まず、今年最大級の新人〜<ニーナ・シモン・ミーツ・ザ・ビーチ・ボーイズ>という説明をしている人もいますね〜という言い方もそんなに嘘にならない、輝ける英国人ニュー・カマーを六本木・ビルボードライブ東京で見る(ファースト・ショウ)。いろんなラガ表現を送り出した(その出世頭がUB40)ことでも知られるバーミンガム出身だそうで、ジャマイカ系なのかな。外見はアンジェリーク・キジョー(2007年12月12日、他)とリズ・ライト(2003年9月17日)を合わせた感じで、それだけで受け手に何かを与えるか。なお、Mvulaというファミリー・ネームを日本のレコード会社は、マヴーラと表記。本人の自己紹介時の発音や綴りから、ここではムヴーラと書いておく。

 その我が道を行く姿勢は、バンドの編成にもあらわれている。電気ピアノを弾きながら歌う本人(中央に出て来て、立って歌う場合も多い)に加えて、ヴァイオリン、チェロ、コントラバス(電気べースを弾く場合も)、ハープ、ドラム/グロッケンシュピールという編成であるのだから。そのチェンバー・ポップ的編成だけでも、意思を持つポップ・ミュージョックの担い手と大きく頷かされるではないか。なお、同行したヴァイオリン奏者は妹、チェロ奏者は弟だそう。

 しなやか伸びやかに、私のメロディをきめ細やかに、創造性豊かに凛と開いて行く。枠に捕われずに自分の色を出そうとする意思や才はきっちり溢れ出ていて、おおいに頷く。アルバムでは凝った風情あるコーラスが採用され、それも面白い聞き味をもたらしていたのだが、実演では伴奏陣の多くがコーラスを場面場面でつける。そりゃアルバムのような効果は生まないが、和気あいあいと、自分たちが良しと思える表現を求める様は無条件にマル。なるほど、才人。今後の変化も楽しみだ。

 2度目のアンコールはピチカート奏法を取るチェロだけをバックにし、マイケル・ジャクソン曲「ヒューマン・ネイチャー」を披露した。

 その後は、南青山・ブルーノート東京で現代R&B歌手のアヴァーントを見る。サポートは男女のコーラスと、鍵盤、鍵盤べース/エレクトリック・ベース、ドラム。彼らと同様に、普段着の主役はおやじが入ったあんちゃん風情の人。Tシャツはネイティヴ・アメリカンの横顔柄のやつ。彼、そっちの方の血が入っているの? ともあれ、素のオーラのようなものはあまりなく、歌の実力で業界を渡ってきたことが了解できるか。実際、ちょい歌っただけで、甲高い歌の声質がいいっ、うまいっとすぐにこっくりできちゃう。それについては非の打ち所なく、本当に感心。ヒップホップ調ビート曲とラガ調ビート曲もやったのは、今時の歌手っぽさの発露であったのか。でも、彼には伝統的というか、正統的と思わせる筋の良さがあって、いい感じあり過ぎであったのだ。

 そのアヴァーントも、マイケル・ジャクソン曲「ヒューマン・ネイチャー」を披露。アフリカから散った才の英国と米国の今のそれが、MJというデカい存在を媒介に一つにつながったような気持ちを得た。な〜んてことはまるでなかったけど、なんかそれぞれの「ヒューマン・ネイチャー」を聞けて、いい晩だなと生理的に思えたのは確か。

<今日の、映画>
 京橋・テアトル試写室で、2012年イタリア映画「ニーナ ローマの夏休み」を見る。昨年秋に東京映画祭にコンペティション出品され、この8月にロードショー公開される。ほんわかしつつも好奇心旺盛ぎみな20代前半の女性主人公のバカンス期ローマ郊外の日々を淡々と、ある種の雰囲気アリで描く作品で、使われる主要な音楽はクラシック。劇中に出てくる教授(?)がアルベルト・ザッケローニを軽くしたようなおやじで少しイヤな気分に。。。ここのところの日本チーム指揮/選手選考にまつわる彼の冒険心や創造性のなさ、融通のきかなさには、けっこう違和感を覚えているから。というのはともかく、アレレレエと思ったのは、今の映画であるのに、携帯電話が一切でてこないこと。逆に、固定電話の留守電メッセージはそれなりの材料として用いられる。それで、これは現実的なストーリーでないことを示唆している? 監督のエリザ・フクサスは1981年ローマ生まれの女性で、長編としてはこれが初監督作品とか。その父、マッシミリアーノ・フクサス(1944年生まれ)はインターナショナルな建築家で、銀座のアルマーニ・タワーは彼の設計による。

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