まず、新宿ピットインで、ヘルゲ・リエン(2013年9月8日)のソロ・パフォーマンス公演と、トリオ公演を続け様に見る。

 前に見た来日公演の項で、ぼくはかなり感激した記述をしているが、やっぱり彼は今ノルウェー〜欧州を代表するジャズ・ピアニストではないか。ましてや、今年出した『Guzuguzu』(Ozella)はその表題にあるように、曲目はすべて日本語の同じ言葉が重なった擬音が採用されたアルバム。これは応援するしかないではないか。まあ、彼らの2011年作も『Natsukashii(懐かしい)』というタイトルがつけられていたわけだけど。

 まず、13時半からのソロ。1曲目と2曲目はフリーフォームで流れるものであったはずだが、もう1曲目からワクワク。とともに、すぐに耳に入るピアノの残響音の大きさに驚く。最初は名手だと弾き方やペダル使いでこんなふうにもなるのかと思っていたが、これは明らかに音を拾い増幅させていたはず。ちゃんと専属のエンジニアを連れて来ていて、紹介していたしね。大げさに言ってしまえば、ブライアン・イーノの『ミュージック・フォー・エアポート』のような響き音の上でピアノが鳴る、という感じ。わあ。そんな局面の後はボディの中に手を入れていろんな音を出したりもするわけだが、そのコントロールのし具合にも舌をまく。あれっと思ったのは、2曲目の終盤にデューク・エリントンのベタ曲「キャラヴァン」をしっとりと弾いたこと。そーゆうのも好きなんですか? 3曲目は小品で、トリオで発表していた「ハミングバーズ」と紹介していたっけ? アンコールでもう1曲、短い曲をやった。

 トリオの方も最初からうっとりしつつ、示唆をいろいろと受ける。ベーシストの演奏は音程が端整な上に広がりやタイミングの良さを存分に持つし、ドラマーの演奏も基本を抑えつつオイラの叩き方するもんね的なクリエイティヴィティがあって感心するしかない。そして、そんな3人が視点ある楽曲のもと有機的に重なるわけだから、これは誘われるではないか。1時間強、そのパフォーマンスに接して、移動……。

▶︎過去の、ヘルゲ・リエン
http://43142.diarynote.jp/201309161508193262/

 17時からは、錦糸町・すみだトリフォニーホールで、映画音楽の分野でも知られるイタリア人作曲家のルドヴィコ・エイナウディの公演を見る。ソールド・アウトが報じられていたが、満場。少しの人は、クラシックのコンサートのように着飾りぎみ。本国の人気を伝えるかのように、イタリア人客も少なくなかった。

 グランド・ピアノを弾く本人(前面中央に置かれたピアノはステージ奥に向き、指揮者のように観客に背を向けて弾いた)にくわえ、いろいろ楽器を持ち帰る奏者たち5人で、ショウは持たれる。その楽器持ち替えは、<ヴァイオリンや鍵盤や電気ギター>、<チェロ(曲によってはエレクトリック・チェロも)>、<エレクトリック・ギターやグロッケンシュピールや打楽器>、<ヴァイブラフォンや打楽器>、<電気ベースや電気エフェクト>という具合。その楽器構成だけ見ると、どういう音楽をやるのか想像できる人はいないだろうな。エイナウディは譜面を広げていたが、他の奏者は置いていなかったのではないか。サポート奏者の楽器のチェンジも滞りなく、きっちり整備されたバンドだった。

 基本的音楽性は、ポップ・ミニマルと書いてしまっていいのか? わりとミニマル傾向の曲が多いが、用いられる旋律、浮き上がるモチーフが何気にメロディアス。少女趣味臭ありすぎで下世話じゃのうと思ってしまう場合もあるが、これは大きな個性だし、多くの人にアピールするのもよく分かる。じわじわと盛り上げる、悠々と流れるアレンジも技アリ。ライヴ・サウンドを聞くと、クラシックであるとぼくはまったく思わないが、ハイセンスで、働きかけを持つイージー・リスニング音楽であると感心する。

 御大は途中でピアノ・ソロも10分ぐらい聞かせたが、これもジャズの手法とは一線を画すニュー・エイジ・ミュージック・ビヨンド調。心に浮かんだメロディ〜パターンを訥々と続ける様は、彼の壮大なアンサンブル表現の核にあるものを見透かさせる。

 ところで、クラシック畑出身でありながらザ・ビートルズ好きという事実も彼のことを語る場合に言及されるようだが、なるほどその片鱗はよく見えた。ショウのオープナーは「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」の頭の方の旋律をループしたような曲だし、後半にやった曲は「ディア・プルーデンス」と同様のコード進行を持つ。それから、彼がイタリア人だなと思えたのは、サラ・オレインが3曲でヴァイオリン参加した際。彼女を初めて見たが、これが非常に見栄えのする人で、このときばかりはエイナウディはイタリアのすけべじじい臭をそこはかとなく出した。

 響きにも留意する表現のサウンド音響は良好。総演奏時間は2時間ごえ、たっぷりやってくれた。

<今日の、景品?>
 この土日は、本当に気持ちの良い気候。昼間はT-シャツの人も散見された。こんな状況で、花見もできたら最高? うちの近所は少しまだ残っているな。ルドヴィコ・エイナウディ公演が終わった後、袋を手渡される。日清食品の宣材で、そこにはパスタの一人分ソースと手提げ袋が入れられている。パスタ・ソース(タイ製との表記)→イタリア→エイナウディという図式なのか。<青い洞窟>と商標名が堂々両面に印刷されているビニール製の手提げは、旅行に出たさい、分別袋用としてバッグの中に入れておくと使えるか。

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