南青山・月見ル君想フ。まず、トール・トール・トゥリーズのマイケル・サヴィーノが一人出て来て、パフォーマンスをする。おお、優しい顔つきながら、ガース・ハドソン(2013年8月2日)のような立派な髭をたくわえている。

 トール・トール・トゥリーズはNY在住のシンガー/バンジョー奏者であるサヴィーノを中心とするグループとして組まれ、既発の2枚のアルバム(http://www.talltalltrees.com/music.htmlで、全曲聞くことができる)はグループの音として録音されている。バンジョー音が中央にあったり、カントリー/フォーク(マリアッチ調とかまで、ときにいろいろ広がる)を芯にもっていることもあってか、本国ではフリート・フォクシーズ(2012年1月20日)やマムフォード&ザ・サンズ(2013年7月30日)などを引き合いに出して、彼らは紹介されていたりもする。シャープなロック感覚や現代感覚が奥に息づいているということではフォクシーズの島のほうにぼくは入れたくなるが、トール・トール・トゥリーズの音像は捩じれた部分はあるもののもっとシンプルだ。ま、フォクシーズにせよ、マムフォーズにせよ、東京公演は大バコのスタジオコーストでやっているわけだが、まさかあまり話題になっていない日本でトール・トール・トゥリーズを見ることができるとは思わなかった。

 初来日で、日本にはツアーをしていたドイツから来たそう。今は完全にサヴィーノ個人のユニットとして活動しているようで、堂にいった一人実演による出音はアルバムで聞くことができるものとは異なる。弓で弾いたりバチでバンジョーの皮を叩いたり(その叩き方が、ボーランのそれを想起させる。彼はアイリッシュ・ルーツなのかと思ったり。その苗字だと、イタリア系?)、バンジョー1本でいろんな弾き方を見せ、その音をサンプリングしまくってサウンドを作り、そこに歌心アリの歌をのせる。いろいろ音を重ねても、ケラー・ウィリアムズ(2000年12月17日、2007年10月21日)のような大道芸臭は出てこない。

 そんなサヴィーノはカスタム・メイドのバンジョーを使っていて、丸いボディの裏はオープンにして音を拾うマイクを付けていて、ときに顔をそこに寄せて歌いそこからも歌声を拾わせたりもする。また、ボディ背面をスピーカに向けてのフィードバック音送出も時に見せる。そのバンジョーには小さな電球群も仕込んでいて、光の色がときどき変わった。他愛ないけど、そういう所作に顕われているような、愛らしさが彼にはあったのも間違いない。いろいろ、おもしろかった。また、見たい!

 そして、休憩を挟んで、日本人の両親のもと米国で生まれ育ったカオル・イシバシの個人プロジェクトであるキシ・バシの実演。彼は歌とヴァイオリンを担当、サヴィーノと同じく、音色設定を足元で行いつつ、サンプラーを駆使する。彼は素直なそれと、サンプラーに繋いだそれ、2つの歌用マイクを使い分けてもいた。そんなイシバシはバークリー音大を出ているようだが、なるほどヴァイオリン(エレクトリック・ヴァイオリンではなく、通常のウッディなヴァイオリンを使用)をちょろちょろっと弾いただけでも、ちゃんと弾ける人なのだなというのがすぐに分る。

 ドリーミーなチェンバー・ポップと玩具箱をひっくり返したようなストレンジ・ポップ(その際は、中近東ぽいのとか、ワールド・ミュージック趣味が出る場合もある)の間を行き来と、キシ・バシ名義のライヴ・パフォーマンスは説明できるだろうか。チェンバー・ポップみたいな行き方をする場合、ササっと音を重ねて弦楽四重奏のような音群を作ってしまう手腕は鮮やか。アンドリュー・バード(2010年2月3日)を思い出させたりもする局面もあるが、イシバシのほうが屈託なく、明るく、ポップだ。彼は地声とファルセットをともに用いるが、地声のほうはかなり朗々とした手触りを持つ。そんな彼は、ケヴィン・バーンズがリーダーシップを取るオブ・モントリールのメンバーだったことがあるようで、レジーナ・スペクターのライヴのサポートもやっていて、それで彼女の日本公演(2010年5月6日)にも同行していた。

