ホラー映画は好みではない。そんなに見たことはないが、怖がる以前にアラや不自然さを覚えてしまい、感情移入できなくて困ってしまうのだ。“サイコロジカル・シチュエーション・ホラー”と試写状に期してあり、行く予定はなかったが、ゴールデンウィーク明け以降に根を詰める仕事が重なりもし、当座の案件群が手を離れたこともあり、サクっと気分転嫁したくなり、半蔵門・東宝東和試写室に向かった。

 そしたら、いくつかの部分でレレレ。これ見よがしな暴力場面やヒーロー礼賛主義(主役はドラック売買をするギャングの頭なんだけどね)など他愛ない設定ではあるのだが、ぼくが想像していた浅薄さとは一線を画する重さのようなものを抱えていてちと驚いてしまった。

 ぼくは知らなかったが、そもそも「ザ・パージ」というのは2013年に初回映画が作られた人気シリーズで、続編映画やTVシリーズもそれに続いているのだという。“ザ・パージ”とは遠くない未来に経済が崩壊した合衆国で<新しい建国の父たち(the New Founding Fathers of America)>という新政党が旧2大政党に代わり政権を担ったことで、彼らが導入した施策のこと。それは年に一晩(12時間)殺人を含むすべての犯罪が合法化されるというもので、それにより通常の犯罪率が低下したり、社会保障費の低減が望めるという意図を持つ。で、今回の2018年米国映画は原題が「The First Purge」とされているように、現状打破のために<新しい建国の父たち>がニューヨーク州スタテン島で最初にザ・パージを試行する様を扱う。

 参加者は無条件に5000ドルがもらえ、さらに犯罪を重ねると報酬が加算される。嫌な人は島から離れてよく、残るのは出口なしの有色の低所得者たち。白人の役者が演じる為政者たちはザ・パージ法を実行する上で持たざる貧乏人を一掃せんという謀略を図っており……。

 <新しい建国の父たち>は米国ライフル協会が推す政党であったりすることも映画中では語られるのだが、ドナルド・トランプが長についてしまったアメリカにおいてはどんな荒唐無稽なことが起こるか分からないという、明確な警鐘を持つ映画であるとぼくは受け取った。事実、日本においてはちちらしなど扇情的なホラー的写真が宣材として持ちられているが、少なくても米国における劇場公開告知ポスターはザ・パージ法の実施に反対する人たちの警察官を前とするデモの様を描いた写真が用いられている。

 もう一つ感じずにはいられなかったのは、これは<ブラック・ムーヴィ>であるということ。監督のジェラード・マクマリーはハワード大学を出ていると資料で紹介されているのでアフリカ系だろうし、そこには彼が子供のころに「ボーイズン・ザ・フッド」や「ドゥ・ザ・ライト・シング」といった新ブラック・ムーヴィにシンパシーを持ったことも記されている。使われる音楽は、ヒップホップが主。スタテン島で奮闘する役者たちはアフリカ系だが、そのリベラル派の最たる役所を担う女優のレックス・スコット・デイヴィスの「この映画の怖いところは、アフリカン・アメリカンをはじめとするマイノリティのグループがこれまで経験してきた隔離と繋がるような描写があること。気味の悪いピエロや残酷なマスクの対極には、KKKの頭巾や黒人をからかったメイクや差別的なミンストレル・ショーみたいなものがある」というコメントも出されている。

<今日も、冷え冷え>
 こんな“白いアメリカの為政者”の危険性を告発する内容も孕む現反米映画の配給は、メジャーのユニヴァーサル映画。興行成功作で、予算の10倍の収益を上げたという。今、トランプと変わらない現日本政権を危惧する映画を世に出す邦大手はないだろうとも思わずにはいられず、帰り道に暗くなった。実際、肌寒い気候でした。

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