目黒シネマで、アリサ・フランクリン絡みの映画を2本見る。10時半から15時近くまで。このラインアップ上映、今週だけのよう。目黒シネマは駅近くの100席の映画館。いわゆる名画座で、旧作2本を続けて見れちゃう。そして、新作封切り館よりも安価に入場できる。この映画館に来るのも初めてとなるが、名画座に行くなんていつ以来だろう。浪人や大学生の頃は、渋谷・全線座、高田馬場・早稲田松竹、飯田橋・ギンレイホールなどの名画座にはたまに行ったりしたが。ともあれ、とっても便利な場所の地下にあるこの映画館はスクリーンの大きさには限度があるが、歴史はありそうなもののリニューアルもされているようで、普通に悪くない。上映前に録音された監督や出演者たちのデーターの朗読が流されるというのも、妙な風情というか映画愛のようなものを感じさせるな。最寄駅にあれば、通っちゃう?

 まず見たのは、2018 年アメリカ映画の『アメイジング・グレイス(原題:Amazing Grace)』。1972年1月13日と14日、一度原点に戻りたいというフランクリンの強い要望のもとロサンゼルスの教会で録られた同名のライヴ・アルバム(実はフランクリンのアルバムで一番のセールスを持つというのは本当か?)と同じソースの映像版だ。アトランティックのジェリー“非道なところ大あり”ウェクスラーが映画も撮るならと、ゴー・サインを出したプロジェクト。だが、シドニー・ポラックが監督したものの、画像と音が同期できずにお蔵入り。その後、アラン・エリオット監督により90分弱の映画としてまとめられたが、フランクリンは撮影陣に対する良くない印象も持つなど頑としてOKを出さず、死後に公開されたという経緯を持つ。

 DAY1とDAY2に半分づつ分けてライヴの模様を紹介するこの映画(2日目のほうが、カメラ・ワークが少しワイルドになる)をぼくは2019年秋に国際線の機内で見ているが、飲みまくり&小さな画面&字幕なし&プアな音での印象とはやっぱり異なる思いを得た。フランクリンとは付き合いの長いジェイムズ・クリーヴランド牧師(やっぱり、語りはうまいなあ)率いる南カリフォルニア・コミュニティ・クワイアーとアフリカン・アメリカンの拠り所である積み重ねを自然に開くような絡みに、コーネル・デュプリー(2002年6月25日、2010年8月31日)やバーナード・パーディ(2006年7月26日、2012年6月19日)らのバンド音がつく。やっぱり、ヒストリカルな実演を伝えてくれ、貴重ではある。ほぼパフォーマンスの模様を捉えた映像のみで、もう少しその裏側を教えるものがあったならとは思えた。やっぱし、あまりフランクリン側と撮影陣のリレイションが取られていなかったんだろうな。

 会場となったザ・ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会はそれなりに広く、客席配置は劇場のよう。特に1日目の客は黒人だけ、どういう人たちが来ていたのだろう。DAY2での客席にいるミック・ジャガーの喜び方に触れると、ストーンズ(2003年3月15日)は信頼できると思ってしまう。アフロ・ヘアーの人が散見されるのは、あの時代ならではだ。なお、クワイアーをファンキーかつ颯爽と指揮するアレキサンダー・ハミルトン(映画にも後姿を中心にけっこう映る)はこの1月28日に、77歳で亡くなってしまった。Rev.とDr.の呼称を得た彼は、コーラス関連でエタ・ジェイムズ、シカゴ(2010年2月19日)、グラディ・ナイト&ピップスら非ゴスペルの人たちの表現にも関与した。もし、この映画が予定通り公開されていたら、いい感じで映っている彼の人生は少し違っていたかもしれない。

