ビラル

2017年1月24日 音楽
 以下の抜粋は、ビラルが初来日した2001年サマーソニック初日(2001年8月18日)における<ライヴ三昧>のもの。ニュー・スクール大学時代の友達だったアルバム・デビュー前のロバート・グラスパー(2007年10月3日、2009年4月13日、2009年12月19日2010年12月16日、2012年6月12日、2013年1月25日、2014年8月20日、2015年6月8日、2016年12月20日)の初来日もこのときだったわけですね。


 
 初日のお目当ては、ビラル。他の好きなアーティストはすでに単独で見ちゃっているから。あ、ラッセル・シミンズのステージは昨年出たアルバムがとっても好きだったので見たかったが、早出するのがイヤで最初から諦めた。
 ともあれ、ビラルは今年デビューした黒人アーティストのなかでは一番いいゾと思わせる存在。歌と曲と伴奏のバランスがよろしい。ソウル・クエリアンズ一派とも言えるだろう、彼のステージは10人ものバンド/コーラスを引き連れてのもの。その髪形一つをとっても、普通の黒人からは離れていると思わせるもんだナと再確認。アルバムで感じさせるほどの粘着感覚と隣り合わせのヘンてこさを味わえたわけではないが、満足。後半ジミ・ヘンドリックス曲のカヴァーをやる。



 そしたら、今回のビラルはもっと捉えどころがなく、十分に変だった。ま、それは彼の『In Another Life』(eOne,2015)で繰り広げられているものであるが、なんか実演の方が不整合な感じがあって、やはり変わっているなあと思わされた。そして、それが変だけに終わらずいいなと頷いてしまうのは、そこに米国黒人音楽の積み重ねの才気ある応用、アフリカン・アメリカン音楽家としての生理的に澄んだ闘争の様が見えるからだと思う。

 おでこの広いビラルは髪型もあり、なんか少しごっついモウリス・ホワイトという外見を持つか。彼は地声とファルセットを駆使するが、比率はファルセットの方が高い。ちょい、マーヴィン・ゲイの影を感じるときもあり。

 そんな彼に加え、サイド・ヴォーカルのマイカー・ロビンソン、キーボードのデヴォン・ディクソンJr.、ギターのランディ・ラニオン(2016年11月20日)、ベースのコンリー“ドーン”ウィットフィールド、ドラムのジョー・ブラックスという面々がサポート。うち、ベーシストのウィットフィールドはプロデューシングやエンジニアリングにも長ける御仁で、ビラル作やキンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル作ではそちらの方でもクレジットされている。そのバンドは部分的には、プリセット音も併用。のらりくらりとした捉えどころのない曲(伸縮性にも長けていたのだと思う)を譜面なしでちゃんと演奏、何気に面々が腕が立つのは分かるし、今のワーキング・バンドなのだろう。

 やっていることは別に新しいものではないが、先に触れたように、妙に聞き手に訴求する部分を持つ。新作『In Another Life』は肉声でケンドリック・ラマーが入ると共に、プロデュースや各種楽器でエイドリアン・ヤング(2016年3月21日)が関与していたが、その捉えどころのなさは、彼の昨年の来日公演に近い。それから、ソウルクエリアンズ制作でビラルやプリンス(2002年11月19日)も参加したコモン(2004年6月11日、2005年9月15日、2015年9月23日)の『Electric Circus』(MCA,2002年)の取り止めのなさも思い出させる。あ、あとは聞いていて、どこかロックぽさも持つそれは、はるか昔のウェストバウンド時代のファンカデリックをもっとメロウにした手触りもあると思えたか。なんか『ヘアー』(2013年5月29日)や『ジーザズ・クライスト・スーパー・スター』などのロック・ミュージカル調にも聞こえる部分はあったかも。それは、ビラルにどこかシアトリカルな部分を感じたからか。

 楽曲はけっこう切れ目なしに届けられ、アンコールなしで80分はやった。最後の曲はキーボードやギターにもソロのパートを回し、すると彼らはジャズの造詣も持つ奏者であることが分かる。鍵盤ソロの中盤までは、セロニアス・モンクの癖をデフォルメしたみたいなことをやっていて笑った。それに続き、ビラルとマイカー・ロビンソンはスキャットの掛け合いを聞かせる。その際、リズムが4ビートぽくなって、ドラマーのジョー・ブラックスはスティックの握りをそれまでのマッチドからレギュラー・グリップに変えた。

 とかなんとか、視点と含蓄あり。それが、なんか正体不明な個の鮮やかな主張となっていた。六本木・ビルボードライブ、ファースト・ショウ。

▶︎過去の、ビラル
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-8.htm サマーソニック
▶過去の、ロバート・グラスパー
http://43142.diarynote.jp/200710121727100000/
http://43142.diarynote.jp/200904150840164356/
http://43142.diarynote.jp/201001051625155901/
http://43142.diarynote.jp/201012171104366095/
http://43142.diarynote.jp/201206141342549869/
http://43142.diarynote.jp/201301270742196778/
http://43142.diarynote.jp/201408210931581467/
http://43142.diarynote.jp/201506070919133558/
http://43142.diarynote.jp/201506091124003170/
http://43142.diarynote.jp/201612211059578863/
▶過去の、ランディ・ルニオン
http://43142.diarynote.jp/?day=20161120
▶︎過去の、エイドリアン・ヤング
http://43142.diarynote.jp/201603230835051084/
▶︎過去の、プリンス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-11.htm
▶過去の、コモン
http://43142.diarynote.jp/200406130120280000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20050915
http://43142.diarynote.jp/201509241127563839/
▶︎過去の、ミュージカル「ヘアー」
http://43142.diarynote.jp/201305300943356937/

<今日の、会合>
 ライヴを見た後、かつてレコード会社にいた方のお別れの会に行く。彼のお姉さんは著名なスター音楽編集者だった。ブルース・ギタリストでもあったので、彼流れの大御所もいろいろ演奏。そのあと、彼も行っていたバーに流れ、思いを重ねる。とってもお酒が好きで、けっこう年齢は離れていたけど、普段からちゃんづけか呼び捨てをぼくの周りではしており、それでニコニコしていた気安い人だったなあ。

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