東京ジャズ

2018年9月2日 音楽
NHKホール、二日目。

+マンハッタン・トランスファー
 2014年にリーダーだったティム・ハウザーが亡くなって(代わりに、トゥリスト・カーレスが加入)以降、初のアルバムとなる『The Junction』(BMG、2018年)のオープナーだったハンコック曲が改題された「カンタループ」からスタート。そこでのスキャットをはじめ、シェリル・ベンティーンがソロを取る曲が一番多かったかも。マーヴィン・ウォーレン制作によるその新作はけっこうプラスティックな質感を持つサウンドが採用されているが、実演においてはピアノ/キーボード、ダブル・ベース/エレクトリック・ベース、ドラムの3人が自然な手触りを持つ伴奏をつける。で、この3人がかなり達者。ほう、と膝を叩いた。

 さすがは、1970年代以降のジャズ・コーラス・グループの第一人者(2010年3月21日)。エンターテインメント性に留意する、サーヴィス精神に富んだショウは大受け。1階部の客は後半にけっこう立ち上がっていた。いろんな層の聞き手がやってくるジャズ・フェスティヴァルの出演者としてはトップ級に適な人たちだなとも頷く。後半には、やはり新作でやっていた「テキーラ」をよりラテン濃度を高めて披露。この後の出し物との繋がりもばっちり。歌の力量自体は落ちている部分はあるんだろうけど、4人は本当にプロフェッショナルでした。

▶︎過去の、マンハッタン・トランスファー
http://43142.diarynote.jp/201003261222016835/

+オマーラ・ポルトゥオンド from ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブmeets オルケスタ・デ・ラ・ルス (シンガーのノラをはじめ、全11人)featuringロベルト・フォンセカandバルバリート・トーレス、
↑と、フェスの盛り上がりを実感していたら、<昼の部>の二つ目の出演者群への反応はそれ以上だった。ステージに上がったのは、今年2度目の来日となるキューバの至宝的歌手のオマーラ・ポルトゥオンド(2001年2月9日、2012年5月1日、2013年9月7日、2018年3月20日)、一時は中南米制覇をなしとげた日本人サルサ・バンドのオルケスタ・デ・ラ・ルス (シンガーのノラをはじめ、全11人)、ピアニストのロベルト・フォンセカ(2003年10月14日、2010年1月26日、2013年1月12日、2014年3月19日、2017年9月19日)とキューバ人たちだろうベースとドラムと打楽器、ラウー(リュート)のバルバリート・トーレス、さらに日本人男性シンガーも部分加わる。と、書くとなんら平坦な感じになってしまう(?)が、1時間半はやっただろうその出し物は1曲として同じ陣容でやることがなかった! 

 上に書いた人たちが順列組み合わせ的に異なる顔ぶれのもと演目をこなしていったのだが、よく構成/リハーサルをしたと思うし、本番で進行役をきっちり務めたロベルト・フォンセカには本当に感心した。今ハービー・ハンコックなるものを弾かせたらハンコック当人以上にうまいんじゃないかと推測させる側面も持つ彼は、長身で格好もいいし、ぼくのフォンセカ株は改めて急騰しましたね。で、そうした多様さを通して、ラテン・ミュージックの面白みや親しみやすさや味わい深さ、属性の異なる音楽家たちが重なり合う素敵なんかがすうっと浮かび上がっていたのだから……。良い、フェスとしての出し物でした。あ、あとあれだけ人がいたのに、ちゃんと音が聞こえたなと思った。

▶︎過去の、オマーラ・ポルトゥオンド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-2.htm ブエナ・ビスタ
http://43142.diarynote.jp/201205080621274204/
http://43142.diarynote.jp/201309161507226186/
http://43142.diarynote.jp/201803230853439312/
▶過去の、ロベルト・フォンセカ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-10.htm
http://43142.diarynote.jp/201001291746252351/
http://43142.diarynote.jp/201301161544336447/
http://43142.diarynote.jp/201403240917556171/
http://43142.diarynote.jp/201509291629428595/ (最後のほう、ロベルト・フォンセカへのインタヴュー)
http://43142.diarynote.jp/201709240952511030/

