最初に行ったのは、恵比寿・act*squareという会場。ガーデンプレイスの近くにあるバブルな感じを出している建物で、普段は多目的イヴェント会場として使われているようだ。場内は円形、この日はメイン・フロアの中央がスタンディングとなり、回りを椅子席が囲んでいる。

 主役のヴェテラン歌手のマリーンの新作は、人気ディスコ歌手のドナ・サマー絡みの曲(当然、彼女を売り出したジョルジオ・モロダー〜2013年5月28日〜曲なんだろうな)を取り上げたもので、それにならい往年のディスコティックを模した設定で、新作曲披露の場を持とうとしたよう。新作プロデューサーのクリヤ・マコト他を中心に5人のミュージシャンやバックグラウンド・ヴォーカリストがプリセット音併用のもとサポートするなか、本人は歌う。

 まず思ったのは、ちゃんと若々しさ、初々しさを保っているナということ。無理なく身体の線が出るドレスを見にまとい、客とちゃんとコミュニケーションをするという気概を横溢させながら、ちゃらい曲を歌って行く。喉に負担がかかりそうな歌い方をする歌手というイメージをぼくは持っていたが、生で触れると何気にちゃんと声量もあるのだな。そういえば、ぼくは彼女の実演には今回初めて触れるのだと思う。

 かなり卑猥な内容の「ホット・スタッフ」から、街に立つ女性やストリッパーのことを歌った「バッド・ガール」なども取り上げるが、それも、生理的に背筋の伸びたマリーンの個体を介して出てくると、自立系女性歌手の純な歌として聞こえてくるような。やはり、歌手の個性ってある。

 そして、南青山・ブルーノート東京に移り、アストラ・ピアソラの後期バンドに10年強在籍したアルゼンチン人ピアニスト、パブロ・シーグレルの公演を見る。昨年公演(2012年11月21日)は日本人奏者がサポートしていたが、今回はニューヨーク・カルテットという名前のグループでパフォーマンス。その名前はNYで結成された故のようだが、参加アーティストの名前は皆ラテン系のそれを持つ人たちで、彼らはNYのアルゼンチン人なのだろうか? 黒のスーツ基調で固めた面々、なかなか風情あり。とくに白髪の感じもハマるシーグレルとギター奏者のクラウディオ・ラガッシはそう。一番若そうなコントラバス奏者のペドロ・ジラウドはFC東京監督のランコ・ポポヴィッチに似ている。ひゃひゃ。

 で、一堂に音を出すと、おおお現代タンゴじゃとこっくり。ダンディで、生理的に重厚。これぞぼくのような聞き手が欲するアルゼンチン・タンゴなるものだよなともなんとなく思わせる、何かがぐわんとある。かつ、異文化の美味しいデコボコに触れているとも感じさせる。そして、これはある程度、ライヴにおいては、齢を重ねた人が出て来てやったほうがありがた味がでるタイプの音楽である、とも痛感。

 曲はシーグレルのオリジナルが中心で、ピアソラ曲も少し。癖あるメロディ感覚やアクセントを基本のプロットとし、4人の奏者が手癖を思うまま重ねて行くような、アンサンブルの妙をたっぷり抱えた演奏は一部では即興性も持ち、ブラジリアン・ジャズという言い方があるのなら、アルゼンチーナ・チャズという言い方があってもいいかもとも思えたか。ギター奏者は完全にジャズ・マナーを多大に通った演奏をしていた。

<今日の、ほっこり>
 渋谷駅から、タワー・レコードの黄色い袋を持ったご老人が乗ってくる。カジュアルな格好をしていて、おそらく仕事はリタイアしていると思われる。奇麗に髪を刈っている彼、ニコニコしながら、大切そうにCD袋をかかえている。音楽好きの余生に幸あれ。なんか、いい光景に触れたな。

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