へえ〜、こんなん。1980年代に有数の影響力を誇ったUKバンドであるザ・スミスの音楽をふんだんに使い、ザ・スミスが生きた時代の青春群像を描く2021年米国/英国映画が、彼らの1987年ヒット曲のタイトルを掲げたこの作品だ。脚本も書き、監督もするのは1969年生まれの米国人であるスティーヴン・キジャック。彼はザ・ウォーカー・ブラザーズ、ジャコ・パストリアス、Xジャパンなどのドキュメンタリー映画を作っている人だそう。フロント・マンだったモリッシーは、この映画について肯定的な態度を取っているようだ。

 時は1987年9月、ちょうどザ・スミスの解散が報道された日。場は、コロラド州のデンヴァー。そのニュースにショックを受けて、ラジオ局(映画では、ヘヴィ・メタル局となっている)に行きDJを銃で脅してザ・スミスの曲を延々かけさせるという事件が実際に同地で起こり、映画はそのあまり知られることがなかった出来事を元に、その一夜の模様を劇化している。なお、撮影はニューヨーク州でされたようだ。

 甘酸っぱい。レコードやカセット・テープなどは出てきても、携帯は出てこない。主要な出演者は、高校を卒業した男女5人。レコード屋やスーパーで働く者、マドンナ(2005年12月7日)のワナビー、陸軍やロンドンの大学へ行くことになっている者……。そんな彼らの所作は、あのころのもやもやした記憶を引き出すか。あちらでは、映画「アメリカン・グラフィティ」のオルタナティヴ版という評も出たようだ。

 そして、時にドキュメンタリー映像的な手法で、ザ・スミスのインタヴュー映像や写真がインサートされる。それは、ある種のリアリティのようなものを加えよう。登場人物の名前やいくつかの場面設定が彼らの歌詞から取られている場合もある。また、ザ・スミスと対比させるように、メタル/ハード・ロックや産業ロックの担い手の名前がセリフに出てきたりもする。

 実のところサウンド(とくにビート)が凡庸すぎて、ぼくはザ・スミスが苦手だった。彼らを送り出したのはラフ・トレイドだったが、同レーベルのなかで一番違和感を覚えたりもした? 字幕で歌詞の訳を見て、ロックと言われるものの中ではかなり上等だろう日々の機微を綴る歌詞がつけられいる(政治的とも言われたが、その部分は感じなかった)のを認識できたが、やはりその総体はロックとしてぼくには魅力薄に映る。これが、もっとザ・スミスに入れ込む人だと感興はもっとデカいんだろうな。1980年代中期、まだIT要件が入り込む前、音楽が若者にとってトップ級の娯楽であり、教科書であった時代のおとぎ話ともいえるか。ありでしょう。

 そういえば、劇中には米国映画『プリティ・イン・ピンク』の名前がセリフで出てくる。それ、1986年2月に本国で封切られた高校の卒業プロムを大きな題材におくヒット青春映画で、そこでは当時伸長していたカレッジ・ミュージック・チャートに入るような担い手の音楽が使われていた。エコー&ザ・バニーメン、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、スザンヌ・ヴェガ(ちょうどデビュー作を出して少したったころ。1986年1月にぼくはNYのヴィレッジで初々しい彼女にインタヴューした。あ、ぼくも初々しかったか)ら、新潮流アーティストを揃えたサウンドトラックはA&Mから発売されたっけ。『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』でマドンナ・ワナビー役の女性はワーゲンのビートルに乗っているが、『プリティ・イン・ピンク』の主人公はワーゲンのビートル派生車種であるカルマン・ギアに乗っていた。そんなつながりから本映画は『プリティ・イン・ピンク』へのオマージュを持つと指摘できるんじゃないか。監督のキジャックも年齢的に『プリティ・イン・ピンク』にちょうどハマった世代なのではないのか。

 京橋・テアトル試写室(入っているビルの名前が変わっていた)、12月3日より、全国ロードショーとなる。

▶︎過去の、ザ・スミスにいたジョニー・マー
https://43142.diarynote.jp/200910260256339238/
▶過去の、マドンナ
http://43142.diarynote.jp/200512091117210000/

<今日の、ざんねん>
 母親のところにご機嫌伺いに行ったあと、試写場に向かったのだが、少し早く着いたので散歩する。近くになんと警察博物館というのがあって、無料だったので入ってみる。昔だったらケイサツと聞いただけで拒否感山ほどというタイプの人間であったが、物事を十把一絡げで見るのはよくないと考えるようにもなっているので、抵抗感は感じず好奇心に従う。6階建ての建物を用いるが、見る物あまりなしで5分で失礼した。税金の無駄ではないか?

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