まず、京橋・テアトル試写室で、2018年日本映画「フジコ・ヘミングの時間」を見る。ぼく、かつてクラシック音楽のかたぐるしい権威性や観客の愚かな気取りを小馬鹿にするとともに腰がひきまくっていたので、クラシックには興味が持つことがなく、一応その名前は知っていたものの、細かいことはまったく知らなかったので、とても興味深く見ることができた。◎。だって、おれ、日本人のピアニストが海外に行って、向こうの人と結婚して名前がそうなり、向こうで認められた人なのかと思っていたもの。→実際はスウェーデンと日本のミックスで、基本は日本育ち。60歳代末にTVで日本に住む彼女の不遇な音楽家人生のドキュメンタリーが放映されたところ日本で爆発的に注目され、それが世界的評価につながった。今は、86歳のよう。

 人間性や嗜好や歩みを伝える自身の語り(監督との会話だろう)を中心に進み、そこに彼女のアンティークな感じたっぷりの自宅(パリ、ベルリン、下北沢、京都、サンタモニカとたくさん持っている)や日常、そして各地(パリ、東京、シカゴ、サンティアゴ、NY、ブエノスアイレス、京都)の公演の模様なども随時入る。監督は、1964年生まれの小松壮一良。彼女に気に入られているのか、すぐ側に入り込んでいるし、映される映像やその編集も、ぼくの生理には合う。けっこうJ-ポップものの映像をとってきた人のようだが、どんなものを作っているのか知りたくなった。

 彼女が中学生のときに書いた絵日記も時々モチーフとしてインサートされるが、絵は味ありでなかなか。日記の日本語の字は上手じゃないが、絵につけられた注釈は綺麗な英語で書かれている。独自のファッションで身をかためている彼女、愛煙家で猫偏愛とぼくが苦手な部分も持っているが、嫌な気持ちにならずに見通せました。なお、映画は彼女が世に出るきっかけになった昔のNHKのドキュメント番組の作法と似ている、という人もいました。

 南青山・ブルーノート東京。実力と才気ありのポーランド人ジャズ・シンガー(2015年9月5日、2016年12月25日 )の今来日のショウは、ポーランドのグループのクローケとのもの。ヨペックもクローケ構成員も皆スラブ民族であるようだが、クローケはジューイッシュ音楽と即興をかけあわせたことをやるグループ。両者は一緒のアルバムは出したことはないが、ここ数年けっこう絡んでいるそう。

 結成25年強となる、ヴィオラ、アコーディオン、ベース、ドラムスという編成を持つクローケのアルバムのなかにはかなりクレツマーぽいものもあって、クレツマー調表現のなかで私を開くものになるのかと思えば、ぜんぜんそんなことはなかった。1曲目はクローケだけの曲だったが、ざっくり言えば哀愁と含みあるプログ・ロックという感じ。そして、以降は小さなキーボードも触るヨペックが交ざるわけだが、なにげに柔和にして流動性のある<プログ・ロック+>と言いたくなるような路線で進む。それ、ぼくが聞いたことがある両者の表現にかちっと当てはまらないもので、それは両者で作ったオリジナルであったのか否か。なんにしても両者の確かな創造性のようなものはぶりぶりと感じさせるもので大きく頷いた。

 澄んでいるのに地声に質量感があり、歌がよく伸びるなあと、ヨペックのパフォーマンスに触れて再認識。とともに、今回の多くはスキャットでせまりまくっていたはずで、ジャズの素養/器量も存分に通過していた。

 クローケの面々は、ヴィオラ(ちょいティン・ホイッスルのような小さな縦笛も吹く)のトマシュ・ククルバ、アコーディオンのイェジ・バヴォウ、ドラムのパヴェウ・ドブロヴォルスキ。そして、クローケのベース奏者は飛行機がダメで、それゆえこのアジア遠征には、ヨペックのバンドのベーシスト(5弦電気を弾くが、一部はダブル・ベースも演奏)であるロベルト・クビシン(2015年9月5日、2016年12月25日 )が同行。しかし、ヴィオラ奏者は雄弁、歌った歌も朗々、うまかった。

▶︎過去の、アンナ・マリア・ヨペック
http://43142.diarynote.jp/?day=20150905
http://43142.diarynote.jp/201612270940364817/
▶︎過去の、ロベルト・クビシン
http://43142.diarynote.jp/?day=20150905
http://43142.diarynote.jp/201612270940364817/

<今日の、多彩は美徳>
 マリア・ヨペックの新作は、香港のワールド・ミュージック・フェス出演を含む中国ツアーの流れにある今回の実演とも、通常のワーキング・バンドによるパフォーマンスともまったく異なる内容を持つ。その『Minione』(Universal、2017年)は、ゴンサロ・ルバルカバ(2005年3月16日、2007年11月21日、2010年8月22日、2014年1月10日、2014年1月12日、2015年4月7日)との双頭名義作。ベースのアルマンド・ゴーラとドラムのアーネスト・シンプソン(2013年9月17日)というキューバ人奏者からなるピアノ・トリオを擁して、マイアミで同作は録音された。興味引かれるのは、戦前のポーランド語によるタンゴ曲をそこで主に取り上げていること。なんでも、昔、ポーランドではタンゴがはやったことがあり、その類の曲も作られたようだ。音楽様式の伝搬や流行っておもしろい。墨絵のようなトーンを持つその音楽プロダクションはルバルカバが行なっている。
▶過去の、ゴンサロ・ルバルカバ
http://43142.diarynote.jp/200503240453290000/
http://43142.diarynote.jp/200711290930350000/
http://43142.diarynote.jp/201008261620103318/
http://43142.diarynote.jp/201401161534392423/
http://43142.diarynote.jp/201401171004104264/
http://43142.diarynote.jp/201504081451142675/
▶︎過去の、アーネスト・シンプソン
http://43142.diarynote.jp/201309201840164499/

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