 多くの曲には、先に出て来たマイケル・サヴィーノと日本でつけたドラマーがつく。イシバシはトール・トール・トゥリーズの実演のときにも1曲出て来て一緒に演奏し歌ったが、2人は本当に仲がいいのだな。そのじゃれ合うようなやりとりを見ていて、普段から付き合いをもっているのだろうなと思わされた。春ごろにはキシ・バシの新作が出るようだが、そこにサヴィーノも入っているといいな。そういえば、2人とも、母親から今年のクリスマスにはいないのねと言われたと、ステージで言っていた。アンコールのとき、サヴィーノはサンタクロースの赤い帽子をかぶって出て来たが、髭とぴったり合っていました。

 その後、北青山・プラッサオンゼに行って、シンガーの吉田慶子(2012年4月25日)とギタリストの笹子重治(2002年3月24日、2007 年11月2日、2007年11月27日、2011年3月25日、2011年12月21日、2012年4月25日)のデュオを見る。月見ルも混んでいたが、こちらも盛況。出演者に負うところが大きいのだろうが、他のハコも師走はけっこう混んでいると聞いたりもする。

 ナチュラルなボサノヴァ歌いとして知られる吉田慶子の新作はピアノとのしっとり清新なデュオ・アルバムだが、普段ライヴをやっている単位にての実演。新作を基にするライヴをやるならちゃんとしたピアノが置いてあるところか、きっちりレンタルする必要があるわけで、弦楽器は本当に身軽で、融通が利く楽器だな。

 ブラジルの機智と日本人ならではの“正”の思慮がかさなりあう。潤いある手作り表現の数々……。ブラジル曲を原語にて披露の様はさりげないんだけど、すうっと聞く者のなかに入って来て覚醒する確かな味あり。無理がなく過剰さは何もないんだけど、心地よい誘いや含みが山ほどあって、やはりボサノヴァに選ばれた日本人歌手(とうぜん、ギタリストは言わずもがな)なんだろうなと思わずにいられず。来年2月に、この2人のライヴ音源が配信発売されるという。

▶過去の、ハドソン
http://43142.diarynote.jp/201308110826574632/
▶過去の、フォクシーズ
http://43142.diarynote.jp/201201271242599633/
▶過去の、マムフォーズ
http://43142.diarynote.jp/201308021400578638/
▶過去の、ウィリアムズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm
http://43142.diarynote.jp/200710221206190000/
▶過去の、スペクター
http://43142.diarynote.jp/201005071023536171
▶過去の、バード
http://43142.diarynote.jp/201002051635443280/
▶過去の、吉田
http://43142.diarynote.jp/201205080617258733/
▶過去の、笹子
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm
http://43142.diarynote.jp/200711101231280000/
http://43142.diarynote.jp/200711290932200000/
http://43142.diarynote.jp/201103271554196130/
http://43142.diarynote.jp/201112261518003058/
http://43142.diarynote.jp/201205080617258733/


<今日の、立派な髭>
 サヴィーノの髭面に接し、映画チャンネルで先日放映されていて、ダラダラ見ちゃった西部劇を思い出す。主演のシャロン・ストーンがすっぴんぽく見えるメイクで頑張っている、1995年公開の「クイック&デッド」という映画。で、そこに出てくる男性陣の格好が初期のザ・バンドのアーティスト写真におけるメンバーの服装を想起させ、ぼくは大層うれしくなってしまったんだよお。なるほど、ザ・バンドの5人は、当時彼らが持っていたアメリカ音楽追求/憧憬を西部開拓時代のファッションを借りることで具現していたのか。何気に、巧みなイメージ作り。それとも、当時のフロンティア精神に引っ掛けて、俺たちは新しいアメリカ音楽を開拓するという意気込みを表したかったのか。こういう深読みは、楽しいなあ。ガース・ハドソンやリチャード・マニュエルみたいな髭の人も、映画では散見されました。ともあれ、お茶目なマイケル・サヴィーノは西部劇調コスプレで、ショウをすべきではないのか。

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