メアリー・ブラックはアイルランドの国民的歌手で、1990年代に6度も来日するなどしていた美声の実力派。彼女がいなかったら、今のような日本におけるアイルランドのトラッド音楽受容状況はここまで裾野が開いた状況にはなっていないのではないか。1955年5月生まれ(もうすぐ、誕生日)で今回は15年ぶりの来日。歳だしいということもあってか、遠征ライヴをやめることを彼女は明言しているようで、今回が最後の来日公演になると公言されている。丸の内・コットンクラブ、セカンド・ショウ。

 ギター、アコーディオン/キーボード、ウッド・ベース、アルト/ソプラノ・サックスという面々とともにステージに上がった彼女(ときにタンバリンやバウロンを手にする)はまさに悠々。来日をきに新たに組まれたベスト盤を聞いたときにも感じたが、その味は生理的にニュートラル。無理がなく、殻に閉じている感じがなく、かわりに開かれ、流れていく情緒があり。そして、やはり歌声は適切な質量感とともに、澄んでいて、潤いに満ちる。とともに、なにげにリズム感もちゃんとしてもいるのだな。いろんな点で、広い支持を受けるべき能力を持つ人であるのはすぐに分る。

 現在凛としたシンガー・ソングライターとして活動中の娘のロシーン・オー(兄は人気バンド、コロナーズの中心人物)も途中で出てきて、いくつかの曲でコーラスを付けるとともに、自ら生ギターを手にしてジョニ・ミッチェル曲を歌った。その際、もちろん母も一緒に歌う。そういえば、メアリー・ブラックはミッチェルの旦那だったラリー・クラインのプロデュースでアルバムを作ったこともありましたね。

 キャリアを俯瞰するようにいろんな曲を披露したが、アコーディオンが入った曲のほうがぼくにはいい感じで、なかにはザ・バンドぽいと感じられる方向性の曲もあり。ザ・バンドもケルティック・トラッド要素を持っていたということなのだろうけど。もうちょっとトラッド色の強い味付けでやってくれたならと感じるところもあったが、それは贅沢な“アイルランド音楽耳”をこちらも持つようになったということか。彼女が日本でまいた種は、いろいろとあるはずだ。

 少しは体格が豊かになったかもしれないが、そんなに老けた感じも受けないし、実力が落ちているわけでもない。とても光栄という感じで、彼女はうれしそうにパフォーマンスしていた。でも、もっと悠々自適、晴耕雨読なスタンスで音楽を楽しみたいということなのだろう。

<今日の、最後>
 ずっとぼくの髪の毛をカットし、色を染めたりしてきてくれたGくんが表参道のお店を5月で辞すというので、最後にはさみをいれてもらう。腕がたち、波長もなんとなくあった。彼ほど長く担当してもらった人は過去いない。感謝、です。次の人を紹介してくれたけど、彼の勧めならば……。

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