六本木・アスミックエース試写室で、2017年フランス映画である「永遠のジャンゴ」を見る。ジャンゴとは、もちろんジャンゴ・ラインハルト(1910〜1953年)のこと。フランスで主に活動したベルギー生まれのマヌーシュ・ギター巨人のことを題材におく映画……。という、おぼろげな所感のもと映画を見たら、驚いた。よくある伝記映画じゃないんだもの。

 すでにラインハルトがエスタブリッシュされていた1943年夏から第2次世界大戦が終結した1945年にかけて、ナチス占領下にあるパリで活動していた彼にまつわる史実に沿いつつ、実在しない愛人を重要な役柄として登場させるなどして、映画はもう一つのジプシーという生き方の悲哀や自負を、さらに戦争や軍人の不毛さを伴うストーリーを作っていく。限られたピリオドの偉人音楽家の様を虚実入り混じらせて描くということで、ぼくは「MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間」(2016年12月31日 )を思い出したが、こちらの方が格調高く、まじめ。実は、この映画は光度の低い画像のオン・パレード。能天気なぼくは明るめの映像が好きなはずだが、それでも見させ切ってしまうのだから力を持つ作品なのだろう。

 監督のエツエンヌ・コマール(1965年、フランス生まれ)はこれまで脚本や映画プロデュースの方で活躍してきた人物で、これが初の監督作品とか、初めてのブツがミュージシャンをネタにする作品とは酔狂だが、これまでの経験の蓄積を糧に、かなりの覚悟を持って本映画作りにあたったのは間違いないだろう。

 酔狂といえば、こんなに音楽演奏シーンがある映画も珍しいのではないか。ジャンゴ役のレダ・カテブはこの映画のラインハルト役をやることになり、1年間ギターを習ったのだという。なるほど、映画で流される音楽はローゼンバーグ・トリオ(2013年3月3日)の演奏(サントラはインパルス!から出ていて、全てジャンゴ作の曲でしめられる)のものが使われているが、絵的にカテブの指さばきに違和感はない。そのストーケロ・ローゼンバーグたちの音楽はスピード感と滋養に満ちていて、ジャンゴ・ミュージックにあるジャズ性を強く知らせよう。また、曲作りの才の在りかも。

 ところで、カテブという名前を見ると、来日したこともあるアルジェリア出身のアガジーブ・カテブ(2004年6月10日、2011年8月24日、2012年8月29日)のことを、思い出してしまう? レダ・カテブの親はアルジェリア人で、彼は北アフリカのゲンブリ(現在、マーカス・ミラーもステージで演奏する3弦の弦楽器)やカルカベ(鉄カスタネット)を演奏してきたそう。
 
 戦争下で虐げられ亡くなった同胞に対するレクイエムをラインハルトは書いたが、それは楽譜の一部しか残っていない。御大がストラヴィンスキー他のクラシックも好んだのは情報として知っていたが、それは結構クラシカルな佇まいを持つ曲で、その残された断片を膨らませた終盤ハイライトで流れる曲を担当したのは、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ/ザ・ダーティ・スリーのウォーレン・エリス(2015年3月17日)だ。11月下旬から、ロードショー公開される。

▶︎過去の、「MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間」
http://43142.diarynote.jp/201701051022179600/
▶︎過去の、ローゼンバーグ・トリオ
http://43142.diarynote.jp/?day=20130303
▶︎過去の、アガジーブ・カテブ
http://43142.diarynote.jp/200406100011020000/ グナワ・ディフュージョン
http://43142.diarynote.jp/201109100859202020/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120829
▶︎過去の、ウォーレン・エリスの音楽担当映画
http://43142.diarynote.jp/201503181120014174/
▶︎過去の、ジャンゴ・ラインハルトの孫(かなりお坊ちゃま風情を持っていた)
http://43142.diarynote.jp/201009030955539620/
http://43142.diarynote.jp/201009171511588216/

 その後、南青山・ブルノート東京(セカンド・ショウ)に行って、ほっこり。インタープレイ溢れるピアノ・トリオ演奏であるのに、そう感じてしまたぼく……。

 小曽根真(2011年3月28日、2011年8月6日、2012年8月24日、2012年9月8日、2013年8月1日、2013年10月26日、2014年9月7日、2015年9月5日、2016年9月3日)のビッグ・バンド“ノー・ネーム・ホーセズ”の活動やクラシック演奏の活動が忙しくなったことで活動を休止していたザ・トリオが10年ぶりに再開しての、来日公演。リズム隊はジェイムズ・ジナス(2012年1月13日、2012年3月3日 、2013年9月3日、2014年9月7日、2015年3月3日)と、ドラムのクラレンス・ペン(2012年12月17日、2013年12月17日、2015年3月5日、2017年6月7日)。この二人のアフリカ系奏者は耳にピアスをしていますね。

 3人が、本当にうれしそう。まさに、気のおける仲間! 三者の間には山のような信頼関係があるのが分かるし、猫がじゃれ合うような楽器音のやりとりも見受けられるわけで。おお、ここではそう来るの、じゃ俺はこうしちゃうよ、といったウィンクに満ちたやり取りで、90分をはるかに超えたショウ(アンコールにも2度、こたえた)は満ちた。それから、本人もMCで言っていたが、ときにクラシック経験が生きた瀟洒な指さばきを見せる場合もあり、それは印象的。彼は成熟に向かい、美味しく動いている。

▶︎過去の、小曽根真
http://43142.diarynote.jp/?day=20110328
http://43142.diarynote.jp/?day=20110806
http://43142.diarynote.jp/?day=20120824
http://43142.diarynote.jp/?day=20120908
http://43142.diarynote.jp/?day=20130801
http://43142.diarynote.jp/201310280755386500/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/
http://43142.diarynote.jp/?day=20160903
▶過去の、ジャイムス・ジナス
http://43142.diarynote.jp/201201141645353138/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/ ハービー・ハンコック
http://43142.diarynote.jp/201309051241384602/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/ ハービー・ハンコック
http://43142.diarynote.jp/201503041619591535/
▶︎過去の、ドラムのクラレンス・ペン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
http://43142.diarynote.jp/?day=20150305
http://43142.diarynote.jp/201706081034584863/

<今日の、おやっ>
 試写場に行く電車の中で毎日新聞夕刊を広げたら、その第2面の時事特集記事(小池都知事の右翼丸出し所作をトリガーとする)に中川五郎(1999年8月9日、2004年2月1日、2005年6月17日)のライヴ写真がけっこう大きく載っている。当然、彼のリベラルな発言も同様に。早速、載っているよーとメール。本人は掲載を知らなかった。
▶︎過去の、中川五郎
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm
http://43142.diarynote.jp/200402051852240000/
http://43142.diarynote.jp/200506200011180000/

コメント