まず、東銀座。松竹試写室で、2019年ドイツ映画を見る。イスラエルとパレスチナの軋轢を下敷きにする、クラシック音楽を材料に置く作品だ。監督は、1959年生まれイスラエル人のドラー・ザハヴィ。脚本は彼を含め、5人で書かれている。1月下旬より、全国公開される。

 ドイツ人の著名指揮者が、憎しみとともに殺しあう関係にあるイスラエルとパレスチナに住む奏者をオーディションし、彼らが一緒になった小編成オーケストラを結成、両国の新ステップを導くような公演を行うことを目指し……。映画は関係がギクシャクした両側の若者がオーディションで会し、南アルプスでの練習合宿の模様などを描いていく。そのストーリーは実際にイスラエルとパレスチナの両方の市民権を持つ大御所ピアニスト/指揮者であるダニエル・バレンボイムのウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラに着想を得ているという。いただいた資料のインタヴューにおいて監督はイスラエルとパレスチナの人たちが手を取り合うオーケストラを組むなんて今はまだ絵空事だと語っているが、少し臭いなあと思わすやりとりや出来事なども織り込み、両者の断絶のデカさや音楽の普遍的な力を指し示さんとしている。

 見る前に期待したほどの感興はないなと思って見ていたのだが、最後の締めはにはわっ。それで、ぼくが覚えていた違和感は霧散した。言葉はドイツ語、ヘブライ語、アラビア語、そしてみんなで意思疎通を図る際となる多くのシーンでは英語が使われる。音楽は練習演奏シーンなどもありクラシックが中心となるが、場合によってはエレクトロ調やポスト・クラシカル調も出てくる。

 夜は、三鷹市芸術文化センター 星のホールで、「星の王子さまとの出逢い」と題された公演を見る。とうぜんアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900〜1944年)の「星の王子さま」(1943年)のストーリー〜銅版画家の中井絵津子がその語りを入れる〜と自身による挿絵を用い、そこに曲によりアルト・サックス、クラリネット、ピアノ(少し肉声や親指ピアノも)を使い分ける仲野麻紀(2018年7月7日、2018年10月21日)が音楽をつけるという内容を持っていた。そして、舞台美術や装置(ステージ前の半透明スクリーンとステージ背後のスクリーン2種を巧みに使っていた)を手作り的に用いたこの出し物は、やっぱ仲野麻紀すげえと思わせるステージになっていた。

 あのメルヘンチックな絵や邦題の痒さに退いて、ぼくは同書をめくったことはないが、朗読の1部を耳にすると、単なるファンタジーではない、いろんな含みを抱える本だったのだと気付かされる。でも、そんなことはどうでもいいことで、やはりぼくの耳や目はストーリーとともに自分のいろんな面を出す、仲野の自在の独演に釘付けとなった。

 彼女はアルト・サックス、クラリネット類、ヴォイス、民族楽器などを無理なく重ね新境地を見事に開拓した単独録音作『OPENRADIO』(openmusic)をこの秋に出したが、そこで獲得したその場の自己演奏サンプリングも用いるリードの多重演奏音が核となる音楽はまこと存在感あり。ときにはプリセット音などもうっすら流し、彼女は雄弁な仲野ワールドを送り出す。舞台美術/ストーリーに合わせ、そのソロ演奏の流れはじっくり作られたのだと思うが、フフフと楽しんでいる様子、スポンテニアスな感じもそこから浮かび上がるのも頼もしい。結果、情を持ちつつ研ぎ澄まされた音楽家であることが浮かび上がり、さらには澄んだ我と自由が溢れ出るというわけなのだった。

▶過去の、仲野麻紀
http://43142.diarynote.jp/201807080932266789/
https://43142.diarynote.jp/201810221139492314/

<今日の、我が道を行く>
 試写会とコンサートの間に時間があったので知人を呼び出し、ゆっくりと飲食。ここんとこ、久しぶりに大飲み日が続いているためもあってか、1杯で顔がほてるのを感じる。ニシンの酢漬け、久しぶりに食べたら美味しゅうございました。食べながら、自分で作るのは難儀そうと思う。スウェーデンでは夏場に食べると聞いたことがあるような気もするが、スカンジナヴィアの食べ物というイメージがあるためか、なんかぼくにとっては暖かくない食べ物であるのに冬場のアテという気持ちを持ってしまうかな。昔は酢が嫌いで、酢でしめる食べ物はNGであったが、しめ鯖や寿司のこはだなんかも好きだしだいぶ好みが変わってきているなー。ガリも近年は食べるようになった。とはいえ、バルサミコ酢はいまだに苦手であるが。
 仲野の新作『OPENRADIO』を結構立派な体制で物販している。おお、配給しているキング・インターナショナル仕切りであるのか。現在フランスから一時帰国中の仲野は公演前、下北沢で1000円カットの店があるのを見つけ、少し襟足を切りたかったので入ってしまったという。お店の人ビビッていた、そう。今までいろんな場所に行って自分であり続ける彼女らしい話だな。

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