アート・リンゼイ

2014年10月26日 音楽
 あれれ。毎度のごとくチューニングしていない12弦ギターを打楽器的に音程無視で刻むだけなんだけど、なんかメロディ性というか、曲種に沿う音を出す度合いは増していたのではないか。←実はそれは彼の音楽が持つパンクな部分を取り去る方向にもあるのだが、一方では確かな成熟を感じさせたりもする。歌も長年ヘタウマを地で行くものであったが、いい意味で根無し草的風情を持ちつつ、堂々と書くとちょい違うだろうが、歌心はより増しているように感じた。

 そんな彼は、やれたジーンズ姿に、それに合わない白色の靴。1985年だかのアンビシャス・ラヴァーズでの初来日のとき(そのときの宿泊していたのは、渋谷の東急インだった。なんか、明治通沿いの歩道橋の下にとめてあった屋体の前で写真を撮ったのを思い出した)から数度、彼にはインタヴューしているが、もっとお洒落だったような。まあ、小さいこと(?)にこだわらず、カリオカらしいと言えなくもないけど。南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。

 父が牧師で、彼が任地したブラジルで育つ。とはいえ米国国籍ゆえ当時はまだあった徴兵のくじ引きに引っかかってしまい、それを逃れるためにNYの大学に入学。1953年生まれの彼にとって、ハイティーンのときの米国の徴兵はくじ引きによってなされており(と、リンゼイは言う)、大学進学者は徴兵が免除されたわけですね。徴兵にあたっていなかったら、大学に入るためにNYに行っていないので、ミュージシャンになっていなかったんじゃないかとも、彼はかつて言っていた。ともあれ、NYに行き、お上りさん同様の彼は同地のアンダーグラウンド若者文化の様に圧倒魅了され、“素人100%”の感覚一発ギターを武器に同シーンに身を投じ、1970年代後期のNYのニュー・ウェイヴ(ノー・ウェイヴ)・シーンで注目を集めるわけだ。DNAやザ・ラウンジ・リザーズを経て、1984年にソロ作(彼の名とアンビシャス・ラヴァーズというグループ名が併記されていた)に『エンヴィ』(エディションズ・EG。当時の日本盤ディレクターは現日本のユニバーサル・ミュージックの会長だァ)を発表。そして、以後、NYの胸騒ぎ感や飛躍の奥にブラジルの記憶/素敵を差し込んだハイブリット表現をいろいろとリリースするとともに、プロデューサーとしてもカエターノ・ヴェローゾ(2005年5月23日)からデイヴィッド・バーン(2009年1月27日)まで様々な人たちと絡んでいる。まあ、リンゼイはブラジル育ちの種はDNA時代から出していたと、言っていたこともあるが。10年ぐらい前だったか、彼はブラジルに戻り、サルヴァドール(結婚〜離婚を)を経て、現在はリオに居住している。

 3年ぶりとなるリンゼイ(1999年12月18日、2002年9月9日、2004年11月21日、2011年6月8日)の来日公演は、アメリカ人とブラジル人と日本人の混合バンドにてなされる。今年はこれに準じる顔ぶれでいろんな場所でやっているようで、そこにマーク・リーボウ(2001年1月19日、2008年8月3日、2008年12月14日、2009年12月13日、2010年12月12日、2011年8月4日、2014年7月28日)が加わった映像もネットで認めることができますね。

 ベースのメルヴィン・ギブス(1999年12月18日、2002年9月9日、2004年11月21日)はロナルド・シャノン・ジャクソン(2013年10月21日の本編外を参照。http://43142.diarynote.jp/201310210730403296/)のザ・デコーディング・ソサエティやディーファンク(デファンクト)やジャン・ポール・ブレリー・バンドを経て、1990年代は人気オルタナ・ロック・バンドのロリンズ・バンドのメンバーとして活躍。リンゼイとは1980年代からの付き合いであり、側近奏者としてリンゼイ作への参加も多数。そんな彼はその近い関係からサルヴァードール参りもしていて、そのカーニヴァルにも笑顔で加わっているという話もあった。そういえば、(シンガーである嫁のD.K.ダイソンとのMGやアイ&アイというグループ作を除けば)初リーダー作となる『Ancients Speak』(Livewired、2009年)はリンゼイのプロデュース作だが、そこにはサルヴァドールのブロコ・アフロの“コルテージョ・アフロ”が参加してもいた。