 続く2本目は、2021年米国映画『リスペクト(原題:Respect)』。昨年公開されたジェニファー・ハドソンがフランクリン役を演じるこの伝記映画をぼくは未見だった。それは、米ナショナル・グラフィック・チャンネルの実写伝記たる“Genius”シリーズとして2021年にアリサ・ブランリン編が全8話で公開され、きっちり作られたそちらを見てお腹いっぱいという心持ちを得たしまったからだった。そこ(こちらでフランクリンを演じるのは、英国人俳優/シンガーのシンシア・エリヴォだ)には誘惑に弱くローティーンで妊娠もしてしまう彼女と、俗物牧師たる父親、ダメ夫、姉妹、黒人が成功することを良しとしない白いアメリカ社会などとの軋轢が、多大な才能や数々の栄光と隣り合わせで描かれていて、さらに映画でそういう負の側面を見せられるのはちょっと……と、ヤワなぼくは思ってしまったからだった。とはいえ、今回は条件が重なり、これは見なさいと言われた気持ちになったナリ。

 エラ・フィッツジェラルトらいろいろな音楽スターもいるリッチなホーム・パーティのシーンから始まるが、そこで流れるのはストライド・ピアノ調の調べ。お、音楽はクリス・バワーズ(2014年7月27日)か。先のナショナル・ジオグラフィック版のほうの挿入音楽はテレンス・ブランチャード(2002年7月3日、2005年8月21日、2009年3月26日、2013年8月18日)が関わっていた。役者は、この映画の方が当人と似ている人が多いと思う。なお、件のTV“Genius”シリーズは先にアインシュタインとピカソのものが作られており、フランクリンが3番目で、次はキング牧師のよう。

 全体的に画面の光度が低いと感じた。その方が重厚感は確かに増すが、ぼくは少し戸惑った。10歳から1972年の『アメイジング・グレイス』公演、つまり20代までの彼女を2時間20分の尺で描く(最後には、晩年のオバマ大統領絡みの実際のパフォーマンス映像などもインサートされる)。だが、彼女の躍進期のダメ夫/マネイジャーであるテッド・ホワイトとの愛憎トラブルはけっこう入っているものの、他の描き方はオブラートに包んだ感じを得てしまう。それは全7時間強ものナショナル・ジオグラフィック版〜アトランティック期以降は駆け足紹介となる〜を見たから出てくる感想だが、TV版のほうには入っていたキング牧師との心温まるやりとり〜彼女は公民権運動に積極的だった〜は入れて欲しかったかもしれぬ。また、『アメイジング・グレイス』教会公演に距離を置いていた父親が突然偉そうに現れてフランクリンがヘコむことがTVでは示されるが、『リスペクト』では大団円にふさわしく(?)親子の心温まる邂逅として描かれた。映画『アメイジング・グレイス』にはその実際の教会での模様が収められているわけだが、フランクリンは戸惑いを覚えつつプロとして取り繕い父親との時間を共有しているようにぼくには見えた。

 主役のジェニファー・ハドソンは当然フランクリンになり代わって、歌う。そんなに違和感ないし、彼女は老けていないナとも思った。予算は潤沢であったろう、ゆえにリッチな映像は楽しめるものの、この映画はソウルの女王の歩みや逸話を知らないと、けっこうちんぷんかんぷんな仕上がりではない? でも、日本人がなんとなく美空ひばりの人生がイメージできるように、米国ではこれでOKなのかもしれない。エンドロールを見て驚いたのは、映画のプロデューサーを務めている一人がハーヴィ・メイソン・ジュニアであること。大御所ドラマーのハーヴィー・メイソン(2002年8月11日、2010年7月9日、2011年6月21日、2014年5月28日、2016年4月5日、2017年9月1日、2019年10月17日)の1968年生まれの息子で、当初は作曲/アレンジ/制作/技術などR&B系の裏方をしていたが、2000年代中頃から映画の世界にも進出するようになり、現在はLAのエンターテインメント業界の顔役となっている。

