行き方は、もうオーセンティックなジャズ(・ヴォーカル)表現。バンドの音も歌いかたも、重なりかたも……。基本のところでは、ジャズ・ヴォーカルをジャズ・ヴォーカルたらしめる要点を抑えまくった、王道にあることをやる。主役はテキサス州ヒューストン出身、在NYのまだ20代のシンガーで、プレスティッジとコンコードから2枚のアルバムを出している女性。その初来日公演を、丸の内・コットンクラブで見る、ファースト・ショウ。

 直近の米ダウンビート誌のリーダース・ポールのヴォーカル部門で8位(7位がカサンドラ・ウィルソン~1999年8月27日、1999年9月2日、2001年2月12日、2004年9月7日、2008年8月11日、2010年6月13日、2011年5月5日、2013年5月31日、2015年3月19日〜で、9位はリズ・ライト〜2003年9月17日、2014年9月16日、2015年11月17日〜。ちなみに、1位はセシル・マクロリン・サルヴァント〜2013年11月26日、2018年3月26日〜)に、彼女は位置している。そのキャリアの長さからすれば、ジャズメイア・ホーンは相当注目を受けているシンガーであると言える。

 若いときのエリカ・バドゥ(2000年11月19日、2006年4月2日、2012年3月2日、2017年10月6日)を思わせる(バドゥは高校の先輩であるよう)ようなルックスと格好のもと、凛としたところと若さが透けるサバけた感覚を抱えて、純度の高いショウをすすめていく。同行者は、在NYのピアニストの海野雅威(2017年3月2日、2018年3月1日)、ダブル・ベースのラシャーン・カーター(2014年5月25日、2015年6月16日、2016年9月17日、2016年12月16日、2017年6月29日)、辣腕トランペッターのデイヴ・ダグラス(1999年9月24日)と懇意にしていたりもするドラマーのアンワー・マーシャル。彼らは新作レコーディングとまったく異なる陣容だが、彼女との息の合い方はばっちり。終始、4人の間にはポジティヴな意思疎通があり、延々とやりつつも終わる際にはバシっと終わるのも格好よくも、バンド演奏が整備されていると思わせる。そういえば、まずホーンが歌い出し、それにバンド音がついていくという始まりかたをする曲も複数あった。それは、絶対音感がないとできませんね。

 こういうふうに、進めるのかあ。いやあ、これぞライヴ! 噂は耳にしていたが、こんなにずっこんばっこんスキャットをかましまくるとは思わなんだ。アルバムでも果敢にスキャットする姿は収められているが、さすが各曲の尺はそんなに長くないもんね。ちなみに1作めと2作めの大きな違いは、セカンドのほうは自作曲が多いこと也。曲調は基本、ジャズのそれではあるが。

 アルバムに認められる豊穣さや潤いは減じるが、もうワタクシ様と覇気に満ちた即興ヴォーカルを延々とっていく様には口あんぐり。獰猛という形容もあり? そのスキャットの膨大さは極端であり、異端とも言えるものだが、今日日それをまっとうする根性はすごいし、間違いなく新奇な個性や味わいを浮き上がらせる。分かりやすく説明するために大雑把に全体を”10”とし数値化するなら、歌詞が入るテーマ部”1弱”、伴奏やピアノを中心とする演奏部が2強で、あとは全部彼女の思うまま繰り広げられるスキャット。その根にはモダン・ジャズ期の器楽的歌唱の決定的な匠であるベティ・カーター(1930〜96年)があるのだろうが(彼女のプレスティッジ盤の1曲めはベティ・カーター作の「タイト」だ!)、同じくベティ・カーター・チルドレンであるカサンドラ・ウィルソン(1999年8月27日、1999年9月2日、2001年2月12日、2004年9月7日、2008年8月11日、2010年6月13日、2011年5月5日、2013年5月31日、(1999年8月27日、1999年9月2日、2001年2月12日、2004年9月7日、2008年8月11日、2010年6月13日、2011年5月5日、2013年5月31日、2015年3月19日)だって、奔放な行き方を前面に出した若い時分にもこれほどまでにライヴでスキャットはかまさなかっただろう。よくぞ! 管楽器奏者も入っていたアルバム群と異なり、ここでのサポート音は少し簡素なピアノ・トリオ音なので、こんなに思い切った“ジャズ・シンガー”がいるのかという感興は増す。やっぱし、長生きするもんですね。楽器を模したような即興歌唱も、慣れたものであった。

