タイプの異なる(まあ、普通そうだけど……)、ジャズ・ピアニストを続けて見る。その2人が出た両会場とも、ピアノはスタンウェイ製のもの。

 まず、渋谷・タカギクラヴィア 松濤サロンで、北海道出身で1992年以降はNYに居住する野瀬栄進のソロ・パフォーマンスを見る。

 出て来たのは、ピアノ演奏にある“研ぎすまされた、こだわり感”とは相容れぬ、無頓着っぽいあんちゃん風情の人。少しずっこけたが、ながらサバけた話はけっこう面白い。この前、名古屋でやったときには親戚関係の7人が見に来たものの、フツーにオリジナル曲をやったらファースト・セットで全員帰ってしまったのだという。時と場合を考えて、(親しみやすい)スタンダードとかも織り交ぜようと思ったと言いつつ、この日も冒頭3曲はオリジナル曲をかます。音の連なりの美意識とフレーズの歯切れの良さは感じたものの、ぼくは別に難解だとは思わず。スタンダードはたとえば、「イパネマの娘」をやったが、それはリオから秋のヘルシンキの海辺に移ったと書きたくなる手触りを持っていた。

 MCによれば、野瀬が初めて接したジャズ・ピアニストはケニー・カークランドで、それはスティング(2000年10月16日)のザ・ドリーム・オブ・ザ・ブルー・タートルズ・バンドでの演奏で高校生のときとか。今でも、カークランドのことは好きなよう。また、NYではリッチー・バイラークに個人レッスンを受けていたそうで、自作では彼の「サンディ・ソング」(とってもメロディアスで、優しい好曲。バイラークの1977年ECM盤『ヒューブリス』が初出かな)にインスパイアされたと説明した曲も演奏した。彼の近作はNY在住の打楽器奏者の武石聡(2004年5月28日、2006年6月28日、他)とのデュオ作品だ。なお、ぼくはファースト・セットで失礼したが、それは演奏についていけなかったためではなく、次に見るものがあったからナリ。

 その後は丸の内・コットンクラブで、1936年生まれヴェテラン白人バップ・ピアニストのホッド・オブライエンのトリオを見る。余裕綽々、ココロ踊る。ベーシストは結構ボンボンという肉感的な音を出していたな。彼と言えば、一時はジャズ界から離れて大学で数学や現代音楽を学んだこともあったり、ライヴ・ヴェニューをもったこともあったようだが、そういう一筋縄では行かない広がりがくつろいだ演奏の奥にひそんでいたか。その流儀はもちろん旧式なものだが、軽やかにして確かな味があり。そこには変わらなくていい小粋なジャズの美点が横たわり、ぼくは疑問なく楽しんだ。

<今日の、徒歩>
 最初の会場はだいぶ渋谷駅からは離れ、大雑把に言えば、家のほうに近いので、歩いてでかける。へえ、なんか町並み、お店が変わったりもしているナ。環6から東急百貨店に向かう道はとっても広くなっていて、驚く。街は生きている、というほのかな所感も得たか。なんか、へえ〜、はあ〜という感じで、会場についた。

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