輝きを放ち心意気もたっぷり持つ米国人女性シンガーの公演を、六本木・ビルボードライブ東京→南青山・ブルーノート東京と、二つ続けて見る。この並び、なかなか。東京のライヴ音楽興行は充実していると思わざるをえない。とともに、音楽享受欲があるうちは、まだまだぼくは首都に住むしかないのだと、再確認。昨日まで娯楽でちょい別の都市の良さを味わったりもしたのだが、ぼくには東京の環境が必要だ。

 通常、ブルーノート/コットンクラブやビルボードライブのショウはアンコールを含めて75分ほどがデフォとなっているように思えるが、両者とも100分ほどショウを繰り広げた。いや、ヒルは110分ぐらいやった。インストものの公演だと90分を超えることもあるが、歌もの公演でこの尺をやるのは珍しい。ま、モーゼスの母のディー・ディー・ブリッジウォーターはいっつも平然とやっちゃうけどね。

 最初は、マイケル・ジャクソンとプリンス(2002年11月19日)という1958年生まれの故人たちと関係を持ったことで知られる女性シンガーを見る。映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」でMJとデュエットするシーンがあったように、彼女はあの幻のロンドン帯公演に起用されていた。また、その後はプリンスに気に入られ、彼のレーベルNPGから全てオリジナルで固めたリーダー作『Back in Time』(2015年)を発表。それ、御大渾身のプロデュース盤だった。ま、そうした偉人たちとの絡み以前にも、彼女はロッド・スチュアート(2009年3月11日)、グレッグ・オールマン、インキュバス(2004年3月3日)、元ユーリズミックスのデイヴ・スチュアート、スティーヴ・タイレル(2008年6月1日)、ジョージ・ベンソン(2016年9月17日)ら、様々な人たちのレコーディングに参加している業界で認知を受けていたセッション・シンガーであったわけだが。

 父親であるベーシストのロバート・"ピーウィー"・ヒルと母親である東京生まれのキーボード奏者のミチコ・ヒル(2008年11月10日)を擁するバンドでのパフォーマンス。さすが、両親がミュージシャンだと横のつながりで、他のメンバーも充実。ドラムのマイケル・ホワイトはリーダー作も持つ著名セッション・マンだし(彼のみ、譜面を前に演奏)、ギターは当初ルーファスのトニー・メイデン(2008年6月5日、2008年11月10日、2010年1月20日、2011年6月22日)がリストに入っていた。ちなみに、その代役はデトロイト・ネイティヴなはずのランディ・ジェイコブズで、現在のスタジオ界の序列は彼のほうが上だろう。そのジェイコブズはメイデンと同じくピックを用いずにギターを弾いていてほほう。最後の方に持たれたソロではフラッシィなブルース調ソロも披露した。それから、マイラ・ワシントンとジェリミ・リー・ヘンリーという女性バック・グラウンド・ヴォーカリストも二人参加。また、さらに日本で雇ったろうダンサーを二人、忍者のような格好をさせてステージ左右に一人づつ立たせる(ときに踊る時もあったが、基本は動かない)という設定でショウは持たれた。

 曲間にはプリセットのインタルードを流したりと、ある種コンセプトを持ったライヴ・パフォーマンスであるのはすぐに了解。だが、それが分かりにくく、普通のショウのように素直に曲をやってくれたら、もっと場は盛り上がったかもしれない。だが、立って歌うだけでなく、曲によってはグランド・ピアノやギターを弾きながら歌う彼女にとっては、それも独自性発露のために必要とされる手段であるのは想像に難くない。特にピアノはちゃんとしていて(ストライド調で弾く場合もあり)、弾き語りを披露するには十分すぎる力量であるのをすぐに了解。お母さんの横で小さい頃から弾いたのかな。ちなみに、ミチコ・ヒルのオルガンもいい感じで、耳を引くものだった。

 ヒルが歌えるのは当然なのだが、生に接すると思った以上にゴスペル・ベースであると感じる場合もあり。でもって、本当に気持ちを込めて音楽をやっていることが端々から伝わる。そして、バッキングのバンド・サウンドもファンクネスと骨の太さを持つもので、そんな彼女をちゃんと持ち上げた。

▶︎過去の、映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」
http://43142.diarynote.jp/200911010930562162/
▶過去の、プリンス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-11.htm
▶︎過去の、ロッド・スチュアート
http://43142.diarynote.jp/200903130124118315/
▶︎過去の、インキュバス
http://43142.diarynote.jp/200403031556520000/
▶︎過去の、スティーヴ・タイレル
http://43142.diarynote.jp/200806030205120000/
▶︎過去の、ジョージ・ベンソン
http://43142.diarynote.jp/?day=20160917
▶︎過去の、ミチコ・ヒル
http://43142.diarynote.jp/?day=20081110
▶︎過去の、トニー・メイデン
http://43142.diarynote.jp/?day=20080605
http://43142.diarynote.jp/?day=20081110
http://43142.diarynote.jp/201001211346277187/
http://43142.diarynote.jp/?day=20110622


 その後は、ディー・ディー・ブリッジウォーター(2003年8月1~2日、2007年8月24日、2008年12月4日、2009年11月27日、2014年5月3日)の娘である、チャイナ・モーゼス(2009年6月16日、2009年7月5日)の久しぶりの来日公演を見た。彼女は久しぶりの新作『夜物語(Nightintales)』(MPS)を英国ダンス畑のアンソニー・マーシャル(彼女の2004年作『Good Lovin’』に関与していたとか)のプロデュースのもと出したが、これが<ジャズ←→クラブ・ミュージック>文脈においてびっくりするぐらいの好プロダクションがなされた仕上がりで、傾聴に値する。解説担当盤なんだけど、それはよくできていると思わずにはいられない。

 実演の同行者は、ロンドン在住のミュージシャンたちか。音楽監督は『夜物語』で弦アレンジも担当していたルイージ・グラッソ(バリトン/アルト・サックス。シンセサイザー)が勤め、さらにジョー・アーモン・ジョーンズ(ピアノ)、ニール・チャールズ(ベース。電気と縦)、マリウス・アレクサ(ドラムス)という面々。アルバムにおける現代性をちゃんと出せていたわけだはないが、モーゼズのはち切れんばかりの音楽をすることの歓びやスケールの大きな人間性を出すためには十分なものあったか。接する端から、つくづく音楽って人間力〜キャラがモノをいうのだよなあと思いまくりでした。

▶︎過去の、チャイナ・モーゼス
http://43142.diarynote.jp/200906181210154217/
http://43142.diarynote.jp/200907131159274322/
▶過去の、ディー・ディーブリッジウォーター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm
http://43142.diarynote.jp/200708270316020000/
http://43142.diarynote.jp/200812150311286788/
http://43142.diarynote.jp/?day=20091127
http://43142.diarynote.jp/?month=201405

<翌日の、モーゼズ>
 チャイナ・モーゼスに取材。やっぱ、天真爛漫にして、マインドのある人で嬉しくなる。昨日の実演時は眠くてしょうがなかったそうだが、それでいながらあれだけ気の入った、攻めのショウを繰り広げるのだから、素晴らしいな。8年前に取材していたことを覚えていてくれたのは、うれしい。そんな彼女、現在は6割がパリ、4割はNYに住んでいるという。なんと、母親ディー・ディーは現在、ニューオーリンズ在住だそう。引っ越しの際、車を運転してあげたと言っていた。新作には「ニコチン」という曲もあるが、「今までダメ男といろいろ付き合ってきたけど、私の人生で一番愚かな行為はタバコを吸っていたこと」とのこと。そういう言い回しも、素敵です。

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