+ジョン・スコフィールド 「Combo 66」
 以下の二組は、<夜の部>の出演。

 人気ギタリストのジョン・スコフィールド(1999年5月11日、2001年1月11日、2002年1月24日、2004年3月11日、2006年3月1日、2007年5月10日、2008年10月8日、2009年9月5日、2012年10月10日、2013年10月21日、2015年5月26日)がリーダーシップを取る公演は、ダブル・ベースのヴィセンテ・アーチャー(2007年10月3日、2009年4月13日、2010年7月24日、2012年6月29日、2013年2月2日、2013年6月4日、2016年12月20日、2018年1月3日)、ピアノのジェラルド・クレイトン(2007年9月10日、2008年9月16日、2009年6月7日、2009年9月3日、2011年10月6日、2017年1月18日、2017年6月7日)、ドラムのビル・スチュワート(2012年10月10日、2016年6月4日)を擁してのもの。アコースティック・コンボと言えるもので、「Combo 66」というのはこの4月にレコーディングされ近くリリースされるスコフィールドの新作タイトルだ。

 実は、スコフィールドは昨年に、ジャック・ディジョネット(2001年4月30日、2003年8月23日、2007年5月8日、2014年5月22日、2015年9月5日)、ラリー・グラナディアー(1999年12月8日、2009年3月1日)、ジョン・メデスキ(1999年8月15日、2000年8月13日、2001年2月5日、2002年9月7日、2004年1月24日、2007年5月10日、2008年12月16日 、2012年3月2日)という名手4人連名リーダーにて『Hudson』(Motema Music)というアルバムを出していて、それはメンバーのオリジナルとともにボブ・ディラン、ザ・バンド、ジョニ・ミッチェルらのロック曲も取り上げるなど広がりある内容になっていて(グラナディアやメデスキが歌を差し込むものもある)、フェス運営側としては当初そちらを招聘したかったのではないかとも推測するがどうだろう?

 でも、派手さはなかったが(当初、スコはけっこう自然な音色のギター音を採用しているなと思えたが、徐々にイフェクトもかけていった)、美味しい伸縮性を持つサウンド総体はなかなか。クレイトンはオルガンを弾く曲もあったが、それはヒラヒラした質感〜当然、従来のオルガンが与えるものとは離れる〜を持つもので興味深かった。

▶過去の、ジョン・スコフィールド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live2.htm 5.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-1.htm 1.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm 1.24
http://43142.diarynote.jp/200403111821250000/
http://43142.diarynote.jp/200603011148430000/
http://43142.diarynote.jp/200705181809270000/
http://43142.diarynote.jp/200810111558046727/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090905
http://43142.diarynote.jp/201210111837516874/
http://43142.diarynote.jp/201310210730403296/
http://43142.diarynote.jp/201505271549266046/
▶過去の、ヴィセンテ・アーチャー
http://43142.diarynote.jp/200710121727100000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090413
http://43142.diarynote.jp/?day=20100724
http://43142.diarynote.jp/201207031353196616/
http://43142.diarynote.jp/201302041827243806/
http://43142.diarynote.jp/201306060730086224/
http://43142.diarynote.jp/201612211059578863/
https://43142.diarynote.jp/201801042046591963/
▶過去の、ジェラルド・クレイトン
http://43142.diarynote.jp/200709171108570000/
http://43142.diarynote.jp/200809171409066704/
http://43142.diarynote.jp/200906091637138003/
http://43142.diarynote.jp/200909120646397236/
http://43142.diarynote.jp/201110091258307349/
http://43142.diarynote.jp/?day=20170118
http://43142.diarynote.jp/201706081034584863/
▶過去の、ビル・スチュワート
http://43142.diarynote.jp/201210111837516874/
http://43142.diarynote.jp/201606121224129353/
▶過去の、ジャック・ディジョネット
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-4.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm
http://43142.diarynote.jp/200705181807060000/
http://43142.diarynote.jp/201405231458349566/
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/
▶︎過去の、ラリー・グラナディアー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/december1999live.htm パット・メセニー
http://43142.diarynote.jp/200903031751323247/
▶︎過去の、ジョン・メデスキ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm 8月13日
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm 9月7日
http://43142.diarynote.jp/200401240000000000/
http://43142.diarynote.jp/200705181809270000/
http://43142.diarynote.jp/200812281442184528/
http://43142.diarynote.jp/201203062004221304/

+渡辺貞夫オーケストラ
 アルト・サックスの渡辺貞夫(2002年12月14日、2003年5月6日、2004年12月17日、2005年12月18日、2006年8月8日、2006年9月3日、2006年10月4日、2007年12月16日、2008年12月14日、2009年7月22日、2009年9月3日、2011年7月4日、2012年6月29日、2012年12月15日、2013年4月1日、2013年7月27日、2013年9月29日、2014年7月8日、2014年10月5日、2014年12月14日、2015年12月12日、2016年7月3日、2016年12月11日、2017年10月8日、2017年12月16日、2018年5月28日)は、ビッグ・バンドにて出演した。

