話題のNetflix配給の映画を、アップリンク渋谷で見る。お、二日続けてモノクロ映画を見るのだな。いや、昨日の映画「COLD WAR あの歌、2つの心」に首を垂れ、またすぐにモノクロームの作品を見たくなったんだけど。

 実のところ、昔はモノクロ映画が好きではなかった。カラーよりなんかぼやっとしている感じでインパクト薄、だからトム・ウェイツやジョン・ルーリーが主演し、ルーリーが音楽を担当したジム・ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』(1986年)も入り込めなかった。感性がコドモだったんですね……。あと、スペイン語作品(一部、ネイティヴな言葉も出てくるよう)なのにアカデミー本賞を席巻したというのも、やはり興味をひかれちゃう。

 ハリウッドでも力を持つメキシコ人映画監督/プロデューサーであるアルフォンソ・クアロン・オロスコの2時間越えの映画だが、さすがの出来。いろんなアイデアや工夫も散りばめられていて、渋いなあ。その最たるものは、音楽の使い方。作品中に出てくる音楽はすべて、ラジオかプレイヤーか店内で流されている曲。つまり登場曲群は“あり曲”で、それらはそういう設定ゆえ少しボヤっとした音質で出てくるのだが、それは映画の日常性を高めはしまいか。過去にもかような音楽の使い方をする映画があっても不思議はないが、ぼくは初めて接する。

 メキシコ・シティの高級住宅街のローマ地区に住むブルジョア家庭(父と母、おぼあちゃん、4人の子供に、家政婦二人。また、運転手も雇っているよう)を題材に起き、アルフォンソ・クアロン・オロスコ監督の自叙伝的内容と言われる。時期は1968年のオリンピック開催を経ての、1970年からの1年ちょっと(かな)。

 モノクロームなためもありゆったりと時間が流れ、淡々とした家族模様を描いていく。……のだが、徐々にいろんなことが起き、映画はどんどんドラマティックになり、また緊張を帯びもする。こりゃ、引き込まれる。最初と最後(途中にも出てくる)の飛行機の隠喩的な使い方をはじめ、いろんな設定や撮り方がうますぎる。もう一度見ると、あーそうだったのと思わさられるところは多そう。

 映画館の場面は2回あっても、テレビはこの作品には一切出てこない。監督、したたかですね。ネットによるヴィデオ・レンタルで屋台骨を築いたNetflix社の作品ゆえの指針だったりして……。

 その後、南青山・ブルーノート東京へ。テナー・サックス奏者(2曲では、ソプラノも吹く)のビル・エヴァンス(2003年9月16日、2016年9月29日)の豪華陣容によるカルテット公演のファースト・ショウを見る。ギターのロビン・フォード(1999年8月28日、2004年4月21日、2004年10月22日、2004年12月17日、2008年8月31日、2013年5月10日、2014年4月23日、2016年12月11日、2017年11月17日)、エレクトリック・ベースのジェイムス・ジナス(2012年1月13日、2012年3月3日 、2013年9月3日、2014年9月7日、2015年3月3日、2017年9月12日、2018年9月1日)、ドラムのキース・カーロック(2010年2月19日)という陣容なり。エヴァンスとフォードは譜面を追いてないが、リズムのお二人は置いていた。

 この4人でエヴァンスの新作『Sun Room』をとったばかり、そりゃまとまっていますよね。エヴァンスとフォードは対等にソロをとえり、一見双頭リーダー・バンドのように思えるか。フォードのソロは他者リーダー・バンドの気軽さからか、けっこうフラッシィに弾きまくる。カーロックは完全レギュラー・グリップで叩くのだが、あんなにスティックの端を持って叩く人は初めて見るかも。彼は1曲でソロとったが、そのときはスネアをロールぽく叩くなどしニューオーリンズ・セカンド・ラインと言えなくもない情緒のものを披露。比較的小さめなセットを叩く彼だが、スネアは二つ置き。とはいえ、ザブのほうはけっこう離して置いていて、ほとんど使っていなかった。ジナスは黙々演奏、あれ彼のソロ披露のパートはあったけ?

 キーボードレスの編成。だが、ステージにはピアノも置いてあり???と思っていたら、フォードのソロの際、彼はピアノを弾いた曲もあった。ほぼ、聞こえなかったが。また、1曲はエヴァンスのピアノのソロ演奏から始まり、彼がリード・ヴォーカルをとった。へえ、意外と歌えるんだ。アンコールはフォードがリード・ヴォーカルを取る曲で、彼はギターをカッティングするのみでエヴァンスがソロを取る。さすが、ヴォーカル・アルバムを連発している彼だけに歌に存在感がありましたね。

▶︎過去の、ビル・エヴァンス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-9.htm
https://43142.diarynote.jp/201610100852199252/
▶過去の、ロビン・フォード
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm
http://43142.diarynote.jp/200404212355490000/
http://43142.diarynote.jp/200410240630040000/
http://43142.diarynote.jp/200412212105020000/
http://43142.diarynote.jp/200809011923060000/
http://43142.diarynote.jp/201305131335092387/
http://43142.diarynote.jp/201404260900117482/
http://43142.diarynote.jp/201612171245154424/
https://43142.diarynote.jp/201711181233058487/
▶過去の、ジャイムス・ジナス
http://43142.diarynote.jp/201201141645353138/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/ ハービー・ハンコック
http://43142.diarynote.jp/201309051241384602/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/ ハービー・ハンコック
http://43142.diarynote.jp/201503041619591535/
http://43142.diarynote.jp/201709130923483891/
https://43142.diarynote.jp/201809051532324111/
▶過去の、キース・カーロック
http://43142.diarynote.jp/201002211122268480/

<今日の、会場模様>
 最初の映画館(上映は少し小さめな2階のほう)で、上品そうなおばあさんから声をかけられ、少し話す。やはり、話題作ということで来たのか。強烈な映画エンスージアストだったりして。確かここ、かつてはいろんな椅子やカウチが無造作に置いてあったはずだが、生地はしょぼいもののちゃんとしたカップ・ホルダー付きの椅子が並べられていた。
 ライヴ会場のほうも、年配向けの出演者と音楽性ではないが、ぼくの横の方には老人のお一人様が男女3人。そんな風景、普段はない。なぜ? ビル・エヴァンスがマイルズ・デイヴィスのバンドに入っていたからなのかと、ふと思った。デイヴィスのご威光って、やはりすごいから。ロビン・フォードも一瞬、デイヴィス・バンドにいたことがあったっけ。
 ところで、今日の出来のいいNetflix映画を見ながら、ちょい考える。なぜ、アップル・ミュージックは出来合いのものを安く買い叩いてコンテンツ入りさせるだけ(まさに搾取だと思う。とともに、クレジット/データー排除は著しい音楽軽視にほかならない。それは音楽を考えるきっかけを摘み、音楽愛好の広がりを妨げる)で、独自に音楽制作/支援を行ったりはしないのか。まあ、まずは分配率を高めるのが先ではあるだろうけど。

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