 今回同行のマリヴァウド・パイムはバイーアきっての打楽器奏者/チーム・リーダーであるとか。彼そんなに派手に演奏するわけではないが、彼の回りにはずらりと10個ぐらいパーカッション(スルド)が並べられていた(マイクも1個づつ立てられていた)。見えなかったが、カホーンを扱うときもあったか。鍵盤のポール・ウィルソンはNYにいる人だろう。そして、ドラマーは海外ではヴィジェイ・アイヤー(2014年6月17日、2014年6月19日、2014年6月20日)とマイク・ラッドの2013年双頭作で叩いていたカッサ・オヴァラルが叩くことが多かったようだが、予定していたドラマーが駄目になったのか、日本は現地調達にて。前日は千住宗臣(2007年4月20日、2009年10月31日、2010年9月11日、2011年5月22日、2012年3月21日、2013年1月10日、2014年7月8日)が加わり、この晩は山木秀夫(2008年8月19日、2012年8月24日、2012年9月8日)が叩いた。当日に1曲づつ一緒にやったようだが、その適応力はすごいな。また、後半に入ると小山田圭吾(2009年1月21日、2009年10月31日、2011年8月7日、2012年8月12日、2013年8月7日、2013年8月11日、2014年3月31日)が出てきて、サイド・ギターを担当する。より表現に骨格を与える楽器が増えたことで、表現総体のポップ度が少しあがったような。

 彼については1970年代後期から胸を焦がした存在であり、ずっと注視し続けている存在ゆえ、かなり厳しい目で接してしまい、この晩のパフォーマンスはまあまあかなとぼくは感じた。まわりは、皆絶賛であったけど。米国冒険流儀とブラジル味の行き来の回路に慣れてしまい、ぼくはクリシェと思えるところがある? もっと過剰にポップか、もっと切れ切れアヴァンギャルドなものを、ぼくは望んでいた? いや、ドキドキできる瞬間、甘酸っぱくなる瞬間はいろいろあったし、今後も来日したときは見に行くはずだが。

 間違いなく言える事は、先端だったり、横のほうにあるポップ/ビート・ミュージックのあり方において、アート・リンゼイ的態度/視点は途方もなく貴重であるということ。リンゼイが登場して以降、彼の真似をする人は(ぼくの知る限り)いない。でも、当然と言えば当然か。彼のギター奏法をマルセル・デシャンの便器に例えたのは故 生田朗さんだったが、デュシャンの後に便器を展示したらそりゃ顰蹙だよな。それにしても、ステォーヴィー・ワンダー(2005年11月3日、2010年8月8日、2012年3月5日)は目が見えるという話はでてきても、アート・リンゼイは実はギターが弾けるという話が出てこないのが、なんかすごい。

▶過去の、リンゼイ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/december1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm
http://43142.diarynote.jp/200411231722390000/
http://43142.diarynote.jp/201106141341111340/
▶過去の、ヴェローゾ
http://43142.diarynote.jp/200506021846130000/
▶過去の、バーン
http://43142.diarynote.jp/200901281359552953/
▶過去の、リーボウ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-1.htm
http://43142.diarynote.jp/200808090220110000/
http://43142.diarynote.jp/200812281440093394/
http://43142.diarynote.jp/201001051622194305/
http://43142.diarynote.jp/201012131714372906/
http://43142.diarynote.jp/201108101630438805/
http://43142.diarynote.jp/201408051026553769/
▶過去の、ギブス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/december1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm
http://43142.diarynote.jp/200411231722390000/
▶過去の、アイヤー
http://43142.diarynote.jp/201406180853065508/
http://43142.diarynote.jp/201406201008164250/
http://43142.diarynote.jp/201406210910441716/
▶過去の、千住
http://43142.diarynote.jp/200704251225580000/
http://43142.diarynote.jp/200911010931589797/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100911
http://43142.diarynote.jp/201105230926029205/
http://43142.diarynote.jp/201203260805006088/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130110
http://43142.diarynote.jp/201407091243129270/
▶過去の、山木秀夫
http://43142.diarynote.jp/200808221745590000/
http://43142.diarynote.jp/201209181226141636/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120908 ベン・E・キング
▶過去の、小山田
http://43142.diarynote.jp/?day=20090121
http://43142.diarynote.jp/200911010931589797/
http://43142.diarynote.jp/?day=20110807
http://43142.diarynote.jp/?day=20120812
http://43142.diarynote.jp/?day=20130807
http://43142.diarynote.jp/201308130851402454/
http://43142.diarynote.jp/201404031700136483/
▶過去の、ワンダー
http://43142.diarynote.jp/200511130015240000/
http://43142.diarynote.jp/201008261618276388/
http://43142.diarynote.jp/201203062006429595/

<今日の、えええっ>
 朋友たるメルヴィン・ギブスは、ステージでリンゼイのことを“アート・リンジー”と紹介していた。どひゃー、そう言うのが本当なの?

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