エストニアの4人組グループであるカーリー・ストリングス(2016年9月28日、2018年5月23日)の来日公演を、中野サンプラザで見る。過去3度来日している親日家で、ときにMCは日本語でもしたりもし、「上を向いて歩こう」や荒井由実の「優しさに包まれたら」〜この曲は前からカヴァーしているな〜も披露する。荒井の曲はちゃんと聞いたことはないのだが、それでもすぐ彼女の曲なのかなと察っされるあたり、ほんと彼女は強い個性を持っていたのだな。

 エストニアのトラッドの香りを引き継ぐ楽曲を、完全にアメリカのブルーグラス編成のもとやるという、アコースティックなグループである。本国で大きな人気を獲得しているが、2017年にインタヴューした際にエストニアでブルーグラスを取り込んだグループは他に一つしかないと彼女たちは言っていた。だから本国での支持の大きさは、当人たちの持ち味による部分も大きいのではないかと思われる。

 エーヴァ・タルシ(フォドル、ヴォーカル)、ターヴェト・ニレル(ウッド・ベース、ヴォーカル)、ヴィッル・タルシ(マンドリン、バンジョー、ヴォーカル、ベース・ドラム)、ヤーン・ヤーゴ(ギター、ヴォーカル)という面々。かつてメンバーで2016年の来日公演に入っていたヤルマル・ヴァバルナ(ギター、ヴォーカル)はトラッド・アタック(2018年10月4日)というエレクトロ色も持つ扇情性の高いトラッドのバンドを組み、やはりエストニアで人気を博している。

 トラッド・アタックには2018年にインタヴューしたことがあったが、その際ヤルマル・ヴァバルナは、「信じられないかもしれないけど、エストニアでは若い人たちの間でトラッドが人気なんだ。それは、世界的に見てもユニークだと思う。海外でその手のフェスに行くと年寄りしかいないけど、エストニアだとマジ若い人がいて、もうステージ前にやんやと詰めかける。エストニアでは、トラッドはクールな物なんだ」と言っていた。カーリー・ストリングス人気も、同国の若者の音楽嗜好とつながっている部分もあるだろう。一方では「長い歴史を持つ一方、エストニアって新しいアイデアを具現するのが容易で、テクノロジー導入にも長けている。エストニアでは全部インターネットが使われ、ペイパーレスな社会になっているんだ」(トラッド・アタックのドラマーのトヌ・デュプリ)ということで、そこでハイパーなトリオであるトラッド・アタック(もう一人は女性ヴォーカル)が支持を集めたりもするのだ。

 同国のトラッドの旋律や歌詞感覚とつながりを見せるオリジナル曲が磨かれ、数が増えて、トラッドは1曲やるに止まった。インストのダンス・ナンバーをやると、面々の腕が立つということもよく分かる。今公演の内容については、日経新聞24日夕刊のライヴ評で触れます。

▶︎過去の、カーリー・ストリングス
http://43142.diarynote.jp/201610100851107027/
http://43142.diarynote.jp/201805240836284188/
▶︎過去の、トラッド・アタック
https://43142.diarynote.jp/201810090956117025/

<今日の、思いはいろいろ>
 外国人アーティストの来日公演を見るのは、なんと昨年3月16日のルイーザ・ソブラル以来となる。うわあ〜。クラシックの担い手の来日公演はいろいろ催されていたが、ついに、だな。伝え聞くところによると、3日間の幽閉を経て、厳格な接触/宿泊/移動手段を取るにあたっての実現であるという。ALCの試合のために海外に出たサッカー・チームのようなもの(直近では先週末にルヴァン杯でウィナーになった名古屋グランパスが韓国の試合後に家に帰れぬままそうした“バブル方式”で帰国後の国内試合に臨んでいたはずだ)ですね。まあ、今回はMIN-ON主催で全国9箇所で行われるという公演数の多さ、そしてなによりカーリー・ストリングスが親日であり、無理を強いられても日本人の前でパフォーマンスしたいという気持ちを持っていたことも、この実現を推したろう。また、今年日本とエストアニアが友好100周年にあたるという事実も幸いしたのかもしれない。
 今年中にMIN-ONはウルグアイ人ギタリストのマルティン・イバラの個人ユニットであるナイール・ミラブラットの日本ツアーも行なう。そのアルバム『Juntos Ajora』(Musas,2021年)はなんとブラジルの異才アントニオ・ロウレイロ(2013年8月29日、2013年9月6日、2017年4月15日)のプロデュースであり、ウーゴ・ファトルーソ(2007年11月14日、2019年10月19日)もキーボードで参加、ジョアナ・ケイロスが入った曲もある。この晩、客は一席づつおいての着席し、ソールド・アウトであったよう。公演後は後方から2列づつぶんづつ丁寧に、時間をかけて客を退出させていた。それ、雑な客着席配置や退出策を取るサントリー・ホールとは大違いだなと思った。←6月の渡辺貞夫公演のとき、それを如実に感じました。
▶過去の、アントニオ・ロウレイロ
http://43142.diarynote.jp/201309021134211584/
http://43142.diarynote.jp/201309121810294280/
http://43142.diarynote.jp/201704170805443358/
▶︎過去の、ウーゴ・ファトルーソ
https://43142.diarynote.jp/200711170537080000/
https://43142.diarynote.jp/201910200819159611/

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