新宿・K‘s cinemaで、出来たばかりという、スライ・ストーン(2008年8月31日、2008年9月2日、2010年1月20日)のドキュメンタリー映画を見る。70分強という上映時間には、少し危惧を持つところもあった。普通だったら、いかにネタを削ぐかに苦労するはずで、これはいかにも時間が短すぎ。元となる取材/撮影マテリアルが少ないのではないか、と思ってしまうではないか。まあ、マテリアルは豊富ではないだろう(予算も潤沢ではないだろう)が、時間の短さは感じない。もう一度見たい、細部をもっとチェックしたいと思わせる仕上がりではあったな。

 2015年、オランダ映画。監督のウィルマ・アルケマはスライ・エンスージアストのようで、このドキュメンタリー映画の大きな柱は二つ。

 一つは旧来の同系映画の常で、過去の映像/音(編集された既発曲の使われ方は頷くところあり。隠匿する直前作である1983年作ワーナー盤はスライが完成前に逃げて、その後プロデューサーがアーバンな音を加えたそうで、音が加えられる前のテイクも少し紹介される)や元メンバーをはじめとする関連者証言映像を組み合わせて、スライ・ストーンのこれまでの歩みをまとめるというもの。まあ、それは普通の出来だが、えええええそうなのというネタも出て来るのは間違いない。1980年代前期以降スライはドラッグで人間を辞めて行方知れず(ほぼ、ホームレス)という印象をぼくはなんとなく持っていたのだが、2010年代に入ってからの2年間とかはキャンピングカー生活を強いられたようだが、印税が入って来ていた彼はちゃんとそれなりの生活をしていたよう(ずっとビバリー・ヒルズ奥の高台の邸宅に住んでいたみたい)で、それはなんかホっとした。彼が一切人前に出なかったのは、人間嫌いから来る本人の意思であり、もちかけられる高額報酬のインタヴューなどもすべて断っていたという。

 彼はじじいになってもバイクが大好きであることにも触れる。なんか、2000年に入ってから、ハーレーで事故って、指を切断したんだとか。無事、つながったとことも伝えられるが、さすがウッドストック・フェスティヴァルで「モーター・サイクルは、ホンダ!」とステージで連呼した御仁でありますね。スライのあの所作があったからこそ、米国市場でのホンダの名声は築かれたと、ぼくは真面目に思ってマス。

 そして、映画のもう一つの柱は、監督がLAに渡り、スライの自宅をつきとめたりもし、なんとか本人と会おうとする、いくつもの顛末。それは、スライが行方知れずになってから以降を語るパートであり、2000年代半ばごろからの映像。それを見て、最初のうちはそっとしといたらいいのにと思って見ていたのだが、同じオランダ人のスライ・ストーンおたくの双子もそこに絡んで来たりして、なんかストーリーはわわわ、というほうに流れて行く。ファンの熱意は偏屈スライのココロを溶かす……。なんか心のなかで、監督や双子と”ファイヴ”をしたくなったか。

 近年、彼が家を失ってしまったのは、悪いメネージャーと契約を交わしてしまったことが最大の原因のよう。だが、2015年に入り500万ドルを元マネージャーから勝ち取る判決を訴訟で得たという情報も、映画には入れられている。

 スライ・ストーンは、この3月で72歳になった。7月には、1968年10月4日と5日に地元ザ・フィルモア・ウェストでやったライヴ音が4枚組CDとなりリリースされることになってもいる。……スライが今後、音楽家として復活するかどうかは分らない。2011 年、ユニヴァーサル復帰カヴァー作はまるっきりほめられない出来だった。でも、そうでもいいぢゃん。1960年代後期から数年間のプロダクツがあまりにも常軌を逸するものであったわけで、それを素直に愛でて、幸福を感じればいい。あんなすごいの、ほいほい出て来たら、世界の秩序はこわれちゃう!

▶過去の、スライ・ストーン
http://43142.diarynote.jp/200809011923060000/
http://43142.diarynote.jp/200809071428140000/
http://43142.diarynote.jp/201001211346277187/

 90歳かいっ! 夜は1925年生まれのドラマー、ロイ・ヘインズ(2011年11月29日、2009年6月1日)のカルテットを見る。南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。関係ないけど、ヘインズは3月13日生まれで、スライは3月15日生まれだ。

 ばしっとスネアを叩いただけで、わっと歓声が上がる公演もそうはないのではないか。ぼくが見た過去のヘインズの公演でも、そういう場面はなかったと記憶する。実は今回、会場はかなり混んでいた。聞き手の側で、勝手にカウントダウンを刻んでいる? なんて書くと不謹慎と感じる人がいるかもしれないが、ヘインズはお茶目で、妙な諧謔を抱える御仁。ぜんぜん問題ないと、思いますよー。

 しかし、小柄な彼はスタスタ歩き、一切段差も気にならないといった感じ(まあ、気になっていたらドラムは叩けないだろうけど)で、マジ元気だよなあ。彼、タムは大き目のものを並べていて、それは年寄りジャズ・ドラマーのそれとはちょっと思えない。レギュラー・グリップとマッチド・グリップを併用している彼、前よりも少し衰えている、ダイナミクスやドライヴ感が減じていると思わせるのは間違いないが。

