ヴォーカルも兼業する器楽奏者比率は、トランペッターが一段と高いことは間違いないだろう。それはルイ・アームストロングがいたからか。それとも、チェト・ベイカーの味の良さが後の人たちに影響を与えているのか。トランペットと歌を担当する、バルセロナ拠点のモティス(1995年生まれ)の様を見ながら、ふとそんなことを考えた。南青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。すべてヴォーカルを取り、確か1曲を除いてはソロも取る。また、彼女は1曲(「ラヴ・スプリーム」)ではアルト・サックスを小さくしたような楽器(カーヴド・ソプラノ・サックス)も手にし、ソロをとった。

 小柄で華奢なアンドレア・モティスを、イグナシ・テラーザ(ピアノ)、ジョゼップ・トラベル(ギター。結構、ぼくの好みだなと思った)、小澤基良(ベース)、ダヴィッド・シルグ(ドラムス)がサポート。小澤いがいは皆、スペイン人だろう。

 新作はけっこうボサ味を介するアルバムだったが、英語のスタンダードだけでなく(ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」も披露)、ポルトガル語やスペイン語(カタルーニャ語?)の曲も歌い、そのほうがエキゾ性は増す。なんにせよ、基本は和み傾向にあると書けるものだが、声量はないものの歌のピッチは狂わないし、トランペットのソロも爆発力はないがとっても確か〜やっていることからすればカップを用いても不思議はないが、それはしない。それ、腕のリーチから来るもの?〜で、きっちりジャズを学び、その成果を出していると思わせる。立派なジャズ知識とジャズ愛は想像を超えるものだった。そういえば、ある曲で彼女はまったくビリー・ホリディの歌い方を踏襲していると、ビリー・ホリデイのエンスージアストが言っておりました。

 その後は丸の内・コットンクラブに移動し、米国西海岸拠点のジャズ歌手であるサラ・ガザレク(2006年3月22日、2007年12月27日、2008年3月13日、2012年7月4日、2015年7月7日 )を見る。

 デビュー時からピアニストのジョシュ・ネルソン(2006年3月22日、2008年3月13日、2012年7月4日、2015年7月7日 、2019年2月15日)を音楽的お目付役としておいていた彼女だが、2019年新作『ディスタント・ストーム』はカート・エリング(2012年6月21日、2016年3月1日)の2018新作『ザ・クエスチョンズ』(ソニー)に参加/アレンジをしていたスチュ・ミンデマンが関わっているのが要点(同作のアレンジはラリー・ゴールディングス〜1999年4月13日、2000年3月2日、2012年11月12日。2013年5月10日、2016年6月4日〜やジェフ・キーザー〜2005年1月18日、2006年9月17日、2015年7月9日、2018年11月26日〜もしている)。そのミンデマンの新作『Woven Threads』(Sunny Side、2018年)は幼少期を過ごしたチリの音楽への愛着を覚醒させたヴォーカルも介する作品で、そこにはドラムのマカヤ・マクレイヴン(2017年12月12日、2018年7月10日、2019年2月19日)やトランペットのマーキス・ヒル(2016年9月17日、2017年1月7日、2017年1月16日、2018年5月24日)といった彼が住むシカゴ現代ジャズ界の重要人物が参加していた。そんな彼が関わる『ディスタント・ストーム』はライナー盤なのだが、その文章の最後をぼくは<2019年屈指のジャズ・ヴォーカル・アルバムになること請け合いである。>と締めた。同作、まさにリアルなジャズ感覚と今が綱引きする傑作であると太鼓判をおす。

 ショウは、ピアノとエレクトリック・ピアノを弾くスチュ・ミンデマン、ベースのアレックス・ボーナム(2018年4月19日)とドラムのクリスチャン・ユーマン(2018年4月19日)という『ディスタント・ストーム』のコアとなる奏者たちが参加。そして、そのアルバムに入っていたジョシュ・ジョンソン(2017年1月16日、2017年8月15日)の代わりにテキサスからNY に引っ越して以降のスナーキー・パピー(2016年6月16日、2016年6月17日、2017年4月18日)に加入しているテナー・サックスのボブ・レイノルズが同行という何気にスペシャルな陣容で、面々は隙間や流動性は抱えるものの、生理的に一丸となったパフォーマンスを披露した。

 当然のことながら、『ディスタント・ストーム』からの曲を中心に披露する。スティーヴィー・ワンダー(2005年11月3日、2010年8月8日、2012年3月5日)やドリー・パートンの有名曲もやるが、これが大胆にコードの置き換えをし、リズムもめちゃ変え、歌のライン取りもあっち側に持っていくという塩梅であり、それを完璧にインタープレイを介し送り出すのだからこれは唸るしかない。