 例によってそのまとめ役は多くの曲のアレンジもするトロンボーンの村田陽一(2005年1月7日、2006年1月21日、2010年3月9日、2011年12月20日、2012年9月8日、2014年12月14日、2015年9月27日、2016年12月11日、2017年12月5日、2018年6月8日)がこなす。その構成員は、林正樹(p)、納浩一(b)、 竹村一哲(ds) 、 吉田治 と近藤和彦(as)、 小池修 と今尾敏道(ts) 、山本拓夫(bs)、 辻冬樹 と奥村晃(tb)。 山城純子(b、tb) 、 佐久間勲 / 奥村晶 / 松島啓之 / 二井田ひとみ(tp)であったよう。

 自分のオリジナルとともに、ゲイリー・マクファーランドやオリヴァー・ネルソンやコルトレーン曲(アレンジは、60年代前半にバークリー音楽院に言った際に同級生がやったものと紹介)なども披露。とともに、アルト・サックスを吹かず、ディレクションに終始した曲もあった。そのオーケストラ表現の総体は保守的なそれからは一歩離れんとする意思も感じられるもので、それは通常のバンドによるドラマー選択に現れているようにどこか新しいモノ好きの渡辺貞夫らしいと思った。ここは村田の頑張り様にもよるが、定番のビッグ・バンド編成によらないはず・オーケストラに着手するのもアリではないかとぼくは思った。

▶過去の、渡辺貞夫
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-12.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-5.htm 6日
http://43142.diarynote.jp/20041221210502000
http://43142.diarynote.jp/200512231955480000/
http://43142.diarynote.jp/200608091255180000/
http://43142.diarynote.jp/200609070211000000/
http://43142.diarynote.jp/200610080946310000/
http://43142.diarynote.jp/200712171350530000/
http://43142.diarynote.jp/200812281440093394/
http://43142.diarynote.jp/200907310048137248/
http://43142.diarynote.jp/200909120646397236/
http://43142.diarynote.jp/201107111008176019/
http://43142.diarynote.jp/201207031353196616/
http://43142.diarynote.jp/201212171647134119/
http://43142.diarynote.jp/201304031026406106/
http://43142.diarynote.jp/201307291053021427/
http://43142.diarynote.jp/201310050701201281/
http://43142.diarynote.jp/201407091243129270/
http://43142.diarynote.jp/201410061850124929/
http://43142.diarynote.jp/201412281017371613/
http://43142.diarynote.jp/201512151504068292/
http://43142.diarynote.jp/201607100827363436/
http://43142.diarynote.jp/201609201032322395/
http://43142.diarynote.jp/201610141747514263/
http://43142.diarynote.jp/201612171245154424/
http://43142.diarynote.jp/201710121700178187/
http://43142.diarynote.jp/201712181015052794/
http://43142.diarynote.jp/201805290906425481/
http://43142.diarynote.jp/201712061006171627/
http://43142.diarynote.jp/201806130948515941/

<今年の、注文>
 去年のこの項で、ステージ前のオーケストラ・ピット部がぽっかり空けられていて上から見ると興ざめすることや、ステージ側から客席にバンバン光が当てられ眩しいのでやめてほしいというようなことを書いたのだが、それについては見事に改めれていた。だが、今年は新たに問題が一つ。プログラムにもHPにも、出演者のパーソネルがあまりのせられていない。ちゃんと出演者の名前がのせられていたのは、R+R=NOW、ハービー・ハンコック、ジョン・スコフィールドぐらい。他の出演者でここで名前を載せているのは、別なところで拾ったものに準じた。過去の東京ジャズのここでの記載を見るともう少しちゃんとパーソネルを記しているので、もっとまっとうに出演者名が報じられていたんじゃないのかなあ。ともあれ、主役に立つ人の名前さえわかればOKという歌謡ショウならともかく、サイドの助演者も重要なジャズの要件なのであり(他のジャンルのパフォーマンスも、ぼくはそう思うけど)、それをないがしろにするというのはいかがなものか。東京ジャズの指針が音楽ファン心を舐める方にシフトしたのか、それともそこらへんの出演者情報を担当する人がああ面倒くせえ誤植が増える危険性を増やすのもナンだしと今回はサボる方向に出たのか。なんにしても、大きな誤り。今年、出し物は充実していたのに残念至極。改めていただきたい。ところで、猛暑の疲れもあり、いろんな国の人が出た野外の無料ステージはあまり見ず。でも盛況だったようだし(ぼくの知人はそちらだけを見にきていた)、それはめでたしめでたし。

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