渋谷・bunkamuraのル・シネマで、2019年フランスTVドキュメンタリー「ココ・シャネル 時代と闘った女」(原題:Les guerres de Coco Chanel)を見る。直訳すれば、“ココ・シャネルの戦争”となるか。本名ガブリエル・シャネル、1883年〜1971年。あの有数のフランスのファッション・ブランドの創設者ですね。

 監督と脚本は、ジャン・ロリターノ。彼はドキュメンタリー畑のクリエイターで、その最新作はチャールズ・ブロンソンのそれであるよう。監督はシャネルの生い立ちと成功と人間性を追う。TV番組用として作られたので、時間は1時間を少し切る。だから、なぜ香水販売に進出したかとか、印象的なCを二つ重ねたロゴの由来などは語られない。そのかわり、彼女がいかに成り上がりのマインドを持ち、“ワタクシ様”のキツい性格とともに自らの帝国を築いていったかは、遠慮なく語られる。ぼくは彼女のキャリアなんて全然知らなかったが、この映像作品が教えてくれたことは以下の通り。

 地方の裕福でない家庭に生まれ、12歳のときに母親が病気で亡くなってしまい、父親は子供達を残してとんずら。その年で彼女は奉公(映画では“洗濯女”という字幕が出たか)に出ることを強いられる。その後、歌は上手ではなかったがキャバレーで歌ったりした後に彼女は貴族や権力を持つ人たち相手の愛人業に入り、パトロンから得たお金でまずは帽子販売店を出す。安い出来合いの帽子に二つ三つ飾りをつけて高額で売り、それで彼女は成功の第一歩を踏み出した。その後、シャネルはパリに進出し、衣服その他の販売をするようになるわけだ。彼女は英国人のチャーチルまで、権力者との付き合いは驚くほど広かった。
 
 彼女がいつデザインを勉強したかとか、実際にどう創作作業をしていたかということは一切語られない。でも、実際にシャネルから販売された衣服には時代を導くようなスタイルがあったはずで、おそらく独学でそれを成し遂げた彼女はやはり天賦の才を持ち、また秀でたビジネスのセンスを抱えていたのは間違いないだろう。上流社会の出ではない彼女の成功譚の裏にある様々な障害は想像して余りあるのもで、本当にいろんな壁に体当たりして、勝利を得た女性であるとも痛感させられる。いやー、図抜けて強い人であったことに頭がクラクラしちゃう。

 いろんな男性陣との交流は語られても、同性との付き合いは示されない。フランソワーズ・サガンの彼女に対するコメント映像は出てくるが、それは竹を割ったような悪口だもんなー。あと、権力者好きのシャネルは親ナチスで、第二次世界大戦中にスパイのようなこともしたこともきっぱり映画は伝える。持たざる者であっても、悪魔に魂を売り渡すことも厭わない上昇志向を度を越して持てば、立派な成功も果たせる……。この映画はそうも言っている? 世のシャネル信者は、この映画を見てどんな気持ちになるのだろうか。

 しかし、TV用作品とはいえ、映像構成は優れている。19世紀生まれの人だから、そんなに映像や写真が残っているわけではない。だが、監督はちゃんとプロットを組み立てた上で、それにしっくり合う昔のモノクロームの映像を当てはめて行く。それ、本当に巧みで感心した。だからこそ、彼女の負の部分は効果的に見る者に伝わるところはあるだろう。なんか、その忖度なしの制作指針に、ぼくはフランス発という誉れを感じたか。また、どんな筋道を辿っていたとしても、シャネルの成功は世の女性の活躍の場や権利を拡大したことも疑いない。

▶︎過去の、チャーチルを扱った映画
https://43142.diarynote.jp/201808040806206081/

<今日の、麦わら帽子と香水と>
 晴天の昼間は暑いなあ。先週金曜日以来の外出となった昨日、麦わら帽子を被って外出したら行楽気分になりほのかに楽しかった。なので、今日もそれで出かける。おっと、今日はサングラスを持つのを忘れた。まずは正午から、銀座で上原ひろみのインタヴュー取材。先週の仕事もそうだったし、今またフツーに対面に戻っているなあ。あの目抜き通りを歩くと、立派なお店の空いた入り口からけっこう冷気が流れてきて少し楽ナリ。取材後、銀座を少しブラついた後に地元に戻り映画を見たわけだが、こちらの場内は空いていた。今日は炎天下のなか意外に歩き、1万歩を超えた。ぼくとしては、拍手。仮で入っていた次のインタヴュー予定が再来週になったので、来週は引きこもろうと思えば可能だナ。でも、急に擬似禁酒法のキブンを味わいたくなったりしてなー。さずが、似非気配り者としては地方に行くのはちょい憚られる。観光地以外は東京から来たと言うと、退かれそう。
 ところで、ぼくが所有している唯一のシャネルの製品は、“ALLURE HOMME SPORT”というオードゥトワレ。自分で買ったものではなく、お土産でもらったものだ。ちょい値段を調べたら立派な値付けで驚いたというのはともかく、それはかなり香りがきつい。真夏に、戸外にいる時間が長く汗臭くなりそうと思えるときにしかつけない。というわけで、今年はまだ1度しかそれを使っていない。今年はあと、何度使うかな? 2021年はココ・シャネルが亡くなって50年、そして著名香水の「No.5」が生まれて100年にあたるという。

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