まず、都立大学・めぐろパーシマンホールでペンギン・カフェ、英国人全9人によるパフォーマンスを見る。綺麗なホールで、ちゃんとした設定のものを遠目から見ていて、なんか夢の楽団みたいだなーと思ってしまった。でもって、ショウに接していていろいろと、これはどうしているのーとか、聞きたいことがどんどん出て来てしまった。あっさりしているのに、気の利いたステージ美術は誰がやっているの? 背後のスクリーンにときに映される奏者アップ映像はどこで撮っているの? ときに出て来てその音楽にうまくあわせたダンサーはどこから見つけてきたの? 彼らが見つけたペンギンの衣装は誰が作ったの? ステージに置いていた大ドラや大きな太鼓(和ではない)はレンタルなの? とかとか。
 
 ペンギン・カフェ(再興され、グループ名からオーケストラがとられた)はサイモン・ジェフス(1946~1997年。故マルコム・マクラーレンと親しく、バウ・ワウ・ワウやアダム・アントの音作りにも関与。シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」の弦アレンジも彼がしている)が1972年に組んだ博識高感度洒脱室内楽的インストゥメンタル・ユニットで、その1976年作はブライアン・イーノのオブスキュアー・レーベルからという事実にも、そのいた位置/受け入れられ方は表われるか。父の死の10年強後に息子のアーサー・ジェフスによって再びはじめられ、2作品をリリース。そして、今回の日本ツアーはピアノを主にギター、ウクレレ、ヴァイオリンなどを弾くジェフスに加え、ウクレレ奏者、ヴァイオリン2(うち、一人はいろんなな楽器に持ち替えて大活躍)、ヴィオラ、チェロ、ウッド・ベース、パーカッション2という奏者たちが和気あいあいと重なって、洒脱にして視野の広いインストゥメンタルを繰り広げる。

 緩やかで寛いでいるのに、その重なりは十分な存在感や誘いを持つ。ミニマル音楽も民族音楽も同じ線上に置いたような洗練された視点の取り方やユーモアをはじめとする気の利いた情緒の差し込みは、父親時代の財産を引き継ぐものなはずで、その先見性には驚く。とともに、いろんな情報を受け取れる今だからこそ、曖昧な部分をそいだところで、今のほんわかした風景や寓話を導き出そうとしているように、ぼくには思えた。そして、その確かな現状認識や正直さが今のボーダーレスなラウンジ音楽としての生命力に繋がっている。彼らは、コーネリアスの曲もやりました。

 その後は、渋谷・サラヴァ東京で、ブラジルの母娘たちのカルテットを見る。シンガーのダニ・グルジェル、ダニの母親で一人だけ年齢が離れていると思われるピアニストのデボラ・グルジェル、ベーシストのシヂエル・ヴィエイラ、ドラマーのチアゴ・ハベーロという面々によるパフォーマンス。彼女たちは2013年の東京ジャズの無料ステージに出演。そのときも少し見た(2013年9月7日)がちゃんと向き合うような感じできっちり聞いたら、こんなに素晴らしいグループであったのか。まじっすか……見ていて、その思いが連続。そして、その後には、音楽を享受できる歓びにこれでもかと包まれる。

 総体は、ジャズの飛躍とブラジルの天衣無縫さをこれでもかと、瑞々しく掛け合わせたと言えるもの。ジャズ要素とブラジル要素をこんなに有機的に重なるグループ、そうはいるものか。そして、個々の力量もびっくりするぐらい、高い。

 ハービー・ハンコック(2000年3月14日、2001年12月27日、2003年8月23日、2005年8月21日、2012年3月3日)のピアノ流儀もきっちり会得しているという感じのデボラは、比較として名前を出して申し訳ないが、イリアーヌ・イリアス(2006年6月28日)より上手いし、リズム・セクションの技巧と発想のイケてさ(それは、現代性にもつながる。前日のハマシアンのそれにひけをとらない)にも言葉を失う。バケモノ、ブラジルのジャズ奏者の水準すごすぎ。

 3人の演奏に乗って、ダニはときに清らかかつ奔放に歌を載せるわけだが、それもただただ自在。基本、ポルトガル語で歌うか、延々スキャットで器楽的に喉を用いるわけだが、ちゃんとしている。旋律どりが難解すぎてこれは一緒に歌えないと思わせる歌唱のラインの取り方はエスペランサ(2008年9月5日、2008年12月1日、2010年9月4日、2011年2月17日、2012年3月7日、2012年9月9日)と繋がるものであり、エスペランサがいかにブラジル音楽に薫陶を受けているかということも、それは示していたか。

 また、英語曲も2曲歌い、それはザ・ポリスの「マジック」とマイケル・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」。その処理の具合は、まるでグレッチェン・パーラト(2009年2月3日、2012年2月22日、2013年3月19日)のごとき。というわけで、エスペランサとパーラトのファンはデボラ・グルジェル・クアルテートを聞くべきだ。

 音程が正確でもあるウッド・ベーシストは3曲では4弦のエレクトリック・ベースを弾く。のだが、これが弾力ありまくりで、まるでブラジルのジェリー・ジェモット(cf.キング・カーティス&ザ・キング・ピンズ)とも言うべき味。素晴らしい。結論、4弦より多い弦の数のエレクトリック・ベースを弾く奏者はゴクツブシ。←わ、大暴言。←撤回、します。それから、1部、2部、アンコールのそれぞれ1曲に打楽器(パンデイロ中心)で安井源之新(1999年6月3日)が加わった。

 この日の公演はともに、50分ぐらいのセットが二つとアンコール。そして、両方とも観客の反応が熱い。で、それに、歓びとマゴコロたっぷりに出演者たちも応える。受け手と送り手の、実のあるココロのやりとりあり。思わず、人間性善説ならぬ、音楽性善説を唱えたくなった?

▶過去の、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート
http://43142.diarynote.jp/201309161507226186/
▶過去の、ハンコック
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-12.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm
http://43142.diarynote.jp/200508230545510000/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/
▶過去の、イリアス
http://43142.diarynote.jp/200607041956350000/
▶過去の、エスペランサ
http://43142.diarynote.jp/200809071430380000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20081201
http://43142.diarynote.jp/?day=20100904
http://43142.diarynote.jp/201102190814495504/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120307
http://43142.diarynote.jp/201209191229057579/
▶過去の、パーラト
http://43142.diarynote.jp/200902040424558168/
http://43142.diarynote.jp/201202251301444372/
http://43142.diarynote.jp/201303221327416224/
▶過去の、安井(エスピリト)
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livejune.htm

<今日の、喉>
 昨日は3時過ぎまで楽しく飲んでいて、なんとなく帰宅。そして、9時ごろに起きると、ほんの少し扁桃腺のはれを感じる。昼前にはその違和感も失せたが、夜の無防備な寝方に気をつけたほうがいい季節になってきたか。でも、まだ昼間のシャワーは気持ちいい。

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