 そして、今の大学の音楽課程(ザ・ニュー・スクール)出のジャズ・ミュージシャンだとなんとなく思ったのは、がんがんスキャットをやるなか、「ハイデ・ハイデ・ホー」みたいなキャブ・キャロウェイ的擬音を繰り出す場面があったりリオン・トーマス流れのようなの歌唱法を出すところ。まあ、あそこまでヨーデル的ではないが。そういうのに接すると、彼女はきっちり、先達の様々な歌いかたに触れていると思わせる。学校にもいろいろ資料は揃っているんだろう。でもって、そういう様は、彼女はジャズ・ヴォーカルという様式を黒人芸能の流れのレフト・ウィングにあるものと捉えていると思わせるところもあったか。また、ときに鳥の鳴き声を模写したような歌いかたをするのは、過去の巨人たちになかったところ。いい意味での刺激物を取り入れ、彼女は個性を豊かに投げ出している。それに連動して高音を出すところは、“気のふれたミニー・リパートン”と言いたくなるものだった。また、サックス奏者がたまに見せる循環呼吸を介してずうっと歌声を出し続けた箇所も驚異的だった。

 とかなんとか、ジャズ・ヴォーカルの朽ちぬ重要点を踏みつつ、技術と心意気をこれでもか(でも、物腰は自然体なんだよな)と出す様には驚くばかり。よくぞ、そこからは今も出る。一部ながらアメリカにもちゃんとジャズの真髄を理解しそれを今の生きた音楽として残そうとする人がいること、またジャズを生んだアメリカ合衆国のすごさも感じてしまった夜……。

▶過去の、カサンドラ・ウィルソン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm 
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/september1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-2.htm
http://43142.diarynote.jp/200409070203440000/
http://43142.diarynote.jp/200808121357410000/
http://43142.diarynote.jp/201006181521416566/
http://43142.diarynote.jp/201105101010399933/
http://43142.diarynote.jp/201306060609052151/
http://43142.diarynote.jp/201503211741478728/
▶過去の、リズ・ライト
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-9.htm
http://43142.diarynote.jp/201409171722239857/
https://43142.diarynote.jp/201511181203116234/
▶︎過去の、セシル・マクロリン・サルヴァント
http://43142.diarynote.jp/201311270854089602/
https://43142.diarynote.jp/201803270920571222/
▶過去の、エリカ・バドゥ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200604050124430000/
http://43142.diarynote.jp/201203062004221304/
https://43142.diarynote.jp/201710071225329957/
▶︎過去の、海野雅威
http://43142.diarynote.jp/201703081443314613/
https://43142.diarynote.jp/201803031242579295/
▶︎過去の、ラシャーン・カーター
http://43142.diarynote.jp/201405271755563079
http://43142.diarynote.jp/201506180954176007/
http://43142.diarynote.jp/201609201835285184/
http://43142.diarynote.jp/?day=20161216
http://43142.diarynote.jp/?day=20170629
http://43142.diarynote.jp/201707130853185809/
https://43142.diarynote.jp/201809221638262424/
▶︎過去の、デイヴ・ダグラス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/september1999live.htm マサダ

<今日の、敬礼>
 しかし、あれだけ喉に負担がかかりそうなことを、涼しい顔して繰り広げる様には脱帽。そして、かようなパフォーマンスを披露する裏には様々な鍛錬や経験を積んできたであろうことも想像させ、気が遠くなる。とともに、普段の喉のケアには細心の気の使いかたをしているはずで、日々の精進の様はすごいんだろうな。感服。本当にいいものを、見させていただきました。普通のライヴ後の飲みも楽しいが、めちゃいいライヴのアフターは余計に楽しい。→今晩もたいそう楽しゅうございました。しかし、どの店もこんでいたなあああ。

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