 また、驚いたのはガザレクの喉。もともと歌のうまい人だったが、鬼のようにマイクを離しもし、こんなにも声量と技巧とフィーリングに満ちたジャズ・シンガーであったのかと感服。どうにもこうにも、創意と密度とスリルに満ちたパフォーマンスであった。アンコールの「ディスタント・ウェザー」(ブラッド・メルドー〜2002年3月19日、2003年2月15日、2005年2月20日、2015年3月13日〜の2002年リリース佳曲「ホエン・イット・レインズ」にガザレクが歌詞をつけ、新たな曲名にした)が終わったあとには、緊張がとけ心地よい疲労に包まれた。これ、2019年最良の現代ジャズ・ヴォーカルの日本公演となるだろう。

▶過去の、サラ・ガザレク
http://43142.diarynote.jp/200603281332270000/
http://43142.diarynote.jp/200712291957590000/
http://43142.diarynote.jp/200803141250260000/
http://43142.diarynote.jp/201207071327008624/
https://43142.diarynote.jp/201507090944439091/
▶過去の、ジョシュ・ネルソン
http://43142.diarynote.jp/200603281332270000/
http://43142.diarynote.jp/200803141250260000/
http://43142.diarynote.jp/201207071327008624/
https://43142.diarynote.jp/201507090944439091/
https://43142.diarynote.jp/?day=20190215
▶過去の、カート・エリング
http://43142.diarynote.jp/201207031311348277/
https://43142.diarynote.jp/201603111217517934/
▶過去の、ラリー・ゴールディングス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live1.htm 1999年4月13日(カーラ・ブレイ)
http://www.myagent.ne.jp/%7Enewswave/live-2000-3.htm
http://43142.diarynote.jp/201211170928285333/
http://43142.diarynote.jp/201305131335092387/
http://43142.diarynote.jp/201606121224129353/
▶︎過去の、ジェフリー・キーザー
http://43142.diarynote.jp/200501222324430000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20060917
http://43142.diarynote.jp/201507110856518338/
https://43142.diarynote.jp/201811271055049781/
▶︎過去の、アレックス・ボーナム
https://43142.diarynote.jp/201804201245196118/
▶︎過去の、マカヤ・マクレイヴン
http://43142.diarynote.jp/201712131709468312/
▶︎過去の、マーキス・ヒル
http://43142.diarynote.jp/?day=20160917
http://43142.diarynote.jp/201701091247527188/
http://43142.diarynote.jp/201701171118107802/
https://43142.diarynote.jp/201805250930363191/
▶︎過去の、クリスチャン・ユーマン
https://43142.diarynote.jp/201804201245196118/
▶︎過去の、ジョシュ・ジョンソン
https://43142.diarynote.jp/201701171118107802/
https://43142.diarynote.jp/201708161337599841/
▶︎過去の、スナーキー・パピー
http://43142.diarynote.jp/201606171730294884/
http://43142.diarynote.jp/201606201007017702/
http://43142.diarynote.jp/201704200801169451/
▶過去の、スティーヴィー・ワンダー
http://43142.diarynote.jp/200511130015240000/
http://43142.diarynote.jp/201008261618276388/
http://43142.diarynote.jp/201203062006429595/
▶過去の、ブラッド・メルドー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/%7Enewswave/live-2003-2.htm
http://43142.diarynote.jp/200502232041270000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20150313

<今日の、つながり>
 1977年生まれ、フロリダ州育ちでバークリー音楽大学卒のボブ・レイノルズはなかなか育ちの良さそうな感じの人。彼はいろいろなリーダー作を出しているが、ギターの写真がジャケット・カヴァーに出された2017年自主制作盤『Bob Reynolds Guitar Band』はキーボードレスで、かわりに二人のギタリストが入ったライヴ・アルバム。レイノルズは、ジョン・ メイヤー(2007年4月5日)のバンドに入っていたこともありましたね。ぐうぜん、その二分の一のギタリストであるニア・フィルダーは明日から3日間、東京国際フォーラムのホールCに出演。二人は、“有楽町で逢いましょう”をするか?
 ところで、今日は今年初めて湿度が高いナと感じた1日だった。
▶過去の、ジョン・メイヤー
http://43142.diarynote.jp/200704112101130000/
http://43142.diarynote.jp/200806121400260000/

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