2007年10月1日、2016年9月16日)の曲を繋いだものなど、他人曲で攻める。とはいえ、エスペランサという癖と魔法を通過したそれらは天衣無縫にあっちこちに飛び出して行くもので、MCで曲説明を受けなかったら分からなかったな。

 とにもかくにも、ウッド・ベースを弾きながらタイト・ロープの上を渡る歌は可憐きわまりなく、これまた雄弁なベースとの相乗もすごい。ベース100点、歌も100点、その重なった総体は200点超え? サポート陣ももう“今な”演奏で、胸のすくエスペランサ弾き語り表現にうにうに十全に寄り添う。しかし、マシュー・スティーヴンスのギターはもろに故ジェフ・リー・ジョンソン(2004年10月28日、2012年9月9日。その訃報に触れているのは、2013年1月30日)流儀を踏襲。なるほど、エスペランサはジョンソンのことを大好きなので、今回のスティーヴンスのイケてる演奏は彼女の指示を経てのものであると思う。いやあ、トリオだと、それぞれの音の純度の高さながわかりすぎて、仰天し、昇天しちゃう。

 その後は、オリジナル曲も歌う。終盤2曲は、フレットレスのエレクトリック・ベースを弾きながら歌う。その際、彼女は白いチャンピオン・ベルトのような幅の広いベルトをわざわざ腰に巻く。???と思ったら、バックルの部分にベースを固定して(つまり、肩紐なしで)弾いたよう。そんなことする人、初めてですね。そして、また彼女はまた縦ベースにもどり、本編を終える。

 そして、アンコールのエスペランサは……、なんとアコースティック・ベースの弾き語り。うわあ。本編を見ながら、一人パフォーマンスでもいけるはずと思っていたら、本当にそれをしてくれてうれしい。あと、ここでは、客にコール&レスポンスを求める。彼女がそういうことをしたのは、初めてのような気がするが。

 技と知識が下敷きとなり、そこにインプロヴィゼーションやインタプレイを伴いないつつ、歌声と楽器音が一体となるとても透明感や美麗さを持つアメーバーのような表現がこぼれ出てくる……。そして、それは、ジャズもポップも超えた、エスペランザ・スポルティングという名のニュー・ミュージックと言うしかないだろう。いやあ、神はとんでもない才能を、この女性に与えてしまった。まじ、そう言うしかありません。

▶過去の、エスペランサ・スポルディング
http://43142.diarynote.jp/200809071430380000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20081201
http://43142.diarynote.jp/?day=20100904
http://43142.diarynote.jp/201102190814495504/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120307
http://43142.diarynote.jp/201209191229057579/
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/
http://43142.diarynote.jp/201606101027587993/
▶過去の、マシュー・スティーヴンス
http://43142.diarynote.jp/201306060730086224/
http://43142.diarynote.jp/201306060730086224
http://43142.diarynote.jp/201408091058201133/
http://43142.diarynote.jp/201501230914317086/
▶︎過去の、ジャスティン・タイソン
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/
http://43142.diarynote.jp/201606101027587993/
▶︎過去の、エルメート・パアスコアール
http://43142.diarynote.jp/200411071407550000/
http://43142.diarynote.jp/201701091249004326/
▶過去の、ボブ・ドロウ
http://43142.diarynote.jp/201307010908249319/
http://43142.diarynote.jp/201506070920231979/
▶過去の、チック・コリア
http://43142.diarynote.jp/?day=20060903
http://43142.diarynote.jp/200710121726160000/
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/
▶︎過去の、ジェフ・リー・ジョンソン
http://43142.diarynote.jp/?day=20041028
http://43142.diarynote.jp/201209191229057579/ エスペランサ
http://43142.diarynote.jp/201301311053069360/ R.I.P.

<今日の、連想>
 なんか、本当にオリジナルで、我が道を行く造形や手触りを持つエスペランサの音楽に触れ、ふと酔っぱらった頭には先日新国立美術館で見た草間彌生の個性溢れる展示物が浮かんだ。草間が水玉なら、エスペランザは水玉の形が色々に変化し、泳ぎ回る。なあんて、ね。その5月までやっている展覧会、かなりな作品数を集めていた。1950年代の絵も、また興味深い。昔のものを、明るく、明快にしたのが、今受けている作品群となるのか。やはりもともと確かな技量をお持ちなのは疑いなく、それが自在の創造性と発想とともにプロダクツが広がって行ったのがよく分かった。野外には(これ、チケットを買わなくても横まで行けるはず)、大きな水玉かぼちゃの展示も。なんでも直島に置かれたそれは中に入っていいそうで、それを経験した知人が中に入ろうとして、係員から注意を受けていた。ははは。ところで、草間彌生はテイ・トウワ(2011年8月7日、2016年8月21日)の2013年作『LUCKY』のアート・ワークをやっていたが、新作『EMO』を出す彼に2月にインタヴューした際、こんなことを言っていた。「なんなら、僕はどこにも所属したくない。そういう意味では、草間弥生さんと同じかもしれない。彼女も昔はNYに住んでいたりもし、どこがいいですかとたずねたことがあったんです。そしたら彼女は、私はどの宇宙にも族しておりません、と。もう、すみません、となりました」。そのときの取材を元にした記事は、毎日新聞の3月30日夕刊に載ります。


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