 ほぼ、ファースト・ショウとセカンド・ショウは異なる曲をやるようだが、サイド・マン(ピアノのマーティン・ベヘラーノ、アルト・サックスのジャリール・ショウ、ダブル・ベースのデイヴィッド・ウォン)は10年近く一緒にやっている人たちのようで、いろいろとやる曲はあるだろう。他人曲をやっているはずだが、ぼくがすぐに曲名がわかったものはなかった。意外に、若いメロディと思わせる曲調をやっていると思わせる部分もあったか。

 今回、驚いたというか、聞き惚れたのはアルト・サックスのジャリール・ショウの演奏。かなり太い(テナー・サックスに股がると書くとオーヴァーですが)音色がまず個性的にして存在感あり。であるだけだけでなく、フレイジングがとても有機的にして、その総体は本当に音楽を大切にしているという所感を受けるもので、これは良い。今回、毎度以上のメロディ性を抱えているとすれば、それは彼のフィーチャー度が高かったせいがあるかもしれない。ピアニストの山中千尋(2005年8月21日、2009年6月7日、2010年3月14日、2011年8月6日、2013年3月3日)も一番新しいアルバムでフィラデルフィア・ネイティヴのショウを起用していたが、なにげに山中の既発アルバムのパーソネルを見ると、こんな人もちゃんと使っていたんだアということが散見される。ショウはベン・ウィリアムズ(2009年5月18日、2009年9月3日、2010年5月30日、2012年3月3日、2012年5月28日、2013年4月1日、2013年5月21日、2015年1月22日)と仲良しだったりするが、ヤマナカも前、ウィリアムズのことを雇っているよなー。

 ヘインズのはげ頭を見ていて、なぜか すきやばし次郎の店主(89歳になるよう)の存在が頭に浮かぶ。気が遠くなるような蓄積や鍛錬はある種の重なる佇まいを導く? 六本木ヒルズにあるすきやばし次郎は行ったことがあるが、本店のほうには行ったことがなく、当然のことながら、店主を一瞥さえもしたことがないにもかかわらず。米国産の彼を扱った映画を見たことはあるからか(フィリップ・グラスが音楽をやっていたっけ。今から30年強前に、彼の取材に立ち会ったことがある。アイランドから『コヤニスカッティ』のサントラを出したとき。少しルー・リード的臭を持つ〜ああ、ニューヨーカーだとも皮膚感覚で納得させられた〜、静かな紳士だったな)。ともあれ、多大な評価を受け、ずっと現場に立てるというのはべらぼうに幸せなこと。殆どの人はそうはいかないし、仕事を続けるのはもちろん、生きていないかもしれない……。そう思うからこそ、自分には適わぬ境遇にある大御所の所作に触れたいと感じる受け手は、少なくないのではないだろうか。

▶過去の、ロイ・ヘインズ
http://43142.diarynote.jp/?month=200906
http://43142.diarynote.jp/201112041055284606/
▶過去の、山中千尋
http://43142.diarynote.jp/200508230545510000/
http://43142.diarynote.jp/200906091637138003/
http://43142.diarynote.jp/201003191715113498/
http://43142.diarynote.jp/201108101632022013/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130303
▶過去の、ベン・ウィリアムズ
http://43142.diarynote.jp/200905191118258984/
http://43142.diarynote.jp/200909120646397236/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100530
http://43142.diarynote.jp/?day=20120303
http://43142.diarynote.jp/201205301445023004/
http://43142.diarynote.jp/201304031026406106/
http://43142.diarynote.jp/201305260927026044/
http://43142.diarynote.jp/201501230914317086/

<今日の、会合>
 映画とライヴ・ショウの間に、スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド/スキヤキ・トーキョーをよろしくね&なんか建設的な意見ありまっか?的な主旨を持つ関係者ミーティングに顔を出す。さくらホールのある渋谷区施設の会議室のようなところにて。富山県南砺市で1991年から始められている本家に対し、東京編は今年で5年目となるのか。今年は、沖縄でも持たれるという。今年のスキヤキ・トーキョーの日程は8月25日、26日、27日。セネガル、ホジェラス、ブラジル、マリなど、様々な国の人たちが出演するようだ。明日も同じ内容の会合が持たれることになっているが、初日の今日は30人の出席者。思っていたより出席者が多いと思ったが、ワールド・ミュージック系アーティストに触れられるこの貴重な機会がずうっと続いてほしいと思う人が少なくないという見解は間違っていないだろう。
▶過去の、スキヤキ・トーキョー
http://43142.diarynote.jp/201109100857091783/
http://43142.diarynote.jp/201109100858274114/
http://43142.diarynote.jp/201109100859202020/
http://43142.diarynote.jp/201209181232195036/
http://43142.diarynote.jp/201209181233153919/
http://43142.diarynote.jp/201309021132512714/
http://43142.diarynote.jp/201309021133409044/
http://43142.diarynote.jp/201309021134211584/
http://43142.diarynote.jp/201408301136411048/
http://43142.diarynote.jp/201408301137223996/

コメント