▶︎過去の、映画「アメイジング・グレイス」
https://43142.diarynote.jp/201909260737052277/ 下部のほう
▶過去の、コーネル・デュプリー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-6.htm
http://43142.diarynote.jp/201009010955348098/
▶︎過去の、バーナード・パーディ
https://43142.diarynote.jp/200607281034380000/
https://43142.diarynote.jp/201206210944302024/
▶過去の、ザ・ローリング・ストーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm 3月13日(バック・バンド)。15日
https://43142.diarynote.jp/201904200941516964/ ストーンズ展
▶︎過去の、やはり教会に見にきていたチャーリー・ワッツ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-10.htm
https://43142.diarynote.jp/202108250753519456/ 訃報
▶︎過去の、シカゴ
https://43142.diarynote.jp/201002211122268480/
▶︎過去の、エタ・ジェイムズの映画
https://43142.diarynote.jp/200905271738046764/
▶︎過去のTV番組「ジーニアス:アレサ」
https://43142.diarynote.jp/202107020908476601/
https://43142.diarynote.jp/202107141235565077/
▶︎過去の、ジェニファー・ハドソンが出た映画
https://43142.diarynote.jp/200701211122480000/
▶︎過去の、クリス・バワーズ
https://43142.diarynote.jp/201408051020111821/
▶︎過去の、バワーズが音楽をつけた映画
https://43142.diarynote.jp/201901301508232449/  バワーズのインタヴュー付き
https://43142.diarynote.jp/202202121122218642/
▶︎テレンス・ブランチャード
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-7.htm 3日
http://43142.diarynote.jp/?day=20050821
http://43142.diarynote.jp/200903271727246000/
http://43142.diarynote.jp/201308191407221107/
https://43142.diarynote.jp/201903050842467108/ 映画音楽
▶過去の、ハーヴィー・メイソン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-8.htm 8月11日、トム・スコット
http://43142.diarynote.jp/201007110625087085/
http://43142.diarynote.jp/?day=20110621
http://43142.diarynote.jp/?day=20140528
http://43142.diarynote.jp/201604060850393487/
https://43142.diarynote.jp/201709071307037021/
https://43142.diarynote.jp/201910180828345862/

<今日の、注射>
 ワクチン接種券が届くと、積極的に受けに行くぼく。注射していてもかかる人はかかっているわけで、どれほど効力があるのかと疑問を持つ部分はあるし、インフルエンザのようにタイプごとに別なワクチンが必要な気もしないではない。だが、受けたほうが心の安堵を得ることができるし、万が一海外に行く場合は証明が必要になるので、ぼくは受ける。じっさい、今はもろもろ気を使っていても、かかる人はかかってしまうという状況。ようは、その人の免疫力と運次第……。なんか寝不足だったり、疲れてんなあとか、気乗りしあいなあと内なる自分が語りかける場合、ぼくはなるたけ外出しないようにしている。
 ともあれ、朝8時半に、COVID-19の3度目となるワクチン注射をしてもらう。モデルナ→モデルナと受けて、今度はファイザーにした。それはメイカーをクロスオーヴァーさせた方がいいと聞くのと、2度目のワクチン注射したときの副反応がなあかなかで〜https://43142.diarynote.jp/202107220942576811/ の下のほう〜3度目は種類を変えたかった。ファイザー製は人気で予約を取るのが難しいはずなのに、区の予約サイトから自由が丘の個人クリニックのそれが取れてしまったのは??? 他のところは、見事に3月に入ってもずっと空きがないのに。帰りは奥沢駅から1本で目黒駅まで行けるのも、目黒で映画を見るのを後押しした。東急目黒線には初めて乗ったよー。まじに。武蔵小山(立派な地下駅だった)の飲み屋には行ったことがあるけど、行き帰りともにタクシーだったからなあ。初めてはなんでもいいものだ。
 夕方、肩がいてーー。さて、明日はどうなるか。とりあえず、日曜まで公的(?)な要件はスケジュールに入れていない。

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