丸の内・コットンクラブ。セカンド・ショウ。結構なキャリアを持つ御仁であるが、初来日。

 よくぞ呼んでくれて、ソロとトリオの二タイプの公演をちゃんと企画してくれたものだと思う。タイプや持ち味は違えど、ぼくはブラッド・メルドー(2002年3月19日、2003年2月15日、2005年2月20日)が今いる位置に、ヴィジェイ・アイヤーがいても不思議はないと思ってきたから。彼らは1歳違い(メルドーは1970年マイアミ州ジャクソンヴィル生まれ。アイヤーは1971年ニューヨーク州オルバニー生まれ)で、アルバム・デビューはともに1995年。弾き味は異なるが(技量はメルドーのほうが上ですね)、感性と視野の広さは甲乙付け難いところであり、現代ジャズ・ピアニストとしての輝きやアドヴァンテージを放つところもいい勝負。アイヤーはインド系だが、もし彼が格好いい白人だったら、また違っていた? という書き方は、誤解を招くな。アイヤーだって別に格好悪くないし、根暗なメルドーだってそんなに美男子ではないし。

 当初は、変拍子ファンク・ジャズの雄たるスティーヴ・コールマン(ぼくは、彼が吹いているということで、アイヤーのアルバムを最初買った。というか、コールマンのバンドで電気キーボードを弾いていたこともあるか)など管奏者も擁する、ストロングでありつつ迷宮に遊ぶリアル・ジャズを標榜。暫くして、アルバムではトリオのブツが多くなったが、諸作にはいろんな様相が全開。なかには、現代音楽〜ミニマル色を出す物もあるよな。なんにせよ、ジャズとして必要なほつれや刺やバカヤローの感覚や、それと表裏一体の美感や繊細さを持ち、現在いる場から別の地点へ跳ぼうとする感覚を抱えてもいて……。そんな彼は、ずっと基本はオリジナル曲主義。だが、ソロ・ピアノ作はスタンダードや多大な影響を受けていると思われるアンドリュー・ヒル曲、さらにはマイケル・ジャクソンが歌った曲なども取り上げている。一方、彼はラップや肉声と絡んだアルバムも出しているし(2003年作はディスク・ユニオンが日本盤で出して、それなりに話題を呼んだ)、この手のジャズ・マンが避けがちなギター奏者を擁するアルバムも持っているし、ちょい電気的な音がインサートされるアルバムもあったか。

 非メジャーから20作近く出している彼の2014年作『Mutations』は、なんとECM発。彼はそこで弦ユニットと一緒に、美世界を求めている。今回の来日公演はECMレコーディング・アーティストという印籠がもたらしたものと考えられるが、同社のマンフレド・アイヒャーにはじっくりとアイヤーの面倒を見てほしい。アーロン・パークス2002年7月3日、2005年8月21日、2008年11月22日、2009年2月3日、2012年5月31日、2014年2月5日)も新作はECM発だが、同社の新プロデューサーによるパークス作と違いアイヤーのアルバムはアイヒャー物件のようであるから。

 この日は、ソロ・パフォーマンス。1時間20分ほど、ジャズ・ピアニストであることをまっとうする。少し行儀良すぎ、もっと乱暴にあっち側に行ってェと、思わす部分もあったが。ぼくが彼に求めるもの、過剰にデカいっスから。ステージ中央に、観客席に真横になるようにセッティングされたスタンウェイから、いろんな調べが溢れ出る。意外だったのは、アンドリュー・ヒルとかハービー・ニコルズとかケニー・カークランドとかの他人曲を演奏していたこと。とはいえ、自分流に曲を存分に紡いでいて、オリジナルと言われても、そうなのと納得しそうではあるけど。延々フリーフォームでやることも出来たはずだが、そういうのはなかった。

▶過去の、メルドー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-2.htm
http://43142.diarynote.jp/200502232041270000/

▶過去の、パークス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm 2002年7月3日
http://43142.diarynote.jp/?day=20050821
http://43142.diarynote.jp/200811241224271906/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090203
http://43142.diarynote.jp/?day=20120531
http://43142.diarynote.jp/201402071150071550/

<今日の、Mr.ビーン>
 おお、アイヤーって狸に似ているな。とともに、やはり優等生っぽい、とは感じさせられる。この手の辣腕タイプにありがちな、鍵盤を押さえながらの“うなり声”も、彼は一切出さない。妙な雑音がないのは、やはりいい。それから、見てくれで、彼はどこかミスター・ビーンが入っているところがある、というのが、ぼくの見解。とか書くと、彼の熱心なファンから、何言っているんですか、彼は飛び級でイェール大学で数学や心理学を学んだ(なんか、そこらへんの音楽外の秀才ぶりはアーロン・パークスと重なる?)んですよと、反駁されそうだけど。そういえば、彼は今年に入ってハーヴァード大学の(音楽の)教授に就任したという話もある。
 ともあれ、ほのかなミスター・ビーン臭は愛嬌/抜けている感じにも繋がるように思う。また、それは神経質な印象から彼を遠ざける。よって、ピリピリしておらず、淡々と事にあたっていると感じさせるのは良い。とともに、真面目さは出てしまっても外にストリクトさが出ることはなく、出向いたライヴ会場に多少ボロなピアノが置いてあっても、こんなこともあるサと鷹揚に演奏にのぞんでいそうとも想起させて、それもぼくには頼もしく見えた。18日から3日間はトリオにて、ドラマーはマーカス・ギルモア(2007年11月21日、2010年7月24日、2010年8月22日、2014年5月15日)です。さー、どーなるか。
▶過去の、ギルモア
http://43142.diarynote.jp/200711290930350000/
http://43142.diarynote.jp/201007261045442770/
http://43142.diarynote.jp/201008261620103318/
http://43142.diarynote.jp/201405171309186867

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